ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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前回の感想について。

そんなにマダオ枠気になります?皆さん。


今回はこの世界での銀時の過去に少し触れます。

ではどうぞ。




武士道と憧憬

 白と黒に染まった酷く凄惨な世界。

 

 

 一人の銀髪の少年が片手に自身の背丈ほどある刀を、片手に薄汚れた握り飯を持って座っていた。

 

 

 少年の周りには死屍累々の肉塊が転がっている。

 

 

 少年にとって“死”は、訪れないことはない明日のようにいつも傍にいる隣人であった。

 

 

 

 少年は東洋の国の()()()()であった。

 

 

 

 物心付いた時から手には血のこびり付いた刀が握られていた。

 

 

 生きる為に強くなり、生きる為に感情を捨て、生きる為に目の前に蔓延る全てを屠った。

 

 

 その行為に嫌悪も自己憐憫も感じ得ない。厭、感じ得る程の心も持たなかった。

 

 

 少年は生きる為に、自分を()()為に、死体を貪る唯の“悪鬼”だった。

 

 

 同じ穴の狢である者も、少年を忌避し、畏怖した。仲間意識など皆無だった彼らだったがその思考だけは共有していた。

 

 

 然し、たった一人。

 

 

 果てない闇を彷徨う少年に道を示唆した男が居た。

 

 

 男は誰よりも強く在りながら誰よりも命を尊んだ。無意味な殺生は決して好まなかった。それが自身の命を危機に陥れる者であっても。

 

 

 

────私も君も生き残る為に強くならざるを得なかった。ですが君と違うのは自分(テメェ)武士道(ルール)を持っていることです。

 

 

────武士道(ルール)・・・・・・。

 

 

────えぇ。迷いながらも、藻掻き足掻いて苦しんで君だけの武士道(ルール)を見つけて下さい。そして君は君が思う“侍”になって下さい。私はいつまでも君を見守っていますよ。

 

 

 

 男の微笑みと柔らかな言葉は徐々に少年の世界に色を与えていった。

 

 

 少年は男を“師”と仰いだ。決して切れぬ本物の絆がそこにはあった。

 

 

 

────君に私の得物を差し上げます。私はこれで十指に余る戦場を生き抜いてきました。

 

 

────木刀?

 

 

────えぇ。何かを奪う事しか出来ないのであれば、何かを()()事から始めましょう。“活人剣”というものです。

 

 

 

 全ての出来事が偶然ではなく必然であるかのように、この二人の出逢いもまた宿命であったかのように思えた。

 

 

 出逢いも唐突であるのならば別れも唐突。

 

 

 再び“鬼”が戦場に降り立つ日までそう遠くはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

 

 

 

 《東メインストリート》

 

 

 「蛇かと思ったけど・・・これは花かな?」

 

 「どっちでもいいわ。行くわよティオナ。レフィーヤは詠唱お願い」

 

 「はっはい!」

 

 

 銀時と同じくティオナ、ティオネ、レフィーヤの三人も脱走したモンスターの駆除に当たっていた。とは言ってもモンスターの殆どがロキに同行していたアイズによって屠られたのだが。

 地中から出現した()()であろうモンスターと三人は戦闘を開始した。だが怪物祭(モンスターフィリア)であったため、ティオナとティオネは自身の武器を持っていなかった。徒手空拳での戦闘となった。

 

 

 「ッ!?」

 

 「かったぁ〜!!」

 

 

 モンスターの皮膚を打撃した瞬間、彼女達は驚愕を等しくした。渾身の一撃が阻まれたのだ。

 素手とはいえ、並みのモンスターであれば肉体を破砕する第一級冒険者の強撃だ、にも関わらず貫通も撃砕もかなわない。凄まじい硬度を誇る滑らかな体皮は僅かばかり陥没したのみで、逆にティオナたちの手足にダメージを与えてきた。

 

 

 「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり】」

 

 

