超超高校級の78期生   作:天星

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内通者

 江ノ島盾子は考え込んでいた。

 どうしてこうも上手く行かないのか。

 どうして誰一人死者が出ないのか。

 

 その原因として一番大きいものはやはり連中の並外れた生命力だろう。

 ナイフや鈍器などで致命傷を与えても死なない連中が確認しただけで2名、それ以外にも居そうだ。

 攻撃そのものを弾いてしまう連中も居る。ダメージを与えられれば殺せるかもしれないが、そもそもダメージが入らない。

 故に生半可な方法で殺す事は不可能なのだ。

 

 そしてもう一つ、大きな理由がある。

 それは、連中の結束が強い……とまでは言わないが、全く仲違いしていない事だ。

 これだけクセの強い連中が集まったらほぼ間違いなく些細な事で仲違いして、この状況もあいまってコロシアイへと発展するはずなのだ。

 つまり何が言いたいかというと、連中は本気でコロシアイをしていないという事だ。

 最初の事件だってあの野球選手が本気で確実に殺そうとしていれば殺せていた……かもしれない。三回目の事件では同人作家を殺そうとしていれば仕留められていた可能性が高い。

 

 この2つの理由がマッチする事でこの『誰も死なないコロシアイ』という異常事態が出来上がっている。

 ……であれば、次の動機はアレにするとしよう。

 

 

 

 生徒たちを再び体育館に呼び集め、モノクマが壇上に立つ。

 

『え~、オマエラ、おはようございます!』

「おはようございます!」

「何の用だ? 次からは先払いで払え」

 

 風紀委員が律儀に挨拶を返し、御曹……噛ませが文句を言う。

 それを華麗にスルーして、モノクマは宣言する。

 

『まず、ちょっとしたルール変更ね。

 もしクロが被害者でも、生き残ってた場合にはキッチリとオシオキするから、ヨロシクね~』

 

 前回の事件を反省して新ルールを追加する。

 理不尽にルールを覆すのはあまりよろしくないのだが……これくらいは理不尽ではないだろう。少なくとも人外どもの方が数百倍くらい理不尽だ。

 

『それと、恒例のフロア開放だよ~。ついに4階だね。脱出口がある可能性が以下略だよ~』

「どうせ暇だから行くけどさ」

 

 幸運の少年やその他数名が踵を返そうとするが、モノクマから待ったがかかる。

 

『ちょ~っと待った! 今回はそれだけじゃないんだよ!』

「まったくもう、忙しいから早くしてね」

『いや、さっき暇だって言ったよね!?』

「だから、暇に過ごすのが忙しいんだよ」

『どんな理屈だよ!! って、そうじゃなくて……』

 

 わざとらしくタメを作ってから、モノクマは宣言する。

 

『ななな何と! 皆さんの中に誰か1人だけボクに協力してくれている内通者が居ます!!』

 

 一応説明しておくと、嘘は言っていない。

 真っ先に退場するはずだった超高校級の軍人は未だにしぶとく生き残っているので、嘘ではない。

 まぁ、別に嘘を吐いて居もしない内通者に疑心暗鬼になってもらっても良いのだが……なるべくなら、そんな嘘ではなく真実を以って絶望を味わってもらいたいのだ。

 それが、江ノ島盾子の未だにしぶとく生き残っているプライドというものだった。

 さぁ、これで疑心暗鬼になり、全力でコロシアイが起こればあるいは……

 

「協力してくれる内通者……ああ、彼の事ですね」

「間違いなく彼の事でしょう。安心できますね」

『……え?』

 

 ちょっと待ってほしい。江ノ島盾子の姉でもある超高校級の軍人は女子だ。

 実は男子だという事も無ければ外見も男子ではない。って言うか江ノ島に変装しているので女子にしか見えないだろう。

 アイドルとギャンブラーは一体誰の事を言っているのだろうか?

 

「おいどういう事だ、説明しろ苗木!」

 

 超超高校級の噛ませがいつものように幸運の少年に問いかける。

 それを少年はいつものようにあしらう、と思ったのだが……

 

「……そうだね、説明しておこうか。

 モノクマが言ってた内通者っていうのは多分僕の事だよ」

 

 そんな事を、宣言した。

 

『……え?』

 

 モノクマは驚きの声を漏らしたのだが、それに反応する者など居なかった。

 それもそうだろう。だって……

 

「お、おいどういう事だ、苗木!!」

「そ、そうだよ! 説明してよ苗木くん!!」

 

 そんな感じで、幸運の少年に注目が集まってるのだ。誰もモノクマの事など気にも留めない。

 そして注目を集めた少年は語り始める。

 

「僕のしたこと、いや、しなかった事は大した事じゃないよ。

 僕の才能の行使を、ほんの少し手加減して欲しいって頼まれただけなんだ。そうじゃないとDVDもロクに見れないってね」

 

 そう言われて、江ノ島は思い出した。あの時に土下座して頼んだ事を。

 確かに、彼が自分の事を『協力してる内通者』だと勘違いするのも一応納得できる。

 でも、違う、そうじゃない。

 

『あ、あのねぇ! 内通者は彼じゃなくて……』

「一応最初から内通者の存在の可能性は考えてたから全員見張ってたけど、特に協力した人は居なかったみたいだし、彼のみが内通者で間違い無いでしょう」

 

 探偵にそんな事を言われて、考える。果たして本当の内通者がちゃんと自分に協力していたか。

 いや、協力していたのは確かだ。しかし実際に具体的な協力行動を取ったかと言われると……

 

 ……よく考えたら、あの悪魔(幸運)の方がずっと自分に貢献してる。

 いや、存在自体が江ノ島にとってマイナスで、それを軽減しただけなので決して貢献はしてないのだが、夜中にたまに「鎮まれ、僕の右腕っ!」などと苦しそうにしている事がよくあるので努力はしているようだ。

 

 本来の内通者よりも宿敵の方が努力して貢献しようとしている。それを悟った瞬間、江ノ島の目からボロボロと涙が零れたのは無理も無い事だと言えるだろう。


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