落第騎士の師匠《グランドマスター》   作:Wbook

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更新は…仕事のスケジュールと気力次第。

ただコレだけは言っておく。私はFGOのレアリティだけとは言え小次郎が武蔵に負けていることが激しく気に入らない…!!

H29.3/6…若干の修正を加えました。


本編
prologue


「——えっ!? イッキの師匠ぉぉお!??!?」

 

 

 学生騎士の頂点を決める戦い、七星剣武祭へ向けての強化合宿の最中。襲撃者たる、《風の剣帝》黒鉄王馬に敗れたことを機に、強さを模索していた時の話だ。

 降って湧いた衝撃に《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンは驚嘆の声を響かせた。その大きさたるや、目の前に居る《落第騎士(ワーストワン)》黒鉄一輝が思わず耳を抑える程である。

 

 しかし、ステラの気持ちも分からなくはない。

 彼女の聞いていた話と、たった今彼が口にした台詞が異なるからだ。

 

 

「う、うん……そうだよ、僕の師匠」

「で……でも、イッキは誰にも指導を受けなかったって言ってたじゃない?」

 

 

 事実として、一輝の剣には型が無い。

 正式な師がいるのならば、剣筋はそのように寄るはずだ。

 

 

「ああ、手ほどきは受けていないんだ。何度か仕合って貰っただけだよ。僕が勝手に師匠なんて呼んでるだけなんだ」

「勝手に? どうして?」

「剣の極限——究極の一、その一端を垣間見たから……かな」

 

 

 デタラメな身体操作と反則級の洞察力。およそ純粋な剣技に於いて、彼を上回る者などそうは居ない。

 実際、合宿中には模擬戦でプロの魔導騎士すら下し、一流の伐刀者(ブレイザー)で、生ける伝説とまで呼ばれる南郷寅次郎の腕前を以ってしても剣技に限定したなら千日手だ。

 

 その彼をして、“究極”とまで言わしめる人物の存在を知り、ステラは全身に酷い粟立ちを覚えた。

 

 

「限界というモノの無意味さを実感したよ。当の師匠は、さらなる上を目指すとまで言っている。勝負を挑み、そして敗れて以来、僕はあの人のことを師匠と呼んでいるんだ。憧憬と、全霊の畏怖を込めて……」

 

 

 最愛にして最強のライバル、彼がここまで持ち上げる人物が居る。

 純粋な興味もあるが、ライバルを取られたような気分でもあり、なんだか面白く無い。

 

 だからこそ、ステラは問う。

 

 

「その人、強いの?」

「強いよ」

 

 

 ノータイムで返ってくる解答にますます苛立つ。

 ならば……と、大人気ない、意地の悪い質問だと思いつつも。

 

 

「あの、エーデルワイスよりも?」

 

 

 世界最強の剣士、《比翼》のエーデルワイス。現時点において、誰一人として届くことが出来ない頂点の一つ。

 事実……合宿中に出会った一輝は、圧倒的な実力を前に危うく命を取られかけている。

 

 

「……難しい質問だね。だけど、師匠なら或いは……彼女と相対した時、そう思ったよ」

 

 

 その答えに、ステラは何故だか頭に来た。

 ステラ自身も理不尽だとは分かっていたが、どうにも感情的になってしまったのだ。

 

 

「だったらその師匠の剣を“模倣剣技(ブレイドスティール)”で真似れば、エーデルワイスにだって喰い下がれたんじゃないの?」

 

 

 一輝の剣技である模倣剣技(ブレイドスティール)は、その名の通り相手の剣術流派そのものを盗むもの。しかも単に盗むだけでなく、あらゆる面でオリジナルを上回る即席の剣術を作り上げるのだ。

 

 だというのに……エーデルワイスには歯が立たず敗れ去ったというのに……自分の師はソレに匹敵すると言う。それではステラは納得できない。

 何度か仕合いをしたと言うのならば、たとえ実力差が大きいとしても一輝ならば見極められない道理は——。

 

 

「無理なんだ」

「え……」

 

 

 断ずるが如き言葉に、ステラは思わず言葉を詰まらせた。

 

 

「師匠の剣は僕にも見切れない。全く同じ軌道のはずの太刀筋……それなのに、何度繰り返されても剣閃の一つすら見極められなかった。立ち合ったのも一度じゃない、三度戦い——三度とも同じように敗れた」

「そんな……」

 

 

 剣を合わせただけで相手の動きどころか流派そのものを看破。あまつさえ人物そのものすらも見通し、一部では《無冠の剣王(アナザーワン)》と謳われる黒鉄一輝に全く見切れない剣など、本当にあるものなのか。

 

 

「ステラ。僕はこれから師匠のところにいく。そこに君も来ないか。……君が求める強さの答えになるかは分からないけど……彼は間違いなく、この世界の頂点の一人だよ」

 

 

 “観察”という技術を一輝ほど習熟した人物をステラは知らない。彼の洞察力は照魔鏡とすら例えられる。

 その一輝が見切ることすら不可能な斬撃。それを放てる剣士の存在。

 世界の頂点。その言葉には、確かに興味を引かれている。

 

 七星剣武祭まで残り十日。無駄には出来ない。強大な存在との出会いは、果たして自分にとってプラスとなるのかどうか。

 

 

「何者なの、その……師匠って……?」

 

 

 エーデルワイスが、明確に世界最強と名乗りをあげる世界において。一輝一人の証言ではあるものの、彼女に匹敵し、また一輝にすら見切れない秘剣……否、或いは“魔剣”を使う剣士が居ると言うのだ。

 

 それほど巨大な存在が埋もれるばかりでこの世界の何処かに潜んでいるというのは、不可解を超えて、ある意味不気味ですらあった。

 

 しかも、よりにもよって自身の最愛がソレに魅了されている。気が気でないというのが、今のステラの心情だ。

 たとえ強さを追い求めて迷走していたとしても、一輝のことを頭から取り除くことは出来ない。手放しというのは不可能だった。

 

 

「……本当のところは分からないけど、彼は自分のことを何のこともない単なる世捨て人だと言っていたよ。実際、普段は人里離れた山奥の小屋で過ごしている。時折フラッと街に降りるようだけどね。戸籍も無いそうだ」

 

 

 世捨て人どころではない。俗世から孤立している。

 であれば、表の世界で知られていないのも理解は出来なくはない。甚だ怪しい話ではあるが。

 

 

「だから当然、伐刀者(ブレイザー)ではあっても魔導騎士じゃない。ランクも恐らく、僕と同じFランク相当だ。それと……名前、なんだけどね。その……」

 

 

 自身と同じ境遇でありながらエーデルワイスに匹敵するというのなら、確かに彼が憧れるのも分からないでは無い。納得は出来る。

 しかし、そこまで語っておきながら、名前程度で躓くのはどういうことなのか。

 

 

「——佐々木小次郎、らしいんだよね……」

「……はぁぁあっ!?」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「——っくしゅん!!……やれやれ、何処ぞで噂でもされたのか……。まあ、私の噂をする者など限られるが……」

 

 

 理屈は解らない。

 

 七騎の英傑による凄絶なる殺し合い……その果てに、気づけば辿り着いていた、自身の知る浮き世ならざる浮き世。

 人外の戦力が跋扈する、過剰なる強さを良しとする異なる世界。

 

 間も無く、自身もそれら人外と同じ土俵に放り込まれていたことを知った侍は。

 

 それもまた、良し。

 

 まだ見ぬ強者を、まだ見ぬ剣戟の極致を。

 再び与えられた機会。三度あるとは到底思えず。

 

 ——故に侍は、ただ一本の刀を以って。


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