魔王を倒し、女神としての地位を取り戻した私が『よーし!パパハーレム作っちゃうぞー!』とか馬鹿なことを抜かしたヒキニートを追い出してからもう数日が経った。
「帰ってこないですね……」
「アクア、少しやりすぎじゃないか?」
そして現在、帰ってこないカズマに対しめぐみんとダクネスの二人が心配し始めていた。
「このくらいしないとカズマさんはわからないのよ!」
そうだ。
この二人はなんだかんだでカズマに甘いが、あの少し誘惑しただけですぐに陥落する駄目男にはこのくらいのお仕置きをしないとわからないのだ。
「というかどうしてカズマの馬鹿な発言がそんなに気になるんですか?あれはどうみてもいつもの冗談ですよ?」
と、めぐみんがカズマのフォローをし始める。
あの発言が冗談だなんて、そんな事は私でもわかっている。
駄目人間なカズマだが、他人からの好意に関しては確かに誠実なのだ。
しかし
「よくわかんないけど今のカズマさんはムカつくの!」
何故かはわからないのだが、金と名声を手に入れたことによってモテだし、他の女に対して鼻の下を伸ばしたカズマは妙に腹立たしい。
殆ど八つ当たりのようだが、女神である私を怒らせたカズマが悪いのだ。
そんな風に怒る私に対して、めぐみんとダクネスは顔を見合わせて呆れたようにため息をついた
「……アレですね」
「……アレだな」
「何よ!」
この二人は一体何を思っているのだろうか。
すると、ダクネスがとんでもない事を聞いてきた。
「アクアは、カズマのことが好きなのか?」
…………?
「は?何言ってんの?麗しの女神である私がヒキニートなんかに惚れるわけないじゃない」
最近の二人はカズマに毒され始めたと思っていたが、まさかここまで酷かったとは。
この完璧超人で絶世の美女である私があんな冴えない引きこもりに惚れる?
ないない!ゼル帝がドラゴンじゃないくらいありえないんですけど!
「ではカズマが魔王を倒した時、どう思いましたか?」
馬鹿げた問いを一蹴した私に対して、めぐみんが尚も質問をしてくる。
どう思いました?って聞かれても
「……そりゃあ私達のために命まで捨てる覚悟で戦ってくれた事は凄く感謝してるしカズマにしてはカッコよかったと思うけど」
確かに、あの時は、少しだけ、ほんのちょびっとだけ、僅かながらもカズマの事をかっこいいと思ってしまった。
「カズマともう一度この世界で過ごせるって聞いてどう思いました?」
ニヤニヤしながら、更に質問を重ねるめぐみん
「……確かに今までみたいに楽しい生活が出来るから嬉しかったけど」
これは当たり前だ。ちなみに別にカズマと一緒にいれるからというわけじゃなくて二人とも一緒にいれるから嬉しかったわけなんですけどね!
自分でもよくわからないツンデレをし始めた私をよそに、めぐみんは更に更に質問を重ねる。
「じゃあ今まで通り一緒に過ごせるとしても、カズマが私達以外の人と付き合ってるって考えたらどう思いますか?」
この屋敷で四人で一緒にいる。それはいつもと変わらない素晴らしいことだ。
しかし他の人と付き合うとしたら時々屋敷から出て他の女とイチャつきに行くのだろう。
あの男はおだてるとすぐ調子に乗るくらいチョロイのだから、どうせ金に擦り寄ってきた事に気づかずにデレデレするのだろう。
それは……
「そんなの嫌に決まってるじゃない」
「ほう、それはどうしてだ?アクアの望み通り、別にカズマとは一緒に過ごせているじゃないか」
と、ダクネスまでニヤニヤしだした。
嫌な理由なんて……理由なんて……
「それは……そう!私を差し置いて見知らぬ女とイチャつくなんてヒキニートの癖におこがましいからよ!」
そうだ。転生の際に自分で選んだ特典を蔑ろにするなんて許されるわけがない。
……あ、でもこの前の特典ではエリスを選んだから、私ってもう特典じゃないんじゃ……
い、いやいやいやいや!
一度選んだなら最後まで養ってもらわないと!女神は返品不可なんですー!
だからカズマさんは他の女とイチャつくのはダメなんですー!
