”CALL” me,Bahamut   作:KC

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*「村づくりは地道に()()()()進めるものさ」

*「……骨だけにな!」 \ツクテーン/


after_3) ようこそカルネ村へ

カルネ村の朝は早い。

 

日が昇る前に人々は目を覚まし、日の出とともに仕事を始める。

日々の糧を得るために大人たちは汗を流し、子供たちもその大人たちの背中を見て育っていく。

 

 

エンリは、小甕に汲んであった水で顔と体を拭いて体に残る眠気を追い出し、まだ眠る幼い妹を起こさぬ様静かに家を出た。

地平線の向こうにわずかに太陽が顔を出し、群青色の空が少しずつ明るさを帯びていっている。

 

 

カルネ村が騎士の襲撃を受けてから十日ほど。

亡くなった村人たちの葬儀を終えたカルネ村は、いつまでも暗い雰囲気を引きずっているわけにもいかず、日常を取り戻し始めていた。

しかし、騎士たちの襲撃によって人口が減ってしまった影響は大きい。

 

亡くなったり、大けがを負った村人の多くが、家族や友人を守るために果敢に騎士に向かっていった男性であった事が災いし、生存した村人の数に対して健康な働き手の数が不足してしまっているのだ。

 

残った村人たちだけでは畑を耕す手も足りず、襲撃によって破壊された家屋の修繕や村の復興もままならないであろう。

 

しかし、今のカルネ村の現状はその通りではない。

軽微な損傷であった家屋はすでに修繕がなされ、ひどく損壊して人が住むことが困難であると判断された家屋は早くも解体が始められており、新たな住居の建築に向けて動き出している。

 

村はずれに見える畑は、襲撃の際にその多くが踏み荒らされていたが、今では綺麗に耕しなおされ、無事だった作物は健康な葉の色を取り戻していた。

 

少しずつ空が明るくなり、活動を始めた村人たちによって村に音が生まれ始めると、解体途中の家屋の中から、恐ろしいアンデッド――スケルトンの群れが規則正しく村へと散らばっていく。

 

普通に考えれば、この後この村では目を背けたくなるような惨劇が起きそうなところだが、スケルトン達は村人たちを襲うことはない。

それどころか、村の女性が運ぶ水がいっぱいに入った甕を代わりに持ち、体が小さくてまともに斧が振れぬ子供の代わりに薪を割り、村人の指示に従って日常の仕事をこなしていた。

 

よく見ると、スケルトンの左腕には一体一体異なる模様の入った帯が巻き付けられており、同じ模様の入った帯を身に着けた村人の指示に従っているようだ。

 

 

惨劇の痕が消え始めている村の中を進み、すれ違う村人や骸骨たちにあいさつをしながら、エンリは村の広場を目指して行った。

 

 

エンリが村の広場につくと、豪奢な漆黒のボールガウンに身を包んだ死の支配者(オーバーロード)のモモンガが、いつの間にか数の増えていた死の騎士(デスナイト)達に指示を出しているところだった。

この風景だけを切り取ってみると、まるで勇者の殲滅を指示する魔王とその軍勢といった様子であるが、指示内容はがれきの撤去や木材の収集だ。

 

 

「エンリの姐さん、おはようございやす」

 

「おはよう、リーダーさん」

 

 

近くの建物からゴブリン達が現れ、次々にエンリに挨拶していく。

全部で19体いるそのゴブリン達は、それぞれ剣やスタッフなどを装備しており、様々な職業(クラス)の者達が集まっているようだ。

 

一般的に言われるゴブリンは貧相な体躯をしており、知能もあまり高くないため扱う言語も片言程度であるが、彼らは皆屈強な肉体をしており、エンリや他の者たちと流暢な会話をしていることから、能力(ステータス)も知能も非常に高いことが伺える。

 

このゴブリンたちは、モモンガがエンリに渡した小鬼将軍の角笛というマジックアイテムによって召喚されたモンスターである。

 

角笛によって召喚された彼らは、召喚主であるエンリに絶対の忠誠を誓っている。

当初は彼らから向けられる忠義に戸惑ったエンリであったが、家の仕事や村人たちを積極的に手伝ってくれる彼らにすでに順応しつつあった。

今は役職で彼らを呼んでいるが、そのうち名前を付けてあげようと思っている。

 

 

エンリがゴブリン達と談笑しながら近づいてくるのに気がついたモモンガは、ひらりと片手をあげる。

 

 

「やあエンリ、おはよう。ネムはまだ()()()かな?」

 

