GW中の投稿、ギリギリセーーーフ!!
しかし、デイダラの誕生日に投稿しようとしていたのに、間に合わなかったぜ。
という訳で、続きになります。お待たせ致しました。
暇つぶしになって頂ければ幸いです。
夜空に浮かぶ双月がひとつに重なっている。スヴェルの月夜だ。
本来なら、今晩も宿に泊まり、明日の早朝にアルビオンへ向けて出発する筈だったのに…。
船縁に寄りかかり、物憂げな表情で夜空を眺めながら、ルイズはぼんやりと考え事をする。
宿に残り、傭兵達を足止めしていたキュルケ達は大丈夫だろうか?デイダラが影分身という魔法で加勢してくれているとは言え、やはり心配だ。
(……あっ、魔法じゃなくて忍術、だったっけ)
ぼんやりとした頭の中で、ルイズは間違いを訂正した。と言っても、ルイズの中では、それは呼び方の違いというだけで結局は同じなんじゃないかと、最近思うようになっていた。
そう考えるだけで、使い魔は魔法(のような力)が使えるのに自分は…と、再び後ろ向きに思考が巡ってしまう。
ルイズがそう考えてしまうのは、先ほどの桟橋での襲撃で、デイダラが負傷してしまったためである。
(わたしを庇ったせい…だよね…)
ルイズは、自分の隣で船縁に背を預けて眠っているデイダラに目を向ける。
また、自分は誤った選択をしてしまったのだろう。あの時は、デイダラが危ないと聞かされた瞬間、身体が勝手に動いてしまっていたのだ。それが却って、デイダラの足を引っ張ることになってしまった。
「はぁ〜。少しは、わたしも力になれるって思ったのになぁ…」
ぽつりと、声がもれてしまっていた。
デイダラが爆発を好んで使用している為、そんな姿を側で見てきたルイズには、ある変化が表れていた。
自分の失敗魔法による爆発が、気にならなくなってきたのだ。普通の系統魔法を使うことに憧れは残ってはいるが、それでも、昔に比べて劣等感は薄らいでいた。
自分にそんな変化を与えてくれたデイダラの為に…と、少し躍起になってしまっていたのだろうか?
そんな風に、ぼんやりとしていたルイズの背に声がかかる。船長と話し込んでいたワルドが、グリフォンを伴ってやって来たのだ。
ちなみに、グリフォンはワルドが口笛を吹いて呼び寄せていた。
「ルイズ、まだ眠っていなかったのかい?」
「ワルド…」
「明日からは遂にアルビオン入りだ。早めに休んで、体力を養った方がいい」
ルイズの身体を気遣ってのことだったが、デイダラに頼まれた護衛がある。彼が安心して休めるように、周囲に気を配っていなくては…。
「ふむ…。いい心がけだけど、さっきから心ここに在らずだったよね?」
「うぐッ…」
見られていたらしい。
「それじゃあ意味はない。それに、きみは夜警に慣れている訳でもないだろう?ここは、僕と船の乗組員に任せて、ゆっくり休んでいてくれ。明日、起きた頃にはアルビオンも見えてくるだろう」
そうワルドに説得され、渋々にルイズはそのまま船縁に背を預けて座る。船室に行かなかったのは、せめてデイダラの側には居ようと思ってだ。
それに、確かに自分は疲れている。この旅で、使い魔の新たな一面を目の当たりにして、主人として、精神面でも疲労があったのだ。
目を瞑り、すぐにルイズは微睡みの中へと落ちていく。眠りの中でルイズが思い浮かべるのは、普段の、怒りっぽいがどこか面倒見のいいデイダラの姿。それと、土くれのフーケを爆殺したという凄惨な場面。その二つであった…。
(デイダラ……あなたは、一体…)
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「おいコラァ!ルイズゥ!」
「ぶべッ…!?」
翌朝、ルイズの目覚めはとても爽やかなもの……ではなかった。
寝ながら、どうやらルイズは気づかぬ間にデイダラの左肩に頭をもたれかけていたらしい。朝起きたデイダラに、頭を反対方向へ押しのけられ、ルイズは顔面を強打させてしまっていた。
補足として、幸いにもルイズの左隣には、ワルドのグリフォンが丸まって眠っていたため、クッション代わりにはなっていたが…。
呑気に寝ていたという事も合わさって、ルイズは、早々にデイダラの怒声という名の爆発で一喝されてしまったのである。
「ったく、呑気なヤローだぜ…うん」
「うぅ…このぉ…」
顔をさすりながら、ルイズはデイダラに恨み節のひとつでも言ってやろうかと顔を向ける。しかしーーー。
白仮面の男の『ライトニング・クラウド』を受けた左手を、拳を握ったり開いたりして、傷の具合を確認していたデイダラを見て、ルイズは「あっ」と小さな声をこぼす。
「おいルイズ。のんびり構えやがって…。お前、お姫様の手紙は失くしてないだろうな?…うん?」
「えっ?…あぁ。う、うん」
苦言をこぼすデイダラに、ルイズは恨み節を忘れ小さく返事をする。
傷が治った訳ではないだろうが、痛みはもう大丈夫なのだろうか?