「ふーん、それなら逆にカズマがアクアに惚れて迫ってきたらどうしますか?」
……えっ
どうしよう、いつものカズマの態度に慣れてしまって、それは考えた事がなかった。
「えっと……あのカズマさんが?そんなのないない、あるわけないじゃない……」
カズマが私に惚れる……?
でも、仮にそうだったとしたら、この前のハーレム発言なんかも、もしかしたら……
『アクア、ふざけたハーレム発言なんてしてごめんな?お前があんまりにも可愛いもんだから少しからかいたくなっちゃってさ。本当はお前のことが大好きだよ』
「………………ぁぅ」
………………あ、あれ?結構いいかも……?
「アクア、もう一度聞きますよ?カズマの事が好きじゃないんですか?」
『アクア、お前は俺のこと好きじゃないのか……?』
え、えぇっと……私もカズマさんの事が―――。
――――――ハッ!?
い、いやいやいやいや!待ちなさい私。だってカズマさんよ?あのヒキニートでお金に任せた自堕落な生活をするカズマさんよ?セクハラなんて日常茶飯事だしみんなからは鬼畜男なんて呼ばれるほどのクズ人間よ?そんな……そんな、カズマさんの事が好きなわけ……
―――でも、セレナのせいでアクセルのみんなからハブられてた時はたった一人だけ味方してくれたし
―――私の天界に戻りたいってワガママを通すためにお金も全部使って魔王城に攻めてくれたし
―――勝てる見込みなんてないのに魔王を倒すために一対一で戦って帰れないことがわかってるのに命まで使ってくれたし
私がどれだけやらかしてもなんやかんやでしょうがねぇなぁと言いつつ助けてくれるし
…………?
あれ、ひょっとして私ってカズマさんの事が好き……?
「………………ふ」
「「……ふ?」」
「ふ、ふわあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「おお、ようやく気づいたのか。長かったな」
「まったくアクアもめんどくさい女ですね」
にゃああああああああああ!!!!
「言わないで!言わないで!恥ずかしいから言わないで!」
「なんでしたっけ?『もう馬鹿なこと言わない?』でしたっけ。とても可愛らしい嫉妬ですね」
「ああ、あの時のカズマの袖を引っ張りながら上目遣いで聞くアクアはとても可愛かったぞ」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!いやあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」
恥ずかしい!恥ずかしい!穴があったら入りたい!
……どうやら、私はカズマに惚れてしまったらしい
女神である私がヒキニートに惚れるなんて……と言いたいがもう惚れてしまったものはどうしようもない
……というか
「ど、どどどどうしましょうめぐみん、ダクネス!私カズマさんが帰ってきてからどんな顔で会えばいいのかわからないんですけど!?」
「思ったよりも重症ですね。……というかもういっそのことカズマにぶっちゃけたらどうですか?」
!?
「ま、待てめぐみん!それはいいのか……?私達だってカズマのこと……その……」
「確かに大好きですよ?でも私達はアクアがいない間にキスしたり夜這いかけたり少しずるい事してたじゃないですか」
!?!?
「それはそうだが……」
!?!?!?
「ねえちょっと待って!私が家出してる間にそんなことしてたの!?」
そ、そんな……それなら今更私がカズマさんの事を好きになってももう手遅れなんじゃ……
知らない間にカズマと進展していた二人に気づくのに遅すぎた自分を恨んでいると
「……だから特別です」
「え?」
「今日一日はカズマと二人きりになってくるといいですよ。アクアならカズマのいるところなんて大体わかっているのでしょう?」
めぐみんがおかしな事を言い出した。
「そうだな。最近カズマとアクアはゆっくりと話せていなかったから、二人きりで話し合ってくるといい」
ダクネスまで。一体どうしてしまったというのだろう。
これは自分の好きな男が他の女と二人きりになるのを許すということに他ならないと知っているのだろうか。
「そ、そんなこと……二人の気待ちを知ってるのにそんな事するなんて……」
いくらカズマの事を好きになったからって、私には二人を裏切る事なんて……
「おや?何を言ってるんですか?別に今日一日カズマと二人きりになれると言っただけでカズマを渡すとは言ってませんよ?」
は?
「そうだな。それに、たった一日でアクアが私達と同じところまで来れるとは思わないしな」
あ゛?
