「
「二度目の負けは許しませんわよ!」
「やっちゃえ!イリヤちゃん!美遊ちゃん!」
「「了解!」」
「ふれー、ふれー」
境面界へ飛ぶと同時にイリヤちゃんと美遊ちゃんは駆け出す。
さあ、
上空に無数に浮かぶ魔法陣から攻撃が放たれる前に、イリヤちゃんは翼が生えたかのように自然に、美遊ちゃんは透明な足場を踏み台にするようにして黒化キャスターが待ち受ける空へと飛んだ。
「中くらいの……散弾!!」
無事、魔法陣を潜り抜けた後は、事前の打ち合わせ通りに小回りが効くイリヤちゃんが陽動目的で黒化キャスターに向けて弾幕を張る。
そして、それに気を取られている黒化キャスターを
「……あっ」
そう思ったのも束の間、ランサーのカードを限定展開しようとした美遊ちゃんの目の前から黒化キャスターの姿が消えた。いや、消えたのではない。美遊ちゃんの真上へと転移した黒化キャスターはその勢いのまま美遊ちゃんへと自らの杖を叩き付けた。
……やっべ、転移魔術のこと完全に忘れてた……
「くそっ、やらかした!」
「逃げなさい美遊!そんな集中砲火を受ければ障壁ごと……!」
「あっバカ!」
地面に叩きつけられた美遊ちゃんに魔法陣の照準が合わさる。俺とルヴィアさんは同時に美遊ちゃんを助けようとするが到底、間に合いそうもない。
『緊急回避』は温存しておきたかったけど使うしかない。そう考え、発動しようとしたその時。
「うひゃー……ギリギリだったね」
上空から舞い戻ってきたイリヤちゃんが間一髪といった所で美遊ちゃんを救出した。気の抜けたふにゃっとした表情でそんな事を言いながら、イリヤちゃんは美遊ちゃんを抱えたまま再び空へと飛んでいく。
「し、心臓に悪いですわ……」
「まったくだよ。でもよかった。ちゃんと相棒やれてるじゃんか」
「いいから、さっさとこっちに戻ってきなさいバカ共!」
凛ちゃんにも怒られてしまったので大人しく橋の下へと戻る。
原作通り、イリヤちゃんの助けが間に合ったからよかったけど、もうこんなミスやらかさないようにしないとな……
そう俺が反省している内にも戦況は変わっていく。イリヤちゃんが黒化キャスターの魔術反射平面を利用して極大の弾幕を張る事で転移後の逃げ場を無くし、動きが止まった瞬間を見逃さず美遊ちゃんが最大弾速で撃ち抜いた。
「
「
「「
墜落した黒化キャスターに待っていたのは凛ちゃんとルヴィアさんの宝石魔術だ。爆風が黒化キャスターの姿を覆い隠す。上空に浮かぶ魔法陣もそれに呼応するかのように消えていった。
それを見て皆終わったと思い、気を抜いているが俺は知っている。黒化キャスターがまだ倒されていない事。そして……
「マスターさん。感じます、セイバーの気配」
「うん。それじゃあさっきのミスを取り戻すためにも頑張りますか!」
……この鏡面界に
原作では黒化キャスター戦の後は黒化セイバー戦が続く。何かを感じ取ったのかどら焼きをパクついていたえっちゃんが手を止め、そう言った事からも間違いないみたいだ。
少しでも皆の負担を減らすためにも頑張らないとな。
「……空間ごと焼き払う気よ!!」
と、その前に。皆が上空に逃げていた黒化キャスターの存在に気が付いたらしい。声につられて見上げると黒化キャスターの前方に膨大な神秘を内包した魔法陣が描かれていた。
それを見て美遊ちゃんは魔術を止めるために咄嗟に飛び出したが、それは判断ミスだ。どう足掻いても発動には間に合わない。……一人なら。
「乗って!!」
イリヤちゃんの放った巨大な魔力弾。それを足場にして美遊ちゃんは加速する。
一瞬の交差。結果として大魔術は発動する事無く、美遊ちゃんは黒化キャスターの胸を限定展開した
美遊ちゃんの手にキャスターのクラスカードがある。これで今度こそ黒化キャスターは倒した。
「美遊に向かって魔力砲を撃つなど……なんて無茶をしますのこの子はー!?」
「いだだだだだ!?だ、だってできると思ったんだもん!」
「子供相手に手を上げるな!」
完全に終わった事を確認して皆の空気が緩む。イリヤちゃんの突拍子もない行動に肝を冷やしたのかルヴィアさんがイリヤちゃんの頭をグリグリとしていたが、凛ちゃんに止めさせられた。
解放されたイリヤちゃんは凛ちゃんに言われて流石に疲労したのか座り込んだままの美遊ちゃんの所へ迎えに行った。
「しかし2枚目で早くもこんな苦戦するとはね……先が思いやられるわ」
「ああ、そして今から3枚目だ」
「……え?」
「何を……?」
「凛ちゃん、ルヴィアさん。俺達が負けたら後は頼む!行くぞ、えっちゃん!」
「了解、です。マスターさん」
もう五度目だ。上手く説明は出来ないけれど今から何かが現れるという直観を信じ、追求の声を無視してえっちゃんと共にその方向へと駆け出す。
狙い通りドンピシャで目の前に次元の歪みが現れる。
「硬化、強化、相乗!」
「刹那無影剣、食らえー」
出現時の隙に今出せる全力を叩き込む。魔力の霧すらも貫く強力な一撃で少しでもダメージを稼ぐ!
