短いですがキリがいいところまで行ったので投稿。
「──イリヤが命を狙われてる以上、やることはひとつ……黒イリヤを捕獲する!」
わたし分裂事件から二日。昨日の朝の襲撃と早退途中でもう一回の襲撃。短い期間に二回も命を奪われそうになった。犯人はわたしと同じ顔の黒いやつ。
その対策会議でメイド服を着た凛さんがそう言った時だった。
「侵入者っ!?」
「魔術師の工房に踏み入るなんて随分な身の程知らずですわね」
「え? え?」
警告音が鳴り響いた。凛さんとルヴィアさんが揃って窓の外に顔を向ける。
侵入者? もしかしてアイツが……
「まったくこんな事に時間を割いている場合じゃありませんのに……」
そう言って窓を開けて侵入者を見たルヴィアさんは何故か黙ってしまった。わたしもルヴィアさんの陰に隠れてそっと窓の外を見る。
「デミサーヴァントに人権を!」
「週休二日、和菓子付きの待遇を要求します」
「……どうしよう。頼る人を間違えたかもしれない」
──そこに居たのは「デミサーヴァントに人権を!」「配布鯖の酷使反対!」「クロに居場所を作る会」と書かれた横断幕を掲げて叫ぶ明日望さんとえっちゃんさん。そして二人の後ろを呆れた顔をしてるもう一人のわたしだった。
「…………えーと」
……色々言いたい事はあったのだが、考えがまとまらない。というかツッコみどころが多すぎる。
「──なんでそっちの味方してるのおおお!!!???」
思わず出てしまった絶叫が虚しく響き渡った。
◇
「……で、何が目的なのかしら蒔本くん?」
「きっちり説明してもらいますわ!」
宣戦布告の次の日。学校の屋上で額に青筋を浮かべる凛ちゃんとビシッとこちらを指差すルヴィアさんに詰め寄られる。
「あすのくん。はい、あーん」
「あーん。……やっぱりえっちゃんの作った弁当は美味しいなあ!」
「これ、冷凍食品、です」
「えっちゃんがあーんしてくれること自体に意味があるんだよ!」
「なるほど、これが愛は最高の隠し味という奴ですか。また一つ、かしこくなっちゃった」
「こらそこっ!イチャイチャしない!」
えっちゃんはそれに動じず、こちらに唐揚げを差し出してきたので口いっぱいに頬張る。
無視されたと思ったのか凛ちゃんがうるさい。
「あのさあ……まずはこっちに何の連絡もしなかった事を反省しようよ。凛ちゃん達は俺が居なくても解決できると思っていたのかもしれないけど、もし俺がクロの事をイリヤちゃんと勘違いしたらどうするつもりだったのさ。いくら想定外の事態だったからってこれはひどいよ。あんまりだよ。俺達、一緒に戦った仲間じゃん。仲間外れは良くないよ」
「事実だけに反論できませんわ……」
「うぐ……しょうがないじゃない! クラスカード絡みでこれ以上問題を起こす訳にもいかなかったのよ!」
「あー、だから知る人はなるべく少なくしたかった、と。バカだなあ。カレイドステッキが未だに魔術と無関係の小学生二人に持ち出されてるってネタだけで普通にヤバいでしょうに」
「ド正論……っ!」
凛ちゃんがガックリと項垂れる。しかし、それも直ぐに立ち直る。
「そ、それでも蒔本くんがあの黒イリヤ……ええい、長い! クロの味方をする理由は何もないでしょう!?」
「あるよ。あれはイリヤちゃんだ。それだけで俺が味方になる理由は十分だ」
「ちゃんとわかっていますの? アレはイリヤスフィールの命を狙っていて……」
「ああ、それは流石に止めるよ。だからいいでしょ?」
「良くないわよ! アンタだって魔術師の端くれならクロの異常性はわかるでしょう!? アレは自分の身体を媒体にクラスカードの能力を召喚してる。協会ですらそんな使い方は解析できてないのに……」
「うん? ……ああ、そっか。そういう設定だったっけ」
そういえば、この時期はまだ
何か上手い言い訳はないだろうか。こうなればもう先に種明かしした方がいいのか?
仕方ない。クロに問い詰められても困るし、要所は誤魔化して喋るか。
「あれがホントのカードの使い方さ。やり方さえ知ってれば魔術師なら誰でもできる、と思うよ。イリヤちゃんが分裂したのは副作用、いや、誤作動みたいなものかな。……まあ、これ以上喋る気はないけどね!」
「……ちょっと待った。アンタどのくらいカードについて知ってるの?」
思わぬ言葉だったのだろう。凛ちゃんが急に冷静になって問いただしてくる。
「大体の事は。どのようにして生まれたか、仕組みはどんなものか、アレを使って何ができるか。今、クラスカードに関わっている人の中で俺が一番詳しいよ。なんせ、俺はこの事件を解決するためにここにいるからね」
「それで、貴方はわたし達にその情報を共有するつもりはない、と」
「そうだね。どうせこの情報は知っても意味がない。時計塔の上層部はその辺を察してるから何も言わずに俺に任せていると思うし、どうせ俺の知ってる情報も時が来れば、その内明らかになる事さ」
だって、これ原作知識だからね! 何でもは知らないよ。(君達が)知っている事だけ!
「まあ、そういう事だから。クロを問い詰めた所で有益な情報は何もでない。むしろあの子は殆ど何にも知らないよ」
「……はあ。だからクロを見逃せって言われてもねえ。この際、クラスカード絡みの事についてはアンタに聞いた方が早そうだから置いとくとしても、やっぱり放置はできないわよ。魔術の世界に無関係なイリヤにこれ以上余計な負担はかけたくないの」
なおも凛ちゃんは渋っている。まあ、クラスカードの事を抜きにしてもイリヤちゃん達がもう襲われてるから仕方ないよね。これが心のぜい肉って奴か。
でも……
「そんな事言われても、もう昨日の内にクロの転入手続きしちゃったし……」
「「…………はあああああ!!!???」」
◇
「クロエ・フォン・アインツベルンでーす。気軽にクロって呼んでね♪」
(何で学校にまで来てるのおぉ……!! 明日望さんは何が目的なの!?)
その日の朝礼。イリヤちゃんも心の中で叫んでたとかなんとか。
なろうの方でもオリジナルの小説を何度か更新できました。
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みろ(畜ペン並感)
そんな畜ペンが活躍する漫画『天に向かってつば九郎』の最新第3巻が8月9日に発売されたぞ!みんなもかえ。