うちのサーヴァントは文学少女可愛い   作:Ni(相川みかげ)

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アサシン戦は原作と同じなので全カット。一応、下にダイジェストで…

イリヤちゃんが不意打ちを食らう。と同時に無数に分裂したアサシンに囲まれる

離脱しようとするもイリヤちゃんが毒で動けない

内なるイリヤが暴走

爆発オチなんてサイテー!

……はい、そんな感じで始めていきます。


18.前に、進む

「おはよ〜、士郎氏〜」

「ああ、おはよう。風邪はもう大丈夫なのか……っ!? どうしたんだよ、その目!? 充血か?」

「か、カラコンだよ……」

 

 一日ぶりの登校。挨拶と共に俺の顔を見た士郎くんはその変貌ぶりに思わず席を立った。……ローブなんかは脱げばそれで終わりだったんだけど目の方はどうやっても元の色には戻らなかったんだよなー。

 仕方なく用意していた言い訳を恐る恐る口にすると士郎くんはそれで納得したのか、小さく息を吐き席に座った。

 

「そうなのか? 俺は似合ってると思うけど……一成が見たら怒りそうだな」

「それは困る。生徒会長様には注意するとしようか」

 

 軽い調子のやり取りの後、本題に入る。

 

「イリヤちゃんが風邪引いたって聞いたけど、その後調子はどう?」

「うん?明日望ってイリヤと知り合いだったのか?」

「ほら、前に衛宮宅に石投げこまれた事あったじゃん。その時に仲良くなってね。ちょくちょく会ったりしてたんだよ。で、俺が風邪引いてる時にイリヤちゃんも丁度風邪引いたって聞いたから、風邪移しちゃったかなーって気になってたんだよね」

「ああ、そういう事か。イリヤなら今日はもうすっかり元気だったぞ。でも……」

 

 俺の説明に不審に思う所はなかったらしく、士郎くんはイリヤちゃんの様子を語る。しかしその顔は何処か曇っていた。

 

「……うまく言えないけど、何処か無理しているように見えた、かな。セラ達もいつもとは違ったように感じる。もしかしたら俺には知られたくない事でもあるのかもしれない」

「……」

 

 ……よく見てるなあ。流石、お兄ちゃん。俺みたいに知識を持ってなくても家族の異変はお見通しか。

 

「そっか。それは士郎氏じゃ聞きにくいだろうねえ」

「まあな。心配だけど、俺に踏み込んで欲しくないって言うなら、イリヤが自分で打ち明けるまで待つことにするよ」

「お兄ちゃんみたいだね」

「当たり前だろ。俺はイリヤの兄なんだから」

「そりゃそうだ。……まあ、俺はイリヤちゃんのお兄ちゃんじゃないし今日の放課後にでも様子を見に行こうかな」

「……明日望は時々、急にデリカシーがなくなるよな……」

 

 俺の言葉を聞いて、士郎くんは呆れた顔でそう言った。

 

「産みの親の遺伝さ。俺も恥ずかしく思う」

「……はあ。あんまりイリヤを困らせるなよ」

「おお、怖い怖い。それじゃあ、お兄ちゃんの逆鱗に触れないように気をつけないとね」

 

 そんなやり取りの終わりと同時に三時間目の始まりを告げるチャイムが響いた。

 

「……ところで、イリヤとはどういう関係なんだ? まさかとは思うけど、その恋愛感情とか……」

「アハハ、それはないよ。俺はえっちゃん一筋だし。それに士郎氏じゃあるまいし」

「なんでさ!」

 

 

 

 

『はい、どちら様です……ッ!? サーヴァント!?』

 

 放課後。士郎くんに言った通り、衛宮宅を訪れる。

 玄関のチャイムを鳴らすとインターホンの向こうから驚愕の声が響いた。

 

「ぷるぷる。ぼく わるい魔術師じゃないよ」

「そうです。私はいいヴィランなのです」

 

 俺達の弁明の声も聞いていないのか慌ただしく家の扉が開かれた。現れたのは衛宮家のメイドさんのセラとリーゼリットだ。

 

「やだなあ。そんな物騒な物出してこないでよ。ここ日本だよ?」

「私も、そう言ったけど、セラが持ってこいってうるさいから……」

「これがあなたの役割でしょう!メイドの本分だけじゃなくてそんな事まで忘れたのですか!?」

 

 急な話だったからか、二人が着ているのはあの特徴的なメイド服ではなく私服だが、リーゼリットの手にはハルバードが握られていた。

 

