超超高校級の78期生 作:天星
以上が、現在残っている『希望ヶ峰学園78期生 コロシアイビデオ』(通称、コロシアイ(笑)ビデオ)の全てである。
この後の江ノ島盾子、及び戦刃むくろがどうなったのか、正式な記録は存在しない。終わりの場面を見る限りでは戦刃むくろは普通に生き残ったと思われるのだが、その後の歴史で彼女が活躍した記録は無い。人外たちのせいで霞んでいただけかもしれないが。
超高校級の絶望と呼ばれた江ノ島盾子が生存したかどうかは現代の学者たちの間でも意見が分かれている。
死亡派の主張は以下の通りだ。
・この学園生活の後、世界は急速に再生を遂げている。全世界に絶望を齎した存在が生存していたらそう簡単に再生などできない。
・プライドの高かった江ノ島盾子が自分へのオシオキをおろそかにするとは考えにくい。
・仮に生き残ったとして、超超高校級達が見逃すとは考えにくい。
等など
それに対して生存派の主張は以下の通り。
・江ノ島は超超高校級達に完全に心を折られたから妨害が無くてもおかしくない。
・江ノ島自身が全力でオシオキを行ったとしても超超高校級が止めに入れば完遂はまず間違いなく不可能である。
・そもそも超超高校級には江ノ島を殺す動機が薄い。
等など
両者の主張には『江ノ島と超超高校級が敵対関係にあったか否か』という点における解釈の違いが如実に出ている。実の所、超超高校級が江ノ島に殺意を抱いていたなら間違いなく死んでいるが、彼女の死を忌避していたとしたら間違いなく生存しているという意見だけはほぼ全ての学者が同意している。歴史に名を残した人物の生き死にが僅か14名の学生の意志一つで決まるというのも凄い話だが。
これはあくまで筆者の見解だが、超超高校級たちは江ノ島盾子に対してそこまで悪感情は抱いていなかったのではないだろうか?
もし殺意を抱いていたのなら落とし穴に落ちる様を見守るような事はせずにとっ捕まえて自分の手で凄惨な殺害を試みそうなものである。
そもそもの前提として、超超高校級達は江ノ島に大したことをされていないのだ。強いて挙げるのであれば第一の動機と第二の動機であるが、第一の動機が発表された時の映像を詳細に解析すると半数以上が鼻で笑い飛ばしていた事が判明した。人外は知り合いまで人外であったのかもしれない。唯一取り乱していたのは超超高校級のアイドルだけだが、それも実は演技であったとする説が主力である。第二の動機については発表されてから数時間で事件が発生した為、外の世界への情報流出を恐れて悶々とする時間が極めて短かった。そして結局は流出しなかったので殺意を抱くほどでもないだろう。居たとしてもせいぜい2~3名だと思われる。
しかしながら、『悪感情を抱いていなかった=江ノ島をオシオキから救い出した』という式は必ずしも成立しない。よってこの点で江ノ島盾子の生存を断定するのは不可能だと結論付ける。
また、この学園生活と江ノ島盾子に関わる2つの興味深い説が存在する。
その2つの説とはすなわち『幸運(探偵)黒幕説』及び『深淵の救済者=江ノ島盾子説』である。
前者から説明していこう。
希望ヶ峰学園で行われた件のコロシアイの真の首謀者は実は苗木と呼ばれていた超超高校級の幸運の少年であるという説だ。
実際には幸運ではなく探偵が黒幕、影の薄かった占い師が黒幕等の説もあるのだが、尤も有力なのは幸運黒幕説なのでこれについて考察する。
仮にこの説が真実だったとして、その動機は何か?
それは、江ノ島の目的である『絶望を発信する事』の逆、『希望を発信する事』である。
絶望の親玉が人外達に翻弄される姿を見せつける事で外の絶望勢力の心を折り、希望を鼓舞する為だったのではないか、と。
江ノ島の計画を乗っ取った具体的手順は不明だが、人外ならどうとでもなるであろう。
さて、仮にこれが真実であった場合、果たして江ノ島盾子は自殺できるであろうか?
彼らなら『コロシアイ学園生活なのに人が一切死なない』という状態を作りだし、黒幕である江ノ島さえも殺させないのではないだろうか?
これに対する死亡派は『仮に幸運が黒幕だったとして絶望の親玉を殺して締める事こそが完全な成功だろう』と反論するが、超超高校級のいずれかが真の黒幕であるという説に対しては目立った反論は無いのが現状である。江ノ島があの人外たちを御するよりもそちらの方が現実的だという事だろう。どちらも荒唐無稽な事には変わりないが。
念のため言っておくと、江ノ島盾子が落とし穴に落ちた後の映像記録は残念ながら確認されていない。超超高校級たちが意図的に隠したのか、それとも江ノ島盾子が記録を止めたのか。疑問は尽きない。
続けて、後者の説について説明しよう。
これについてはまず、『深淵の救済者』について説明しなければならない。
彼、ないし彼女は件のコロシアイ学園生活が終了して少し後から各地の記録に姿を現す謎の存在である。
仮面か何かで顔を隠しており、声もボイスチェンジャー等を使っていたらしく、男か女かさえハッキリしない。
おまけに人数さえはっきりせず、同時期に全く別の場所で目撃されるなどという事もザラである。当時の人間の創作だったのではないかとまで言われている始末だ。
さて、この人物がやった事は簡単だ。その称号が示す通りに、人類の救済を行っていた。記録が真実であると仮定するならその活動は非常に多岐に渡る為、この場では割愛させてもらう。
この謎の人物が実は江ノ島盾子だったのではないかという説が存在するのだ。
何をバカな事を、と思うだろう。世界を混乱に陥れた張本人が今更人類を救済するなど、と。
しかしながら、当時そんな活動をできる能力がある人間は彼女くらいしか考えられないのだ。勿論、超超高校級たちにも可能だと思われるが、彼ら彼女らの行動に関しては正確な記録が残っており、『深淵の救済者』の軌跡とは殆ど接触していない。
私の友人であるこの説の信奉者は『人外達に心を折られた江ノ島は人外達に勝つ為に彼らよりも優れた復興をしようとしたのだ』というロマンの溢れる持論を展開している。
もしそんな事が起こっていたのだとしたら、江ノ島盾子を改心、いや、絶望から救済する事こそが超超高校級の目的だったのかもしれない。
……なんて事を考えてしまうのは、ロマン溢れる私の友人に毒されてしまっているせいかもしれない。
当時、彼ら彼女らが何を思って行動していたのか。今後新たな資料が見つかる事を期待しよう。
今回出てきた二つの説はあくまで説という事にしておきます。あくまで「こうだったら面白いな」くらいのものであって、全く別の解釈でも構いません。
では、また10分後に。