「おはようございますモモンガ様。まだ夢の中ですよ」

 

 

ふむ、と何かを考えるモモンガを見て、エンリはくすりと笑った。

 

 

何故だかわからないが、ネムはやたらとモモンガになついている。

日中エンリが仕事で相手ができない間は、ほぼずっとモモンガに引っ付いて行動しているようだ。

 

機嫌を損ねるとよくないと思い、止めるように言おうと思ったが、モモンガもどうやら満更でもない様子なので、迷惑だけはかけないようにと言いつけて自由にさせている。

 

見当たらないと思ったらモモンガの()()()()で遊んでいた事もあった。

さすがに肝を冷やし、もうしないようにと叱りつけたが、入り込まれた肋骨の持ち主は「体の尖った部分はカバーしていたから怪我はさせない」と言っていた。そういうことではない。

 

怒られてしょぼくれるネムを見て忍びないと思ったのか、最近は代わりの遊び相手として頭の三つある大きな犬を連れ歩いていることがある。

 

エンリが初めてその犬を見たときは心臓が止まるかと思ったし、ゴブリン隊も死を覚悟した顔でエンリを逃がそうとしていた。

その背からネムとモモンガが顔を覗かせたのを見て、腰砕けになった。二人とも叱った。

 

 

ネムと一緒に叱られてへこんでいるモモンガの姿を見て、モモンガを警戒していた者達もすっかり毒気を抜かれてしまった。

 

 

ここ数日でそんなことが連続したものだから、エンリの精神はかなり図太くなってきている。

 

モモンガと特に親しく、ゴブリン隊を率いており、もはやちょっとのことでは驚かず、嫁入り前のこの歳にして貫禄すら出始めたエンリは、村にとっての中心人物になりつつある。

 

村長は、こっそり自分の後継者を彼女にしようと暗躍を始めていた。

 

 

 

 

初めて会話した人間だからかはわからないが、モモンガもエモット姉妹は特に目をかけている節がある。

 

彼らのやり取りを端から見れば、仲の良い親子か兄妹のように見えるほどだ。

 

 

その姿を見た村人達は、モモンガに敬意をもちつつも親しみをもって接するようになった。

 

今では、ネム以外にも子供達がまとわり付いているのをよく見る。

その様子を見て、母親たちはあらあらと微笑むのだ。

 

 

「家屋や畑の修繕はかなり進んだことだし、そろそろ村の守りを固める塀の建設に取りかかりたいところだな。狩人や射手の意見を取り入れて設計したいのだが」

 

「ラッチモンさん、今日は森に入るって昨日言っていたので、明日話を聞いてみましょうか」

 

 

エンリと共に村長の家に向かう道すがら、モモンガと今後のことについて話し合う。

村全体の復興計画については大抵が村長とエンリ、モモンガを中心として話し合われる。

なぜ私が、と最初は難色を示したエンリだが、ゴブリン隊の薦めや、村長もモモンガも当然のように振る舞うので、すでに諦めておとなしく参加している。

 

 

「やはり村人達で机を囲んで話せるような場所が必要だな。いつまでも村長の家を会議場所にするわけにもいかない。広場の空き区画に建てている小屋を一つ会議スペースにするよう村長に頼んでみよう」

 

 

村長も仕事とプライベートは分けるべきだしな、とモモンガは一人呟いている。

自然に近いカルネ村に生きる住人にとって、仕事と生活は切っても切れないものだ。

この辺りの価値観の違いは、住んでいた場所によるものなのか、生きるための糧が要らないアンデッドだからなのか。

 

私たちの知らない常識を持ち、けして届かない強大な魔法の力を振るうモモンガ。

もともと彼がどんな暮らしをしていたのか、エンリは少しばかり気になっていた。

 

 

「あの、モモンガ様が──」

 

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

 

「あの、モモンガ様がいたところはどんな所だったんですか?」

 

 

隣を歩くエンリから、自分の過去について質問をされた。

顔を見れば、興味深そうにクリクリとした目をこちらへと向けている。

人間であった頃であれば、なんとなく気恥ずかしくなって目を逸らしてしまっていただろう。

 

エンリについているゴブリンも興味ありげにこちらを見ている。

 

はてさて、自分の過去とは。

死の支配者(オーバーロード)として、かけがえのない仲間たちと、そして友人と、世界樹(ユグドラシル)を冒険したあの日の事か。

 

 

「私が以前いたところは……」

 

 

それとも。

 

 

「はっきり言って、地獄のような世界だった」

 

