一応、解説は後書きに付けておきますが、まあわからないと思うので興味を持った方は是非サイトの方を検索するか、解説動画でも見てください。というか見ろ(ダイレクトマーケティング)。
それとFGO終章のネタバレも大いにあるので嫌な方はプラウザバックです。
気が付けば広さのわからない湖か海の場所の畔に立っていた。回りを見渡すが、朝靄が酷く先のものを見ることは出来ない。
しかし、ぼんやりと光るモノが見える。
それが気になって足を運ぶと、そこには一本の古ぼけた街灯と、ベンチが置かれているばかりだった。
仕方がなく、ベンチに座り込む。目に映るのは朝靄の中に水面が静かに揺れるている様子ぐらいだ。波が無く潮の匂いもしない事から湖だろうか。
「やあ、待っていたよ」
すると突如、横から声を掛けられ、そちらの方を向く。そこには60年程前によく見掛けた古いビジネススーツを着ている成人男性が俺のとなりに座っていた。
男性は始めから俺が来る事をわかっていたかのような表情をしている。
「誰だ?」
「私が誰か。それはとても重要な質問だ。同時に難しい。私がよく利用している組織は私の事を"990"、或いは"ドリームマン"と呼ぶ」
「じゃあ、ドリームマンと呼べばいいのか?」
そう言うと男性はやや眉をひそめる。どうやらあまり、他者から付けられた名前は気に入らないらしい。
「その名も中々洒落てはいるが、人には自分が呼ばれたい名前を名乗る権利があると思うよ」
「そうだな」
まあ、仮に俺がそう呼ばれるとしたらあんまり良い気はしないな。
「ジェイクというのはどうだい?」
「いいんじゃないか」
満足のいくという意味もある。何故俺に同意を求めるのかは謎だが。
「いや、気が変わった。トニーはどうかな?」
「俺は素敵な名前だと思うな」
……妙な男と知り合いになってしまったな。今のところ悪い奴では無さそうだが、へんな奴では大いにあるだろう。
「それで今日は君に伝えたい事がある。聞いてくれるか?」
「ああ、良いぞ。ここじゃすることもないしな」
「そうか、では楽しもうか」
トニーは会話が出来る事が嬉しそうな様子で言葉を吐いた。
「まもなく世界は終わる」
「へー……ん?」
相づちを打ってからトニーがとんでもない事を言い出した事に気が付き、俺は疑問符を浮かべる。
「魔術王ソロモンの遺した召喚式が受肉し、不完全な人類に憐憫した召喚式は全ての歴史を燃やし尽す」
飛躍し過ぎて意味がわからないが、魔術王ソロモンは実在した人物のため、話を黙って聞く事にした。
「召喚式の目的は遥かな過去へと遡り地球誕生のエネルギーを取り込み自らが惑星となり、健やかな知性体を育み、死という終わりのない完全な環境を生み出す為だ。結果的に既存の人類史、いや世界は跡形もなく姿を消す。僅かに生き残った100にも満たない人間の以外の誰にも知覚される事なく、ひっそりと。しかして世界は焼却される」
「そんな下らない目的で、大層な事をしようとしやがる奴の名前は?」
冗談だとしても笑えない話だ。本当にそんな事をする奴がいるのならば脳天に黒鍵でもぶちこんでやりたいところだな。
「その名は人理焼却式ゲーティア。人理補正式の成れの果てだ」
「ふーん、それでなんでそんな重要な事を俺なんかに話したんだ?」
当たり前だが、俺は話半分程度に聞いている。聞くと言っておきながら全否定するのは如何なものかと思うし、眉唾物の為に信じるのもどうかと思うからだ。仕方がないだろう。
その質問にトニーは肩を竦めた。
「いつも利用させてもらっている組織はこの事態の収拾は出来ない。だから君に話すことにしたんだ」
「そうなのか」
「何せ世界が滅ぶ事は既に決定している。回避する事は不可能だ」
「なら俺に話しても意味ないじゃないか」
そう言うとトニーは楽しげな表情を強める。更に人差し指を1本立てながら言葉を続けた。
「滅びてからが重要なんだ。ゲーティアは世界を滅ぼす為に幾つかの世界崩壊の楔を歴史に打ち込んでいる。特異点と呼ばれるその全ての楔を修復すれば世界の滅びは無かった事になり、結果的にゲーティアは対応せざるを得なくなる。そこでゲーティアを倒せば人理焼却は無かった事になり、全て解決する」
「……だとしても俺に話す理由にはならないだろ。世界が消し飛ぶんだぞ」
