~廃村・臧覇サイド~
「誰もいねぇな……よし。てめぇら! 此処を拠点とするぞ!」
「「「ヒャッハー!!」」」
どうもみなさん、臧覇です。最近失敗が続き、もしかしたら悪役に向いていないんじゃないかなと思っております。だけど、諦めたら試合終了という言葉を信じ、今も悪役をやっています。
現在、誰にも使われなくたったであろう村を見つけ、俺たちの拠点にしようとしている。
「棄てられた村ねえ……孫の姉御。この近くに賊はいないんでしたっけ?」
「此処は賊が最も嫌う場所です。その心配はないかと」
「嫌う? 何かいるんですかい?」
「まさか……妖!? やだもー! アタシ無理なんですよ兄貴! 一緒に寝てくださいよー!」
「…………この地は“飛将軍”の管轄となっております」
美花がそのワードを言った途端、部下たちは手を止め、大量の汗が出てくる。
飛将軍……つまり、三国最強でもある
「ひひひひ、ひ、飛将軍っ!!!??」
めっちゃビビってる。それも仕方なし。
「兄貴! 此処は退きやしょう!」
「命がいくつあっても足りませんよ!」
「兄貴はこんな場所で終わる人ではなくってよ!」
部下たちはそれぞれ自分の心配より俺の心配をしてくれる。いい部下たちだ。
しかし……
「落ち着けお前たち……飛将軍がいるからこそ此処を拠点にするんだ」
「「「っ!?」」」
そう。次のターゲットはあの呂布と決めていた。
これから董卓討伐が開始してしまうと蜀に取り込まれてしまう。比較的自由の身である今が最もくっころ時期と言っても過言ではない。
だからこそ今が狙い目なのだ。
「飛将軍がいるから……って、まさか兄貴!?」
「ああ。呂布を討ち、俺の名を天下に轟かせる時が来た!」
「「「う、うおおおおおおお!!!」」」
部下たちのボルテージは最高潮になり、大地が割れんばかりの雄叫びが響く。
「だがしかぁし!!」
「「「………………」」」
そんな雄叫びも俺の一声でピタッと止まるこの統一性。さすがは有能な部下たちだ。それをもう少しくっころのために使ってくれませんかね?
「この戦いは危険すぎる。正直に言うがお前たちでは大地に還ることになる」
「「「………………」」」
「ゆえに今回ばかりは俺1人で行うことにした。お前たちは此処を拠点として待機をしていろ」
「あ、兄貴1人っすか?」
「そうだ…………もし、数日経っても此処に戻らなければお前たちだけでも撤退しろ」
こればかりはどうしようもない。いくらチートを貰っているとはいえ、呂布さんの武力は計り知れない。もしかしたら負ける可能性だってある。だから、部下たちは連れていけない。
「……心配いりやせん! 兄貴なら呂布だって勝てやすって!」
「天下の大悪人と言わしめるために呂布を討つ。これ以上ない筋書きですね」
「信じてるわ。兄貴ならきっと呂布に勝って此処へ戻ってくると……そうだろおめぇら!」
「「「ヒャッハー!!!」」」
本当に良い子に育ちやがって……お父さん嬉しいよ。
けど、これって絶対悪役じゃないな、うん。
「美花。しばらくはお前がコイツらの親分だ。何かあったらお前に任す」
「承りました。ですが、私も皆と同様……御主人様の帰還をお待ちしております」
深々と頭を下げ、俺の無事を願う美花。なんでこの子、山賊やってるんだろ?
「それじゃあ俺は行く。てめえらもくたばんじゃねぇぞ!!」
「「「ヒャッハー!!!」」」
こうして俺は部下たちと別れ、1人で呂布を探すことになった。部下たちは最後まで俺に手を振っていた。
思ったけどアイツら普通に山賊向きの性格じゃねえな。誰に似たんだよ全く。
〜山奥〜
「美花の情報だと此処らで呂布が現れることだが……」
情報によるとこの山の中でよく呂布が入っていくのを見たとのこと。多分、動物関係だろうな。
とりあえず辺りを見回すがあるのは静かな風の音のみである。
「…………それにしても」
俺は悩んでいた。ターゲットは呂布さんと決めてはいたが、ある問題を抱えていた。
「呂布って……くっころするの?」
呂布さんは感情は表に出さない。そんな彼女がくっころしてくれるかも怪しい。しかも、とてつもなく強いのだ。どうすればくっころをしてくれるか……。しっかりと対策を練らんといけない。
「う〜〜〜〜ん…………」
動物を使うか? いや、それだけじゃあ意味がない。ならば
いくらか策を考えるが残念なことに何も浮かばない。今回ばかりは苦戦を強いられるな。
「ふぅ〜……」
俺は横になり、天を見つめる。
此処へ来て長い時が流れた。俺の目的は未だ達成されていない。しかし、何度かは惜しい場面もあった。通用していないわけではないのだ。だから俺は諦めない。必ずヒロイン全員のくっころを見てやるまではな!
「………………寝るか」
頑張ったって結果が出るわけではない。
果報は寝て待てという言葉があるようにたまには休むのも悪くないだろう。
「………………」
疲れも溜まっていたのか目を瞑っているとすぐに睡魔が襲ってきた。俺は抵抗もせず、すんなり睡魔を受け入れるのであった……
〜数時間後〜
「………………ん?」
目が覚めるとお月様が出迎えてくれた。少し寝るつもりだったが思った以上に寝てしまったようだ。
「んじゃ起きる……か?」
身体を起こそうとした瞬間、右半身に違和感を感じた。
とりあえずそちらに顔を向けると……
「………………くぅー」
幸せそうに居眠りをする呂布さんの姿があった。
「…………おんやー?」
この状況に脳が追いついていないのがわかる。
すまんな俺の頭脳さん。早速だが、フル回転で働いて貰おうか!
