東方妖精生活録 作:kokonoe
この小説は、俺が「こんな東方小説あったらなー」という妄想を書き殴りながら、誰かが描いてくれるのを待つためだけの小説です。至らぬ点も多いとは思いますが、なにとぞ…!なにとぞ…!
今、俺は妖精生一の危機に対面している…のかもしれない。
その日はいつも通りの日常だった。佳境に入ったとはいえまだ冬と春の境目、厚着をしないとまだまだ肌寒い今日この頃、俺はいつも通りに起きて山を散歩して山菜を取ってお昼ご飯を食べて本を呼んで…と当たり前の日常を送っていた。
始まりは、ノックの音だった。
俺はまたチルノと大妖精が遊びに来たのか、でもノックするなんて珍しいこともあるもんだなぁ、と何の疑いも無くドアを開けて、そして後悔する羽目になる。
「こんにちは、小さな家の小さな住人さん」
魔理沙と一緒の金色の髪の毛は、質感がまるで違う。魔理沙のはまさに少女のソレのような柔らかな感じだったが、こっちの髪は人形の髪の毛のような、美しくも儚い感じの質感だった。紫色の瞳に陶磁器のような真っ白な肌。背は高くプロのグラビアアイドルが裸足で逃げ出すほど完璧に整ったプロポーション。怪しげに歪める口元は扇子で上品に隠して、彼女はそういった。
「私は八雲紫。今日は少しお話があってここに来ました」
「もちろん、上げてくださいますわよね?」とにこやかにするゆかりんに対して俺はただうなずく事しかできなかったのだった。
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「ふふ、机も椅子も、全部小さいわ。絵本に出てくる妖精のお家が飛び出してきたみたい。全部あなたが作ったのかしら?」
「…!」
「あら、そうなの?妖精なのにすごいわ。お風呂やクーラー、キッチンまであるなんて!この紅茶もおいしいわ。ありがとう」
「…!」
美人の女の人に褒められると照れてしまう。褒めても何も出ないっていうのに…。
俺は目の前で上機嫌に笑うスキマ妖怪に対して、更にクッキーをお茶請けとして差し出した。
「…?」
「ん?ふふ、普段の業務から抜け出して散歩していたら、見慣れない家が見えたから少し尋ねてみたのよ。可愛らしい家ね。本当よ」
「…!」
「…ふふ、まあ嘘よ。前半だけはね」
俺はゆかりんの嘘を看破して突きつけてやった。それを見た紫は上機嫌そうに目を細めて、俺の頭を撫でた。よ、よせやい。
「…?」
「あら、そう急がないで。この後色々と仕事が残っているの。少しくらいは休みたいのよ」
「…?」
「大丈夫よ。私の式神はできた子よ。少しくらいさぼっても問題は無いわ」
「…」
「な、なによその目は。べ、別にいいんですっ。私はご主人様だもの!」
駄目な大人が目の前にいた。これがゆかりんか。俺は八雲紫の人となりを少し知ることが出来て少しだけ満足した。
「それにしても、こんなかわいらしいお家で紅茶を飲んでると、なんだか子供に戻ったみたいな気分になるわ」
「…?」
「ふふ、そうかしら。お世辞が上手なのねっ、ふふふ!」
ゆかりんの上機嫌は有頂天に昇ったようで、俺を抱っこしてほおずりし始めた。ちょっとくすぐったいけど妙に安心するこの懐かしい感じ…そう、これはまるで、田舎のおばあちゃんの家に久しぶりに泊まりに行って、おばあちゃんに構ってもらえるような感じの安心感…!
「…あら、何か勝手に腕が動いて…」
「…!…!?」
「ご、ごめんなさい、わざとじゃないのよ」
首を絞められた。あかん、この人本当にあかん人や。
そうしてしばらくゆったりした時間をゆかりんと共に過ごした。そういえば最近、こうして膝に乗せられることが多いんだよな。アリスさんはもちろんの事、最近は魔理沙も良く俺の家に来ては俺を猫の様に膝に乗せたがるし…あれ、俺ってそんなに子供っぽい?いや、アリスさんは違うって知ってるけど…。
「ふう…じゃあそろそろお話をさせてもらおうかしら」
「…?」
俺はゆかりんの顔を見上げて首を傾げた。紫は俺を撫でながら、だけど表情から笑みを消して一つ尋ねた。
「あなたは、何者なのかしら」
「ーーー!」
水をかけられたかのような表情で、俺は思わず目を見開いてゆかりんを見た。
「あら、少し考えればわかる事よ。妖精とは自然の子よ。常に自然と共に寄り添い、清純で無垢な魂を持つ自然の具現。彼女たちが常に成長せずに子供の姿のままなのは、そう在る事が存在意義である故…だけど、貴女は一体何なのかしら?」
「…」
「あなたは妖精でありながら、森の木々を少しとはいえ切り崩して家を建てた。まるで自然を破壊して、文明をはぐくんできた人間の様に」
「…」
「ねえ、貴女って実は…」
抱きしめる腕が優しいままに、だけど鎖の様に固く締められて、まるで泣いてる子供をあやす母親のような優しい表情で顔を寄せて耳元で囁いた。
「元人間だったり」
「…!」
俺はあまりの事態に身を固まらせた。八雲紫は幻想郷の賢者。幻想郷を作り出し、そして何よりも愛して見守り続ける神にも届く力を持った大妖怪だ。
も、もしかして俺を消しに来たりとかか!?そ、そんな…折角アリスさんや魔理沙、チルノや大妖精と仲良くなったっていうのに、もう終わりっていうのか…?そんなの、そんなのいやだ…。
「…っ、何よその顔は…って、なんで泣いてるのかしら!?」
「…?」
「ちょっと、早とちりしないで。私がそんなに怖い妖怪に見えますか」
「…」
「…どうしてそこで顔をそむけるのかしら?」
「はぁー」と紫はため息をついて、俺の頭を撫でた。
「ちょっと確認しに来ただけよ。別にあなたの生活を脅かそうとは思ってはいないわ…」
「…!」
「まあ、今のところは、ですけれど」
「…!?」
「よ、よっぽどな事しなければ大丈夫よ!この幻想郷のバランスを大きく崩したり、消滅する危険のあるような事をしたりしないのであれば、私からは何も手出しはしないわ」
「…!」
何だ、じゃあ安心だ。俺は安堵に胸をなでおろして紫に頭を下げた。
「別にいいですわ。まあ小さな子供ですもの、仕方のない事よ」
いや、中身は大の大人です…ごめんなさいはい…。
「はあ…なんだか毒気が抜かれちゃった。っていうか眠たくなってきた…」
大きくあくびするゆかりん。そろそろお帰りの時間かな、と思って膝から降りようとしたら、がしっと掴まれて引き戻された。
「…?」
「ねえ、ベッドはどこ?上?じゃあちょっと本格的にさぼることにしたから、しばらく借りるわね」
「…!?」
「私抱き枕ないと安心して眠れないのよ~」
「…~!?」
この後たくさん添い寝した。
ついでに夕ご飯も食べて帰っていった。
嵐のような人とはまさにああいうのを言うのだろう。俺は一つ納得しながら、ゆかりんが食べた後の食器を片付けるのだった。