そう返すとトニーは何処か悪戯っぽくも見える笑みを浮かべた。その笑みを見た瞬間、俺の表情がひきつる。
「世界を滅ぼす光を生身で耐えれて、話が通じる相手は数える程しかいないからね。謙遜はいけない、君は間違いなく生き残れるだろう?」
その言葉に俺は何も答えなかった。
とりあえずわかる事はこのトニーと名乗る男は母さんと同じだ。他者を常に見透かしてるのにも関わらず、自分の事は他者に何も見せないタイプの人間。俺の苦手な人種である。
「どうして俺の母さんの所に行かなかった?」
うちの母さんは………まあ、善か悪かで分ければ確実に悪……いや邪悪だとは思うが、自分が楽しむための娯楽が破壊される事を良しとするような者ではない。そんな母さんから世界を取り上げるなんて神をも恐れぬ行動だと断言も出来る。
するとトニーはまた肩を竦めたが、今度は困ったような表情をした。
「あの人も当事者だ」
「オーケー、全て察した」
この一言で俺はトニーの言っていた言葉を信じる事に決めたのだった。
「おや?」
ふと、トニーは顔を上げて朝靄の濃い湖を見つめる。
どうかしたのかと俺が問うと、トニーは何処か残念そうな表情を浮かべた。
「どうやら楽しい時間もそろそろ終わりのようだ。聞こえてくるね」
「何が聞こえるって?」
その瞬間、俺の意識は水底から水面へ浮き上がるように浮上し、トニーの姿が急速に霞んでいった。
「君の目覚ましの音だよ」
◇◆◇◆◇◆
"ナァァァァァァァァァァ!!!! アァァァァアァァァ!!!! ウワァァァァァァァァ!!!!"
虚ろなる生者の嘆きのような猛烈な唸り声に近い叫び声に叩き起こされ、最悪の目覚めを迎えた。
全力で枕元に手を伸ばし、昨晩にセットした白い花嫁姿の可愛らしい女の子を象った目覚まし時計を掴み上げる。
"ブラステッド……ツリィィィィ!!!!!"
「痛だだだだだッ!?」
停止ボタンを押すと、最後にこれまたドでかい断末魔と共に、放電による凄まじいスパークを立ててから目覚ましは止まった。
うおお……ビリビリする…見た目に騙された結果がこれか……起きれないぐらい優しく小さな声で起こしてくれる目覚ましかと期待したのに…。
スッキリからはほど遠い目覚めを感じつつ、何気無く目覚まし時計を裏返してみると、文字が刻まれていたので目を通した。
"フランちゃん(ボイス変更前)®"
「こんなもん登録商標にしてんじゃねぇよ!」
目覚ましに罪はなく、かといって製作者の母さんもいないため、俺は猛る気持ちを自分の枕に向かって目覚まし時計をぶん投げる事で発散した。
◇◆◇◆◇◆
俺が起きた時に人魚さんが何故か布団にいなかったので探す事にした。いつもの人魚さんなら特に問題はないが、今の人魚さんはおかあさんである。転んで破水でもしてたら大変だ。
探すと人魚さんはつけられているテレビの前にちょこんと正座して座っており、それを眺めていた。いつの間にかテレビを覚えていたらしい。
俺はテレビで流の音声を聞き流しながら人魚さんのとなりに座った。
「おはよう人魚さん」
『Aaaaa』
何気無く人魚さんのセーター越しのお腹の膨らみに目をやると、何か違和感を覚えて首を傾げた。
膨らみが昨日と違って不自然に感じたのだ。まるでセーターの下に何かを入れているような膨らみ方である。
「ちょっと失礼」
『Aaa?』
俺は人魚さんの着ている黒いセーターをめくり上げる。
そこにはダチョウよりも大きな爬虫類のものに近い2つの卵が人魚さんの膝の上に乗っていた。灰色の殻の卵と、水色の殻をした卵である。
「あ、人魚さん卵生なんだ……」
ついでにもうとっくに産み終わっていたようである。
思考が停止したため、妙な事を口走しりながらこの光景を整理していると、人魚さんが水色の方の卵を持ち上げて俺の方へ向けた。
『fe』
「え……?」
『#uqkb』
なんだがよく分からないまま人魚さんから水色の卵を受け取ると、人魚さんは嬉しげな声を上げてから残っている灰色の卵を再びセーターの中に入れた。もしかしなくても温めているなこれ。
今俺の膝の上に乗っている水色の卵を眺める。人魚さんの髪とほぼ同じ色合いをしたそれは、人魚さんが温めていた為かやや温かい。触ればすべすべとしており、少し指で弾けば硬い感触が跳ね返ってくる。
『Aaaaaaaaaaa――!!!』
試しに逆さまにしてみようとすると人魚さんに止められた。
『ehd@=$G!』
