〜建業・王座の間〜
「「「………………」」」
建業にて孫呉を支えている武将たちが一同に集まった。それぞれの仕事があるにも関わらず、全員が集まれた理由。皆が暗い顔……否、怒りの表情をしてるのも同じ理由だ。
「
そんな中、口を開いたのは孫策であった。そして指名された包こと
「皆さんは知っているかと思いますが……先ほど、主である炎蓮さまが敵の矢を受け、意識不明の状態です。相手は黄祖の配下で間違いありません。そしてその黄祖の軍は着々と我が国に進軍しております」
淡々と説明をする魯粛。感情的にならず、己の任を全うするが、それでもどこか怒りが見えている。
「ならばやることは一つ……全軍で黄祖らを皆殺しじゃ」
「異議なし。全てを地へと返してあげましょう」
真っ先に意見を出した黄蓋と程普。古参の将だからこそ怒りを抑えず、冷徹な意見を述べる。
「今、動ける兵らを集めています。このままいけば早くて軍を今夜までに出陣が出来るかと」
「まぁ我が軍ならこのくらい余裕ですよね〜……」
「相手は勝った気でいるようですしね……この包をナメるとどうなるか思い知らしめてやりますよ」
普段、冷静な立場の人間である軍師たちからも反対の声が出ない。それほど今の状況を好ましく思っていないかぎわかる。
「なら早く出来るように手伝ってくるね。後は任せるよ、雪蓮」
「私も手伝います、梨晏さま」
「同じく!」
「ありがと」
武を語る将はその場を離れ、すぐにでも戦に入れるように準備に取り掛かる。
「雪蓮姉様……」
そして孫策の妹でもある孫尚香は普段、元気な姿ではなく、今にも泣きそうな表情を浮かべている。
「心配しないでシャオ。お母さまなら必ず元気になるわ……」
妹を励ますために笑顔を作る孫策。本当ならば母の側にいたい気持ちがある。だが、母が倒れた今、この国を支えるのは自分の役目だと理解して感情を抑えて、この場にいる。
「準備が出来次第、軍を進ませるわ。相手の要求や降伏は一切認めない。彼らに地獄を見せてあげましょう」
「「「応ッ!!!」」」
こうして軍議を終わり、各々は持ち場へと戻る。残された孫策と孫尚香。
「雪蓮姉様はどうするの?」
「私は少し残るわ」
「………………わかった」
静かにその場を去る孫尚香。孫策は孫堅が座っていた椅子に座り、天井を見つめる。
「……お母さま」
その顔に一筋の雫が流れる……
〜孫権サイド〜
「……ハッキリ申し上げます。手遅れです」
今、私は母さまが寝ている部屋にいる。同席してるのは雷火と最近、文官として頑張っている
そして目の前にいる医者から、通告された現実に絶望していた。
「……どうにかならんか?」
「矢に毒が塗られておりました。これは触れたら即死するものではなく、ジワジワと身体を侵食させ、苦しみながら殺す毒です。下手に処置をするようなら逆効果で孫堅さまはもっと苦しむことになります」
「そんな……」
「この手のやり口は猟師などが動物を駆除するときに使うモノです。ですので、残念ながら……」
その言葉のほとんどが耳に入らなかった。先ほどまで私を励ましてくれていた母さまが汗をかきながら苦しそうな表情で寝ている。その現実についていけていない。
「………………」
「蓮華さま」
「………………」
「……亞莎、部屋を出るぞ」
「は、はい」
私に気を使ったか雷火と亞莎、それと医者はその場を離れた。情けない話だが、今の私は何も出来ない。そんな弱い自分が嫌になる。
「ダメなのはわかってるわ。けど……どうすれば強くなれるの?」
決心したと思った私の気持ちはまた崩れていた。怒りすらならないほどの悲しみ。立ち上がることも出来ない。
「…………ゥ…………ァ…………」
「………………」
今の私はただ、手を掴んであげることしか出来ない。母さまが苦しむ様子を見ることしか出来ない。
「わたしには……なにも…………できない……!」
悔しさのあまりに涙を流す。止めようにも止まらない。私は……どうすればいいの?
