うちのサーヴァントは文学少女可愛い   作:Ni(相川みかげ)

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長くなっちゃいました…あと今回日記要素薄めです。


3.教会にて

 3月 7日 雨

 

 自由とはこういう事なのだろうか。最近、そんな事をひしひしと感じるようになった。

 

 慌ただしい社会を傍目にえっちゃんと一緒にゴロゴロするだけの日々。ああ、なんと素晴らしい世界なのだろう。こんな世界がいつまでも続けばいいのに。

 

 ……そう。こんな世界は続かない。早ければ今宵にでもこの幸せは崩れさるだろう。シェイクスピアはこう言いました。“悲報が訪れる時は、(When sorrows come, )軍団で押し寄せてくる(they come not single spies. But in battalions.)”と。

 

 停滞する者に真の平穏は訪れない。苦しくても、前に進む者のみが幸せを享受する権利を掴めるのだ。という訳で……

 

 ―――えっちゃん。ちょっと出掛けない?

 

「お外もまだまだ寒い、です。パスでお願いします」

 

 ―――帰りに和菓子屋に寄ろうと思っていたんだけど……

 

「何をしているのです、マスターさん。行きましょう。餡子が私を待っています」

 

 ……相変わらず現金な子だなあ。ま、そういうところが可愛いんだけどネ!

 

「ところで、何処に行くのです?」

 

 んー……ちょっとね。―――カミサマにでも祈りに行こうかな、と。

 

 

 

 

「……此処に人が来るとは、珍しい事もあるものですね」

 

「そういうアンタも中々な物好きだね。カレン・オルテンシア。……特にその服が」

 

「……これは、ファッションです。……魔術師(メイガス)、一体何が目的なのです」

 

「強いて言うなら……幸せ、かな?今もカミサマにお祈りしていた所さ」

 

「とても、魔術師とは思えない言葉ですね」

 

 普段は、人も寄り付かない寂れた教会。冬木教会。そこで俺はスカートを履き忘れた痴女シスターと相対する。……いや、今は養護教諭をしているんだったか。

 

「魔術師、惚けずに答えなさい。町中での大規模な術式の行使。これは貴方の仕業ですね」

 

「正解。流石は聖堂教会の監視者。これくらいの事はお見通しか」

 

 ……流石、聖堂教会。やっぱり気付かれてたか。

 作中では10年前からアインツベルンの聖杯が眠る大空洞を監視していたと言っていた。そんな連中が側にいる中で英霊召喚などをすれば気付かれても可笑しくはない。

 

「もう一度問います。貴方の目的は何なのです」

 

「さあ?さっきの答えで納得してくれないなら俺にはもう答える事がないや。コッチも命じられてやってるからさ」

 

「……問い方を変えます。貴方の雇い主とその目的を吐きなさい」

 

「さあ?それも解らないね。俺には何にも教えてくれなかったから。ああ、でも雇い主なら知ってるぜ。……アンタらの信じるカミサマさ」

 

「……埒があきません、ね」

 

 カレンが溜息交じりに言葉を呟いたと同時に、空気が変わった。

 ……それを俺が知覚出来たのは奇跡と言っても良かった。きっとランクの低い『直感』スキルが働いたのだろう。

 ―――まさか、空からバーサーカー女が拳を叩きつけてくるとは。

 まあ、気付いた所で俺にはどうする事も出来ないんですけどねッ―――!!!

 

 ドン!と教会が大きく揺れた。

 

「……サンキュー、えっちゃん」

 

「これでも、サーヴァントですし。マスターさんを守るのは私の仕事です。……ダルいけど」

 

 その暴力が俺を襲うことはなかった。俺のサーヴァントはしっかりと、敵の攻撃を認識していたからだ。

 

 来る途中に買ったあんまんをもきゅもきゅしているえっちゃんに首根っこを掴まれながら、俺は下手人を見下ろす。

 

 大きくヒビ割れた礼拝堂の床と巻き込まれて破壊された会衆席。その中心で此方を睨む封印指定執行者―――バゼット・フラガ・マクレミッツを。

 

「……仕留め損ないましたか。そして、其処に居るのはやはり英……え、英霊?」

 

「……」

 

 バゼットとカレンは、霊体化していたえっちゃんの存在を予想していたようだ。しかし、その姿を見て分かりやすく動揺していた。無理もない。俺も初めて見たときはそんな感じだった。

 

「……魔術師。其処の英霊の服装は貴方の趣味なのですか?汚らわしい」

 

「おう、えっちゃんを馬鹿にするのはそこまでにして貰おうか。あと服装に関しては俺はノータッチだ。ストライクゾーンど真ん中だけどな!」

 

「ポルカミゼーリア。控えめに言って貴方、最高に気持ち悪いわ」

 

 先程までの警戒した様子が僅かに緩まり、カレンからは俺に対する軽蔑の念が感じられる。……何か今の発言は可笑しかっただろうか?えっちゃんはベストオブさいかわサーヴァントだというのに……

