今回も捏造・妄想どんとこい って感じです。
誤字報告、とても助かっています。ありがとうございます。
2/25追記
ちょっと違和感があった部分を直しました。
大きく内容は変わってません。
六〇〇年前、突如として降臨したといわれる六大神。
今も神話として語られ信仰されているその者達は、弱者として滅亡を待つばかりであった人類に与し、人類の生息圏を拡大させたと言われている。
彼らの教えは――正しい形かどうかはともかく――彼らが基礎を築いた宗教国家であるスレイン法国に受け継がれており、彼らの遺した数々の至宝や子孫が未だ人類の切り札として保管されているといわれている。
六大神降臨から一〇〇年後、
こちらも突如として現れた、八欲王と呼ばれる存在達。
圧倒的な力を持ち、瞬く間に周辺国家を滅ぼし世界を支配したと伝えられている。
この八欲王たちとの戦いによって多くの竜王達が死に絶えるも、最終的にはより多くの財を求めたがためにお互いで争い合い、最後には皆死んでしまったそうだ。
これらは御伽噺として今の世の中に伝わるのみであるが、圧倒的な力を持った彼らは皆「ぷれいやー」と呼ばれる存在であり、神話の世界の住人として畏れられている。
そして、二〇〇年前。
六大神に仕えた従者達が暴走し、人類に仇なす「魔神」と呼ばれる存在へ変じた時代。
多くの魔神達と戦い封印した――多くの者達が史実であると謳っている、十三英雄と呼ばれる者たちの英雄譚。
そのリーダーもまた「ぷれいやー」であった。当初は凡人程度の能力しか持たなかったが、数多の戦いの末、普通の人間には届かないであろう領域の強さまで登りつめ、魔神たちを打倒して行ったのだという。
「尋常ならざる力を持つもの、本来その種からは出ないであろう考えを持つ亜人。リーダーのように、凡夫に見えてとんでもない才能の塊もいた。ぷれいやー達は、種族や考え方に差はあれど、等しく世界に大きな影響を与えるだけの力を持っている存在なんだ」
ぷれいやーが目の前にいる。その事実は、イビルアイが長い年月を過ごす中で風化していった輝かしい冒険の記憶を、まるで昨日の事であったかのように鮮明に彩っていった。
「先程の巨人もかつての魔神達に匹敵……いや、部分的には凌駕するだけの存在だったんだ。国を滅ぼしたって不思議じゃあない。現実問題、王国の戦力ではどう足掻いても勝てないだろう。それをただの一撃で倒してのけたお前は、リーダー以上の……間違いなく、八欲王、六大神クラスの存在なんだろうな」
本当にその世界に生きているかのように、プレイヤーが主役の伝説を熱く語るイビルアイ。かなり興奮しているようで、"興奮"と"夢中"のエモーションを連発しながら、拳を握って話している。
彼女の話では、彼女自身もまた二〇〇年前の伝説に名を残す吸血鬼「国堕とし」であり、十三英雄と共に魔神封印の旅をした経験があるのだと言う。
(もうこれで設定資料集か何か出せよ!!買うよ!!)
いきなりプレイヤーかどうかを確認されたので、虚を突かれて普通に答えてしまった。色々と悩んだあげくにやっていた今までのロールプレイは一体なんだったんだ、と折角熱が入っていた所に冷水をぶっかけられた気分だったが、そこから始まったのはまさかの追加設定披露だった。
彼女達の住む場所は、話を聞く限りあまりレベルが高い存在がいない設定のようだ。
人類の生存圏に出現するのは精々がレベル一桁のゴブリンやオーガの類、モンスターの領域とされるような人類未踏の場所でも名前が上がったのはレベル一〇代後半から二〇程度。
アンデッドの類も、強いものの一例に出たのが
しかし、国をあげての討伐すら不可能と言うのは些か不思議な話だ。国で一番の猛者ですらそのレベルに満たない設定と言うことなのだろうか。
ユグドラシルならば、街まで連れていった所で特殊なイベントでもない限り衛兵が一方的にボコって終わりである。街に入れる条件を満たしていない場合、一〇〇レベルのプレイヤーすら滅される事もある。
しかも倒しても
蒼の薔薇のメンバーも、設定上は人間種のなかではかなりの強者の部類に入るらしい。このダンジョンへの参加条件を満たしているのなら、彼女達のパーティの平均レベルは四〇以下。それで強者なら、確かにプレイヤーは世界を守ることも滅ぼすことも出来るだろう。
(いや……待てよ?)
