うちのサーヴァントは文学少女可愛い   作:Ni(相川みかげ)

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サブタイからもわかる通りハッチャケ回。ついてこれる奴だけついてこいっ!


16.約束されざる栄光の剣

 ――あの目(・・・)から見えたものは、悲劇ばかりだった。

 

 美しいものを愛している。人類のハッピーエンドが見たい。……ハッ、どの口がほざく。あの人でなし(・・・・)はどうせ全て分かっていた癖に。分かって、いながら、王を……あの少女を悲劇に追いやったのはお前だろうが!

 

 ああ、許せない。許してなるものか。たとえ貴様が忘れたとしてもオレは、オレ達(・・・)は決して忘れないぞ!

 

 王を理解しようとしなかった民草共も、無様に割れた円卓の騎士共も、滅ぶしか道が残されていなかった我らが故郷(ブリテン)の運命も全てが許せない。

 

 ――だが!貴様だけは別だ!貴様は、貴様だけは絶対に生かしておくものか!

 

 この身が『獣』に落ちようと構わぬ。願い(贖罪)が成就したとしてブリテンの滅びが回避できないのも百も承知。だが、それでいい。ついでであの能無し共を虐殺したとしても、止める理由なぞ無いのだから。

 

 ――だから、この身を寄越せ。世界を見(・・・・)た者(・・)。オレ達はこの願い(贖罪)を果たさねばならぬ。

 

 『マーリンの虐殺』――そして『アーサー王伝説の抹消』。これこそが我らが果たすべき――――

 

 

「……うっせえ!引っ込んでろ!!」

 

 朦朧とする意識の中、無理矢理振り絞った声。

 その一言がキッカケで出口の見えない暗闇、怨嗟と後悔が入り混じった亡霊の声から解き放たれた。

 

 危なかった……マジで危なかった……まさか王の変わり果てた姿(黒化セイバー)を見ただけで発狂しだすとは。

 ったく。そんな事しなくてもアーサー王は勝手に救われるっての。俺と同化した時にちゃんと分かってるはずだろうに……

 まあ、アイツらの事情も知ってるだけにあんま強く文句も言えないしなあ……やっぱり、なんもかんもあの人でなしが悪い!

 

「マスターさん、大丈夫ですか?目、充血してますよ?」

「うぇっ? ……ってなんじゃこりゃ。なに、イメチェンなの?趣味悪りぃなアイツら……」

 

 一人で納得した俺に黒化セイバーとの間に立ち、俺を守ってくれていたのだろうえっちゃんがそう声をかける。

 なに言ってんだと思ってケータイのカメラを利用して自分の目を確認すると確かに赤く充血、というよりかは虹彩の部分が茶色っぽい黒から鮮やかな赤へと変色していた。訳がわからん。

 あと、ついでにボロボロのローブ羽織ってて、足元は彼岸花が咲き乱れていた。こんなん花生えるわ(生えてる)。

 あまりにも厨ニ……いや、痛々し……これも違う。……吹っ切れた姿に戸惑いはしたものの。同時に力が漲っている事を感じる。

 

「ま、問題ねえや。むしろ普段より目は冴えてるし、力が溢れてくる……いや、多分コントロール効いてねえわ、コレ。ゴメン、えっちゃん。持って数分かも」

 

 まあ、コレは多分、暴走しているだけなのだろう。未だこの力を俺が使える道理(・・)は無く、きっとこの力は一時的なモノに過ぎない。いつもの調子でやると直ぐにガス欠に陥るだろう。

 

「十分、です」

 

 だけど、そんな俺の情けない言葉を聞いてもえっちゃんは責める事なくそう言い切った。

 

「マスターさんが、私の隣で戦う。負ける気がしない、です」

「……ああ、その通り!」

 

 ……えっちゃんがそう言うと、本当に負ける気がしないから不思議だ。

 この戦いで、俺たちが勝つ事に意味は無い。極論を言ってしまえば、俺たちが何もせずとも物事は進んでいくのだろう。

 俺は少しでもイリヤちゃん達の負担を減らそうとしているだけだ。勝つ気なんてさらさら無かった。

 だけど、今はそんなもん関係ない。アーサー王(アイツらの王様)よりもえっちゃん(うちのサーヴァント)の方がずっと可愛くて、カッコ良くて、強いんだって証明する。いつも通り、その為に戦うんだ。

 

「……それじゃあ、全力で行こうか!」

「五秒で終わらせましょう」

 

 

 

 

 生半可な攻撃では突破する事すら叶わない魔力の霧、そして魔力と剣圧を複合させた斬撃。

 