デイダラのそんな姿を見て、ルイズがそう尋ねようとした時に、船の鐘楼の上に立った見張りの船員が、大声を上げる。
「アルビオンが見えたぞー!!」
見張りの船員のその一言で、デイダラの興味はあっさりと浮遊大陸アルビオンへと向いていった。
「おっ、待ってたぜ。それじゃあルイズ。オイラは空飛ぶ大陸とやらを拝んでくるぜ…うん」
「…あっ。ちょっと、こらぁ!ご主人様を置いていくんじゃないわよ!」
どうやら、ちょっとはアルビオンへ渡るのを楽しみにしていたらしい。
勝手気ままな使い魔の後ろ姿を、ルイズは急いで追いかけた。
船首まで出向けば、浮遊大陸アルビオンもより一層と一望できた。
雲の切れ間から、黒々と巨大な大陸が覗いて見えて、大陸ははるか視界の続く限り延びている。地表には山がそびえ、川が流れていた。
「ほおー、こいつはスゲーな…!」
「ふふん。驚いているようね」
思わず感嘆の声をこぼすデイダラに、ルイズが得意気に言った。
「空に浮かぶ大陸なんてのは、初めて見たからな…うん」
なおも立ち尽くして、世にも珍しい空飛ぶ大陸を見上げるデイダラ。
アルビオン大陸の下半分は雲に覆われていた。大河から溢れた水が、空に落ち込み白い霧となり、それが雲になるのであろう。
デイダラは、アルビオンが『白の国』と呼ばれる所以を目の当たりにした。
「浮遊大陸アルビオン。ああやって空中を浮遊して、主に大洋の上をさまよっているのよ。それで、月に何度かハルケギニアの上にやって来て、雨を降らせていくの。大きさはトリステインの国土ほどもあるのよ」
「ヘェ〜」
アルビオンを眺めていたデイダラは、解説をしてしたルイズに生返事を返す。そんな時ーーー。
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
鐘楼に上がった見張りの船員が大声を上げた。
「おいルイズ。ありゃなんの船だ?」
「わからないわ…。でも…、いやだわ。反乱勢……、貴族派の軍艦かしら」
見張りの船員が言った方向を見れば、確かに一隻の船が近づいて来ていた。デイダラ達の乗り込んだ船よりも、一回り大きい。
黒くタールが塗られた船体は、まさに戦う船を思わせた。舷側から突き出ている大砲だけでも、二十数門は並んでいる。そのどれもが、こちらにぴたりと向けられていた。
程なくして、デイダラ達を含むマリー・ガラント号の乗組員は、先の黒船が空賊船だと窺い知ることになった。
当初、アルビオンの貴族派だと思い込んでいた船長達は、相手が空賊だと知るや否や、大慌てで取り舵いっぱい船を遠ざけようとしたが、すでに手遅れであった。
黒船はすでに併走し始めており、脅しの一発をマリー・ガラント号の針路目掛けて放ってきた。
続いて、黒船のマストに四色の旗流信号がするすると登る。停船命令であった。
それを受け、船長は苦渋の末に停船命令を下していった。併走していた黒船から、武装した屈強な男達が次々と乗り込んで来たのは、そのすぐ後である。
ドスンと音を立て、甲板に空賊達が降り立った。その中で、派手な格好の、左目に眼帯をした男がいた。どうやら、その男が空賊の頭のようだ。
男は、荒っぽい仕草と言葉遣いで、辺りを見回しながら問いかける。
「この船の船長はどいつでぃ?」
元は白かったらしいが、汗とグリース油で汚れて真っ黒になったシャツの胸をはだけるように着て、そこから赤銅色に日焼けした逞しい胸が覗かせている。ボサボサの長い黒髪は、赤い布で乱暴に纏められ、無精ヒゲが顔中に生えている、といった様相だ。
男は、マリー・ガラント号の船長に、積荷の硫黄を船ごと全部買ったと宣っていた。
ルイズは、空賊の頭のあんまりな不衛生さに、思わず顔を背ける。
「大丈夫さ、ルイズ。きみには僕がついてる」
「!…ワルドッ」
気が付けば、ルイズのすぐ側にワルドがやって来ていた。
「面倒なことになってしまったね。さて、この状況をどう切り抜けるか…」
武装した空賊達の中には、メイジもいるらしく、ワルドのグリフォンを魔法で眠らせていた。おまけに黒船の砲口は全てマリー・ガラント号に狙いを定めている。八方塞がりな状況であった。
ワルドは、チラリと視線をデイダラへと向ける。デイダラは、余裕そうな表情で粘土を捏ねていた。