ユグドラシルには、一応存在する公式ストーリー上におけるラスボスとして、九曜の世界喰いと呼ばれるワールドエネミーがいる。
世界樹ユグドラシルに茂っていた葉を食らいつくし、今もなお残っている九つの葉をも襲おうとしている怪物。プレイヤーたちは世界樹の加護を受け、残った世界を守る為に戦う――ようなストーリーだったはずだ。
(今のユグドラシルが九曜の世界喰いに滅ぼされた後、散った葉……の、世界?彼女達の言うプレイヤーが今のユグドラシルのプレイヤーの事なら……世界樹の加護を受けることができていたからこそ一〇〇レベルという強さまで到達することができた。世界樹が枯れてしまった世界では加護を得ることができないから、そこに住む生物の平均レベルが低い。そんな世界に、世界樹の最後の力か何かで逃がされた
そう考えるとわりとしっくりくる気がする。プレイヤーの伝説が残る時代が大きくずれているのが気になるが、暴れている九曜の世界喰いが静かになった、もしくはどこかに去った後に、かの敵に狙われることなく活動できるよう―――仮に狙われてしまったとしても、まとめて倒されてしまうことがないよう時代を分散させた、など、いくらでも設定付けは可能だ。
(そうだとすると、ユグドラシルの続編の設定っていう可能性もあるな!関係者だけで調整中の続編アルファテストを現行のサーバーでやりつつ口コミ宣伝効果を狙っている、みたいな!公式ストーリーの進展によって世界樹が力を取り戻して、加護を与えていくことによってキャラクターのレベルキャップが解放されていく形だとすれば、平均のレベルが低いことも納得がいくんじゃないか?)
「……何か強さを分かりやすく表現する方法はあるか?例えばさっきのヤツはこれくらいだろう、とか……」
レベルという単語がロールプレイ的に適しているのかどうかわからないので、少しぼかした質問をする。
「あの巨人は私よりも強かった。だから正確なところはわからないが……難度で言えば一六〇を超えると思う」
「難度?」
「冒険者難度だ。そのモンスターの討伐がどれだけ困難であるかを大まかに数値化したものだな。個体の大きさによっても差があるからそこまで過信するべき数値ではないのだが……」
「……難度がハッキリわかるモンスターはいるか?大体の基準になりそうな……」
「ん……個体差の少ないアンデッドでいえば、
そう考えると、大体レベルの三倍程度の数値が彼女達の言う冒険者難度なのだろう。
もしかしたら、続編の中では「レベル」という概念ではなく、この「冒険者難度」が成長の指標を表す言葉なのかもしれない。
「なるほど、なんとなくわかったぞ……。そうすると、君達は大体難度九〇くらいになるのか。君達の国の軍隊もそれくらいのが多いのか?」
「仲間達に関して言えばおおむねそれで正しい。私以外の四人は大体難度八〇から九〇の間くらいだろう。ラキュースが少し飛び出ている印象だな。王国の兵隊は強いやつでも難度五〇、平均したらもっと下だろう。普段からモンスターを相手にしている分、冒険者の方がましだな。周辺国家最強と言われる人間は難度一〇〇くらいじゃないだろうか。……ちなみに私は大体難度一五〇だ。これでも伝説の吸血鬼なのでな。……まあ、君の前では霞むんだが」
そう言ったイビルアイは、少し誇らしげに胸を張った。
彼女の言うとおりであれば、国の兵は強くても一五,六レベル程度の集団と言うことになる。
そうであれば、確かに
そんな平均レベルの低い世界における難度一五〇。永い時を生きている、という内容を含めて考えると、続編においてのキャラクターたちを導く、ストーリー序盤における味方側の最強のキャラクターのような立ち位置なのかもしれない。
「しっかし、ちびさんがそこまで言うくらいだから、アンタ本当にとんでもなく強ぇえんだな。敵じゃあなさそうでよかったぜ」
「彼もここについて詳しいわけではない以上、状況が大きく好転したわけではない……が、協力をしてもらえるならこれ以上無い力だろうな」
ほめ殺し。ほめ殺しだ。ゲームを始めたばかりのプレイヤーが、強い能力と装備を持つプレイヤーを見るような憧れの混じった視線。
現在のユグドラシルに新規ユーザーはあまりいないため、クリュードが最近その視線を味わった覚えはないが、きっとこんな感覚だっただろう。
おそらくユグドラシルの続編にあたるであろう、未だ他のどこにも出ていない情報を得ているという特別感も相まって、過去最高にいい気分になっていた。より一層ロールプレイにも力が入るだろう。
「油断は禁物だけど前には進めそう。よかったね、ボス。……ボス?」
先ほどまでの警戒を含んだとげとげしい雰囲気から一転、和やかな雰囲気で会話が弾んでいる中。
ティアは、先程顔を青くして思い詰めた様子であったラキュースを案じて声をかけた。
しかし、彼女からの返答はない。先ほどから続いているイビルアイ達との会話中からずっと、彼女は俯いたまま、何かに耐えるように体を震わせていた。