 突然、出現した二人目の敵は今まで出会った敵の中で間違いなく最強だった。……そのはずだった。

 

「……なんてデタラメ。あれが本当の英霊の力……!」

「それだけじゃないわ。なんでアイツは生身であの戦闘に混じれるのよ!?専門家の魔術師っていっても限度があるでしょう!?」

 

 ルヴィアさん達は目の前の光景を見て驚愕している。イリヤスフィールは「ほへー……」と呆けている。……かく言うわたしも驚きを隠せないでいた。

 あの敵の元になったクラスカード――正確にはサーヴァントカード。ルヴィアさんにも言っていないが、あれはエインズワース家が作り出した魔術礼装で、わたしの世(・・・・・)()から何故か此方に現れたものだ。「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」つまり「英霊になる」事ができる魔術礼装。

 黒化英霊について詳しい事は知らないけれど、元になったカードの特性から考えると、アレらが英霊の力を宿していても何の不思議も無い。

 ……その本物の英霊に限りなく近い黒化英霊の中でも最強だと言える存在が、今、目の前でたった二人の人間に苦戦していた。……いや、苦戦という言葉は似つかわしくない。

 全身を覆っていた黒の甲冑はそうそうに破壊されていた。肌は無数の裂傷が刻み込まれ、所々が変色している。攻撃は全て見切られているかのように流され、そうして僅かに生まれた隙に明日望さんの拳とえっちゃんさんの光刃が襲い掛かる。

 明日望さんとえっちゃんさんは無傷。序盤で明日望さんが「動きにくいわ!」と身に纏うローブを脱ぎ捨てた事以外ではまるで変わらない姿で戦闘を続けていた。

 ……カードの力をこの場にいる誰よりも理解している私にとっては信じられない光景だ。だが、今ルヴィアさんが言った言葉が本当だとしたら……

 

「あの、ルヴィアさん。えっちゃんさんが本当の英霊とは……?」

「え、ええ、ミユ。といっても、蒔本明日望は今回の任務での協力者として紹介されただけですので私達も詳しい事は知らないのですが……曰く、本来の意味での魔術師と違い、こういった異常現象に対する専門家、代行者に近い有り様の魔術師であり、私達の前任者と協力して『アーチャー』と『ランサー』のクラスカードを回収した人物であり、特別な手段を以って英霊を使い魔(サーヴァント)として従えている、と。……正直、大師父から聞かされた時には半信半疑でしたが、これを見るとあながち嘘でもなさそうですわね……」

 

 ……その話はきっと事実なのだろう。英霊に対抗できるのは、基本的には英霊の力だけなのだから。

 英霊と言うにはあまりにも雰囲気が緩いけど、えっちゃんさんは本当の英霊なのだろう。だけど……

 

「……それでもアイツがあの戦闘に混じれる理由になってないでしょう!?あんなのカレイドステッキの力を使ってギリギリ追いつけるレベルよ!……まさかルビー、アンタがまたなにか……」

『心外ですね~。魔法少女(偽)プリズマ☆アスノ!なんて展開も面白いでしょうけど、今回は本当に何もやってないですよ~だ』

「じゃあ、アイツは正真正銘の生身であの戦闘に混じってる訳!?そんなの本当のデタラメじゃない!」

 

 ……凛さんの言う通り、それでは、明日望さんが戦えている理由になっていない。ルビーの言葉を信じるならば、彼は何のバックアップも無しに英霊を二人がかりとはいえ圧倒している。そんな事はただの魔術師には不可能だ。

 

(……戦闘が始まる前、明日望さんの様子は何処かおかしかった。まさか……!)

 

 導き出された結論は、彼が英霊に近い存在になっているという事だった。カードの本来の使い方に似たような手法で自身を英霊と置換する。本当にそんな事が出来るのかはわからないけれど本物の英霊を呼び出せるのならば似たような事も出来るのかもしれない。

 

(貴方は、一体……)

 

 ……どちらにしても普通じゃない。わたしを連れ戻そうとしていない以上、エインズワースの関係者では無いのだろうけれど……

 

 少し思慮を巡らせていると、戦闘も終わろうとしていた。先を見たように敵の行動を封殺した明日望さんと入れ替わるように前に出てきたえっちゃんさんの乱舞で腹部に大きな傷を負った敵はそのまま川へと叩きつけられたのだ。大きな水しぶきと共に周囲がクレーターのように陥没する。

 予想もしていなかった事態だったが、最終的には無事に終わりそうだ。そうわたしが気を緩めた時だった。

 

 再び、水しぶきが上がった。しかし、今回のは外からの力ではなく中からの力によって。つまり敵の手によるものだ。水しぶきの先に見えたのは全身がボロボロの敵と、その手に現出した、黒い極光。