「見てくださいダクネス!どうやらこの子はぽっと出の癖に私達に勝てると思いこんでますよ!」
「本当だな!どうやらアクアは余程自分に自信があるらしいな!」
「……上等よ!やってやろうじゃないの!明日の朝になって泣いて『ごめんなさいアクア様!カズマを返して下さい』なんて謝っても知らないからね!まぁ流石にカズマさんが迫ってきても慈悲深い私は二人のためにキス止まりにしといてあげるわ!」
「ほう!じゃあ行ってくるといいですよ。まぁカズマの事は最後に私のところに帰ってくると信じているのでまったく心配ありませんがね!ちなみに魔王を倒したら凄いことをすると約束もしましたしね!」
「あっ!その約束を持ち出すのはずるいぞめぐみん!」
喧嘩をし始めた仲のいい二人を横目に、私は屋敷から飛び出した。
「待ってなさいよ!私の女神としての魅力でヒキニートなんてすぐおとしてやるんだから!」
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この世界を支配せんと目論む魔王を倒し、数日が経つ。
調子に乗ったハーレム発言のせいで屋敷から追い出され、今までエリス様のところに行っていた俺は、再びアクセルの街へと戻ってきていた。
「しっかし俺も有名になったもんだなぁ……」
魔王を倒した冒険者、ということで一躍有名になった俺は、夜中であろうがどこをほっつき歩いていても声をかけられるほどの有名人になっていた。
そのため、現在俺は大通りを通るのをやめ、裏路地を歩いていた。
最近は色んなやつに絡まれては飲んで飲まれての繰り返しのため、流石に疲れているのだ。
…よし、このまま帰ってアイツらの相手をするのも面倒臭いし、今日は久しぶりにあの場所で寝ることにしようか。
そう、馬小屋だ。
寝心地は決して良くないが、目立つこともなく、静かに寝れる場所。まさか、魔王を倒した勇者が馬小屋で寝ているなど誰も思うまい。
馬小屋につき、しっかりとシーツを準備し、布団を掛け、準備完了。藁を敷き詰めた簡易ベッドに飛び込むと、今までの疲れがドンとのしかかってくる。
そのまま睡魔に任せて昼まで爆睡を決め込もうとしたその時、入口から一人の気配を感じた。
「……もう夜遅いってのに一体誰だよ…」
と、入口を覗き込むと、なんとそこに立っていたのはアクアだった。
……うわぁめんどくせぇのが来たな。さっさと寝るか
「あ!カズマさん!」
が、変なところで勘のいい駄女神は、そそくさと寝ようとした俺に気づいて一目散にかけてきた。
「……なんだよ、今ごろ迎えか?今日はもう遅いし屋敷には明日帰るよ、んじゃ」
眠かった俺は追い払おうと先手を打って答えるが、アクアは俺の声に耳を貸さず、それどころか俺の布団の反対側に潜り込んできた。
「何のつもりだ?嫌がらせか?悪いけど今は付き合う体力とか残ってないぞ」
「…邪魔なんてしないわよ。ねぇ、私も隣で寝ていい?」
「……まぁ、別にいいけど」
特に断る理由もなかったため、そのまま中に入れて、俺は反対側を向いて寝始めた。
―――そうして寝始めようとしたのだが、先程アクアと話したせいで少し目が覚めてしまっていた。
寝られずにいると、ふと、アクアが声をかけてきた。
「そういえばこうやって二人きりになるのは久しぶりよね」
「……そうだな」
最近は一気に色んなことがあった。
王都でアイリスとの暮らしやセレナの襲撃に魔王との戦い。
確かに、よく考えてみると、アクアと一緒にいられた時間は殆どなかった気がする。
「ねぇ、カズマさん」
「なんだ?」
「もう、ハーレム作っちゃうとか言わない?」
またそれか。
めぐみんやダクネスならともかく、なんでアクアがそんなに気にするのか。
まぁ、この際ちゃんと冗談だって伝えておいた方がいいか。
「冗談だよ。俺だって好意を寄せてくれてるめぐみんやダクネスを蔑ろにするハーレムを作るほどのクズじゃないからな」
前にもダクネスにも言ったことがあるが、他人から向けられる好意には責任を持つこと。俺は一応そこらへんはしっかりしようと心掛けている。
と、説明する俺にアクアが質問を重ねてくる。
「じゃあ私は?」
「いやお前はヒロイン枠じゃなくてペット枠だろ」
それをハッキリと告げると、アクアは怒りながら俺に掴みかかって……
掴みかかってこない。
あ、あれ?
