ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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お蔭様で日間ランキング12位に入ることが出来ました。嬉しい限りです。

感想は随時返信していくので返信が来たら『もうすぐ投稿するんだな』と思っていただければ。

ではどうぞ。



豊饒の女主人

《豊饒の女主人》

 

 

 「ミア母ちゃーん、来たでー!」

 

 

【ロキ・ファミリア】は遠征後の盛大な酒宴を開く為、オラリオの西のメインストリートにある最も大きな酒場に来ていた。

 酒場の名は“豊饒の女主人”。ロキのお気に入りの店の一つで、店員が全て女性であるのとそのウェイトレスの制服がロキの琴線に触れたという事実は周知だった。

 店内とテラスの二つの一部を貸し切って催される酒宴は第一級冒険者が居る事もあって否が応にも目立った。

 

 

 「みんな遠征ごくろうさん!今日は銀時の奢りや!たらふくになるまで食べて飲めぇ!かんぱーい!!」

 

 「「「かんぱーい!!」」」

 

 

 立ち上がったロキを音頭を取ると、次には一斉にジョッキがぶつけられた。始まった酒宴は団員たちの多くが大いに羽目を外し、普段近づき難い上のLv.の人達とも交流した。

 アイズが口に料理を運んでいると、ティオナが話し掛けてきた。

 

 

 「ねぇねぇアイズ!」

 

 「どうしたの?ティオナ。」

 

 「50階層のあの気持ち悪ーい化け物どうやって倒したの?トドメを刺したのがアイズだってことは分かったけど遠目だったから詳しいことは何も判らなくてさぁー。」

 

 「えぇとね。あの時は・・・」

 

 

 アイズは銀時の戦闘についてまず語った。

 アイズの脳裏にはあの時の銀時の戦闘が焼きついていた。

 たった一本の得物でモンスターの攻撃をいなし、斬り払い、 切断し、アイズの負担を最小限にまで減らし、自身がどれだけの傷を負おうがその歩みを止めず、道を自らの手で斬り拓き、戦場を駆る《夜叉》の姿を。

 

 それから自身がどう動いたのかを。

 銀時の剣技に見惚れると同時に彼の信頼に応えようと一点突破の必殺の一撃を繰り出したこと。その一撃は女体型のモンスターの全てを穿ったこと。

 

 女体型のモンスターの体が膨れ上がり、爆粉と腐食液が一気に飛散し大爆発を起こしたが、最後の力を振り絞って刀を振り抜き、風の力で焔の海を割ったこと。無事な二人の姿を見た仲間の大歓声は遠く離れた戦場でも聞こえたこと。

 

 全てが終わった後に銀時に撫でられた事は誰にも言えない秘密ではあるのだが。

 

 

 「ほぇ〜〜やっぱり銀さん凄いね。私も間近で見たかったなぁ。あと一つだけ聞いていい?」

 

 「うん。なに?」

 

 「あのモンスターって鱗粉?花粉?まぁどっちでもいっか。粉みたいな物を振り撒いて爆発させてたじゃん?銀さんどうやって防いでたの?」

 

 「えっと・・・木刀を凄いスピードで地面を抉る様に振り抜いて、土とか石とか巻き上げて爆粉にぶつけてた。あとその時何か叫んでた」

 

 「え?何を?」

 

 「確か『どりゅうせ』」

 

 「アイズさん駄目です!!よく分からないけどこれ以上は駄目です!」

 

 

 アイズとティオナの会話にアイズの隣に座っていたレフィーヤが入り込む。

 レフィーヤの鬼気迫る表情に二人は少しひくが、それも直ぐに終わり、目の前にある食事へと手が伸びた。

 

 ティオネがフィンに酒をかなりのペースでつぎ、ガレスとロキが飲み比べをしている中、一人の狼人(ウェアウルフ)が口を開いた。

 

 

「そうだアイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話・・・?」

 

 

 アイズがそう呟くと狼人(ウェアウルフ)────ベートはジョッキを片手に続けた。

 

 

「あれだって、帰る途中、何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 

 アイズの頭には或る白髪の少年の姿が浮かんだ。

 