何故だろうか。とてつもなく謂れの無い事で人魚さんから怒られている気がする。
「…………とりあえず人魚さんや、数を数えてみよう。確かに俺は養うなら1人も2人も同じと言ったな」
ジャックちゃんはまあ、約束なので構わない。だが、何故卵が2個あるのかが謎だ。
「1人」
まず、人魚さんが温めている灰色の卵を指差しす。
「2人」
次に俺の膝にある水色の卵を指差した。
「3人」
最後にきょとんとしている人魚さんを指差して終了である。これは立派なレギュレーション違反じゃないですかね人魚さん。
人魚さんは暫く停止していたが、やがて動き出すとポンと手を叩き、俺と同じように灰色の卵を指差し、水色の卵を指差した。
『………………(ぐっ)』
ひとつ違ったのは、人魚さんは自分を指で指さずに良い笑顔で親指を立てた事だ。どうやら人魚さんの中で、人魚さんは俺に養われている人数にはカウントされないらしい。ノーカウント、ノーカウントだ。
何か言ってやろうと思ったが、人魚さんが卵を見つめている横顔は母親のそれであり、なんだか気が引ける。まあ、本人が言っているため、これ以上増える事は無いと思われるので別にいいか。
俺は水色の卵を人魚さんの膝に戻すと朝食を作るためにキッチンへと向かう事にした。
◇◆◇◆◇◆
食事中に珍しく人魚さんが手を止めてテレビを見ていたので俺も眺める事にした。やっていたのは普通に見える通販番組だと思われる。
《やあ子供たち! 君たちの体験が十分に信用置けるものか、本当は君たちの空想が現実で君たちを取り巻く環境が嘘の罠で張り巡らされてるのではないか、そう不思議に思ったことはないかい?》
はー。
《そんな疑問はどうでもいい! この存在論の6番ボールによって、君はとてもホットで新たな玩具を想像から作り出せるんだ。出来ないことなど何もない!》
ひー。
《浮きます! 思いの力で大気の中に送ろう! 飛びます! 特に動かずにただ浮いてるだけだと思いましたか? もっとサルトルたれ ! どこにでも行けます! 現実じゃ行くのが困難な場所を好きなだけ思い浮かべなさい。存在論の6番ボールはそこにあります! 最高で最多の基本種類の現実を持っています! その形式を共有する他のすべての物体はこの根本的真理の不完全な影です!》
ふー。
《君は作ったか? それとも君は作られたか? 本末はデカルトしている! これがサイコ―な玩具じゃないと思うなら、それはヒュームが冗談を言っているに違いない!》
へー。
《日本初上陸! "ワンダーテインメント博士の存在論的6番ボール?" 好評発売中!》
ほー。
《更に! この放送を見て30分以内にご購入いただいた方々全員になんと! もうひとつワンダーテインメント博士の存在論的6番ボール? がついてくる!》
最近の子供はこんな妙なもので遊ぶのかと思いながら納豆をかき混ぜていると、隣から肩をちょいちょいと触られる。
そちらを向くと、口元にご飯粒をくっ付けている人魚さんが、テレビをぴしっと指差していた。その星のような瞳はいつもより数段煌めいているように見える。
『t↑zw』
「ええ……欲しいの?」
ちなみにトニーと会話した事と、その大切な内容を俺が思い出すのは夕方になってからの事になる。
~簡易SCP解説~
SCP-990 ドリームマン
class:Keter
財団職員の夢の中に現れる男性。未来に起きる世界崩壊や、人の死を事を予知しており、それを教えてくる。これだけだと有用なSCPに思われるが、SCP-990自体がその世界崩壊や、人の死を引き起こしているという可能性も拭えない為に、Keterクラスに分類されている。
SCP-609 ワンダーテインメント博士の存在論的6番ボール?®
class:Keter
ワンダーテイメント博士製SCPのひとつ。物理法則を超越したビリヤードボール。SCP-609を視界に入れている時に移動、運動、複製、思い浮かべた場所への瞬間移動が可能。特に瞬間移動の範囲が一切無く、思うだけで人間の体内や、月にさえ飛ばす事が出来てしまうため無茶苦茶危ない。更に多数の者が1つのSCP-609を同時に操作しようとするとその数だけ増えるおまけ付き。勿論、SCPらしく破壊が不可能の特性も完備と一切隙がなく、幾らでも増える。こんな物であるが、一応子供向けのおもちゃである。