東方妖精生活録   作:kokonoe

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遅れてすいません。




2話目

冬が訪れた。

 

森が真っ白な雪で厚化粧したように雪景色に滲んで、どんよりとした、しかしどこか柔らかな曇り空から今もなお雪がゆらゆらと降り続いている。空気が凍ってしまうんじゃないかというほど寒い風は、今は止んで穏やかな天気となっていた。

 

こんな日は家に篭って新作のコタツに入ってゆったりするのが俺の常なのだが、今日だけは外に出て…もとい連れ出されていた。

 

そして、雪を見てはしゃいでテンションマックスになって俺を天国から引きずり出した、俺の知り合いで妖精の女の子なんて1人しかいない。

 

「雪だああああああ!」

 

氷の翼を震わせて寒空を飛んで喜ぶ少女、チルノの後ろ姿を見ながら、俺は真っ白な息を吐き出した。

 

「ひゃっほー!ねえねえ、雪合戦やろう雪合戦!あたいがりーだー、大ちゃんがさんぼー、くーちゃんがひろいんね!」

「参謀って…」

 

はしゃぐチルノの後ろについて行っていたら、後ろから大ちゃんが微妙な顔しながら追いついて来た。

 

俺はヒロインか。ヒロイン。ヒロイン…?え、なにそれ役職なの?なんか俺だけ趣違くない?

 

「…」

「ごめんね、くーちゃん。チルノちゃんたら冬はいつもあんな感じだから」

「…!」

「気にしてない?それよりも寒くないか…って?えへへ、ありがとう。でも私平気だよ。くーちゃんのマフラーすっごくあったかいんだもん」

「…」

「えへへ…あ、ありがとね。私の為にこんなかわいいマフラーを…え?チルノちゃんの分も作った?うう…そ、そうだね…」

「こらーそこー!2人だけでこそこそしないのー!」

「…!」

 

大ちゃんとばかり喋っていたのが気になったのか、チルノが拗ねた。全く、まだまだ子供なんだから。俺は大ちゃんに目配せしてチルノの方へと向かっていった。

 

仕方ないなぁ、どれ。俺がチルノに冬の遊び方についてレクチャーしてやるかな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それから数時間。初めはチルノと大ちゃんと3人で遊んでいたが、いつの間にやらチルノと同じく冬の精達がわらわら遊びに入って来て、気が付いたら大人数での雪合戦へと昇華していた。

 

みんなが楽しそうに笑ってる。本当に、本当に楽しそうだ。子供の遊ぶ笑顔って見ててこっちまで幸せになれるから良いよね。決してロリショタコンという訳ではないけれど、どれだけ見ていても飽きない。

 

うん。良いよね。うん。

 

でもね。

 

俺も混ぜてくれたら、もっと嬉しくなれるのにな。

 

ヒト?がどんどん増えて行くに連れて次第に隅の方へと追いやられて行き、今や既にただの観客のようなものである。べ、別に寂しくなんかないんだからね…!

 

遊び疲れた妖精たちがちょくちょく俺の所まで来て俺の膝の上で寝たり俺が作って持って来ていたジュースを飲んだりして休んで行くから、妖精達にはもしかしたら俺=休憩所とでも見えているのかもしれない。

 

それが今回だけならまだ良いが、夏からこっち、みんなで遊ぶとなると絶対に俺はこの立ち位置だからなぁ。もう慣れてしまった気がする。

 

まあ、別に良いんだけどさ。寒くて動くのたるいと思ってたし?精神的にはもう良い歳した野郎なんだから全然一緒に遊びたいなんて思ってないし?ちっこい妖精達も可愛いし?初めから一緒にいてくれる子も結構いるし?

 

まあその子も俺の近くですやすや寝息立ててるんだけどね!可愛いけどやっぱりちょっと寂しいかな!うん!