 レフィーヤが詠唱を紡ぐ。花型のモンスターは姉妹に掛かりっきりでレフィーヤを歯牙にもかけていない。

 

 

 「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

 

 速度に重点を置いた魔法が完成し、解放を前に魔力が収束した直後────ぐるんっ、と。

 それまでの姿勢を覆し、モンスターがレフィーヤに振り向いた。

 

 

 「────ぇ」

 

 

 その異常な反応速度に、レフィーヤの心臓は悪寒とともに打ち震える。

 レフィーヤは直感した。モンスターは────『魔力』に反応した、と。

 そして衝撃がレフィーヤの腹部を貫いた。

 

 

 「「レフィーヤ!?」」

 

 

 地面から伸びる黄緑色の突起物は防具も装束も纏っていない無防備な腹に叩き込まれた。

 ティオナたちの叫喚が耳を撫でるが、返事をすることも立ち上がることも出来ない。

 

 花型のモンスター、もとい食人花はレフィーヤを喰らおうと地面を這い、殺到する。

 レフィーヤの霞みかけている瞳が食人花を捉えた時、視界に金と銀の光が走り抜けた。

 

 

 「アイズ!」

 

 

 ティオナが増援に歓喜の声をあげるが、状況はあまり芳しくない。

 

 再び地が隆起し、新たに三体の食人花モンスターが現れた。

 

 加えてレフィーヤを守るために放った一撃でアイズのレイピアが亀裂音の後、破砕した。

 (エアリアル)という付加魔法(エンチャント)とアイズの激しい剣技に耐えかね細身のレイピアがとうとう根をあげてしまったのだ。

 

 食人花は瀕死のレフィーヤではなく、アイズに向き直り襲い掛かった。ティオナたちには見向きもせず三体同時に、である。

 

 

 「ちょっ!今度はアイズ!?」

 

 「魔法に反応してる・・・・・・・・・?」

 

 

 ティオナたちも打撃を加えるが、食人花の矛先はアイズから変わりはしない。アイズの『魔法』に反応しているのは明白だった。

 ティオネはアイズに魔法を解くよう呼びかけるがアイズは躊躇った。一般人に被害がいくのを恐れたからである。

 

 

 「────え?」

 

 

 アイズの視界に逃げ遅れた一般人の姿が飛び込んできた。

 一般人、()()()()()()()()()()は屋台の前にうずくまり震えていた。このままでは食人花の攻撃に巻き込まれるのは確実だった。

 アイズは風の気流を全力で纏う判断を一瞬で下した。

 

 

 

 そして────捕まった。

 

 

 

 その光景をギルドの職員によって助けられたレフィーヤは捉えていた。

 激痛が体を走るが、気にならない。それ以上に心が傷んだ。何も出来ずに足を引っ張った情けない自分に、腹が煮えくり返るほど怒りを覚えた。

 ここから目を背けて、いずれ来るであろう援軍に全てを委ねようと体の痛みが囁きかけた。

 ぐっと喉を詰まらせるレフィーヤは俯いて、目を瞑り────次には。

 左手を握りしめ、勢いよく双眸を見開いた。

 

 

 「────私はっ、私はレフィーヤ•ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!!神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属(ファミリア)の一員!逃げ出すわけにはいかない!」

 

 

 吐き出した言葉が力を与え、今一度レフィーヤを戦場へと立たせる。

 

 

(どんなに強がっても私はあの人たちに相応しくない。そんなこと誰よりも私がわかってる!)

 

 

 追いかけても追い縋っても差は開くばかり。

 劣等感に苛まれるほど、卑屈に陥ってしまうほど、憧憬は遠すぎる。心が折れてしまうほど遠いのだ。

 

 

(でも・・・!)