もしかして、コイツ傷ついてる?
「えっと!いや、その、ほら、お前は家族みたいな感じだから好意っていうかそんな感じじゃなくてさ……」
予想と違った反応に、俺は言い訳を始めながら振り向いてアクアの方を見る。
と、向き合った事でお互いの顔を見ているにも関わらず、俺の言葉を無視して真剣な顔でアクアは
「ぎゅってしていい?」
と言ってきた。
いや、どうした?こいつ酒でも盗まれたのか?
まぁ、寒いし別に拒否する理由もなかったので抱きつく分には構わないが
もぞもぞと抱きついてくる普段とは全く違う態度のアクアに、俺の頭は混乱していた。
……よくよく考えてみたら魔王を倒してからアクアの様子がおかしい
こいつ偽物か?俺は偽物拾っちまったのか?魔王討伐の報酬にエリス様選んじゃったから金の斧と銀の斧みたいな感じで綺麗なアクアでも連れてきちゃったのか?
「今日はめぐみんとダクネスに言われてやってきたの。カズマさんにキチンと言ってこいって」
俺の胸に顔をうずめながら、アクアはそんな事を言い出した。
二人はアクアに伝言でも頼んだのか?もしかして二人は顔も見たくない程に怒っているのだろうか。
これは屋敷に帰ってからそこそこ本気で謝らないといけないな
と、覚悟を決めていると、アクアの口から出てきたのはまったく予想外の言葉だった。
「……カズマの事が好き」
……は?
「カズマを追い出してからずっとモヤモヤしてた気持ちが、二人に言われてやっと気づいたの」
そう言いながら、背中に回した手の力を強めてくるアクア。
「……やっぱり、カズマさんは私のことを恋愛対象としては見れない?」
え、は?いや、何言ってるの?ちょっと待てよ!?好き?俺のことが?誰が?あのアクアが!!?!?
いやいや冗談に決まってるだろ、落ち着け。ここで俺が本気になったら実は罠で、『カズマさんたら本気にしちゃって超ウケるんですケドー』とか言っちゃうに違いない
そう、これはいつもの通りからかわれているんだ。
どうにも俺は雰囲気に流されやすい傾向があるらしい。
雰囲気で判断しちゃダメだ。
そもそもアクアを恋愛対象として見る要素があるか考えろ。いいや、ないだろ?
顔はいいがアホで酒が大好きな中身おっさんな女神だ。どこかに一緒に行けばアクシデントを持ち込んできて、どこかにほっぽり出したら借金をこさえてきて、でもなんだかんだで困ってる時は助けたくなるし俺が追い詰められた時は助けてくれるし一番落ち着くし
セレナのせいでアクセルの皆からハブられていた時には本気で復讐しようと思ったくらい大切だし、あそこまで嫌がっていた魔王討伐もきっかけはアクアだし、最後の笑顔には不覚にも少しドキッとしてしまったしってまてまて待て待て。なんでそっちの方向にいってんだよ。よく考えろよ。アクアだぞ?あのアクアだぞ?
…………。
……と、とりあえずアクアの事をどう思うかは置いといてまずは罠かどうか確かめないとな
身を削る戦法になるが、少しカマかけてみるか
「お前ヒキニートとか言ってた男に好きとか言っちゃっていいのかよ。一応言っとくが俺はクズマさんだよ?アクセルの鬼畜男とか呼ばれてるカスマさんだよ?なんなら試しに好きになったところの一つでも言ってご覧よ、言えないだろ?ん?」
自分で言ってて悲しくなってきた。
何でこんなこと言わなくちゃならんのだ。
まあいい、どうせアクアの事だし俺のいいところなんて一つも見つけられず、苦し紛れに『資産!』とか舐めたこと抜かす姿が目に浮かぶ。
と、そんな事を考えていると、アクアは胸に埋めていた顔をあげ、うっすらと頬を染めながら、恥ずかしげに俺を見つめてこう言った。
「……私のために命を張ってまで魔王を倒してくれるところ」
えっ何これガチなやつじゃん。
ていうか何コイツめっちゃかわいい。ウチの女神クッソかわいいわ
……いやいや待てよ!アクアだぞ?あのイロモノ枠やペット枠のアクアだぞ?