 

モモンガは──鈴木悟は、かつて自分がいた環境を思い出していた。

 

持つものが全て正しく、持たざるものに権利などない。

外の世界は汚染され、生物が生きることのできる環境は限られていた。

重金属の霧にまみれた空、酸性雨の染み込んだ土壌、廃油とナノ金属粉に汚染された海。

 

すべてが支配階級の思うがままと言う点ではこの世界も同様だが、放り出された先で生き残る可能性が万に一つもない現実と比べればまだましといったところだろうか。

 

 

「──私がこの姿(モモンガ)になったのは、そんな世界から少しでも目をそらしたかったからだろう。この姿でいる間(ユグドラシルの中で)は、仮初めとは言えども自由だったし……。色々なことを分かち合える、大切な仲間たちもいたからな」

 

 

何度もぶつかり合った。一度はバラバラになりそうにもなった。

だが、そうはならなかった。

 

 

「仲間たちと作り上げたあの場所は、私にとって第二の……。いや、今や本当の故郷とすら思える場所だった。皆の血と汗と涙と愛と拘りと……すべてが詰まった、大切な場所だった」

 

 

眼窩の奥で過去を懐かしむように炎が揺れる。

骸骨である自分の表情をエンリが読み取れるはずがないが、彼女はまるで迷い子をみるような優しい表情でこちらを見ている。

その表情からは若干の寂しさも読み取れなくはない。

 

 

「それなら、早くお仲間の皆さんのいるその場所に帰る方法を見つけないとですね!」

 

「……いや」

 

 

改めて言葉にするのが辛い。

空想(ゲーム)現実(リアル)になったような今の現状への理解と、村の復興作業に没頭することで忘れようとしていた、すでに終わった事実。

 

 

「あの場所は、もうないんだ。仲間たちも時を経る毎に去っていき、最後には私一人だった。そして、その場所すらも……転移の直前、消えてしまった」

 

 

ふう、とため息のような何かが漏れる。

そこにはもっと寂寥や執着のような何かがあるものだと思っていたが、自分でも驚くほどにあっさりとしていた。

 

エンリが、何を言ったら良いのかわからないと言った表情で固まっている。

 

まるで地雷を踏んでしまったような反応を見て、可笑しくて笑いそうになってしまった。

 

 

「村長や戦士長にはああ言ったが、実のところ元の場所に帰る手段を探すつもりはないんだ。それよりも」

 

 

あの時はゲームの続きだと思っていた。

だが、今はこれが現実だ。

 

 

「私はこの美しい世界を見て回りたいのだ。空を見て、山を見て、未知を巡って。人と交流して……。そうして、またかつての仲間達のような友人を作れたら、最高だな」

 

 

これは決意だ。

 

エンリを助けたとき、鈴木悟として憧れた正義の味方(たっち・みー)を目指すと決めた。

 

体は人間でなくなってしまった。

人間の輪の中にいなければ、感情や感性も人間でなくなってしまうかもしれない。

だからせめて、人間であり続けるために。

 

 

「そのためにも、まずはこの村を磐石にしなくてはな。帰ってくる場所が滅んでましたなど二度と勘弁だ」

 

 

彼は、人として生き続けることを"決意"した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の復興も進み、稚拙ながら村の周囲に柵も出来始めたある日の夜。

 

すでに月も頂点まで昇り、村人達は夢の世界に旅立っている。

 

そんなカルネ村の上空で、モモンガは一人頭を抱えていた。

 

カルネ村の広場の空で、月明かりが村を照らす中、漆黒のローブを身に纏った恐ろしい骸骨が弱々しく頭を抱える様は、ある種の芸術作品のように映ったかもしれない。

 

 

モモンガは、自らが放っていた索敵に秀でた高位のアンデッドモンスター……集眼の屍(アイボール・コープス)が伝えてきた事実に、己の浅慮と慢心を呪っているところだった。

 

─―南方より、未確認の高レベル存在が急速接近中

─―使用していた隠密魔法は看破された模様

 

その連絡を最後に、集眼の屍(アイボール・コープス)との繋がりは途絶えた。

 

視界を繋げ、相手の姿を視認する暇すらなかった。

 

この村を訪れてからしばらく経つが、村長や戦士長の話と、撃退した騎士団やモンスターたちのレベルなどの情報を総合し、自分の驚異となる存在は早々存在しないとたかをくくっていた。

 

騎士団から引き出した情報では、この世界における人類の生存領域は非常に狭いらしい。

ということは、人類にとって未知の領域に、一〇〇レベルに迫る存在がいる可能性だって当然あるということだ。

 