「なにか良い策はないかい…使い魔くん?」
「その使い魔呼びはやめろ、旦那。あの黒船と一緒に雲の中までぶっ飛ばすぜ?…うん」
「ちょ、ちょっと!こんな時に物騒なこと言わないで…!」
だが、この際、物騒な物言いへの叱責は後だ。ルイズは、こんな場面で何かと頼りになる自身の使い魔に案を求めた。
「なにか打開策があるなら言いなさい。出し惜しみはなしよ!」
「簡単なことじゃねーか…!こんなモン、トラブルのうちにも入らねーぜ!うん!」
デイダラは、妙に自信満々であった。ルイズは、段々と彼の打開策に見当がつき始めてきて冷や汗が出てきた。
「……で、その案は?」
「オイラの芸術であの黒船を沈める…!乗り込んできた奴らも全員ぶっ飛ばせば良い…うん」
ジャラリと、手のひらの上に乗せてある起爆粘土製の小型の鳥達を見せびらかし、得意気に宣った。単純明快な案であった。
ルイズはこめかみを手で押さえる。
デイダラの頭は、切れる時はとことん切れるが、彼のものの考え方は、基本的には短絡的かつ直線的だ。
今の状況は、彼にとっては深く考えるまでもない事態なのであろう…。
「ダメよ。それじゃあ爆発に巻き込まれてこの船まで大破するかもしれないし、乗組員のみんなにまで被害が及ぶわ」
「……そんなこと気にしてる場合か?やってみなきゃ分からねーじゃねーか…うん?」
「いいから!…ここは、わたしが何とかしてみせるから…!」
ルイズはデイダラを制し、頭をフル回転させる。だが、不安と焦りがまさってしまい、この状況を切り抜く打開策は、全くといい程思い浮かんではこなかった…。
そうこうしている間に、空賊の頭の興味はルイズとワルドに向けられた。戦時中ともあって、アルビオンへ向かう貴族が珍しいのである。
「ほぉ、貴族の客まで乗せてんのか…。それに、こいつは別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いでもやらねぇか…?」
男がルイズに近づき、顎を手で持ち上げる。空賊達はそろって下卑た笑い声をあげていた。
「下がりなさい。下郎」
「驚いた!下郎ときたもんだ!」
ルイズは、男の手をぴしゃりとはねつけ、燃えるような怒りを込めて言い放った。
空賊の頭はルイズを大声で笑った後、彼女の指に光る、水のルビーに目を留める。そして、ワルドとデイダラを一瞥してから、手下の空賊達に命令する。
「てめぇら、こいつらも船に運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」
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空賊に捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じ込められた。ルイズ、ワルドと一緒に居たデイダラも、貴族の一派と判断されて共に船倉に連れられていた。
マリー・ガラント号の乗組員達は、自分達のものだった船の曳航を手伝わされるようだ。
「……で、どうすんだルイズ。お前の意見を聞こうか?…うん?」
「うぐッ……」
「まぁ、そう急かすこともないだろう。ここは、しばらく様子を見るとしようじゃないか」
ルイズとワルドは、共に杖を取り上げられてしまっていた。杖のないメイジは、ただの人である。扉に鍵をかけられただけで、手も足も出なくなってしまった。
「あんただって、剣もバッグも取り上げられてんのに、なんでそんなに落ち着いてんのよ…」
「ま、オイラのことは気にすんな。今回は、お前の妙案に期待することにしたからよ…うん」
「うっ…」
嫌味のつもりだろうか。とにかく、デイダラにそう言われ、またしてもルイズは口ごもってしまう。
現状、様子見に撤することにして、ルイズはデイダラに今朝聞けなかった左手の怪我の具合を聞いてみることにした。話を逸らす為でもあるが、純粋に心配にはなっていたので、いい機会と思うことにした。
なにせ、この使い魔ときたら、昨夜見た時は酷い火傷痕を残していたというのに、今朝起きてから今まで、痛がる素振りすら見せないのだ。そんな、一晩で治る怪我ではない筈なのに…。