 一目見た瞬間に理解した。どれほど知略を巡らせても、どれほど力で圧倒しようとも全てをひっくり返す絶対的な力があると。

 アレは、マズい。そんな直観に従い、即座にこの空間から脱出しようと考え、明日望さん達を連れてこようと彼らの方を見て気付いた。……彼らが笑っている事に。

 

 

 

 

「……トドメ、させなかった、です」

「ま、仕方ない。それに元より覚悟の上さ」

 

 完全に『黒竜双剋勝利剣(クロス・カリバー)』を命中させてもなお立ち上がり、黒い極光を手に此方を見据える黒化セイバーを見てえっちゃんは何処かしょぼんとしながらそう言った。

 俺は気にしていないように返事をする。絶対のタイミングでの宝具の開帳だったが、これで倒せるほど甘くは無いだろうと最初から思っていたからだ。それにこちらはほぼ無傷に対して、黒化セイバーをほぼ瀕死にまで追い込めた。出来過ぎなくらいだろう。問題は俺の魔力がそろそろ底を尽きそうだという事だけ。

 だが、それも問題ない。どうせ次の攻撃に全ての魔力を込めるのだから。

 

「えっちゃん、手伝って。流石に俺だけじゃ使えそうに無いからさ」

「了解、です。……カッコいいですね、コレ。Xさんの剣に似ています」

「まあ、多分似たようなものだしね」

 

 黒化セイバーに呼応するように俺の手元に出現したのは同じく黒く染まった聖剣だった。

 使い方こそ何となくわかるが同時に俺だけでは真の力は使えない事も理解する。だから、俺はその聖剣をえっちゃんに手渡した。装飾こそ旧セイバーの聖剣だったが、ほぼ同一存在の彼女がこの聖剣を使えない理由はない。

 えっちゃんの両手に添えるように俺の両手を重ね合わせる。……少し持ちにくいけどいけるな。

 魔力を込める。剣から黒と白の光に、えっちゃんの魔力なのだろう赤き紫電が合わさった光の奔流が流出する。

 

 ……こんな時に思う事ではないのかもしれないけれど、綺麗だと、そう感じた。

 

 俺達が準備を整えると同時に、黒化セイバーはその聖剣の真名と共に黒き極光を解き放った。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 

 迫る極光。迎え撃つは同じく反転した聖剣。

 

「さあ!一切合切使い尽くす!比喩抜き全力全開だ!いくよ、えっちゃん!」

「……いきます!」

 

 僅かな掛け声と共に光の奔流を解き放つ。

 

「「――”約束されざる(エクスカリバー・)栄光の剣(オルタナティブ)”!!」」

 

 ――拮抗はしなかった。吹き荒れる暴風の中、赤き紫電を纏った黒白の極光が黒き極光を飲み込んだのを見届けて、俺は意識を落とした。

 

 

 

 

「……っつぅ」

 

 敵の宝具と明日望さん達が解き放った宝具は境面界を両断した。どちらも『エクスカリバー』の名を冠した宝具が衝突した結果生まれた衝撃波はそれだけであらゆるものを吹き飛ばした。

 エクスカリバーと言えばアーサー王が湖の妖精から与えられたと言われる聖剣の名前だ。……と言う事はあの敵が振るっていた力も、明日望さんが使っていた力もどちらもアーサー王の力だったという事なのだろうか?

 

(……いや、今はそんな事よりも)

 

 そんな事を考えても仕方がない。とりあえず今の状況を確認しないと……

 あの2つの聖剣が解き放たれる前に咄嗟にカレイドステッキの力で障壁を張ったが、どうやらルヴィアさん達は気絶してしまっているようだ。イリヤスフィールはカレイドルビーに変身している事もあり無事だったが、何処かいつもの雰囲気とは違うような気もする。

 そして、辺りを見渡すと、聖剣を振るった一人である明日望さんは地面に倒れていた。明日望さんを膝枕しているえっちゃんさんも普段と比べると何処か弱々しく感じる。

 

「……イリヤスフィール、ルヴィアさん達をお願い」

 

 返事を待たずに明日望さん達の方へ向かう。

 

「大丈夫ですかっ……」

「しー、……気持ちよく寝てるので起こさないであげましょう」

 

 えっちゃんさんの言葉を聞いて、明日望さんに目を向けると彼には外傷は一切無かった。となると魔力切れ、か。……良かった、どうやら無事らしい。

 少し安心したが、続くえっちゃんさんの言葉で一気に現実に引き戻される。

 

「……スミマセン。やっぱり仕留めきれなかったみたい、です」

「……え?」

 

