超超高校級の78期生 作:天星
ビデオの記録が途絶えた後、あったかもしれない物語です。
江ノ島盾子は落ちる。
薄暗く、深い穴へと、落ちて行く。
それは時間にしてほんの十数秒だったはずだが、彼女にはその何倍にも感じたであろう。
落ちた先にはクッションといくつかのリモコンが置いてある。
こうやって自分に対するオシオキを事前にきちんと準備していたという事は、彼女自身も心のどこかで敗北を確信していたのかもしれない。
これから彼女が彼女に行うオシオキは言葉にすれば簡単だ。
すなわち、「今までのオシオキの全て+用意しておいた最後のオシオキを行う」という物だ。
江ノ島盾子も一般人基準では人外と言えなくもない能力を持っているので、普通のオシオキであればある程度は生き残れる。しかし、これから行うのは最初に予定していた温いオシオキではなく、本物の人外用にバージョンアップした物だ。
それを人外基準で見たらただの凡人である江ノ島が受けたら……容易く死を迎える事になるだろう。
まずは1000本ノックだ。
本来なら対象者を磔にするのだが、色々と面倒なので椅子だけ用意しておいた。これなら自分が倒れて球が当たらなくなる心配は無いだろう。
「それじゃ、始めましょうか」
ピッチングマシーンの電源が入り、グオングオンという不気味な唸り声を上げる。
数秒経過して安定状態に入ったのであろう。キィィンという甲高い音に変わる。
この場には江ノ島盾子以外には誰も居ない。この処刑を止められる者など、この場には居ない。
そして、最初の一発が放たれ……
ドグシャァッッ!!
……る前にピッチングマシーンが粉々に砕け散った。
「…………は?」
今、何が起こったのか。
理解し難かったが、その現象を目の前で見ていた江ノ島盾子には察しがついていた。
一瞬だけ見えたピッチングマシーンに襲いかかる影。
そう、あれは超超高校級の御曹司のスタンドではなかったか?
「っっっ、ふざけんじゃないわよ!! 最後くらい自由にやらせなさいよ!!
アンタっ! 隠してある10兆円あげるから邪魔するんじゃないわよ!!」
そう怒鳴りつけるとこの場から気配が去っていったような気がした。
ピッチングマシーンは壊れてしまったので一つ目のオシオキは断念して次に行く。
次のオシオキは回転車だ。
江ノ島は自分の手で回転車の蓋を開け、中から厳重に閉める。
今度こそ成功させられるだろうと震える手でスイッチを押して装置を起動させる。
最初はゆっくりとした回転、しかし段々と強くなって行き、最後は遠心分離機のように……
ズガガガガガッ!!
「ちょっ、何!?」
彼女からは突然壁が弾けたように見えただろう。
しかし実際には超超高校級の野球選手が適当な物を江ノ島の居る部屋に投げつけて部屋の中にある物を破壊したのだ。
彼が投げた物の一つは回転車の車軸を正確に捉えており、江ノ島は吹っ飛ばされた。
「痛っ、つ、次よ!!」
それでも彼女は諦めない。諦めずにオシオキを完遂しようとする。
回転車を修理する事は不可能だと判断して次に移行する。
次のオシオキは火あぶりと消防車だ。
自分を磔にするのは面倒なので、木の十字架によじ登ってから黒い炎を放つ。
以前は超超高校級のギャンブラーにあっさりと消された黒い炎だが、彼女はこの場には居ない。
これで、ようやく成功させられる。そんな事を思いながら江ノ島はゆっくりと目を閉じた。
…………
……そして、目を開け、ゆっくりと下を見下ろした。
「……は?」
黒い炎が、途切れている。
上昇気流で上ってくるはずの熱気は一切感じられず、まるで見えない壁でもあるかのように遮られている。
そんな様子を呆気に取られて眺めていると黒い炎の横方向からも見えない壁に圧迫され、しばらくすると完全に消え去った。
「……はぁぁぁぁっっっっ!?」
さて、ここである人物、超超高校級のスイマーの能力について説明しておこうか。
彼女はスイマーであり、水と慣れ親しんでいる。故に水を操作する事が可能。
そしてその能力は水だけに留まらずあらゆる流体にまで及ぶ。
……もう分かっただろうか?
彼女は空気を操作して黒い炎を断熱し、空気の供給を断つことであっさりと黒い炎を消したのだ。
「っっっ! 次っ! 消防車!!」
江ノ島がスイッチを押すとどこからともなく魔改造された消防車が走ってくる。
それはどんどん加速していき、江ノ島を跳ね飛ばそうとする。
消防車が目の前に迫り、江ノ島は死を覚悟した。
その直後、轟音が鳴り響いた。
……そして、彼女が目にしたのは大穴が開いて横転した消防車だった。
「……はっ、はははっ……」
消防車を葬ったのは超超高校級の文学少女なのだが、詳しい説明は後書きにまわしておく。
江ノ島は目の前の惨状に頭がおかしくなりそうになりながらも惰性で次のオシオキを始める。
本来なら重機たちを使ったオシオキなのだが、残念ながら格闘家の肉体により全てが使い物にならなくなってしまったのでパスして次に行く。
最後のオシオキ。それはプレス機で対象をペチャンコにするというシンプルなオシオキだ。
実際には恐怖を煽る為に色々と小細工を施してあるのだが、面倒なので割愛する。
「これで、最後」
江ノ島はプレス機の真下まで歩く。
そして、スイッチを押して装置を起動させる。
人体はもちろん、ほとんどの物を壊す事ができる威力を持つ鉄塊が江ノ島へと襲いかかる。
そして……
「間に合った!!!」
幸運の少年がそこに割り込む。
彼に巻き込まれるなどという不運は存在しない。プレス機が突然停止……するだけでなく爆散して二度と使い物にならなくなった。
「アンタ……どうして最後まで私の邪魔をするのよ!!