〜???サイド〜
「ガハハハッ! 今の孫呉なぞ敵ではないわ!」
やれやれ…………何故、ここまで強気でいられるのか、不思議でなりません。
この黄祖という男……凡人以下ですね。使いやすいと思い、利用しておりましたが流石に鬱陶しさも出てきました。
ですが……あの孫堅を仕留めたことを出来たのは褒めてあげましょう。
「黄祖さま。そろそろ戦が始まりますので……」
「おー! そうかそうか! ならば、頼むぞ…………
「お任せあれ」
この世界ではかなり歴史が変わっているようですし……潰しても問題はないでしょう。
さて皆さん……滅びの運命に抗ってみてください。楽しみにしていますよ?
〜孫策サイド〜
「もう準備が出来たの?」
「ああ。すぐにでも出陣可能だ」
冥琳の言葉を聞き、私は驚いた……ここまで手際がいいとは思わなかったわ。
「だけど、気をつけて雪蓮。みんな、怒りを抑えていないからね?」
「なら好都合だわ……抑える必要なんてない。思いのまま相手に立ち向かいなさい」
「そういうと思っていたさ」
私は友に恵まれている。もしも、冥琳や梨晏がいなかったらただの獣になっていたと思う。だからこそ感謝しないと。
「失礼します! 張勲さまがこちらにお見えになりました!」
「ほう……」
「通してあげて」
「はっ!」
そして姿を見せる張勲。いつもニコニコしているが今回は真面目な表情を見せている。
「袁術軍、愚賊である黄祖を討つべく、孫策軍に加勢致します」
「援軍、感謝します」
「…………どうやら哀しみより怒りを見せているんですね」
「ええ。本当に……初めてかもしれないわ、こんな気持ちで闘うのは」
「あら? 闘う気でいらしたんですね?」
「そういう貴女は?」
「駆除するだけですよ」
その言葉に感情などなかった。
「まぁ相手の動きは既に把握しておりますので、こちらはこちらで動きます。よろしいですか?」
「ええ。好きにやっても構わないわ」
「ありがとうございます」
そして張勲はその場を去ろうとした。しかし、一度、足を止め……
「…………これは美羽さまからの言葉です。私の言葉ではありません」
「………………聞かせて」
「頑張ってください……それでは」
そう言ってその場を去る張勲。それと入れ替わるようなに雷火と亞莎が入ってきた。
「雷火さま?」
「それに亞莎まで……蓮華さまは?」
「蓮華さまは今しばらく大殿の近くにいます」
蓮華……泣いてもいい。私の分までお願い。
「雪蓮さま……これを」
そう言って亞莎はあるものを私に渡す。それは紛れもなく母さまの剣、南海覇王であった。
「これは……」
「それと共に戦場へ駆けてくれ。頼む」
その言葉で私は理解してしまった。
もう……母さまは……
「冥琳……梨晏……」
「ああ……」
「行こう、雪蓮」
私たちは歩き始めた。皆が待つ場所へ。
我が孫呉に喧嘩を売ったこと……あの世で後悔してなさい。
こうして孫呉の復讐戦は幕を開く。
彼女らが待つのは望まぬ運命。目を向けたくない未来が彼女たちを修羅へと導くのであった……
〜寝室〜
「……もう、戦が始まってるのね」
孫権は今にも消えそうな声であった。孫堅の手を握りしめ、その場を離れない。
「将として失格ね……今の姿を見たら、母さまはなんて言うのかしら?」
どれだけ呟いても返事は返ってこない。それは孫権自身もわかっている。しかし、今の孫権は何も考えられない状況下であった。
「……………ァ…………ウ………」
孫堅も声こそ出ているが汗も止まらず、常に苦しい表情を浮かべる。それでも、彼女はまだ生きている。だからこそ、孫権の判断を鈍らせているのかもしれない。
「……母さま」
その時である。
「無様な姿だな………………孫文台」
「ッ!?」
突如、謎の声が聞こえてきた。孫権はすぐに声のする窓の方へと顔を向ける。
そこには……
「………………」
「貴方は……あの時の!」
誰しもが受け入れていた運命に抗うのは……“悪”と名乗る男であった。
やばい……本格的に悪役をやっていないぞ……これはマズイですね(汗
そしてすいません……もうちょっとシリアス先生は活躍します。
それでは!