 嫌な予感と共にバッと振り返る。そこには……

 

「……っ!まだ、生きて……!」

 

 それは見るも無残な姿だった。左半身は綺麗に両断され赤黒い表面を見せている。霊核にも達していたのだろう。その身は体の端から徐々に光の粒子へと姿を変えていっている。

 それでもなお、目の前の敵は立っていた。片手には――二度目の黒き極光。

 

「くっ……!」

 

 ――きっと、聖剣が衝突した際に僅かに明日望さん達の斬撃が逸らされたんだ。だから致命的な一撃を与えられこそされてもまだ敵は立っている。

 そこまで理解して直ぐに思考を切り替える。

 

(どうする……!えっちゃんさんが見ているけれどカードの本来の力を使うか……?まだ立っているとはいえ片手ならばさっきのよりは出力が落ちるはず……それなら『キャスター』のカードを夢幻召喚(インストール)すれば……いや)

 

 無謀な考えを打ち消す。さっきの戦闘でも最後に判断ミスを犯している。今、まともに動けるのは私とイリヤスフィールだけだ。無茶はできない。

 それにあれだけの致命傷だ。敵は放っておいたら勝手に消滅するだろう。ならばあの聖剣に立ち向かう必要は無い。

 

「イリヤスフィール、ルヴィアさん達を抱えて撤退を……!?」

 

 そう考え、イリヤスフィールに呼びかけようとしたその瞬間、魔力の嵐が吹き荒れた。その中心ではイリヤスフィールが膨大な魔力を噴射しながらカードを起点にして地面に魔法陣を描いていた。

 

「嘘……どうして……?」

 

 そのカードの使い方は間違いなくカードの本来の使い方。――夢幻召喚だった。

 彼女は魔術師ではなかったはず……いや、それ以前にこんなのひとりの人間が許容できる魔力量じゃない……!まさか、膨大な魔力だけで強引に夢幻召喚しようとしている……?

 

 そんなわたしの疑問をよそにイリヤスフィールはその身を英霊と化した。赤い外套をはためかせ、胸部を黒いプロテクターで覆った姿へと変化したのだ。

 

「――倒さなきゃ……」

 

 そう呟いてイリヤスフィールの手に現れたのは敵の持つ聖剣とまったく同じ聖剣。ただしその聖剣は黒く染まってはおらず、本来の神々しさを保っていた。

 イリヤスフィールはその聖剣を大きく振りかぶり――膨大な魔力と共に束ねられた光を放出した。

 

「「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」」

 

 二度目の聖剣同士の衝突。それは先程とまったく同じく拮抗する事さえ無く、白き光は黒き極光を消し去り、今度こそ敵を呑み込んだ。

 

『……美遊様、これは、いったい……』

「……わからない。けれど……」

 

 そうして――すべてが終わった。

 イリヤスフィールにこの時の記憶はなく、それを目撃したのはわたしとサファイアとえっちゃんさんだけ。

 この場で何が起こったのか……正しく理解している者はきっと誰もいない。

 けど……とにかくわたしたちは生き延びた。

 

 ――長い夜は終わった。今は……それだけでいい。……のだけれど、疑問が1つだけ残る。

 

 イリヤスフィールが持っていたのは『アーチャー』のカードだったはずだ。しかし、彼女が夢幻召喚した後に使用したのは『エクスカリバー』だった。……という事はあのカードもアーサー王のカードという事になる。

 さらに言えば『エクスカリバー』を使っていた明日望さんが利用したのもアーサー王の力だろうし、冷静になって思い返すとえっちゃんさんも何処か今回の敵と似ていた……というより瓜二つだったようにも思える。まさか、彼女もアーサー王の関係者なのだろうか……?とにかく……

 

「……えっちゃんさん。アーサー王多すぎじゃないですか……?」

「……よくわからないです、けど。マスターさんが言うには『セイバーばっかり増やす社長が悪い』って言ってた、です」

 

 ……アーサー王って増えるんだ……。

 

 




セイバー:アルトリア・ペンドラゴン(王)
アーチャー:アルトリア・ペンドラゴン(水着)
ランサー:アルトリア・ペンドラゴン(乳王)
ライダー:アルトリア・ペンドラゴン(サンタ)
アサシン:謎のヒロインX(セイバー)
バーサーカー:謎のヒロインX[オルタ](えっちゃんかわいい)
キャスター:プロトマーリン(仮)

……最強のアルトリア決戦!(半ギレ)

そのうち、アーサー王だけの聖杯戦争とか公式でやりそうですよね。主にコハエースで。

それでは今回は長かったけどこの辺で〜。

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