「まあ、そんなに警戒しないでよ。今日はイリヤちゃんのお見舞いに来ただけだからさ」

「お土産も、ちゃんと持ってきました」

「生憎ですがイリヤ様は既に完治しています。何処からその情報を聞き入れたのかは知りませんがお引き取り下さい」

「体の方は治っていても、心の方はどうなのかな?」

 

 俺の言葉にそっけない態度で接していたセラが反応する。

 

「……何を知っているのです。魔術師」

「言えないねえ。守秘義務ってものがあるから。それに魔術とは何のかかわりも無いアインツベルン家に言う必要はないだろう?」

「いいから答えなさい! この町で何が起こっているのです!」

「だから言えないって。……ああ、でもこれだけは言える。イリヤちゃんがこの件に関わる事はもうないよ。他ならぬ彼女自身がそう決めたからね」

「……その言葉に偽りはないのですね」

「ないよ。魔術師とか関係なく、年の離れた友人として心配したからお見舞いにきただけさ」

 

 その言葉を最後にセラは少しの間、考える素振りを見せる。

 

「……名は何というのです、魔術師」

「俺は蒔本明日望。こっちの天使はえっちゃん」

「よろしく、です」

「……イリヤさんが拒んだなら家には立ち入らせませんよ」

 

 セラは家の中へと入っていった。暫くするとえっちゃんを同行させずに一人でならと了承されたのだった。

 

 

 

「やあ、イリヤちゃん。昨日は大変みたいだったみたいだね。あ、これお土産のたい焼きだよー」

「明日望さん。そのわたし……」

「大丈夫だよ。此処に来る前に凛ちゃんに全部聞いてきた。……ゴメンね。辛い思いさせちゃって。本当はイリヤちゃん達が『私にも隠されていた力が……』みたいな展開に追い込まれないように頑張るつもりだったんだけど……」

「そうじゃなくて! ……明日望さんは怒ってないの? 私、一人だけ勝手に逃げちゃって」

「ふむ……」

 

 恐る恐るイリヤちゃんはそう言った。

 

「……凛ちゃんも言っていただろうけど。一般人が魔術の世界に首を突っ込んでもいいことなんてないよ。君がこの世界に踏み込む羽目になったのはルビーのせいだし、こんな事で悩む羽目になっているのも全部ルビーが悪い。だからイリヤちゃんが逃げる事に罪悪感を持つ必要なんてないんだ」

『ちょっとー!これじゃわたしが悪いみたいじゃないですかー』

「……まあ、この性悪ステッキの事はおいといてさ。そもそも逃げる事は悪い事なんかじゃないよ。逃げるって事は今まで歩いてきた道とは別の道に進むって事さ。本当にどうしようもない事があった時、このままじゃ自分がダメになっちゃうと思った時、あとは……そうだな、前に進むのが怖くなった時なんかには情けなくたって逃げちゃった方がいいのさ」

「でも、わたし……」

「だけど、君が逃げているのは自分からだろう?」

「なんでっ……!?」

 

 うつむいたままのイリヤちゃんが驚いて顔を上げた。

 

「わかるさ。俺も一緒だもん。……ここだけの話さ、一ヵ月くらい前までは俺もイリヤちゃんと同じ普通の一般人だったんだぜ。急にこんな非日常に巻き込まれても困るよな」

「えっ、明日望さんは専門家の人だって凛さんも……」

「ああ、それ嘘だよ。ルビーの製作者もこの嘘に噛んでるから暫くはバレないと思うぜ」

『暫くどころかこのままずっとバレないと思いますけどね~』

「えっ、えっ?」

 

 戸惑ったままのイリヤちゃんに向けて言葉を重ねる。

 

「とにかく、俺の日常は随分と様変わりしちゃったわけ。今でもこんな事に巻き込んだ奴らにはふざけんなーって思っているし、戦うのだって怖い。それにこの前なんか暴走して寝込む羽目になったし、もうやってられるかーって感じさ」

「……それなのに、明日望さんはどうして戦うの?」

「決まっている。こんな日常が好きだからさ」

 

 イリヤちゃんがそれを聞いて息を呑む。

 

「一つだけ。たった一つだけこんな事に巻き込まれて心から良かったと思えた事がある。えっちゃんと出会えた事さ。えっちゃんと一緒にいられる日常が続くなら、たとえどんなに苦しくたって前に進むって、そう決めたんだ」

