超超高校級の78期生 作:天星
2階は開放されたが、この学園はそれだけでコロシアイが起こるほどの魔境ではない。
……別の意味で魔境な気がするが、きっと気のせいだろう。
というわけで、お待ちかねの例のアレをやる。
2階の開放翌日に江ノ島は再び生徒たちを体育館に召集した。
『え~、お待ちかねの新しい動機です!
オマエラ、自分の名前が書かれた封筒を取ってね!』
封筒の中には他人に知られたくない恥ずかしい秘密が隠されている。
それを見て慌てる者が多数居た。
『えっとね、もし、万が一の話だけどね。
コロシアイが一週間起こらなかったらその中身を世界中にバラ撒くよ~』
「な、ななな何だって!?」
「そ、そそそそんな!! ふ、ふふふざけないでください!!!」
『ああ、安心してね。外国にバラ撒く分はちゃんと翻訳しておくから』
「そんな気遣いはいりません!!」
江ノ島の期待通り、慌てる人が出てきてくれた。
いくら人外でも恥ずかしいものは恥ずかしいのだと思って江ノ島は少しだけ安心した。
で、今回の動機についてなのだが、実は江ノ島自身も内容を把握していない。
手下に指示して集めさせただけであり、内容は当日のお楽しみという事で見ていなかったのだ。
配り終えたのだからネタバレを解禁して封筒の中身の写しを見てみる。
慌てていた2人のうち……まずはアイドルから。
『苗木くんの事が大好き』
……なるほど。
相手がただの女子高生だったら仲の良い人にからかわれる程度で済むが、相手は国民的人気を誇るアイドルだ。誰かとの恋人疑惑は結構なスキャンダルになるだろう。少なくとも被る金銭的な被害という意味では、例えば『小学校○年生までおねしょしてた』とかよりも各段に上だ。
実際にアイドルの様子を見てみると……
(な、なななな何でバレたんですか!? 隠蔽は完璧であったはずなのに!!!!
こ、こうなったら殺すしかない……苗木くん本人に知られる前に、黒幕を!!!)
……うん、まあ殺意を抱かせるという意味では成功してる。
何かアイドル云々関係なしに慌ててる気がするし、殺意のベクトルがずれてる気がするがきっと気のせいだろう。
続けて、幸運の少年の動機を見る。
最初からさんざん煮え湯を飲まされてきた少年が慌てている動機だ。きっと凄まじい動機が……
『商店街の福引でポケットティッシュを当てた事が無い』
「ふっざけんじゃないわよ!!! こんなんが動機になるわけが無いじゃないの!!!」
江ノ島盾子は激怒した。
必ずやかの最低無能な手下を除かねばならぬと決意した……わけでは無いが、とりあえず動機の写しを床に叩き付けて何度も踏みつけた。ただの八つ当たりである。
……そして、そんな小物っぽい行動のせいで江ノ島は見逃していた。
(うおおぉぉおっっっ!! 何て卑怯な手を使ってくるんだ!!
超超高校級の幸運たる僕が商店街の福引ごときで当てられない物があるなんて知られたら……もうおしまいだ! 破滅だ!!)
少年が割とちゃんと絶望してくれていたことに。
まぁ、数秒後には元に戻ったのだが。
『それじゃああと一週間、頑張ってコロシアイしてね~』
それに気づかなかった江ノ島は何とか淡々と作業をこなした。
「ふぅ、今回は特に妨害は入んなかったわね」
前回のDVDは散々だったので極限に警戒しながら進めたが、なんとか乗り切ったようだ。
一部なんかおかしい奴が居た気がするが、全員が殺意を持つなんて想定してない。せいぜい1~2割がコロシアイに走ってくれれば成功だ。
とりあえずこれでしばらく休める。流石に今日明日にコロシアイが発生するとは思えないからそれまでのんびり休もう。
「そうそう、きっと疲れてるのよ。休めば希望なんかに遅れは取らないわ!!」
……お気づきだろうか? 彼女がフラグを立てたという事を……
……そして、翌日に死体が発見された。
江ノ島はその様子をモニター越しに眺める。
『……完全に死んでいるようね』
『探偵は検死を誤らない、だっけ?』
『今回は誤っていてほしいけどね』
『……ふむ、妙ですね……まあいいでしょう』
コロシアイが起こるのは江ノ島にとって喜ばしい事だ。
うん、でも何か違う気がする。