悪役(?)†無双   作:いたかぜ

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第31話

臧覇が曹操の下を離れて、半年の時間が流れた。

各地で小競り合いが起きているが大きな戦局はない。しかし、ある地ではその戦局となろう事態が起きていた。

 

事の始まりは劉璋の悪政により、逃げてきた民を劉備の陣営が救ったことによるものであった。

その民から話を聞くに、劉璋の悪政はかなりのものであり、逃げられない者たちの理由もまた、劉璋によって人質を取られていることもある。それを聞いて黙っていられないのが劉備の陣営であった。

その話を聞いた関羽と張飛は己のことのように怒りを露わにし、すぐにでも乗り込もうと提案。諸葛亮や龐統、趙雲も大きくなってきた我が軍にも国を持つべきと賛成し、劉璋との一戦を望む。

しかし、その中に劉備の姿はなかった……

 

 

〜個室〜

 

 

「……失礼します」

 

静かな部屋。表すならばその一言に尽きる。その部屋に1人の女性が入る。

名は孫乾。彼女は侍女としてある人物の世話を任されている。料理のお盆を持ち、その人物の前に置く。

その人物は……

 

「いらっしゃい、美花ちゃん」

 

大徳と呼ばれた女性、劉備その人であった。

だが、今の彼女の姿は頬がやつれ、布団から起き上がれないくらいに元気がない。

 

「調子はどうでしょうか?」

「うん。最近はね、とっても調子がいいの。だから心配しないで」

「…………それは喜ばしいことです」

 

見てわかるような空元気。心配させないように無理をする劉備。

 

「これよりは劉璋との戦が始まります。苦しくなるかと思いますが……」

「うん……けど、苦しんでいる人たちがいっぱいいるなら……仕方ないことかな。むしろ前に出れない私が情けないよ」

「そんなことはありません。皆、桃香様の夢の為にと頑張っています」

「………………」

「……食事が終わりましたら、またお伺いします。それでは」

 

静かに立ち上がり、孫乾はその場を去る。

残された劉備は……

 

(人殺し……人殺し……)

(貴様に平和は似合わない……)

(偽善者め……)

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

頭の中で聞こえる幻聴に懺悔をする。

 

この幻聴こそ、劉備を苦しめる原因。ある日を境にいつも如何なる時も囁きが頭を巡り続けるのだ。何日かは耐えていたが、この幻聴による不眠が続き、結果として倒れてしまった。

この事態を重く見た関羽と諸葛亮はすぐに劉備を個室に運び、完治するまで安静にさせる。様々な医者にもお願いをしたが、全員が疲労という答えしか出さなかった。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

劉備は涙を流しながら謝り続ける。

そこへ近く一つの影……

 

「おやおや……随分と苦しんでおりますね」

 

それは各地で暗躍をする于吉であった。

 

「………………」

「どうですか? 貴女が殺めてきた人間の声は? さぞ、貴女の心に響くのでは?」

 

于吉はある(じゅつ)を劉備に掛けていた。それこそ、あの幻聴である。

 

「平和の為にと頑張ってきた貴女が行なっているのは虐殺と何も変わらない。だからこそ貴女には聞いて欲しいのです。死んでいった者たちの声を」

「違う……私は、みんなの平和の……」

「それで逆らう者は亡き者にする。平和という名の独裁なのでは?」

「………………」

「ふふっ……貴女は逃れることは出来ません。その声からは、ね」

 

于吉は音を立てることなくその場から消えるように去っていく。残された劉備は未だ、深海の奥の中である……

 

 

〜建業・魯粛サイド〜

 

 

「もう一度言いますよ! 今のままでは孫呉は持ちません!」

 

これで何度目なのか……もう数えるのも疲れるくらいに訴えを続けている。

 

「それは何度も聞いた」

「聞いても納得して貰えなければ意味ないじゃないですか!」

「落ち着け包。それでは伝えるべきことも伝わらないぞ?」

 

誰のせいと思って……もういいです。

私は今、孫呉の重鎮である雷火様、祭様、粋怜様の3人にある説得を試みている。

 

「現在、炎蓮様から雪蓮様へ引き継ぎが完了し、新たな体制を作ろうとしております。しかし、現状を見るに曹操と袁紹は協力関係が見えています。それが危ないのです」

「じゃが、袁紹は袁術との仲は悪くはないぞ?」

「それは包も知っています。包が危険視しているのは曹操です。明命の情報ですと、少しずつですが各地の制圧を行なっているのがわかります」

「けど、こちらの領地には足を運んでいないわ。ならば、今のうちに地盤を固める方が……」

「ええ、地盤を固めるのも一つの策です。ですが、前回の戦いで包は見えたんです」

「……聞こう」

 

よし、雷火様が耳を傾けた。これならば……

 

「この国は孫家という大きな柱があります。それを支えるのが包たちの使命です。しかし、それは強みでもあり、弱みでもあります」

「…………今のは聞き捨てならないわね」

「説教なら後で聞きます、粋怜様。良くも悪くも包たちは孫家の柱に依存し過ぎている傾向が見えるんです。自国だけの問題なら構いません。ですが、前回の戦いで包も含めた全員が冷静でいられなかったのです」

 

あの時は我を忘れるくらいに怒りがあった。軍師としてはあるまじき行いでしたね。包、反省。

 

「……一理ある。して、どうするのだ?」

「簡単な話ですよ雷火様。同盟を組むのです」

「……へぇ」

「待たぬか、包。同盟ならば既に袁術と結んでおるではないか」

「先の話を忘れたのですか? 袁術は袁紹と従妹の関係。その袁紹は曹操と協力して、各地を制圧しております」

「つまりは袁術とは別の国と手を組み、万事に備える……か」

「それがこの国の強化と包は見ています」

 

そしてこの政策が上手くいけば包は大軍師筆頭……燃えますね!