歪みから、顔が現れた。
「あ、れ……?」
黒化セイバー。
戸惑う間も無く、次々と目に映るモノが切り替わる。
――例えば、それは王に心無き言葉を投げかけ、その下を去った妖弦の騎士。
――例えば、それは王妃との不貞によって円卓が割れるきっかけとなった湖の騎士。
――例えば、それは忠義に私情を挟んだ太陽の騎士。
――例えば、それは己の存在を王に認めさせる為に全てを台無しにした反逆の騎士。
――例えば、それは……
「が、あっ……」
無限にも思える刹那の内に、数々の悲劇が脳裏に浮かぶ。……いや、これは見ているんじゃない。思い出しているんだ。まるで俺とは関係の無い光景が脳裏でフラッシュバックしている。そんなあり得ない状況に自分が陥っている事を直観で察したが、どうする事も出来ない。
脳の処理速度がまるで追いついていない。頭が痛い。振り上げた拳からはとうに力は抜けていた。なんとか絶叫だけは抑えようとした俺の目に最期の光景が映る。
――それは、血塗られた丘だった。数多の躯の上で血の涙を流し、それでもなお祖国の救済を願う
「が、ああああああああっ!!!!!」
――――――――意識が/反転/する。
◇
「ミユさん!あれ?どうしたの?なんか、空気が……」
「なんでもない……いこう」
……うーん。やっぱりまだなんか態度が固いなー。今日はけっこう頑張ったけどまだ認めてもらえないかー。
でも、今日はちゃんと協力できたし、この調子でいけばカードを全部集めるころにはすっごく仲良くなってるかも、なんて……
「……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、なんだか今日は崩れるの遅いなーって」
「……っ!まさか!?」
ミユさんは何かに気付いたみたいだけど……とわたしがう~んと頭を悩ませていた、まさにその時だった。
――『獣』のような慟哭が世界に響き渡ったのは。
「うえっ!?な、なに今の声!あ、明日望さん!?」
その声には聞き覚えがあった。お兄ちゃんの友人で、わたしと同じでこの騒動に巻き込まれた魔術師の人。
だけど、その声はいつもの穏やかな感じじゃなくて、なんだかこう、もっと怖い感じの声だった。
恐る恐る、声の方を向く。そこには……
「……え?あれ、誰……?」
目が隠れている剣を持った女の人がこちらに背をむけて立っていた。どことなくえっちゃんさんに似ているような感じもするけど何かが決定的に違う気がする。
だけど、それよりも見るべきなのは明日望さんだ。
ここに来た時にはジーンズとシャツの今どきの若者って感じの服装だったのに、今はその上から黒いボロボロのフード付きのローブを羽織っている。
足元には、えーと……そうだ。『ヒガンバナ』ってやつだ。その真っ赤な花が咲いては直ぐにポロポロと散っていっている。
「……真っ赤だ。わたしみたい」
そしてフードの中から覗いている眼。ちょっとだけ茶色がかった黒色だったその眼はわたしやリズやセラ、お母さんみたいな赤い眼に変わっていた。
……もしかして、これが今日、ルビーが言っていた「変身」ってやつ?……でも、なんだか怖いよ。あそこにいる明日望さんはいままでのと全然違う。
もしかしたら、力が強すぎて暴走してるのかもしれない。アニメとかだとよくある展開だしね!よーし、そうと決まればミユさんと協力して助けないと!
そう考え、ミユさんに声をかけようとしたその時、叫んだあとからずっと黙っていた明日望さんが大きく口を開いてこう言った。
「……うっせえ!引っ込んでろ!!」
……あ、いつもの明日望さんに戻った。
闇堕ち回避