超超高校級の78期生   作:天星

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勝利を求めて

 結局、オシオキによる処刑は失敗した。

 失敗するだけに留まらず以前よりも強くなってるらしいので格闘家を殺す事はもう絶望的だろう。

 

「ははは、あっはっはっはっ……どうしろってのよ!!!」

 

 江ノ島盾子は理解した。人というものはもう涙すら出ないくらいにどうしようもなくなると笑いがこみ上げてくるのだと。

 

「アハハハハハ、もう絶望だ、絶望的だ」

 

 江ノ島は混沌とした絶望を信奉しているが、ここまで絶望的だと少々受け入れ難いようだ。

 まあ無理もなかろう。彼女が作ったり経験した絶望は所詮は人の手によるものなのだから。

 並の人間であればそろそろ精神が崩壊していてもおかしくはない。だが、江ノ島盾子は幸か不幸か並ではなかった。

 

「…………ふぅ、少し落ち着いた。

 さて、どうやってやろうかしら」

 

 ひとしきり笑った後、彼女は立ち直った。その顔には挑戦者の表情を浮かべていた。

 

「今回の裁判の後、いつも通りにフロアを開放。

 その5階は最上階。行き止まりだ。

 開放できないならできないで構わないけど……これが最後ってくらいの意気込みでやろう」

 

 次の1回。次の事件で決着を付けると彼女は決断した。

 背水の陣で、彼女は挑む。

 

「ルールの範囲内で、手段は選ばない。

 こっちの勝利条件はあの人外どもに絶望してもらうこと、それが達成できなければ敗北。

 その手段は『コロシアイ』。あいつらの手で誰かを殺させる、あるいはクロを処刑させる事。

 だけど、殺してもあいつらはほぼ間違いなく生き残ってくる。ちゃんと死ぬ事が確信できるのは16人の中では私と残姉ちゃんだけ。

 そして黒幕である私を殺してもそこまで絶望しない。ちょっと悪いけど残姉ちゃんには上手く死んでもらおう」

 

 その顔には苦渋が浮かんでいた。

 それも当然だろう。この人外が跋扈する校舎の中で自分以外の唯一の人間だ。情が湧くのは極めて真っ当な自然の摂理である。

 だが、彼女は勝つと決断していた。何を犠牲にしても絶対に勝つと。

 

「となると残姉ちゃんが殺すパターンか殺されるパターン。

 まず殺すのはできる? あの人外相手に?

 ……仮死状態とか、そういうのにする前に撃退されそう。

 となると、殺されるパターン?

 撃退死なら割と簡単かもしれないけど、相手にそこまで罪悪感は湧いてこないかもしれない。

 何か別の方法で、例えば何かの誤解とかで殺されてくれれば『何の罪もない一般人を殺してしまった』という事になって絶望してくれるはず」

 

 一応言っておくと、残姉ちゃんこと超高校級の軍人は絶望陣営の人間だ。

 しかし、人外どもの中では『幸運のみが内通者=それ以外は内通者ではない』という事になってるはずなので一般人と認識されるだろう。

 

「誤解で殺させる…………

 …………よし、決めた」

 

 こうして、江ノ島盾子のこの学校での最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 いつも通りに全員を体育館に集める。

 ちなみに、超超高校級の噛ませは「俺の時間が欲しければ先にそれに見合う金を払え」と言ってきたので100万円の札束を投げつけておいた。

 15人が揃ったのを確認してから口を開く。

 

『え~、オマエラ、おはようございます!』

「おはようございます!!」

 

 いつも通りに風紀委員が挨拶を返し、他の人は突っ立っている。

 だが、きっとこの光景も最後になるのだろう。

 そんな事を思いながら江ノ島は昨日用意した追加ルールを伝える。

 

『まず、今回もフロアを開放したよ。

 で、見れば分かると思うけど、この建物は5階で最後だ。もう公開するフロアは無い。

 だからね、次で最後にしようと思うんだ』

「最後? どういう事だい?」

「どういう事だ、説明しろモノクマ!」

『はいはい焦らない焦らない。

 まず、オマエラの勝利条件についてだよ。

 この事件の『黒幕』を殺す事。それができれば君達は開放される。

 一応言っておくと、黒幕は学校内に居る高校生のうちの1人だよ』

「なるほど、で、敗北条件はあるのかな?」

『うん、勿論だよ。

 オマエラが勝利条件を満たすまでに、この学校の中で誰一人として死亡してはならない。だよ』

「当てずっぽうで殺しまくるのを防ぐ為のルール……かな?」

『まあそんなとこだね。あと、自殺の場合は構わないよ』

 

 勝利条件は黒幕を『殺す』事なので黒幕が勝手に死んだ場合は勝利条件を満たさないのだが、そんな逃げの一手は使わないと決めていた。

 あと、このルールだと黒幕陣営2人が殺し合えば敗北条件が満たされるが、そんな勝ち方をしても意味が無いのでやらない。

 

「……一度殺した後に生き返っても敗北条件は満たされるの?」

 

 これは……どうしたものだろうか?

 普通だったら『生き返る』なんて単語は出てこないはずなのだが、人外だから侮れない。

 これは満たされる……いや、絶望陣営は人外ではないから何かの拍子に事故死してしまうかもしれない。最悪の場合、威圧されただけで心臓が止まる……とか有り得そうだ。

 それはそれで絶望だが、流石に理不尽だろう。ではこうしよう。

 

『……10秒以内に蘇生したらセーフにしておくよ。

 但し、黒幕を殺したかどうかの判定もしないからね』

「もし黒幕だったらモノクマが止まるから分かっちゃうんじゃないの?」

『ボクは高性能だからね! 1日くらいならモノクマブレインの力で自然に動けるよ!』

 

 さて、これでルール説明は終わった。

 最後に、動機の発表に移る。

 

『では、最後に黒幕についてのヒントをあげるよ!

 ヒント1・黒幕は江ノ島盾子さんです!!』

「…………あっ、えっ!?」

 

 その具体的なヒントを聞いて、その場に居たほぼ全員の視線が江ノ島盾子……の姿をした超高校級の軍人へと集まった。

 

 

 言うまでもなく、超高校級の軍人は黒幕ではない。

 この学校に入ってからというもの特に何の仕事もしてないただの一般人である。

 この一般人を濡れ衣で殺すような事があれば絶望的だし、前回説明したルールに則っても人外どもの敗北である。

 

 江ノ島だってたったこれだけの言葉で騙されてくれるとは思っていない。

 まず疑惑を植え付け、状況証拠を少しずつ並べていく事で殺される。

 それが理想の展開だ。

 

『ま、そういうわけで今回は解さ……』

「なら、黒幕かどうか試してみましょうか」

「ヒャッハー!!」

 

 解散する前に2人の人……じゃなくて人外が動いた。

 超超高校級の探偵はどこかで見たことあるような包丁を片手に軍人に突進。

 超超高校級の文学少女……じゃなくて殺人鬼の方もどこからか取り出したハサミを両手で1本ずつ構えて軍人に突進した。

 

「えっ、ちょっ、待っ!!」

 

 軍人の制止も虚しく、2人の人外は一切躊躇うことなく凶器を振り下ろした。

 

『…………え?』


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