人間から引き出した情報のみで周辺を知った気になってしまった自分を強く責めたい。

 

 

しかし、狼狽えている時間はない。

 

監視を撃破した高レベル存在は、こうしている間にも近づいてきているだろう。

 

少なくとも、対応するまもなく集眼の屍(アイボール・コープス)を処理できるだけの実力者。

自分と同じユグドラシルプレイヤーか、この世界の実力者か。

前者ならばまだ交渉の余地はある。

おそらくそのプレイヤーも、ゲームの終了と共にこの異常事態に巻き込まれた被害者であろうから。

 

異形種許さぬ、悪即斬のPK組(やべーやつ)なら話は別だが、そうでなければカルネ村を救っている自分を一方的に排するような展開にはなりづらいだろう。

 

よろしくないのは後者の場合。

村人達の話や、訪れた戦士団の反応を見る限り、この世界では基本的にアンデッドを含むモンスターは人類の敵だ。

 

戦力が存在するはずではない村に、高位の索敵アンデッド。

 

近寄ってみれば、要塞化の進む村にゴブリンとアンデッドの気配。

 

とどめとばかりに、夜の村を徘徊する高位のアンデッド(モモンガ)

 

 

間違いなくこの村はモンスターに支配された村として討伐対象に見られてしまう。

 

より高位の隠密魔法で隠れてもいいが、仮に看破されてしまえばそれこそ終わり。

 

村人たちにはおおむね好意的に受け入れられていると思うが、その存在が村人に対してどのような対応をとるかはわからない。

 

 

眼下の村は、ひっそりと寝静まっている。

 

モモンガがこの村を訪れてからまだそこまで長い時間は経っていないが、友好的な彼らと共に作り上げてきたこの村は、既にモモンガにとって第二の故郷のように思えていた。

 

 

カルネ村を帰る場所にしたいのだと言ったときのエンリの表情が思い出される。

 

 

「……よし」

 

 

モモンガは、村に被害がでないように迎え撃つことを決めた。

 

折角ここまで面倒を見てきたのだ。

できるならば、何もなく終わってほしい。

雲一つない夜空の月の光に照らされた、少しずつ復興が進んでいるカルネ村を見下ろしながら、モモンガは自分を強化する魔法を唱えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンデッドが倒された場所へ向かって飛んでいくと、周囲を警戒するように飛ぶ鋼色の存在があった。

探知阻害の装備でもあるのか、正確にその姿をとらえるのが難しい。

 

 

(……保険はかけておくか)

 

 

<魔法最強化(マキシマイズマジック)爆撃地雷> (エクスプロードマイン)

 

正面に不可視の地雷を設置し、相手に話しかける。

最初から戦うつもりであるならばこちらの存在をさらすのはありえない悪手だが、不必要な敵対はするつもりはない。

 

 

(まずは、対話だ)

 

 

「やあ、こんばんは。ずいぶん荒々しく飛び回っているみたいですが、探し物ですか?」

 

 

声を聞いた相手はピタリと動きを止め、こちらを凝視している。

 

全身を鋼色の鱗に包まれた体。身体的特徴から、竜人種のようだ。

大きな翼を持ち、その羽の真紅の飾りはまるで炎のように揺らめいている。

背には陽光を放つ日輪を背負い、堂々とその場にそびえるその姿は……

 

 

「……あれ?」

 

 

見覚えがある。

可能性もある。

何せ、最後の瞬間まで共にいたのだ。

彼がいることを否定する要素がない。

 

 

「……モモンガさん?」

 

 

聞き覚えのある声だ。

もはや間違えようもない。

 

 

「……クリュードさん!」

 

 

思わず叫び返す。

 

この世界においての初めてのプレイヤーとの邂逅が、友人とのものであるとはなんたる僥幸か。

 

溢れ出る喜びが何度も抑制されては再び湧き出す。

 

気付けば、彼も両手を広げてこちらへ飛び込んできているのが見えた。

 

思わずこちらも両手を広げ、感動の再会をしようとして──

 

思い出す。

 

 

「あ"っ!待ってストッ」

 

 

地雷が爆発した。

 

 

「グワァ───!!」

 

「クリュードさァ──ん!!」

 

 

炎に巻かれ墜落する竜人を追いかけ、夜の森に治癒薬(ポーション)が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

治療を終えてひとしきり謝り倒したあと、改めて再会の喜びを分かち合った。

 