 何故、軽蔑されたのかはよく分からないけど、とりあえず気を引き締めて、悪役ロール(・・・・・)を続ける。

 

「まったく、まさか封印指定執行者までいるとはね。まあ、都合がいいや……ところで教会の修繕費って当然そちら持ちっすよね?」

 

「安心しなさい。全てが終わった後でそこの脳筋女に全額請求しますから」

 

「え」

 

「ああ――安心した。これで落ち着いて話が出来る」

 

「待ちなさい、やれと言ったのは貴女では――」

 

 思わぬ方向からの援護射撃に戸惑うバゼットを放置し、俺とカレンは話を進める。

 

「不意打ちなんて穏やかじゃないね。そんなにも俺が怖かったのかい?」

 

「否定はしません。警戒していたのは貴方ではなく、其処の英霊ですが」

 

「……やっぱりバレてたんだ。そりゃそうか。此処では10年前、聖杯戦争が行われたんだから。英霊の気配に敏感になる筈だ」

 

「どうします、マスターさん?処す?処す?」

 

 隣でえっちゃんがバーサクしてる。可愛いなあ……ハッ!そうじゃなくて。

 

「なあ?カレン・オルテンシア、バゼット・フラガ・マクレミッツ。アンタ達は俺を排除するつもりで来たのかい?」

 

「……いえ、私に命じられた指令は冬木で観測された召喚術式の調査です。交戦は場合に応じて判断せよとの事です」

 

「……敵の質問に何を馬鹿正直に答えているのですかこの脳筋女」

 

「……今のはブラフです。まんまと引っかかりましたね魔術師!」

 

「聞かなかった事にするよ、ダメットさん」

 

「そうですね。貴女はこれでも封印指定執行者。まさか敵を前にして失言をするような迂闊な真似はしないでしょう?ダメット・フラガ・マクレミッツ」

 

「あまり舐めていると吹っ飛ばしますよ?」

 

 やっぱりバゼットさんはダメットさんだったんだね!……お巫山戯はこのくらいにするか。ここで上手く交渉できないと俺には後がない。

 

 俺の出せるカードはえっちゃんの召喚に利用したペンダントくらいなものだ。しかし、それは利用したら聖杯戦争の存在が多くの人間に広まる可能性が高い鬼札。必死に家族の為に頑張っている綺麗なケリィにぶっ殺されること間違いなしである。

 等価交換が常の魔術師との付き合いで切れるカードが一枚もない。それが今の状況だ。相手の機嫌次第でモルモットコースに直行である。……やっぱり帰りたいなあ。

 この会話で、俺はカレンとバゼットから最低限の譲歩を引き出さなければならない。―――その為には、何だって利用する。

 

「――それにしても、良かったな、アンタら。命じられた指令が調査だけで」

 

「それはどういう事です。まさか英霊がいるからなんて寝ぼけた理由ではないですよね」

 

「違うさ。カレンさんは兎も角、バゼットさんは封印指定執行者、そして現代を生きる伝承保菌者(ゴッズホルダー)だ。俺たちを倒す事だって出来るだろうよ」

 

「なら……」

 

「簡単さ。俺は倒されちゃダメなんだよ」

 

「……どういう意味です」

 

 食いついた!このまま嘘八百でペースを持っていく!

 

「そもそも考えてみろよ。英霊召喚なんて魔術師個人の能力で出来る訳がないだろう。それなのに今此処にサーヴァントがいる意味は何だと思う?」

 

「……まさか、此処でまた聖杯戦争が起こるとでも?」

 

「ああ、その通りさ。といっても俺は参加者(プレイヤー)側じゃないんだけどね。……そもそも今回の聖杯戦争にはプレイヤーは存在しない、らしい」

 

「らしい、とは?」

 

「最初に言っただろう。俺は命じられてるだけだ。英霊の力を駆使して事態を収束せよ、ってね。……そいつは魔術師の間では『抑止力(・・・)』って言われてるらしいぜ?俺にとってはカミサマと同じようにしか感じられなかったけど」

 

「な……!」

 

 俺の言葉に絶句するバゼット。魔術師にとってこの言葉は嘘で済ませられるものではないのだからこの反応は当然と言える。

 

「仮に、それが本当だとして。貴方を倒せない理由にはなりません」

 

「分かってるだろう、カレンさん。『抑止力』が働いているって事は、そうしないといけないって事さ。英霊の力を駆使しないと大変な事になる程の事態がね」

 

「それが聖杯戦争、だと?」

 

「さあ?知らね。俺には何にも教えられていないって最初に言ったろ?……まあでも。信じられないなら俺らを殺せばいい。その時は勝手に滅びるだけだろ」

 

 もちろん、この会話は全て嘘だ。だけど、俺が交渉のカードを持たないように、カレンとバゼットには俺の言葉を否定する材料はない。逆に俺の言葉の信憑性は隣にいるえっちゃんが高めてくれる。英霊が召喚されている事。これが何よりの武器になる。

 所詮は嘘だ。見破られればどうしようもない。だけど、俺は一貫して「詳しい事は何も知らない」事を主張している。見破る情報があったとしてもそれが俺の嘘には繋がらない筈だ。

 さあ、この状況でアンタ達は俺に何か出来るのかよ!