ティアの呼びかけでラキュースの状態に気付いたほかの仲間たちも、普段見ない彼女の姿に、心配になって様子を見ている。
「ボス、大丈夫?」
「…………ず、」
「ず?」
「ずるいわイビルアイ!何でそんな面白い話今まで黙ってたのよ!これまでにも昔の冒険の話をお願いしたことはあったのに!!"ぷれいやー"の事なんて一言も言ってなかったじゃない!!」
跳ねるように顔を上げ、声を上げながらイビルアイに縋りつくように飛びついた。
自分に向けた突然の大声と突進に、イビルアイは思わずのけぞってしまった。
「い、いや。先ほども言った通り、多くの人間が知るべき話でもないし、世界のバランスに影響を与えるだけの内容だから――」
「そうそう言いふらしたりしないわよ!御伽噺として伝わる神話が現実に起こっていたことで!それと同じだけの存在と旅をして!!世界の真実に一番近いみたいなものじゃないの!そんな
気づけばガッシとイビルアイの両肩を掴み、前後に大きく揺さぶっている。
体を揺さぶられているイビルアイは、ラキュースのあまりの勢いと剣幕に動揺しているのか、大した抵抗もできずにされるがままになっている。
ガガーランはアチャーといった様子で額に手をやり、ティアとティナも呆れたように――少しだけ安心したような表情で、そのやり取りを見ていた。
「い、いや、六大神らの話が本当に真実かどうかまではわから――」
「でも!"ぷれいやー"の存在は真実なんでしょう!?しかも!この遺跡には十三英雄の戦いに出てきた魔神に並ぶほどの存在がいて!これから"ぷれいやー"の力を借りて攻略していくってことでしょう!?」
「え、あ、たぶん、そうなる」
「こういう!……こういうのを、ずっと、待ってたのよ!ふふ……滾る、滾るわ。封じられし力を解放すべき時が来たのかもしれない……」
また謎の設定が出てきた。
堰が切れたように感情を爆発させながら、ブツブツと小声でつぶやき続けるラキュース。振り回されていたイビルアイもなんだかぐったりとしているが、それ以上に困惑しているのはクリュードである。
第一印象は落ち着いた大人の女性タイプのキャラだと思っていたら、ふたを開けてみればかなりぶっ飛んだお転婆キャラだったようだ。
今も目の前であらゆる表情アイコンを連発しながら興奮している様子の彼女に、どういう反応を返せばいいのかわからずただ立ちつくしていた。
「おいラキュース、落ち着け。奴さんも呆れてんぞ」
興奮冷めやらぬ、といった様子のラキュースを、ため息をつきながらガガーランがたしなめている。落ち着いた大人はこちらだったようだ。
彼女の一言を受けてハッとなり、直前の行動を恥じたのか"照れ"の表情をした後、小さな咳ばらいをしてクリュードへ向き直った。
「……取り乱してしまって、ごめんなさい。脱線してしまったけど、遺跡の攻略に協力してもらえるんですよね?……よろしく、お願いします」
「あ、ああ。よろしく」
そう言いながらラキュースが手を差し出してきた。
若干うろたえたが、おとなしく手を取り握手を交わす。
これでパーティ扱いになるのだろうか、と少しメタな考えが頭をよぎったが、視界の中に仲間の状態を示すウインドウは浮かび上がらなかった。
「遺跡の探索をするうえで決めておきたいんだが……基本的に、私の行動指針は君達に従う形で決めようと思う」
一通りの準備を終え、いざ出発しようとしたタイミングで、クリュードからそう切り出された。
「え?貴方の指示に従ったほうが……こう言うのもなんですが、安全に事が運べると思うのだけれど」
「私は君たちの役割と能力を大雑把にしか知らない。その状態で下手な指示を出すようなことがあればそれこそ致命傷だろう。……それに、これは君たちにとっては強者を喚ぶに相応しいかを試されている試験だ、って言っただろう?私くらい上手いこと使ってみせてくれ」
君たちがヤバいと判断したのだけ教えてくれれば私が前に立つよ、と付け足し、通路の入口のほうへ向かっていく。
「一理あるな。彼にとっては取るに足らない敵が私達にとっては命懸けの相手だったりする以上、不測の事態になりかねない。彼は私たちの手に負えない敵に対する戦力として割り切って、いつもの私達の役割で動いたほうがいいだろう」
イビルアイも彼の意見を後押しするようにそう言った。
つまるところ。世界をも変えうる力をもつという彼が、私達の指示に従ってくれるということだ。
石碑に書かれていたという言葉のとおりであるならば、<
実際にその手の魔法を使用したわけではない以上、念話のような方法でこちらの意思が伝わるわけでも、彼のステータスがわかるわけでもない。
それだけに、通常の召喚魔法では必要のない、召喚相手との信頼関係が必要となるのだろう。それこそチームの仲間たちとのような。
(とてもいい。とてもいいわ!この方が私好みだもの!)