隣にいるのはターゲットである呂布さん。ゲーム通りの女性が俺の身体を抱き枕状態で使っている。此処で普通の主人公ならば慌てふためく様子を見せる。
しかし俺は違う。何故なら呂布さんを知っているからだ。大方、子犬のセキトと一緒に散歩している途中で俺と遭遇し、気持ちよさそうだからと昼寝をしてしまったのだろうな。ならば左隣にはセキトがいるはずだ。俺はゆっくりと顔を左に向ける。
するとそこには呂布さんと同じように気持ちよく寝ているセキトの姿が……
「よう……随分と気持ちよさそうに寝てたじゃねぇか」
あっ…………た……?
あれ? セキトって人間の言葉喋れたっけ? セキトってメスなの? というより俺の目には孫堅さんの姿に見えるんだけど?
………………………………
落ち着け俺。きっとこれは夢だ。悪だけに悪夢を見てるに違いない。
こんな時の対処法は……
「ぐ、ぐぅー」
もう一度寝ることだ。そうすればきっとこんな悪夢はすぐになくなるはz
「もう一度寝たら犯すぞ?」
「すんません勘弁してください」
もうやだこの人。クーリングオフ希望です孫呉さん。
「………………ん?」
そんなやりとりをしているうちに呂布さんも目覚めてしまう。右に呂布、左に孫堅。何このサンドイッチ? 胸焼けが凄そう。
「そこで居眠りしてる嬢ちゃん。オレはコイツに用がある。悪いがどっか行っててくれねえか?」
ホントに物事ハッキリ言う人だ。
だが、今回は俺的にも好都合。実は呂布さんの対策は何も出来ていない。だから此処で帰ってくれたらありがたい。孫堅さんは最悪逃げ切れるから大丈夫。
「…………やだ」
「ほう?」
呂布さん、まさかの否定。
「理由を聞こうか?」
「……わかんない。けど…………なんと、なく?」
なんとなくで孫堅さんに喧嘩を売る度胸。さすがは飛将軍様だね。
というより俺を挟んだまんま会話するのやめてくれませんか?
「そうかい……なら、覚悟は出来たんだろうな?」
「…………こっちの台詞」
そんな俺の気持ちを理解したのかお互いに立ち上がり、得物を取り出す。なんか今、少女漫画とかに出てくる“私のために争わないで!”みたいな気持ちです。
あれ? そうなると俺ヒロイン的な立場? ふざけんな!
「ちょっと待てええええ!!」
今にも勝負しそうな雰囲気に割り込みをかける。
「勝手に話し合って勝手に決めるな! 俺を誰だと思ってやがる!!」
「オレの想い人だ」
「それが勝手というんだよ! いいかよく聞け! オレはいずれ天下に名を轟かす大悪党の」
「…………悪党?」
キョトンとした顔で聞いてくる呂布さん。
「そうだ! それの何が悪い!」
「…………悪党……」
な、なんだよ?何が言いたいんだよ?
「お前…………悪党、向いてない」
「………………ッ!!!??」
その言葉は……どの刃物よりも鋭利であり、俺の心に突き刺さった。
「お前から……そんな匂い……しない」
「に、匂い?」
「悪いこと、する奴……いい、匂いしない……。お前……優しい、匂い……する」
淡々と話す呂布さんの言葉を聞き流す俺。というよりさっきの言葉のインパクトが強すぎて未だに困惑してるのだ。
「あん? お前、悪党になりてえのか?」
此処で孫堅さんも乱入。
「ならやめときな。そっちの嬢ちゃんも言ってたが向いてない。それにオレの勘だが……お前、未だに悪事働いてないだろ?」
「い、いや! それはない! 俺は山賊だ! こ、これまでだって数多くの悪事を働いた! 村だって襲ったぞ!」
この時は本当に襲った。しかし、そこは既に賊の配下の村だったので悪事三昧をしていた村だったというのを後で知る。
「だったら手配書の一つが出てもいいんだがな……それっぽいのはなかったぞ?」
「
「馬鹿な……俺は、俺はいずれ大悪党に……」
そうだ。きっとこれは俺を嵌めようする2人の策だ。そうに違いない……。ふん! そう簡単に惑わされてたまr
「お前…………悪党の、才能………全くない」
「なッ!!!??」
チートを授かった俺だが、心までは強くなかった。その言葉を聞いた瞬間、崩れるように膝をつく。
「俺は…………俺は…………」
悪党に……なれないというのか?
〜炎蓮サイド〜
なんか知らんが想い人は落ち込んでいる。
「……ふぅ。拍子抜けだな」
決してコイツに興味がなくなったわけではない。だが、今のまま抱いても全く燃えないだろうな。
「………………」
目の前の嬢ちゃんも武器を仕舞い、想い人に寄っていく。
「ソイツをどうするつもりだ?」
「…………連れて、帰る」
「………………」
普段なら反対するが、どうもオレの勘がそっちの方が面白くなると告げている。
なら…………。
「そうかい。なら、ソイツは任せた」
オレは面白い方に賭ける。
「…………わかった」
「オレの想い人を頼んだぞ。ソイツとの死闘はとても面白いからな。出来れば全力で闘えるようにしてくれ」
コクッと頷き、ズルズルと引きずりながら連れてかえる嬢ちゃん。あれが天下の呂布……ねえ。
さて、この選択はどう出るかな? まずは……一度帰るか。
「これからは楽しくなりそうだな……そうだろ?」
天に向かってオレは言葉を吐く。その答えは……オレも知らない。
感想読んでいくと孫堅さんの人気が凄いです。
ありがとうございました。