ここに至るまで何処にいて、何があったのか。

 

 

彼はどうやら、転移直後は近くに居たらしい。

 

透き通る夜空と吹き付ける冷たい新鮮な空気の感触に感動し、()()()()()()()()周囲を飛び回り、我に帰ったときには自分が何処にいるのかわからなかったらしい。

 

とりあえず竜人の姿に戻り地上に降りると、そこは獣の巣窟。

ビーストマンの集落か何かだったのだそうだ。

 

NPCかと思い話しかけるも、とりつく島もなく一斉に襲いかかってきたので、これを撃滅。

そこで出会った人間の少年にいろいろと事情を聴き、ようやく現状の理解に至ったのだという。

 

そこで彼は突然興奮した様子になり、こう言った。

 

 

「そういえば!ずいぶん前に写真を見せた女性チームの話、覚えてますか!?彼女達、この世界の人間みたいなんです!」

 

「ああ、ええと確か……蒼の……蒼の薔薇?……あっ」

 

 

点と点が繋がった感覚。

戦士長の語っていた、王国の最上位冒険者達の名前ではないか。

 

 

「そうです!彼女達がその国の首都に来てたみたいで。首都の周囲をビーストマンに包囲されて滅ぼされかかってたタイミングで、僕の事"召喚"してくれたんですよ!」

 

「召喚石でしたっけ?」

 

「おあつらえ向きな環境だったので!竜になって!焼き払って!楽しかったです!!」

 

「語彙が死んでいる……」

 

 

興奮で片言のようになっている彼の姿を、嬉しそうに眺めていた。

話を聞く限り、どうやら彼もまた異形となった影響か、生物の死に対してドライになっているようだ。

 

本人がその事をどう思っているのかはわからない。

しかしモモンガにとっては、自分と同じ境遇にあると言うだけで心強い味方だ。

 

まずは明日明るくなってからカルネ村を案内しよう。

彼がいいと言ってくれたら、村の整備に協力してもらおう。

 

 

夜闇に紛れて、骸骨と竜人は談笑しながらカルネ村へと戻っていった。

 

 

 

 

道中、クリュードが竜王国で見かけたという聖者殺しの槍(ロンギヌス)らしきものを持つ青年の話を聞いて、モモンガが戦慄したのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日もエンリは、日の出と共に村の広場へ出た。

昨日の仕事の続きをモモンガと話し合うためだ。

 

昨日のモモンガの言葉を思い出して少しだけ胸が熱くなる。

誰かの帰りたい場所になるというのは、こんなにも心が満たされることなのか。

ゴブリンやアンデッドが増え、カルネ村はちょっとした人外魔境と化してきているが、そんなことは大した問題ではない。

 

ゴブリン達だけでなく村長や村の大人達もなんだか私をリーダー扱いしてくる気がするが、大した問題ではないのだ。決して。

 

 

広場に出て、モモンガを見つけた。

声をあげて駆け寄ろうとして、ゴブリンリーダーに止められた。

 

 

「いけません姐さん!」

 

 

ゴブリン隊はモモンガの隣に立っている、見慣れぬ鋼色の異形に対して全力の警戒を向けている。

彼らの顔が物語っている。

 

アレは自分達が千体いても勝てる相手じゃない。

 

チリチリと肌を焼く緊張感の中、ゴブリン達の額を流れ落ちる汗が地面に落ちたとき、モモンガがこちらに気づき、何でもないことのように言った。

 

 

「エンリ、おはよう。紹介しておこう、友人のクリュードだ。彼も私と同じトラブルでこの辺りに来ていたらしい。昨晩再会したんだ。彼もこの村に滞在してもいいかな?」

 

「クリュードです。よろしくね」

 

「モモンガ様のお友達なら大歓迎です!再会できて良かったじゃないですか!」

 

 

その言葉を聞いてゴブリン隊は緊張の糸が切れて崩れ落ちた。

 

エンリはもはやこの程度では動じない。

平気で初めて会ったクリュードと握手を交わしている。

 

着実に、人外魔境の覇王としての頭角を見せつつあった。

 

 

ゴブリンリーダーは、周囲の森に胃痛に効く薬草がないか探すのを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から、カルネ村では時おり村の子供達が骸骨と竜人に掴まって空を飛び回る様子が目撃されるようになる。

 

それをみたエンリはため息をつきながらも、自分も空を飛んでみたいなどとぼんやりその姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 




*モモンガは決意で満たされた。


(……あれ、カルネ村が襲われたのってコイツのせいでは)

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