超超高校級の78期生 作:天星
江ノ島が投了してから数分後、体育館には16人の高校生たちが揃っていた。
何だかんだ言って生身の人間が16人揃うのは原作でも無かったレアな展開だ。
「ご、ごめんね盾子ちゃん。わ、私……」
まず口を開いたのは今までずっと江ノ島に変装していて、つい先ほど探偵の手で変装が解除された超高校級の軍人だった。
与えられた使命を果たせなかった後悔故だろうか? その表情は深い絶望に染まっていた。
「……いいんだよ、お姉ちゃん。やれる事はやり切った」
そんな彼女に対して江ノ島盾子はねぎらいの言葉をかけた。
最初は捨て駒であったはずの軍人に対してそんな言葉をかけられたのは彼女の成長の証なのかもしれない。
「皆さん、お久しぶり、そして初めまして。
私がこのコロシアイ学園生活の首謀者である江ノ島盾子です」
江ノ島盾子は語る。その語らいを邪魔する者は居ない。
「さて、私がこの学園生活を企画したのは、ここから絶望を発信し、外の世界を絶望に叩き落とす為でした」
「しかし、あなた達は決して絶望しなかった。私を嘲笑うかの如く、予想も付かない方法でコロシアイを回避し続けた」
「……あなた達みたいな人外に分かりますか? 私が感じた無力感を。私が感じた絶望を」
「ええ、認めましょう。完全に私の負けです」
「誰一人殺す事もできず、誰一人絶望させる事もできなかった」
「脱出スイッチは一応ここに置いておきます。必要ない気がしますが」
こういう言い方をすると語弊があるが、彼女は絶望していたのだ。
彼女の世界には予定調和しか無かった。
彼女は天才と呼ぶに何ら不足の無い才能があった。それ故に世界は彼女にとっては酷く単純でつまらないものだった。
人類の希望になれる才能、永遠の予定調和。それは一人の少女を絶望へと変えたのだ。
しかし、今の彼女の瞳には予定調和など映っていない。
そこにあるのは世界の理不尽さ。規模こそ違えど普通の人間であれば誰もが遭遇するような理不尽がそこにはあった。
彼女にとって初めての理不尽を受けた。
それは耐性の無い者の心を折りかねないものだ。
故に彼女は絶望した。
予定調和だからこその絶望とは全く異なる、先が見通せない、混沌だからこその、絶望。
「……ところで、学級裁判ですが、本当は殺人事件のみに対して行う予定だったんですよ」
「でも、殺人なんて結局殆ど無かったですね」
「最初の事件で人が死んでなかったと聞いて咄嗟にルールをねじ曲げました」
「結局は器物損壊罪如きで裁かれるようなルールに変わってました」
「だからきっと、こうするのが正しいんでしょう」
その時の彼女の表情はとても寂しそうで、悲しそうで……
そんな表情を浮かべたのは彼女にとっては初めての事だった。
「盾子ちゃん、まさかっ!」
「……オシオキ。開始」
彼女がそう宣言すると同時に彼女が立っていた床に穴が開いた。
計画の初期段階では体育館で軍人を落とし穴に落として見せしめにする案があったので、その時に用意した代物だった。
本来ならこの穴の出口は地下牢だ。しかし、事前に操作しておいたので別の場所へと繋がるようになっている。
超超高校級達も何度も見た空間、地下のオシオキ場に。
そう、彼女は幕を下ろすつもりなのだ。
この事件の首謀者である彼女自身を裁く事によって。
「盾子ちゃぁぁぁぁんんん!!!!」
彼女が穴に落ちる瞬間に一瞬だけ見えた彼女の姉の必死な表情を、彼女はきっとその命が消え去るまで忘れなかったのだろう。
これで一応は本編完結です。
次回の投稿は明日、
・後世の歴史学者の研究レポート
・あったかもしれない物語
・キャラクター紹介等
以上、3本をそれぞれ21:00、21:10、21:20に予定しています。
では、また明日!