 

 

 自身を受け入れてくれた彼女たちの隣りにいたいと、自分を何度も救い出してくれた彼女たちの傍にいたいと。

 次こそは自分が彼女たちを救いたいと、切実に願う彼女を誰が笑えるだろうか。

 

 

 「【ウィーシェの名のもとに願う】!【】」

 

 

 距離を詰め、射程圏内に入り詠唱を開始する。

 血反吐を吐こうが、何度も足をつこうが、あふれる涙でその頬が枯れることがなかろうが。

 追い縋ってでも、追い付いてやるとレフィーヤは誓った。

 

 

 「【エルフ・リング】」

 

 

 長文詠唱が完成した魔法に魔法円(マジックサークル)が山吹色から翡翠色に変化する。

 収斂された魔力に戦闘していた三人が気づく。食人花も同様に。

 

 レフィーヤに神が授けた二つ名は【千の妖精(サウザント・エルフ)】。

 エルフの魔法に限り、詠唱及び効果を完全把握したものを己の必殺として行使する、前代未聞の反則技(レアマジック)。二つ分の詠唱時間と精神力(マインド)を犠牲にし、レフィーヤはあらゆるエルフの魔法を発動させる事が出来る。二つ名はその魔法に因んだものだ。

 

 

 「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

 

 

 召還するのはエルフの王女であるリヴェリアの攻撃魔法。極寒の吹雪を呼び起こし時さえも凍てつかせる無慈悲な雪波。

 

 

 「はいはいっと!」

 

 「大人しくしてろッ!」

 

 「ッッ!」

 

 

 三体の食人花がレフィーヤに急迫するが、神速ばりの三人が殴り蹴り弾いて突撃を阻む。

 それでも地面からモンスターの触手は突き出てくる。衝撃が足や肩を掠め、流血する。

 

 

 「【吹雪け、三度の厳冬────我が名はアールヴ】!」

 

 

 致命傷を避けたレフィーヤは紺碧の双眸を釣り上げ一気に詠唱を終わらせた。拡大する魔法円(マジックサークル)がレフィーヤの周りを光で包み込む。

 

 

 「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 

 三条の吹雪。

 斜線上からアイズたちが離脱する中、大気をも凍てつかせる純白の細氷がモンスター達に直撃する。食人花のありとあらゆるものが凍結され、やがて動きは完全停止した。

 

 

 「ナイス、レフィーヤ!」

 

 「散々、手を焼かせてくれたわね、この糞花ッ」

 

 

 歓呼するティオナと若干鶏冠(とさか)に来ているティオネが食人花の上に着地する。

 一糸乱れぬ渾身の回し蹴りが食人花の体躯の中央に炸裂し、文字通り粉砕した。

 

 

 「レフィーヤ、ありがとう。リヴェリア、みたいだったよ・・・・・・凄かった」

 

 「アイズさん・・・」

 

 

 アマゾネスの二人が粉砕している時、アイズは満身創痍のレフィーヤに駆け寄っていた。

 アイズの言葉に目を見開いたレフィーヤは感極まったような照れたような複雑な表情を作り、うつむいた。

 

 

 「あの・・・」

 

 「あ・・・じゃが丸くんの・・・・・・」

 

 

 レフィーヤの傍で微笑むアイズに声をかけたのは、昨日に銀時といったじゃが丸くんの店の店員の獣人だった。

 その店員こそ先ほどの戦闘で逃げ遅れた獣人だ。店員は二人に向かってゆっくり頭を下げた。

 

 

 「助けてくれてありがとう。モンスターにビックリしちゃって腰が抜けてねェ・・・年は取りたくないもんだよ」

 

 「私は別に・・・この子が、レフィーヤが頑張ってくれたから」

 

 「そ、そそそんな事ないですよ!」

 

 

 顔をブンブン振るレフィーヤにアイズは少しだけ微笑んだ。レフィーヤのお蔭だよ、と心の中で呟いた。

 

 

 「それでねェ、お礼がしたいんだ。後片付けもあるだろうから終わったらもう一度店に寄っとくれ。揚げたてのじゃが丸くんをご馳走するよ。勿論、そこのエルフのお嬢ちゃんにもね」