最後くらい……死ぬ時くらい好きにさせなさいよ!!!!」
「それはできないよ。君を死なせるわけにはいかない」
「はぁっ!?」
「だってさ、ここで君が死んじゃったら『誰も死ななかったコロシアイ学園生活』が達成できないじゃないか」
「……あ、アンタ、バカにしてんの!?」
「至って大真面目だよ。これが僕の考える最高の勝利だ。君が死んじゃったらせいぜい引き分けになっちゃうよ」
「わ、私は超高校級の絶望なのよ? ここで生かしておいたら今後どうなるか……」
「別に構わないよ。何度でも挑んでくればいい。
その度に、誰も死なないように立ち回って見せるさ」
幸運の少年のその言葉は、恐らく真実になるだろうと江ノ島は予感していた。
今後、何らかの虐殺を試みても超超高校級たちが立ちはだかり、失敗に終わる。と。
「もう……嫌だ。嫌だよ」
絶望を撒き散らす事もできなければ、死んで楽になる事も許されない。
江ノ島盾子の心は壊れかけていた。
「……辛いかい? いや、聞くまでもないか」
「…………」
「僕達はもう行くよ。そろそろ正門も開いてるだろうから」
「…………」
「僕達が居なくなった後なら、自殺を止められる人は居なくなる。けど、これだけは忘れないで欲しいんだ」
「…………」
「ここが、今ここにある現実が君にとっての最低辺なら、後は上がるだけなんだ。
「…………」
「忘れないで。周りの全てが絶望だからこそ、その絶望は君を進ませる事ができる。『絶望は前へ進むんだ』」
「…………」
「それじゃあ、縁があればまた会おう」
そう言い残して幸運の少年は去って行った。
他の超超高校級達もきっと正門から去って行ったのだろう。
監獄と化していたこの学園に残っているのは今や江ノ島盾子と……
「盾子ちゃん! 大丈夫!?」
……彼女の姉である、超高校級の軍人だけだ。
「……なんだ、残姉ちゃんか」
「怪我は!? どこか痛い所は無い!?」
「……私は、心が痛いよ」
「うぅ……外傷ならともかく心の傷は私には治せないよ……」
「……少し、一人になりたい。どっか行ってて」
「うん……あの、でも……」
「ハァ、ひとまずは自殺なんてするつもりは無いから、安心しなさい」
「……うん。飲み物とか取ってくるね」
「…………
「え? 何か言った?」
「何でもないわ! サッサと行きなさい!!」
「う、うん、ごめんね」
軍人を見送って、江ノ島は考える。
「……ここが最低辺、か。
いいでしょう。私のやり方で、お前たち人外どもに、吠え面をかかせてやる」
そして彼女の聡明な頭脳は再び回転を始める。
この後の無限の未来を見据えて……
超超高校級のスイマー
『流水の共鳴者』と謳われた人外級のスイマー。
流体を操る能力を持っており、日常生活でも役に立っている。
元々は空気中でも泳げるというだけの能力だったはずだが、インフレの結果こうなった。(元も十分に人間辞めてるけど)
彼女の凄さを一言で表現すると『カムクラ君が裸足で逃げ出すレベル』
超超高校級の文学少女
『叡智の統括者』と謳われた人外級の文学少女。
一度見たあらゆる書物の内容を全て把握している。
その中にはマジモンの魔導書の類も10億3千万冊くらい存在し、人工衛星を撃ち落とすくらいなら朝飯前である。
彼女の凄さを一言で表現すると『カムクラ君が裸足で逃げ出すレベル』
超超高校級の占い師
『真理の観測者』と謳われた人外級の占い師。
本人曰く、99割当たる占いができるとの事だが、本作では最後まで生かされる事は無かった。
実際には度々使用しており、最初の事件以外では真っ先にクロを看破したりしていたのだが、彼がそんな事をするまでもなくあっさりとクロが割れた為に脚光を浴びる事は無かった。
彼の凄さを一言で表現すると『カムクラ君が裸足で逃げ出すレベル』
占い師が最後まで出せなかったけど、占い師だから仕方ないね♪
今回の話は正史として扱っても構いませんし、後世の創作として扱っても構いません。
ノリと勢いで始めた本作なので、動機等の設定がガバガバです。本話はあくまで解釈の一つくらいにお考え下さい。
今日はあと一つ投下します。