「あんた、怪我の方はもういいの…?酷い火傷だったけど…」
「ああ、もう問題ないな。シビれはとれたしな…うん」
「シビれって…それどころじゃなかったでしょう!ちょっと、診せてみなさい!」
確信に近いものがルイズにはあったが、おそらく怪我はそのままだろう。ルイズは、具合を確認して、早めの処置が出来るように空賊達に申し出てみるつもりであった。
「どうでもいいだろーが…うん。それよりも、確認なんだがルイズ。この世界には“雷遁”……いや、“雷属性”の系統魔法はなかったと思うんだが、どうなんだ?」
「なによ、藪から棒に…。確かに、四大系統の中に雷系統なんてものは無いわよ。でも、“雷属性”の魔法ならあるわ」
雷の力を帯びた魔法は、風系統の魔法に含まれている。それ故に、風系統は、極めれば攻撃面でも火系統に劣らぬ為、四大系統の中でも最強との呼び声が高いのである。
「……はぁーあ、やっぱりそうかよ。チッ…」
「???」
ルイズから説明を受けたデイダラは、何故か面白くなさそうに悪態をついてしまい、ルイズは首を傾げた。怪我の具合は診そびれてしまった。
しばらくして、空賊が食事を持ってきた。 粗末なスープと水の入ったコップが一つずつ。
最初は、空賊の出した食事に文句を言っていたルイズだったが、体力の維持のために渋々スープを飲んだ。
「キュルケ達は無事でいるのかしら…」
「さて、ね。今は自分達のことを考えるべきだよ、ルイズ」
手持ち無沙汰だったためか、ルイズは、心配事が口をついて出てしまっていた。
「あいつらなら無事だぜ。ちゃんと夜の内に傭兵連中は全員追っ払えたからな…うん」
「え?あんた分かるの…!?」
「当たり前だろうが。影分身の術は、術を解けば分身が得た情報は術者に還元される。……説明してなかったか?」
「初耳よ!なによ、それならもっと早くにあんたに確認したのに…!」
説明のない男だ…。ルイズはジト目でデイダラを睨む。
とにかく、キュルケ達は全員無事とのことだ。ルイズは、ほっと胸を撫で下ろす。
級友達の無事が分かった以上、ルイズは決意を新たにする。自分は、こんなところでのんびり捕まっている場合ではないのだ。
ちょうどその時、再び船倉の扉が開かれた。入ってきた痩せぎすの男は、ジロリと三人を見回すと、楽しそうに言った。
「おめーらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?…いや、そうだとしたら悪かったと思ってな。俺達は貴族派の皆さんのおかげで商売させてもらってんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びてるのさ」
では、やはりこの船は反乱軍の軍艦ということなのだろうか。
ルイズがそう問いかけると、男はそれを否定した。貴族派とは、あくまで対等な関係で協力し合っていると言うのだ。
「それで、どうなんだ?貴族派なのか?そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」
男が再度、ルイズ達に問いかける。
言ってしまえば、これはチャンスである。ここで貴族派だと言えば丸く収まり、さらには港まで送ってもらえることになる…。
だが、今さっき、ルイズはある覚悟を決めていたのだ。なにより、例えこの場を切り抜ける為の方便だとしても、つきたくない嘘は言えなかった。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか。わたしは王党派への使いよ。トリステインを代表して、アルビオン王国の現政府へ向かう貴族なのだから、大使としての扱いをあんた達に要求するわ」
ルイズは首を縦に振らずに、真っ向から言い切った。
あまりにも堂々とした物言いに、さしもの空賊も一瞬きょとんとした顔を見せる。そして…
「ぶッ!あっはっはっはっは…!」
「クッ…!ハッハッハッハ!」
「ッ!…ち、ちょっと!?」
空賊の男は、バカ正直過ぎるルイズの答えを聞いて、思いっきり笑い出した。これはまだ予想通りの反応であったが、もう一人、空賊と一緒に笑い出した男がいた。
「ハッハッハ…!ルイズ〜。お前、結構短絡的で直線的なバカだな!…うん!」