 

「くーちゃーん…」

 

膝枕してた妖精がひょっこり立ち上がって雪合戦に戻るのを見送っていたら、入れ替わるように雪だらけになってふよふよと飛んで来た大ちゃん。様子を見ていたが三色別々の妖精達に『じぇっとすとりーむあたっく!』とかで集中砲火食らわせられていた。チルノは全部避けてカウンターに猛吹雪を当てていた。元気だね。

 

俺は大ちゃんにかかっていた雪をぱっぱっと払い落として、タオルで頭を拭いてあげる。

 

「くすぐったいよぉ」

 

と身を捩らせるが俺としては大ちゃんが体が冷えて体調を崩したら大事だからちゃんと拭う他ないのである。

 

「あ、ありがとう…ううっ」

 

ぶるっと身体を震わせる大ちゃん。これはいけない。女の子は体が冷えやすいって言うからな。俺は持って来ていた肩掛けポーチからでかい毛布を取り出した。

 

このポーチは能力により収納性を底上げした特別製だ。見た目以上に物を入れる事が出来るのである。

 

俺は肩からそれを羽織って、そして大ちゃんに広げて立ちふさがった。

 

「え、えええ?く、くーちゃん!それは流石に…」

「…!」

 

否、逃がすつもりは毛頭無い。暖をとるならこの方法が一番なのである。

 

風邪でも引いたら大事でしょ!ほら、早よ!

 

「で、でも心の準備っていうかなんていうか!」

「…」

「え?女の子同士だから気にすることはない?で、でもぉ…」

 

うーん、ここまで嫌がられるのか…?

 

遊ぶときもすぐに隅に追いやられた…っていうか後ろに行かされたし、まさか俺って嫌われてる…?

 

「…」

「え?そ、そんなあからさまに肩を落としてどうしたの?」

「…」

「ううん、別に嫌って訳じゃないよ!?た、ただ、その…」

「…(´・ω・`)」

「ううっ、そんな目で見ないでぇ…」

 

そうしてついに大ちゃんを我が毛布に取り入れる事に成功したのだった。え?無理やりじゃないかって?最終的に入ってくれたんだからそれで良いんだヨォ!

 

ほ、本当に嫌なら出てって貰っても…いいんやで?ぐすっ…。

 

「えへへ。あったかーい…それに良い匂いがするし…えへへ、えへへへぇ…」

「…?」

「え?あ、ううん!なんでもないよ!ただ、いますっごく幸せだなぁって言っただけだから!」

「…!」

 

こてんと俺に頭を凭れさせて猫みたいに押し付けて来た。なんだ、全然平気そうで安心したぞ。

 

「…ねえ、くーちゃん。今楽しい?」

 

暫くして、こちらの顔色を伺うようにそう尋ねて来た。俺は質問の意図を分かり兼ねて、しかし特に隠す事でもないので正直答える。

 

楽しいに決まってるだろう。友達と遊んで、一緒に居られるののは、とっても楽しい。それに前世の記憶と比べても、学校やら仕事やらで色々と忙しかったし、好きな事が満遍なくできる今の生活は結構気に入っているのだ。

 

「…!」

「えへへ、そっかぁ!ごめんね、いつもここで見てるだけだったから、もしかしたら退屈してるかもって思ってて…」

 

大ちゃんはふんわりした笑顔をほんわりと咲かせた。

 

「でも、チルノちゃんも、他の子も、くーちゃんが見てくれてるって事が凄く安心できるみたいなんだ」

「…?」

「んー?そんなのあるはずないよぉ!みんなくーちゃんの事だーい好きなんだよ?」

 

「勿論私も…その…」と顔を赤らめる大ちゃん。

 

そっか。みんな俺の事嫌いな訳じゃないのか。

 

っていうか、見てるのに安心するって、俺は保護者か何かかな?まあ、そんななら全然ここで見てるだけで良いかな。

 

「…」

「へっ?ありがとうって?え、えへへ、そ、そんな、私はただ…」

「あー!」

 

唐突に声が響いた。声の主は勿論チルノである。

 

「大ちゃんがくーちゃんを独り占めしてるー!ずるいずるいずるい!」

「え、ええ!?」

「私もそこ入る!」

「チルノちゃんが入ったら私たち凍えちゃうよ!?」

「入るもん!」

「…!」

 

チルノが猛スピードでこちらに突っ込んで来るのを目にして、俺はゆっくりと両腕を広げた。

 

「ちょっ、くーちゃーー」

「とりゃあああ!」

 

どふんっ、と押し倒され、雪煙が舞った。

 

寒かったです。

 

 

 


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