種や強さの垣根を越えた協力と、そこから生まれる信頼関係。イビルアイの語る、一般的に浸透しているものとは違う
(別におかしなことじゃない。一緒に戦う仲間として、信頼があるかどうかは大きな違いだわ。少しでも生存率を上げるためにも、彼と仲良くなるのは決して損ではない)
いつ生まれたのか?
どういう世界で暮らしているのか?
これまでどんな場所で、どんな冒険をしてきたのか?
彼と仲良くなって、聞きたい話はたくさんある。彼はかなり人間的な考え方を持っているようだし、今すぐにでも聞いたら語ってくれるかもしれない。
しかし、今自分たちは命がかかった状況である。彼も目的があるからこそ行動を共にしてくれるのだ。焦って心証を悪くすれば、話どころか自分たちの身すら守り切れない。
気を取り直して大きく息を吸い、目を覚ますように軽く自分の顔をたたく。
「よし、皆準備はいい?」
仲間達を見渡し問題がないことを確かめ、軽く頷いて外の通路へ繋がる出口に目を向けた。
「基本的にはいつも通り。ティアとティナは罠や敵の警戒、ガガーランは前衛をお願い。ただし、明らかに手に負えないヤツだとイビルアイが判断したら、即座にクリュードに代わって貰うわ。それでいい?」
「了解」
「異議なし」
「あいよ。ちびさんの声がしたら一回飛び退くようにするわ」
「ある程度自分でも判断しろよ?要するに後詰めが居るから何がなんでも前を受け持たなくていいって話なんだからな」
「強い気配を出さないやつも中にはいる。こっちで気付いたら私も勝手に飛び込むよ。それ以外は私も普段の役割通り、前衛で攻撃役に回ろう」
飛び抜けた力を持つ存在は、協調性が欠けていたり、集団行動に向かないことが多い。
強者ゆえの驕りもあるかもしれないし、肩を並べて戦うだけの強さを持った者がおらず、単独での行動になることが多いからだ。
彼に関しても、性格的な面は問題無さそうだったが、チームプレイの経験があるかどうか若干心配していた。――が、話を聞く限り杞憂だったようだ。
過去に肩を並べた存在がいたのかどうかについて……聞きたいことが増えてしまった。
「問題ないわね。では、行きましょう」
合図と共に、ティアとティナが通路へ躍り出る。有事にカバーに入るためかクリュードが後に続き、ラキュース達も遅れないようにその後を追った。
部屋を出たとたんに感じる、肌を刺すような緊張感。嫌でも気が引き締まると言う意味では役に立つのかもしれない。
通路の先を見れば、先程巨人が顔を覗かせた十字路が見える。さっきは必死だったこともあって気がつかなかったが、正面の道の先にはとても豪奢な作りの両開きの扉があるのが見えた。
ティナ達に目をやると、クリュードと共に敵の警戒をしていた。しばらくするとこちらを振り向き、首を振ってみせる。どうやら、一先ず先程のような敵は見当たらないようだ。
十字路の中央まで足を進めると、左右の道はどちらも緩やかに円を描くような形で続いており、先を見通すことはできない。
「早速分かれ道だな」
「どうする?リーダー」
「ひとまず、見通しのきいている奥の扉から見てみましょうか」
十字路を直進した先も変わり映えしない通路が続いている。
扉に到達する少し手前、通路の左右には、まるで扉を守るかのように蝙蝠のような顔をした大きな翼を持つ怪物をかたどった石像が二体配置されている。
まるで本物の怪物を石化させたかのように精密なつくりをしており、今にも動き出しそうな印象を受けた。
石像の横に差し掛かろうとしたとき、前を進んでいたティアとティナが立ち止まり静止の合図を出す。
「石像じゃない」
「生きてる。石像に化けてる」
そう言ったとたん、擬態を見破られたことに気が付いたのか、二体の石像は台座から飛び上がり、ズシンと大きな音を立てて着地した。
「見た目を信じるなら基本種のガーゴイルだ。難度でいうと七五くらいだな」
「ッしゃア!雪辱戦だ!クリュード、右は頼んだぜ!」