 昨日の出来事である。

 地上への帰宅途中、17階層で多数のミノタウロスが【ロキ・ファミリア】を襲い、それを返り討ちにすると、集団で逃げ出したのだ。

 逃げ出した時点で十分異常事態(イレギュラー)なのだが、奇異なる事は重なる様にミノタウロスは上層へと登り始めたのだ。

 慌てて追い掛けたアイズたちがミノタウロスに追い付いたのは5階層だった。

 その時にミノタウロスに襲われていたのが白髪の少年で、アイズが瞬殺した時の返り血で真っ赤に染まってしまったのだ。

 声を掛けようとしたアイズだが脱兎の如く逃げ出されたので内心モヤモヤしていた。

 

 

 「ミノタウロスって、17階層襲いかかってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がって行きやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れてたってのによ~」

 

 

 普段より調子が上がっているベートにアイズは何か嫌な予感を覚えてしまった。

 

 

 「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせぇ冒険者(ガキ)が」

 

 

 ベートは耳を貸すロキたちに当時の状況を詳しく語った。

 

 

 「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ。可哀想なくらい震え上がっちまって顔を引き釣らせてやんの!まぁアイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったがな!」

 

 「それでどうなったんや?」

 

 「それがよぉ。くっせー牛の血を全身に浴びて・・・真っ赤なトマトになっちまったんだよ!アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ!」

 

「・・・・・・・・・そんなこと、ないです」

 

「アハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!」

 

 

 どっと周囲が笑いに包まれる。

 笑っていないのは不快感を募らせるリヴェリアぐらいで、他の誰もが堪らえきれずに笑い声をあげた。

 

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねぇ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「・・・・・・あの状況じゃ、しょうがなかったと思います」

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。 ・・・・・・・・・じゃあ質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

 ベートの強引な問いにフィンが軽く驚く。

 

 

 「ベート、君、酔ってるの?」

 

 「うるせぇ!ほら、アイズえらべよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄にめちゃくちゃにされ────ウォッ!?」

 

 「ギャーギャーギャーギャーやかましぃんだよ。発情期ですかコノヤロー」

 

 

 外へ放り出されたベートに相反する様に死んだ魚の様な目をした銀髪の男が店内へ入ってきた。

 その光景に狂騒に包まれていた店内が静まり返り、誰もがその行く末を期待し傍観した。

 

 

 「てめぇふざけんなよッ!腐れ天パ!」

 

 「ほれフィン。今日の酒代な。適当に冒険者依頼(クエスト)をこなしたが、ギルドで換金するのに手間取っちまった。今から参加でよろしく」

 

 「うん、十分だよ。これなら大丈夫そうだ」

 

 「無視すんじゃねぇ!表でろゴラァ!!」

 

 「えっと・・・・・・ペーターだっけ?うるさいから静かにしてくんない?」

 

 「どこかで羊飼ってそうな名前だな!ベートだ!ベート・ローガ!」

 

「キャンキャン吠えるなよ、耳に障る」

 

「────ッ!上等だボケッ!」

 

 

 ベートは店外から加速し、店内にいる銀時の頭部に強烈な蹴りを放つ。

 銀時はその蹴りを(かぶり)を振るだけで躱し、蹴りとは別の足を両手で掴み、地面に叩きつけた。店が衝撃に揺れる。

 

 

 「ガッッッ!!!」

 

 「わんこは四肢で這い蹲うのが似合ってらァ。誰か縄持ってない?」

 

 

 店員がどこからか縄を持ってくると、銀時とティオナは協力してベートを縄で身動きを封じた。そのあと店の外に吊るしあげられた。

 

 

 「ガハッゴホッ!・・・雑魚を雑魚と言って何が悪い!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 「ベルさん!」

 

 

 店員の少女の叫びと共に一人の少年が店の外へ飛び出した。銀時とティオナ、吊り上げられているベートの横を走り去った。

 アイズも立ち上がり、店の外へ飛び出した。追いかけようとしたとき、銀時がアイズの肩に手を置き制止した。

 

 

 「男が女に関係することで馬鹿にされた時、起こす行動は二つだ。キ○タマ縮こませてそこで立ち止まるか、死ぬまで男を吼え続けるか、だ。アイツの目は死んじゃいなかった。問題ねぇよ」