 

 「いえ、そんな!私は当然のことをしたまでで・・・ですよね?アイズさん?」

 

 「うん。私もレフィーヤと同じです。守ることは私たちの役目ですから」

 

 

 アイズとレフィーヤは店員のお礼を断った。

 店員は困った顔をして目を瞑り腕を組み、黙考。しばらくして目を開き口を開いた。

 

 

 「なら()()()()()()()()に渡しとくれ」

 

 「え?」

 

 「え!?」

 

 「ほら、昨日の夜、お嬢さんと銀髪のあんちゃんが寄ってくれただろぅ?今日来るって言ってたから折角小豆(あずき)クリーム味を残してあげていたのにさ、来なかったもんだから。売れ残ると困るから兄ちゃんに渡してくれよ。そのお兄ちゃんはお嬢さんたちと同じファミリアなんだろ?」

 

 「あ、銀ちゃんか。それなら・・・・・・」

 

 「え?夜?銀時さんと?アイズさんが?ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・・執行対象だZ」

 

 

 アイズはその提案に了承し、後片付けが終わった後に伺う運びになった。

 

 

 数時間後、アイズたち四人が伺うと、一人では絶対に食べ切れない量の色々な味のじゃが丸くんを渡された。

 

 

 店員の厚意に自然と笑みがこぼれた少女たちの横顔が夕日に照らされ赤く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻《円形闘技場(アンフィテアトルム) 舞台裏》

 

 

 

「よぅ、大猿(コング)ヤロウ。こんな所で何してやがる」

 

 

「・・・貴様こそ、何をしている?外で暴れるモンスターを駆逐しなくて良いのか?」

 

 

「ハッ。ウチの姫様方が頑張ってくれてるよ。・・・もう一度聞く。ここで何してやがる」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「だんまりか。猿でも言葉は理解出来ると思っていたンだが・・・・・・」

 

 

「・・・・・・私は猪人(ボアス)だ。猿ではない」

 

 

「猿だよ猿。それも大猿。女のケツに敷かれることを何よりも幸せだと思い、女のケツを四六時中追い掛け続ける大猿だ。たとえその女が真の魔性であろうが鼻の穴からケツの穴までありとあらゆる穴を愛するただの大猿だ。何一つ間違っちゃいねェだろ」

 

 

「フン。貴様には判るまい。貴様の様な男は尚更・・・な」

 

 

「判りたくもねェし、判りたいとも思わねェよ。俺が判りたいのはテメェの女神(おんな)が何を考えてこの騒動を起こしたのかって事だけだ」

 

 

「・・・・・・そうか。私は向けられた神意に従いあの方の寵愛に応えた、それだけだ。貴様は何に従い此処に行き着いたのだ?」

 

 

「俺ァ自分(テメェ)武士道(ルール)に従っただけだ。」

 

 

「フフ。そうであった、そうであったな・・・貴様という男は。久しく忘れていたこの感覚、この渇き。貴様があの方に代わって満たしてくれるのかどうか見せてもらうぞ【白夜叉】」

 

 

「ほざきやがれ。乳離れ出来ないガキの皮をとっとと剥いてやらァ。感謝しやがれ大猿!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい六話終わりました。

えっと銀時の過去ですが、今回の話はガバガバです。それはわざとです。今後、少しずつ挟んでいき補完していきます。

付け加え。
戦争奴隷といっても銀時は人を殺すことに優秀でありましたからそこそこ生きていけるだけの報酬がありました。
そしてあの人は吉田松陽ではありません。だって幕末じゃないもの。


えっと最後に会話だけ出てきたあの人は少しだけ性格が変わってます。誰のせいとは言いません。それに誰ポジか何となくわかってくれたよね?


筋肉だけで決めました!!!!


ではまた次回。感想と評価をお待ちしてます。

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