予想と全く違う答えに困惑している俺に構わず、アクアは更に続ける。
「私のことを適当に扱ってても、本当は優しくて最後にいつも助けてくれる、そんなところが大好きよ」
誰だよアクアのことイロモノ枠とかペット枠とか言ったヤツ。どうみてもメインヒロインじゃねぇか。頭湧いてんのか。覚えたての爆裂魔法かましてやろうか。
……すいません俺です!すいません!
いやでもおかしいだろ!なんで今日のコイツはこんなに可愛いんだよ!
そうして頭を抱えながら葛藤する俺を見ながら、アクアは不安そうに上目遣いで聞いてきた。
「やっぱり、カズマさんは私のことはヒロインとしては見れませんか?」
ヒロインとして見れないかとかそんなの当たり前の…………
『……………私、この街にいらないプリーストですか?』
当たり前の…………
『ありがとうね』
……いや、
「そんなことは無い」
肯定することを予想してたのか、俺の答えに驚いて目を丸くするアクアに向けて、俺は言葉を続けた。
「俺は……さっき言った事と同じように、お前のことを、家族に近い存在だってずっと考えている」
「うん」
確かに、これだけは何があろうと変わることは無い気持ちだろう。
しかし、
「その気持ちは今でも変わらない。何かあった時に、一番安心できる存在なのは変わらないけど……その……よく考えたら、最近のお前に対してはそれ以外の気持ちも混じってて……今は、すっげぇ、かわいい……とか、そうも思ったりする」
「……っ…は、はい」
そう、今までと少し違ってアクアを家族とは別に見ている自分がいる。
セレナに復讐すると決めた時からだろうか?それとも魔王を倒すと決めた時だろうか?いつだったかはわからない
わからないが自分でも気づかないうちにいつも以上にアクアの事を大切にしようとする自分がいたのだ。
俺の言葉に照れたのか、テンパって目をキョロキョロさせながらアクアも俺の事を褒めてきた。
「わ、私もカズマさんってこうして見るとカッコいいと思うし……触ってみると冒険者として鍛えあげられた体はとても素敵だと思うわ…っ」
「お、俺もアクアに抱きつかれたことは何回もあるのにこうして改めて抱き合うとやっぱり抜群のプロポーションしてますね!……なんて、お、思います……っ」
「あ、あははは!カズマさんたら、やっと私の魅力に気づいたのね!ふ、ふーん!私に触れられる事がどれほど幸せなことかやっとわかったようで、な、何よりだわ!」
「ふ、ふふ!お、お前こそようやく俺の溢れ出るカッコよさに気づいたのか!い、今まで勿体ない時間を過ごしたな!」
「あはははは!」
「ふふふふふ!」
いや何これ恥ずかしいいいいい!!!!
馬小屋で抱き合いながら、二人で好きな所を言い合う?
これなんて罰ゲーム?
しかも今夜は月明かりが綺麗なせいでさっきからお互いの表情が丸見えなんですけど!
月に照らされたアクアの耳は真っ赤で、今すぐにでもからかってやりたいところだが、残念ながら俺の耳も真っ赤なのだから笑えない。
ど、どうしよう。これどうしたらいいの?教えて!エリス様!童貞の僕にはこの状態から何をすればいいのかわかりません!
「……あっ、あのねっ……カズマ……っ」
そうやって神様とイチャつくために神様に救いを求めるという天罰のくだりそうなことをやっていると、アクアが今まで以上に顔を真っ赤にしながら小声で囁きかけてきた
「……めぐみんやダクネスにしたように、私にも、その……ちゅーして欲しいの…」
俺は本日付けでアクシズ教に入信する事にしました。
えーっと?アクシズ教の教えは何してもOKなんだっけ?