 

「……信じた訳ではありません。しかし、それは貴方を倒せない理由にはなっても貴方を見逃す理由にはなっていません」

 

 ……何とか、最低限の譲歩は引き出せたか。これで俺が即座に魔術師の実験動物になる事はない。

 なら後は俺の都合の良いように持ってくだけだ。

 

「ああ、そうさ。だから俺から一つ、提案があるんだ」

 

「提案?」

 

「ククッ……ハハハハハハッ!」

 

 仕上げだ。これまでの黒幕&悪役ロールを最大限に利用する!

 

「―――調子乗っててスミマセンっしたー!何でもするから助けて下さい!」

 

 俺がしたのはジャパニーズ土下座だった。

 

「……は?」

 

「……」

 

 くくっ、どうだ!「上げて落とす」作戦は!呆れて声も出まい!

 

「あら、それはどういう意味なのかしら?今までのは全部嘘だったと認めるのですか?」

 

 ヒャッホウ!いい笑顔だぜ、カレンさん!ようやくドSスイッチが入ったな!

 

「いや!そうじゃなくて!今までの全部、本当だけど俺は魔術回路を持ってるだけの素人なんです!魔術師じゃないんですよ!俺が何もしなかったら世界が滅びるのに、派手に動けば魔術師に捕まってモルモットになるとか言われるし……だから、そのちょー強い魔術師の人が後ろ盾になってくれればなあ、と」

 

「それが、私、ですか?」

 

「あら、残念。最初から狙いはこの封印指定執行者だったと。良かったわね、バゼット。若い子からのラブコールよ?」

 

「え、いや、その。私は別に協会に強い影響力は持っていないのですけど……」

 

「俺、その辺りも何も知らないんです……だから、俺を貴女の弟子にして下さい!俺を魔術師にして下さい!」

 

「で、弟子ですか!?私が!?」

 

「これなら貴女達の任務とも外れない筈です。俺はどうせ逃げられませんし、それなら近くで監視していた方が良いんじゃないですか?……あ、勿論怪しい事をするつもりはありませんヨ?」

 

「で、ですが……」

 

「あら、良いじゃない。面倒を見てあげたら如何です?バゼット」

 

 俺の一般人ムーブにカレンの援護射撃が入る。

 

「どうせ、裏が取れない今は手を出せないわ。それなら傍に置いておいた方が他の三流魔術師の介入も防げるし、楽だと思うけど?」

 

 カレンの言葉にバゼットは小さく溜息をついた。

 

「……はあ。先に言っておきますけど私、人に教えた事なんてないですよ。それに教えられる事は大抵、基本的な事になると思いますけど……」

 

「それじゃあ……」

 

「協会からの指示も仰ぐ事になると思いますが、貴方を私の監視下に置きます。……これからよろしくお願いします」

 

「ありがとうございます!」

 

 ……とりあえず、何とかなったか。凄く疲れた。やっぱり交渉なんて俺には向いてないや。

 安堵していた俺にカレンが近づいてくる。そしてそっと耳打ち。

 

「―――今は貴方の茶番に乗ってあげる。けど気をつけなさい。ちょっとでもボロを出せば、あの女なら貴方を迷わず殺すわよ?気をつける事ね、狸さん?」

 

 ……やっぱり出し抜けてる訳無いですよねー!知ってた。……いや、これでいいんだ。魔術師の実験動物(おもちゃ)になるくらいならドSシスターのおもしろ玩具(おもちゃ)になった方が幾分かマシ……!そう覚悟してただろう!

 

 交渉は上手くいった。直ぐに危険になる事はないだろう。……だけど何か、大切なものを失ってしまったような気がした。

 

 

 

「それで、マスターさん。本当にこれで良かったんですか?」

 

「いーのいーの。あの2人にこれだけの譲歩を引き出せたのなら上等さ」

 

 帰り道、えっちゃんがそう聞いてくる。えっちゃんにはなるべく手を出さないように頼んでいたからなあ。心配させてしまったかもしれない。

 

「マスターには私を養うという大切な仕事があるんですから。危険な事はしたらダメ、だよ」

 

「いやあ。どっちみち避けては通れなかったしなあ。それにちょうど良かったしね」

 

「何がです?」

 

「―――一緒に強くなるって約束したからね。それにはバゼットさんは最適だ」

 

 えっちゃんは俺の言葉にキョトンとした顔をした後、意味を理解したのか、表情を僅かに緩めた。

 

「……そうですか。それでこそ我がマスターさんです。それなら私はもう何も言いません。頑張って、私を養ってください。……それでは和菓子屋に行きましょう。無駄に使える時間はありません、よ」

 

 そう言って俺の手を引っ張るえっちゃんの嬉しそうな顔を見て、俺は決意に満たされた。

 

 

 




痴女シスターとダメットさんの口調難しい……

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