「あ、あんたにだけは言われたくないわよ…!」
デイダラである。彼は、ひとしきり笑い終えると、「さて」と呟いて樽の上から腰を上げる。
「つまりこういうことか、ルイズ。ハラは決まった。“強行突破する”ってよ…!」
「!!」
「…な、なに!?ぐぁッ…!」
デイダラのその一言で、男はすぐに自分が油断していたことに気づく。
だが、時すでに遅し。気付いた時には、背後に回り込んでいたデイダラの手によって、男の意識は刈り取られていた。
「さぁて、これからどうする?とりあえずオイラの粘土と、お前らの杖を取り戻しに行くか?」
「あ、あんたってば、またいきなりに〜…!」
「いいじゃないかルイズ。もう過ぎてしまったことだ。それより、僕は彼の意見に賛成する」
ムスッとした表情で、ルイズはデイダラの案に同意する。本当は、自分が一番槍を上げてやろうと思っていたのに…と、唇を尖らせる。デイダラがルイズの真意を汲み取ってくれたことは、嬉しかったが…。
そして、ふと、ルイズは痩せぎすの男が所持していた杖が目に入る。それを、ルイズはもちろん拾う。
「二人とも、ちょっとどいて…!」
「「ん…?」」
「“アンロック”…!」
船倉の扉をこじ開けようとしていたデイダラと、それを近間で見ていたワルドは、突然コモン・マジックを唱えたルイズに面食らう。
そして、爆発が起こる。
ルイズの唱えた“アンロック”によって、船倉に隣接していた小部屋ごと、その扉は吹き飛ばされてしまった。
「……これでよし!さ、行くわよ」
「アホかー、お前は!?こういう隠密行動する時にはもうちょっと爆発の威力を考えやがれ!うん!」
「…いや、そもそも爆発は控えるべきでは…?」
咄嗟に扉の側から飛び退いたデイダラは、ルイズへ大声でツッコミをする。そして同じく飛び退いていたワルドは、そんなデイダラにツッコミを入れる。
気を取り直して、隣の小部屋に入る。そこに居た見張りの男は、ルイズの爆発によってすっかり伸びてしまっていた。
「…あらら。こりゃきっと、船中に響き渡ってるだろうぜ…うん」
「望むところじゃない。こうなったら、空賊の親玉のもとへ直談判に行きましょう…!」
「ルイズ、それは流石に勇まし過ぎやしないかい…? なんて言うか、やはり暫く会わない内に変わったね、きみも…」
ワルドは、精力的に動くルイズに、若干困惑している様子である。
ルイズとしては、そう思われても仕方ないかとも感じていた。この春召喚した使い魔の影響が大き過ぎるのだ。
また、キュルケ達の安否という不安が解消されたことで、本調子を取り戻せたとも言えるだろう。
「な、なんの騒ぎだこりゃあ!!」
「てめーら!一体何をしやがったァ!?」
程なくして、爆発を聞きつけた数人の空賊達が現れ、ルイズ達に詰問する。
だが、空賊達を認めた瞬間、デイダラとワルドは合わせて二人の空賊達に肉薄し、迅速に取り押さえていく。
「さぁ!あんたらの親玉のところへ案内なさい…!」
空賊達の頭上に杖を突き付け、ルイズは声高々に脅迫した。空賊達は、冷や汗を流しながら、その言葉に従った…。
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後甲板の上に設けられた部屋が、この空賊船の船長室であるらしい。
扉の前までやって来たルイズ達三人は、二人の人質を伴って、がちゃりと扉を開ける。一目で、立派な部屋だと感じた。部屋の中は、ルイズの寮部屋など及びもつかない程、絢爛豪華な装飾で彩られていた。そして、一番目を惹く豪華なディナーテーブルの、その上座に空賊の頭が腰掛けていた。周りにはガラの悪い空賊達が控えていた。
「…俺の部下がなかなか戻らねぇと思えば、やはりてめぇらの仕業か。さっきの爆発もそうだな。俺の部下をどうした?何しにここへ来やがった?」
空賊の頭は、大きな水晶のついた杖を持っていた。あんなナリなのに、どうやらメイジらしかった。
「…………」
やはり空賊の頭だけあって、なかなかの迫力だとルイズは感じた。正直恐い。
落ち着け、あの日のデイダラの方が恐い。落ち着け、あの日のデイダラの方が恐い…。
ルイズは、努めて平静を装った。