ラキュースからの支援魔法が飛んできたのを確認すると、ガガーランはそう言い残して左側のガーゴイルに躍りかかる。
迎え撃つように振り上げられた敵の左腕を体を捻って躱し、お返しと言わんばかりに無防備になったわき腹に刺突戦鎚を叩き込む。
直撃を受けたガーゴイルはたまらず後ろに跳びのいた。それによってうまく勢いを殺されたのか、致命的な痛痒を与えた手ごたえは得られなかった。
刹那、ガガーランから距離を取ろうとするガーゴイルの両目が妖しく光る。<幻惑>の状態異常が込められた魔眼――であったが、ガガーランの装備している
跳びのいた姿勢から体勢を整えようとするガーゴイルを追い打ちするように、回り込んでいたティアとティナが苦無を投げつける。
投げられた苦無を打ち払おうと両腕を振り、防ぐ手段のなくなった頭部へ、ガガーランは思い切り<剛撃>を叩き込んだ。
バランスを崩していた所への一撃は確かな手ごたえがあったが、倒しきるには至らず、反撃とばかりに体全体を使った体当たりをガガーランへ放つ。
「<要塞>」
武技でその一撃を危なげなく受け止め、そのまま左足を軸にして思い切り蹴りを叩き込む。
ガーゴイルを左に弾き、その勢いで体を右に避けると同時に、ガガーランの後ろから飛び込んでくる影。
魔剣キリネイラムを上段に構えてとびかかったラキュースであった。
「ハアアッ!」
気合いのこもった大声を張り上げながら、勢いそのままに大振りの縦斬りを放つ。
バランスを崩しながらも両腕で防御を試みるガーゴイルであったが、その防御ごとその胸を深く切り裂かれ、そのまま地面に倒れ込んだ。
翼と体の動きを器用に使って起き上がろうとするも、側面に回っていたイビルアイが放った<
その隙に再度体勢を立て直し、後ろに回り込んだガガーランが<剛撃>を無防備な後頭部へ叩き込む。
二度も頭部を強力に打ち据えられたガーゴイルは、殴られた勢いで地面に叩きつけられた後、そのまま動かなくなった。
ここが普通の遺跡ではないことの証明なのか、完全な魔法生物でないにもかかわらず、動かなくなったガーゴイルは先ほどの巨人と同じように空間に溶けるように消えていった。
「すごいな。見事な連携プレーだった」
「……そっちほどスムーズではなかったみたいだけどな」
戦闘終了を確認して、五人の後ろからクリュードが拍手をしながら声をかける。
彼が右を頼むと言われた直後、とびかかりながら振りかぶった右腕の一撃でガーゴイルの上半身を消滅させ、戦闘を終了させていたのを目の当たりにしていたイビルアイは、皮肉ともとれる彼の言葉に複雑な気持ちで答えた。
「いや、皮肉のつもりはないさ。こんなのは単なるステータスの差だ。私が言いたいのは、お互いの隙をうまくカバーしあいながら相手に十全な行動をさせないコンビネーションが素晴らしかった、という話だよ。……昔、共に冒険をした仲間達のことを思い出したのさ」
彼はそう言って懐かしむように虚空を見ている。やはり表情は分からないが、なんとなく寂しそうな――そんなイメージを受けるふるまいだった。
「どんな仲間達だったの?」
これ幸いとばかりに、聞きたかったことの一つをラキュースは尋ねた。
クリュードは少し考え込むようなしぐさをした後、"自慢"するように仲間たちのことを語りだした。
「私も含めて、飛びぬけて強いとかそういうことはなかったんだが、ウマのあう……いいやつらだったよ。頑固者の騎士、お調子者のレンジャー、二人に挟まれていつも困り顔のプリースト。エルフの癖に全く魔法の使えないアーチャーに、そんなエルフを煽るアンデッドのウィザード……。もう会う機会はないかもしれないが、楽しいチームだった」
「仲間にアンデッドがいたのか……。だから私を違和感なく受け入れてくれたんだな」
「チームにアンデッドがいるのは私たちの世界では取り立てて珍しいことではないよ。多数派かと言われればそうでもないけどな」