 

「多少粗削りだが、悪くはないぞ包。して、その相手は誰ぞ?」

「……包は諜報員を使い、各地で名を馳せる軍師たちの情報を集めました。その中でも才を光らせる人物らがいます」

「…………名は?」

「諸葛亮、龐統……その2人が所属している劉備の陣営です」

 

 

〜森〜

 

 

「ぬっふぅぅぅん!」

「ふんぬぅぅぅう!」

 

開幕早々、筋骨隆々な大男の筋肉アピールを見せられてしまった。

 

「2人とも、調子はどうだ?」

「………………大丈夫」

「こっちもだ。度々、世話になってるな」

「気にしないでくれ。俺が好きでやってるんだからな」

 

孫堅と呂布の戦いは貂蝉と卑弥呼の手によって決着はつかなかった。その後、貂蝉らは森で暖をとっていた華佗と合流し、2人の治療を行なった。

ある程度まで回復した2人は同じ暖で軽い食事をとりながら今後のことを話す。

 

「それで、最強の。この後はどうする?」

「…………彼と、合流」

「だろうな。だが、想い人の気配がないが大丈夫なのか?」

「……なんとなく、わかる」

「なんとなく、ねぇ……」

「…………なんで、邪魔した?」

 

呂布はこのまま臧覇との合流が本来の目的。しかし、孫堅がその邪魔をしたのだ。

 

「お前さんの軍師がオレに文を送ってきたんだ」

「……文?」

「“今生の恥としての願い。暴なる主、止めたし”……だったな。まぁオレはお前と戦えれば良かったんだがな」

「………………違う」

「あん?」

「ねねは……賛成してた。恋の、行動を」

「……嵌められた、と?」

「恋とお前……潰し合いを、させることが…………目的」

「なるほど……」

 

互いに潰し合いをさせ、弱ったところを狙うのが目的はと2人は考えた。呂布が暴走していたこと、孫堅がある程度の自由が聞いていたこと。2つの事情を知らなければ動くことは出来ない。

 

「共通の敵がいる……みたいだな」

「…………うん」

 

そこへ……

 

「ちょいといいかしらん?」

 

筋肉アピールから帰ってきた貂蝉とが割り込んでくる。

 

「その共通の敵だけど、心当たりがあるのよん」

「……それはお前みたいな化け物か?」

「だーれが三国一の美女と思い込んでいる精神異常者と思い込んでいる動物界不明動物魑魅魍魎類漢女科のフレンズですってぇぇぇぇ!!」

「落ち着け貂蝉。心の乱れは漢女の乱れぞ」

「あらやだ。貂蝉、はずかし」

「「………………」」

 

呂布と孫堅は心の中で思う。思った以上に変人であると。

 

「それでその人物の話だけど、多く語れることは出来ないわ。けど、この世界……じゃなくて大陸にいるのはわかるわん」

「…………危ない?」

「強いて言えるならば、奴はこの大陸の全員を葬ることが目的。そのためならばどんな手を使うことも躊躇わん」

「ほぅ……全員か」

「うむ。故にワシらはその男を追い、決着を付ける必要がある。しかし、それにはある人物の協力が必要不可欠」

「それが……臧覇ちゃんなのよ」

 

貂蝉と卑弥呼もまた臧覇を追うことが目的。

 

「なるほど、最強と同じ目的か」

「そういうことね。だからね呂布ちゃん、邪魔しないから一緒に付いてってもいいかしらん?」

「………………うん」

「ありがとん」

「お主とだーりんはどうする?」

「成り行きだ。そうとなれば想い人に会うのも面白い」

「2人が行くなら俺も同行するよ。いくら武人でも怪我人には変わらないからな」

「うむ! そうと決まれば! いざゆかん!」

 

こうして貂蝉らの目的は臧覇との合流となった。

 

劉備の深海、魯粛の策、貂蝉らの目的。大局が見えんとする中、時代は確かに動いていた。各々の物語は加速する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

「ったく、このワシに逆らう愚か者がいるとはな」

 

とある場所の部屋。この部屋は他と比べても豪勢に作られている。その部屋には中肉中背で無精髭を生やす男。

名は劉璋。国を腐らせている張本人と言っても過言ではない。

 

「国を持たないただの義勇軍に何が出来るて」

 

劉璋の耳にも既に劉備の陣営が自分の国に向かっていることが入っていた。しかし、相手は田舎者の義勇軍。負ける要素なぞないと思い込んでいる。

 

「……では劉璋様、この件は私にお任せ下さい」

 

そして劉璋と対面している男。深いフードを被り、顔が見えないようになっている。

 

「お前の好きにせい張松(ちょうしょう)。だが、いい女子がいればすぐにワシに献上しろ」

「仰せのままに」

 

そして張松は劉璋の部屋を後にする。

その廊下で……

 

「ククク……遂に来たか、劉備」

 

その男は……

 

「さぁ……見せてもらおうか! 貴様のくっころ顔を!!」

 

 

野望に燃えていた。




悪役が復活しましたよ皆さん! これはもうみんなをくっころしてくれるに違いありませんね!

………………うん。


ありがとうございました。

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