「前に、進む……」

「さっき、逃げるのは悪い事じゃないって言ったけど。逃げ続ける事と自分から逃げる事は話が別さ。だってそれじゃ前に進めないからな。イリヤちゃんも本当は気付いてるはずだぜ。これじゃいけないってさ。……君の日常は随分変わっちゃったかもしれない。それでも、全部が全部悪い事ばかりって訳でもないだろう?」

「そっか、そうだよね……でも」

 

 イリヤちゃんはギュッと腕を抱きかかえる。やっぱりまだ、自分の中にある力が怖いみたいだ。

 ここまでかなと小さく息を吐き立ち上がる。

 

「……まあ、そんなに焦る事はないさ! 何故って? そう、俺とえっちゃんがいるからね! 美遊ちゃん達が危ない目に合わないように全力を尽くすさ。イリヤちゃんは自分の中で気持ちの整理がついた時に改めて謝ればいい。それじゃあまた明日!」

 

 イリヤちゃんに軽く手を振り部屋を出る。

 

「……満足ですか?」

「うわっ、いたんだ。盗み聞きとかしてないよね」

 

 そのまま帰ろうとすると扉のすぐ横にいたのだろうセラに声をかけられる。

 少しびっくりしたけどそのまま彼女の後ろに続いて階段を降りる。

 

「安心してください。無理矢理、詮索するつもりはありませんから」

「ふーん。まあ安心しなよ。この件に関わっているのは魔術師らしくない魔術師ばっかりさ。間違ってもただの日常を生きる女の子に酷い事をしようって奴はいないよ」 

「そう、ですか……」

「だから、イリヤちゃんがこれからどんな選択をしても怒らないであげてほしいな」

「それとこれとは話が別です。私は奥様たちの留守を預かる身ですので」

「そっかー。まあそれも仕方ないネ。……おーい、えっちゃん帰るよー」

 

 リビングでリーゼリットと共にたい焼きをもぐもぐしていたえっちゃんに声をかける。

 

「リズ! 何を呑気にサーヴァントとお茶しているのです!?」

「セラ。えっちゃんはいい人。ケチなセラと違って羽振りがいい」

「あなたは本当に……!」

 

 隣のオーバーヒート寸前のセラを見る。うん、これは速く逃げた方がよさそうだ。

 

「それじゃあね。今度会うときはもっと気楽にいこう!」

「リズ、また一緒にお茶しよう、ね」

「またねー」

 

 セラの絶叫を背に俺達は逃げるように家を出た。

 

 

 

 

「……来たわね」

「おまたせ。いやー、昨日は本当にゴメンね」

「もういいわよ。学校でも聞いたし。その分、今日はイリヤの分まで身を粉にして働きなさい」

「おお、怖い怖い。それじゃあ邪魔にならないくらいに頑張らせてもらおうかな」

 

 深く静まり返った夜。ビルの屋上に俺達は集まった。

 美遊ちゃんが俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で問いかけてくる。

 

「あの、明日望さん。イリヤは……」

「大丈夫だよ。イリヤちゃんはきっと来ないだろうさ」

「良かった……」

 

 美遊ちゃんは胸を撫で下ろした。友達としてイリヤちゃんに傷ついてほしくないと彼女は心から思っているからだ。

 少しだけほっこりしていると凛ちゃんが声を上げる。

 

「さあ……覚悟はいいわね。ラストバトル、始めるわよ!」

 

 その声と共に俺達は境界面へと跳んだ。

 

 

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「……? ここは……? 屋上にいたはずなのに……」

「……っ! マスターさん、構えてください!」

 

 ――視界が全く別の物に切り替わった。

 夜の空を一望する屋上から地下の駐車場へと切り替わった視界に俺は戸惑う。今までは境界面に跳んだ時にはまったく同じ座標に居たはずなのに……

 それに他にも異常が起きていた。凛ちゃん達がいないのだ。まさか、接界に失敗したのか?

 

 そう考え始めた俺にえっちゃんが声をかける。その様子は明らかに敵を前にしたものだ

 

 カツン、カツンと硬質な音が響く。その音のする方を見て俺は全てを理解した。

 

「――ああ、クソ。やりやがったなあの人でなし!」

 

 そこには、黒く染まった湖光の剣を持った騎士が行く道を塞ぐように立っていた。

 

 

 

 




いったい、何スロットなんだ……(桜ンスロットの事は忘れてませんよー)

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