なら神様とキスするくらい全然大丈夫だよね
それが御神体だったとしても全然大丈夫だよね
ほら、なんの問題もない
てかもうそんなのどうだっていいわ
問題があろうがなかろうがキスするなんて俺の自由だ邪魔すんな
「よ、よし……アクア……じゃあちょっと目ぇ瞑れ」
「うん……」
目を瞑ったアクアも綺麗だなと思いつつ、俺は透き通るような長い髪の毛を背中に流しながら唇を近づけ
「……んっ」
人生で三度目となるキスをした。
唇を重ねながら、ぼーっとした頭の中、キスは何度しても不思議な味だなぁなんて失礼な感想を思い浮かべている間に、お互いの唇は離れていた。
上気した顔を見合わせ、少し間を置いてアクアは再び俺の胸に顔をうずめ、嬉しそうに聞いてくる。
「……私もようやくめぐみんやダクネスと一緒のスタートラインに立てた?」
チキショウ!コイツ可愛いなぁ!
あぁ、もう我慢出来ねぇ!
さあ!キスはすんだ!ならキスの次は何か!そんなこと言わなくてもわかるだろ!
俺は、アクアの腰に手を回し―――
「あ、ここから先はお預けだからね」
えっ。
「めぐみんとダクネスに約束したもの。二人がいない間にズルはしないって……ち、ちょっとカズマさん!そんなに泣きそうな顔しないで!ほら、ぎゅーってしてあげるから!」
くっそおおおおおおおお!!!!
いつもこれだ!毎回お預けだ!!何が幸運値だ!!!
まぁギュッとされてアクアの胸の感触を堪能できてるからいいんですけどね!いやよくねぇよ!
「あ、アクアさん……その……そこをなんとかなりませんかね……?」
「ダメよ。わざわざ二人きりにしてくれためぐみんとダクネスに顔向け出来ないじゃない」
ですよね。
まぁ、アクアとこうやって普通に抱き合いながら寝るのも悪くない。
やっぱりオークに襲われた時もそうだったがこいつが一番安心感があるのだ。
「……そういえば、この世界に来てから暫くはずっとこうして二人で寝てたな」
「今みたいに抱きついてたわけじゃないけど、そうね。ここに来て初めての頃はここで寝たり、私がバナナを消したりカズマが秋刀魚を畑から採ったり、色々あったわね」
まったく知らない新天地で一から暮らす。
普通なら耐えられないことだ。ましてや元々ニート気質だった俺は、一人で生きていくことなど不可能だっただろう。
だが、そんな中で明るいコイツがいたから。どれだけアホでどれだけ運が悪くても、唯一の居場所があったから俺は今こうしてここにいれるのだ。
「……そして今はタイマンで魔王を倒した勇者カズマか……人生ってのはわからないもんだな……」
そうして魔王との戦いを思い出し、感慨深く呟くと
「……ちょっと何言ってんの?タイマン?私が弱体化したり蘇生してあげたおかげでしょ?カズマさんは速攻でアンデットに首チョンパされてたじゃない」
……何言い出してんのかな?この子は
「は?何言ってんの?しっかりとタイマンで俺が爆裂魔法で道連れにしたからな?俺の手柄だからな?テレポートで飛ばしてからが計測スタートだからな?」
「残念でしたーテレポート出来たのは私が魔王の魔法耐性を弱化したおかげでしたー!なのでカズマのそれは私の手柄なんですー!」
「「…………」」
「ちょっと表出ろやこの駄女神!人が甘い顔したらすーぐ調子に乗りやがって!魔王を倒した最強のカズマ様の力見してやんよ!」
「プークスクス!この人ったら自分で最強とか言い出したんですけどー!支援魔法のかかってないカズマのステータスでは私に勝てるわけがない事もわからないんですかー!」
ついに耐えきれなくなり、お互いに立ち上がって戦闘態勢に移行する。
今こそ、エリス様のところに行っている間に考えた秘策を使う時―――。
「おい、うるせーぞ!静かに寝ろ!」
「「すいません!」」
騒がしくなったところを隣の利用者に注意され、再び大人しく寝る俺らだった。
やはり俺たち二人には甘酸っぱい雰囲気よりこちらの方が似合うらしい
「カズマさんカズマさん」
と、眠りにつこうとした俺の袖をアクアが引っ張ってくる
「……なんだ?」
「―――また今度、一緒にここに来ましょうね!」
「……しょうがねぇなぁ!」