まだユグドラシルが盛況だった頃、頻繁に行われた異形種狩り。
竜人として人型の形態を持つクリュードはあまり被害にあうことはなかったが、仲間のアンデッドは苦労していた。……まぁ、本人の性格的に他のプレイヤーを煽りに煽っていたのが原因な気もするが。
おかげで、怒りを買った異形種狩りのメンツからチーム全員が追い回されたこともある。今となっては笑い話だが、当時は相当に揉めた。
それでも、彼やクリュードを異形種であるという理由でチームから追い出そうとはならなかったあたり、やはり居心地のいいメンバーだったということだろう。
結局のところ、大々的に異形種狩りと称してPKを行っていたのは一部の声の大きいプレイヤーと、周りに流されやすい日和見のプレイヤーばかりだったのだろう。
普通にプレイしている人間から見れば、アバターが異形種であろうが人間種であろうが中身は人間。チームを組む上で重要なのは本人の性格と――現金な考え方かもしれないが――そのアバターの能力だけなのだ。
事実、人間種と異形種のチームだって少なからずいたのだから。
「私も異形だから言えたことじゃないがな。結局重要なのは中身だってことだろうよ」
思い出を嚙み締めるようにつぶやくクリュード。二〇〇年前共に旅をした仲間たちを思い返し、久しく感じていなかった心が温かくなる――まるで郷愁のような――感覚を味わっているイビルアイ。
そんな彼らを、キラキラした目で見つめるラキュース。何も知らない者が彼女を見れば、その姿は無垢に神話の世界の冒険に思いを馳せる美しい少女にしか見えないだろう。
(メモを持ってくるべきだった!魔法適性の高い
この場に読心術が使える存在がいなかったことが唯一の救いである。
石像に化けた怪物を倒し、そのまま通路を進む。正面に見えている豪奢な作りの扉は、近づいてみれば見るほどその精緻さがわかる。
見たこともない芸術様式の紋様を背景にした様々な幻獣達が彫られており、両扉のデザインはわずかな違いもない完璧なシンメトリーであるように見える。
ティアが扉に近づいて罠がないことを確認し、扉を開けようとするがびくともしない。
どうやら、魔法的な施錠が施されているようだ。
扉の前にはこれみよがしに円形の窪みがある石碑が置かれており、石碑から扉に向かって
「明らかにここに合うものを探してきて嵌めてみろって感じだな」
「ここまでわかりやすい仕掛けがある遺跡っていうのも珍しいわね……やっぱり試練ってことか」
「他に抜けられそうな道も見当たらないし、さっきの左右の道の先に何かがあるんだと思う」
振り返り、先ほどの十字路を見やる。通り過ぎた時に見た通路の先には違いが見て取れなかったように思える。今の状態では、どちらの通路を先に行くべきかの正しい判断をする方法はないだろう。
「ボスは
「特に違いがあったわけでもないし、右に……何か今発音おかしくなかった?」
「ボスは受け身がお好み。任せておいて」
「ちょっとティア!」
「ラキュースは受けか……」
「クリュード!?」
ついついつぶやきが漏れてしまった。クリュード君も男の子なのだ。もちろん、中身は普通の人間である。
"照れ"ながらギャーギャー騒ぎ続けるラキュースと、それを笑いながら止めるガガーランを横目にしながら、ラキュースから逃げるように――
一足先に気にせず十字路のほうへ戻り始めたティアを追いかけ、クリュードも十字路へ向かった。
<今回の捏造>
九曜の世界食いはどこかで出てたと思いますが、世界樹の加護だのなんだのはこじつけです。
ラキュースの性格:コレジャナイ。
ガーゴイル:25レベル程度。
基本種は<幻惑>の魔眼持ち、下級魔法とそれなりのステータス。
石像に化けて、ダンジョンの廊下に並んでいる。初心者がちょっとびっくりして動揺したところを襲う。冷静に戦えば大したことはない。
ようやく探索が始まってくれました。ろくに進んでなくてごめんなさい。