東方妖精生活録   作:kokonoe

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プロローグ

突然だが、俺の話をしよう。

 

俺は妖精だ。ここ、幻想郷の霧の良く出る湖で生まれた妖精である。金色の髪の毛に赤い瞳。そして黒いワンピースに黒い羽根。ソレが俺の今の容姿である。

 

俺は気が付けばそこにあった。まるで風が人知れず生まれるように、雲が唐突に青空に現れるように、そんな風に俺は生まれ出でたのだ。

 

だが、そう。もうお察しの通りかもしれないが、俺は前までは普通の人間だったのだ。だから、元人間今妖精、というのが俺を一言で表せる言葉である。

 

しかし、俺は前世の事をあんまり覚えていない。男子高校生で年齢イコール彼女いない歴で、名前も五文字で何の変哲もない容姿をしていて、普通にバイトしてアニメ見て友達と遊んで…そういう感じの一般人だった。それが気が付けば俺はなぜか妖精となっていた。何を言ってるかわからないと(ry

 

ソレが神様のいたずらなのかただの憑依だったのかはわからないが、ただ一つだけ言えることがあった。

 

俺は、この世界の事を知っている。って、先ほどもぽろっと言ってたっけかな。

 

ここは幻想郷。忘れ去られしモノ達の、最後にして唯一の楽園。東方projectの舞台となる、妖怪たちの蔓延る現実と切り離された、そんな場所なのである。

 

どうしてここが幻想郷かわかったかというと、湖の上でチルノと大妖精という、明らかに東方のキャラクターな二人が楽しそうに遊んでいたからである。その時俺はどうすればいいかわからずとりあえず二人から身を隠してしまったが、まあ俺のコミュ障っぷりの話は些事である。

 

何故そんな場所に生まれ出でたのかは全く分からない。まあ、なんにせよこうして生まれてしまったのだから仕方がないと割り切ったのは生まれてから3日経ったときの事だった。自分でも随分と簡単に割り切れたものだと思ったが、曖昧な記憶にいつまでもすがっているわけにもいかないという一種の生存戦略だと考えれば納得もいくというものだ。

 

そんな感じで俺は妖精として生きる事になった。妖精は総じて子供の姿をしている。それは俺も同じらしく、身長は130cm程しかない。

 

というか髪の毛も腰まであるし、着ている服もワンピースだったのでもしかして俺のマイサンがいつの間にか家出してしまったんじゃあないかと不安になったりもしたが、確認したところ俺は無事女であることが発覚した。俺は人知れず森の木陰でむせび泣いた。

 

女になってしまったものはなってしまったで仕方がないので、その辺も適当に割り切って…そう、割り切って。

 

妖精としての生活はそれはもう気ままなものだった。基本的に遊ぶだけ。自然のある場所ならどこでも生きていけるし、腹も減らないし特に学校やら仕事やらの束縛も無い。毎日湖の周りを散歩しながらほかの妖精たちが遊んでいるのを遠くから眺めるだけだ。まあ、身体は子供だが中身は男子高校生だ。子供っぽく遊べという方がおかしな話である。

 

そんな感じで木の上で寝たり湖の上を飛び回ったり散歩したり森の中を散歩したりして遊んでいたが、しかしそんな何もない日々が長く続くといい加減うんざりするというものである。空を飛ぶのは初めはかなり楽しかったが、しかし慣れてくると歩くのと飛ぶのとで違いがなくなってくる。

 

それに、雨風をしのげる場所も無ければ風呂も無い。ベッドも無いし飯も無い。元人間の俺がこんな日々耐えられるわけがなかった。

 

そういう訳で、俺は暇に任せて家を作ることにした。初めは雨風しのげればいいかなという軽い感じで始めたのだが、ついつい庭付き一戸建ての家を建ててしまった。俺の才能が怖すぎる。

 

作った家はまさしく妖精が住んでいそうなファンタジーな家というのをイメージして作ってみた。どうせ俺しか使うやつはいないから全て俺の身長に合わせて作っているから、下手したらちょっと大きな人形用の家に見えるかもしれない。

 

木は森に大量にあったし、木を切るのも生まれたころから使えた妖力を鋭く固めて切る事が出来た。繋げるのには大分苦労したが、それには俺の能力があったので問題はなかった。

 

そう、実は俺、程度の能力を発現したのだ。

 

俺に発現した能力。それは『性質を付与する程度の能力』というべきだろうか、便利そうだが戦闘では不便そうな能力だったのだ。

 

程度の能力持ちだなんて東方の世界では結構有利だとは思うが、残念ながら俺は異変に自分から顔を突っ込んでいく様なバカではない。俺はゆったりと風呂に入ってベッドに入って一日を過ごせれば満足なつまらない人間なのである。今は妖精だが。

 

家の骨組みは接着性を付与する事でがっちり固定。さらに持続性を追加させることで長持ちさせる事の出来る家を目指す。これがなかなかいい感じで、家のデザインも中々納得できる感じだった。俺の才能が怖い。

 

そういう訳で雨風しのげる家については問題は解決したが、まだ俺は納得できはしない。風呂、せめてベッドが無いと家とは言えまい。

 

そういう訳で次はベッドづくりである。ベッドの骨組みを生前のかすかな記憶のベッドの形を見様見真似で作ってみた。大分いい感じで作ることができたので、俺はその日のうちに布団と敷布団づくりにも取り掛かった。

 

しかし、布団ってどうして作ればいいのだろう。布の作り方なんて知らないぞ、俺は。

 

そういう訳で俺は厚い木の板を作って、ベッドにすっぽり入る感じで大きさを調整。次に柔軟性を増大させて、ふかふかに似た感じの感触にさせる事に成功した。さらに反発性も付与させてさらに快適に眠る事の出来る様に改良。布団も柔軟性と保温性を完備させる事で快適な眠りを実現させた。

 

そして風呂についてなのだが、これが一番難儀した。風呂の形を作ってあらかじめ作っていた風呂場に備えて、土を掘り返して能力を駆使して作った木のパイプを湖と、加熱性を付与した貯水箱につなげる。後はポンプの容量を使ってその温水を引き上げて風呂に流せば、風呂の完成…のはずだった。

 

風呂を作って貯水箱を作ってパイプを湖と繋げて…そう、ここまでは良かったのだ。しかしポンプを作るのにおもっくそ時間を持っていかれた。うまい事真空を作るのが結構難しくてだな…最終的には能力でごり押しして完成させた。風呂づくりだけで家や家具を作った総時間の5,6倍はかかったはずだ。

 

そんなわけで、苦節数か月、俺はやっと家を完成させる事に成功したのである。ビバ、ベッド。ビバお風呂。やはり文明の利器は生活を非常に豊かにしてくれる。

 

家、ベッド、風呂と問題を解決させた後は、次は食料の問題である。

 

湖からちょっと離れた場所に人里があったので、そこから種を盗ってきて畑を作りました。はい終了。畑の知識は皆無だが、まあ中々便利な能力もあるしどうとでもなるだろう。どうせ暇なのだからゆっくりやればいい。

 

そんなこんなで幻想郷で生まれて早くも半年が経ち、妖精ライフが中々様になってきた頃。

 

そこから、俺のこの幻想郷での物語は始まったのである。

 




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