 

 「・・・・・・・・・うん」

 

 「アイズ。ちょっとだけ俺のノリに付き合ってくれる?」

 

 「・・・?わかった」

 

 

 心配は杞憂だと諭し、アイズに許可をとった銀時は店の中に戻り、諸手をあげて吼えた。

────最高に悪い顔で最悪な笑みを浮かべて。

 

 

 「さぁここで公開告白したわんこにアイズからの返答でぇす!」

 

 「なっ!?」

 

 

 

 

 「・・・下品なベートさんだけはごめんです。」

 

 

 

 

 「ふられてやんの!!ガーハッハッハッハッ!!」

 

 「「「アッハッハッハッハッハ!!」」」

 

 

 先程以上の笑い声が店を包み込んだ。

 縛られているベートは勿論、口で罵倒できても手は出せない。店内に広がる嘲笑と哀れを含む視線に憤慨と恥辱で顔が真っ赤になる。その姿はまるで────。

 

 

 「ベート顔真っ赤やん!!“トマト”や!トマトになっとる!!アッハッハッハ!!」

 

 「無様だな。フフッ」

 

 「可哀想だからやめてあげなよ皆。アハハッ」

 

 「これは暫く酒の肴になるじゃろうな・・・ガッハッハッ!!」

 

 

 ロキに続き、リヴェリアやフィン、ガレスまでも笑い始める。銀時に至っては抱腹絶倒である。

 ベートは罵詈雑言をやめて顔を伏せた。“公開告白”の後に“公開処刑”されたベートは『穴があったら入りたい、いや寧ろ掘るから縄ほどいて・・・』とキャラが崩れるほどに弱った。

 

 

 「俺の腹を捩じ切る気かわんこ!なぁ見た?店員さん?」

 

 

 銀時はベートを指さしながらおもむろに店員の一人の肩を抱いた。

 銀時は確認するべきだった。その肩を抱いた店員が誰なのかを・・・。

 

 

 「私に触るなァァァァァァ!!」

 

 「だァァァァァ!!」

 

 

 銀時は抱いた腕を両手で掴まれ、遠心力によって店の外へ投げ飛ばされた。硬い地面に頭を打ち付け、ゴチン、と鈍い音が響く。

 そして店内は静まり返った。

 

 

 「もうリュー、銀時さんに乱暴しちゃダメでしょ?」

 

 「シル・・・ですが私はサカタさんには何故か過剰に反応してしまうのです」

 

 

 投げ飛ばしたのに悪気のない顔をするリューに一同は唖然とする。

 店内が沈黙に包まれる中、一人だけ銀時を笑い飛ばしている者がいた。

 

 

 「ざまぁねぇな腐れ天パ!!ハッハッハッ!」

 

 

 銀時がやられ、元気を取り戻したベートである。

 ここぞとばかりに笑うベートは意気揚々している。二人の相性を知っている【ロキ・ファミリア】にとっては見慣れた光景であった。

 

 

 「はぁ・・・これでも喰らえ」

 

 

 起き上がった銀時はベートに近づく間に鼻をほじり、ほじった指を吊るされたベートの眉間に付けた。

 

 

 「汚ねェェェェ!!取ってェェェェ!!」

 

 

 ハナクソがついた事に絶叫するベートに対して、周りは哀れみの視線を向けた。しかし向けるだけで誰も助けに行こうとはしなかった。

 

 

 街中に轟くベートの慟哭は酒宴が終わるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 




はい四話終わりました。

ベートに合掌。彼に救いは・・・ハハッ。

下品なベートは嫌いだけど下品な銀ちゃんは慣れてしまったアイズたん。再びベートに合掌。

リューさんはやっぱり原作のあのひとで。シルはやっぱり原作のあの人ですよね。リューを制御したりとか怖いところとか。



感想欄で実写化について皆さんの意見が聞けて嬉しいです。まぁ賛否両論ですよね。やっぱり。

一番完成度高いの新八だと思うの。うん。
一番完成度低いの神楽だと思うの。うん。

本当に橋本環奈さん鼻ほじるんでしょうかね?


ではまた次回。感想、評価お待ちしてます。

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