「わたし達はここに、交渉をしに来たのよ。安心しなさい、船倉に来た男なら気絶してるだけよ」
「……交渉だと?そんな人質を連れてか?」
「こうでもしないと、ここへは案内してもらえなかったからね」
痩せぎすの男が気絶しているだけと知ると、空賊の頭は、心なしか纏う空気を和らげた気がした。それでも、目の前に人質を突き出している以上、緊迫した様子には変わりない。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、要求を聞こうか…」
「わたし達は、トリステインを代表して来たアルビオン王国王党派への遣いよ!あんた達に、大使としての扱いを要求するわ!」
ルイズは、先ほど船倉で言ったセリフと同じことを空賊の頭へ向けて繰り返した。
「王党派と言ったな。そりゃあ、さっき船倉に行った俺の部下の話を聞いた上での答えか?」
「当たり前じゃない」
「何しに行くんだ?あいつらは、明日にでも消えちまうよ」
「あんたらに言うことじゃないわ」
「貴族派につく気はないかね?あいつらメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ…!」
ルイズは、段々と空賊の頭が、なんだか歌うような楽しげな声で尋ねるようになってきていることに気がついた。
そして、それとは対照的に、ルイズの隣で、一人の男がわなわなと焦ったさそうにしていることにも気がついた…。
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
「つかねぇって言ってんだろーが。しつこいぜ!…うん」
口を開こうとしていたルイズより先に、隣のデイダラが答えを出した。自分が拘束していた人質のケツを蹴っ飛ばして、である。
人質の一人は、ディナーテーブルの上にうつ伏せで突っ伏し、それを見た頭がジロリとデイダラを睨みつけてきた。
相手を射竦めるのに慣れた眼光だったが、デイダラは気にした風もなく、ルイズに話しかける。
「なぁルイズ、もういいだろう。どうせ交渉決裂だろうぜ。さっさと実力行使といこーぜ…うん」
まったく、空気を読まずに行動を起こす男だ…。自分の魔法に対して、そこまで信頼してくれるのは正直嬉しいのだが、ちょっとは場を弁えてほしい……と、ルイズは緊迫した状況をさらに加速させた自分の使い魔に対して、心の中で文句を言った。
この場で今、武装しているのはルイズだけだ。ワルドはまだ杖を持っておらず、デイダラも粘土を取り上げられたままだ。だから、この場を切り抜ける責任は、必然的にルイズにかかってくる。
ルイズは、自然と杖を握る手の力を強めた。
「なんだ、貴様は?」
「オレはこいつの使い……芸術家だ、うん。爆発をこよなく愛する、な!」
何故か不自然に言葉を止めたデイダラだった。
そして、それに対し空賊の頭は、一瞬ぽかんとした表情を見せると、わっはっは、と大声で笑い出していった。
「トリステイン人ってのは、気ばっかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らず共より、何百倍もマシだがね」
突然豹変した空賊の頭に戸惑い、ルイズ達は顔を見合わせた。
「失礼したな。……そうだな、まず名乗らせてもらおうか。貴族に名を尋ねるには、まずこちらから名乗らなくてはな」
頭が口調を変えて立ち上がると、周りに控えた空賊達が一斉に直立した。
頭は、縮れた黒髪をはいだ。なんとそれはカツラであった。眼帯を取り外し、作り物だったらしいヒゲをびりっと剥がした。現れたのは、凛々しい金髪の若者であった。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、と言っても、すでに本艦『イーグル号』しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きより、こちらの方が通りがいいだろう」
若者は居住まいを正し、威風堂々、名乗りを上げた。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべた。それはまるで、いたずらに成功した子供のような笑みだった。