ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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気付けば四ヶ月。お久しぶり(ジャスタウェイ)です。

銀魂実写化の二発目の情報が続々と、ダンまちの映画のPVも二期の発表も続々と。

月日が経つのは早いものです。

まぁそうですね、ハッハッハッ…更新出来なくてすみませんでしたァァァァァァァああああああああ!!




スタバの新商品の度にインスタ映えの為に来店する客は新商品に群がるインスタ蝿

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「…リュー」

 

「…な、何ですかサカタさん」

 

 

 闇夜の中。

 外からの光を頼りに半裸の二人がベッドで向き合う。

 鍛え上げられた傷だらけの男と綺麗な曲線美をえがくエルフの女。対局する二人の(あわい)は三十センチも無いだろう。

 

 

「…良いんだな?」

 

態々(わざわざ)、聞かないで下さい…ここにいる事が………………答えです、から」

 

 

 苦笑しつつも愛らしく思う男と直視出来ずに目線を逸らす女。

 エルフの女は平静を保つ為にいつも通りに振る舞うが、声は震え、頬から耳にかけて紅潮していた。幸い、闇夜の中の為、相手の男に露見してはいないが。

 

 

「んっ……」

 

 

 伸ばされた手が頬を撫で、艶めかしい声が漏れる。

 エルフにとって身体を許すという行為自体が、本当に最後の最後まで信頼関係を積み上げた証拠なのだ。素肌さえ世に晒すことを拒み、嫌悪するまであるのだから、二人の関係は…いや、言葉は無粋だろう。

 

 

「は、恥ずかしいので…見ないで下さい」

 

「な・ん・で?」

 

「その…シルみたいに大きくないし、リヴェリア様みたいにスタイルが良い訳でも………」

 

「リュー、ここにいる事が俺の答えだ」

 

「ズルいです……もぅ」

 

 

 相互に一糸纏わぬ姿になる。

 例えるならば────“妖精”だろうか。

 雪の様な白い素肌にほっそりとした背中、紅潮する長く尖った耳、肉付きの薄い細身の体。

 男ならば釘付けになる、そうこれは必然だ。浅ましい感情が生まれるのも無理はない。だがそれ以上に、二人は見えぬ糸で繋がっていた。

 

 

 

 

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「接吻って……甘いのですね」

 

「よくもまァそんな言葉を恥ずかし気も無く…」

 

 

 

 

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「んぁっ……んんっ、サカタさんサカタさん……っ」

 

「………もう濡れてるな」

 

「いやっ……その、んっ…!あぁっ……サカタさんっ、サカタさん………っ、んっ」

 

 

 

 

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「ぎゅってして…………銀時」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………私は、何て夢を」

 

 

 我に帰った様に目が覚めた私は、濡れて冷えた体を両手で抱きしめた。

 ベッドの側にある窓からは、雨が入り込み、私とシーツを濡らしていました。

 3月中期。

 天候がコロコロ変わる季節です。心地よい春風を感じずにはいられない季節ですが、窓を開放したまま睡眠を取るのは今後控えなければと思わされます。

 

 

「…リュー?あっ、ビショビショじゃない!」

 

「…シル」

 

 

 シル・フローヴァ。

 私を救ってくれた恩人。“豊穣の女主人”の同僚であると同時に良き友です。

 彼女は胸を強調する寝間着にガウンを羽織っています。制服姿より強調された凹凸は凶器と言っても過言ではありません。男を籠絡する、という文言が入りますが。

 

 

「そうですね…私、ヌれてます」

 

「うん、見たら判るんだけど言い方気を付けてね?」

 

「?……下着までビショビショです」

 

「余計酷くなった!」

 

 

 シルが何に憤慨しているのか判りませんが、どうやら私の言い方に問題があるようです。事実しか口にしていない筈なのですが…。

 寝間着が濡れ、薄っすらと下着が透けています。以前にシルのを洗濯時に見た事がありますが…矢張り、私のは映えません。色香など皆無です。

 

 

「リュー、体を冷やさない為にお風呂に早く入って!」

 

「(お風呂に)イッていいのですか……?」

 

「んん〜っ!早く行って!シーツは私が取り替えておいてあげるから!」

 

「じゃあ…(風呂へ)イキます」

 

「言い方!言い方変えて!!」

 

「イクッ…」

 

「ワザとでしょ!?ねぇ!?」

 

 

 頬を紅潮させて、風呂の方向を指差すシル。

 良く出来た女性です。ホントに、クラネルさんに早く貰ってもらねば。

 

 

「シル…」

 

「あとで聞くから!早く、ね?」

 

 

 早く行きなさい、とシルが私の背中に触れた時────。

 

 

「んぁっ…!」

 

「ふぇっ!?なんて声出してるのッ!?」

 

 

 冷えた体にシルの温かい手が触れた瞬間、体が跳ね上がり声が漏れてしまいました。シャワーで急に設定温度より熱いお湯が出た時と同じ感覚です。それに体も心もビックリしてしまったので仕方ないのです。しかも寝間着の中でも素肌に近いところを的確に突いてきましたし。

 

 

「シルは破廉恥ですね……」

 

「うぇえッ私がっ!?納得いかないよぉ!」

 

 

 何が納得いかないのでしょう?

 プンスカ言うシルの言葉を背に受け、私は風呂場へと急ぎます。

 素肌に張り付く寝間着を脱ぎ、下着を外すと、風呂場の側にある等身大の鏡が目に入ります。

 

 

「ふむ………」

 

 

 前にあの人から教えてもらった、口角を指で上げる行為をしてみます。

 ぎこちない、不細工なエルフの笑顔が鏡に移ります。教えて貰ってから毎日の習慣となっていますが、無愛想は変わりません。

 

 

「はぁ」

 

 

 それから私は、ペタペタと自分の体を触り、体のチェックを行いました。冒険者家業の時からのクセで不調や違和、傷跡などを確認…ふと思うと、体を触る順序が()()()()()()()()()()()()()()()()()なことに気付きました。

 

 

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 首が折れるのではないかと思うぐらい横に振り、大きく息を吐きます。

 こんなものは私ではない。私は最高にクールなエルフなのです。破廉恥な女ではありません。色恋に(うつつ)を抜かし、意中の相手を夢に見て幸せな気分に浸っている訳ではありません。えぇ…えぇ、えぇそうですとも!悪いのは私の夢に勝手に出てくるあの人が悪いのです。

 

 

「……シャワーを浴びましょう」

 

 

 結論を出したところで、私は浴室へと歩を進めました。

 

 

 

 

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「あ、やっと上がったねリュー。ほら、コーヒー淹れてるよ」

 

「有り難う御座いますシル。何から何まで」

 

「良いよ、困った時はお互い様でしょ?」

 

 

 感謝を述べ向かいに座り、淹れてくれたコーヒーに舌鼓をうつ。

 朗らかな笑顔を浮かべるシルに感謝してもし足りない。私がここにいるのは目の前にいる少女の御蔭他なりません。

 困った時は…彼女は聡い。私の腕っ節を使う日が来ない事を願いますが、その時は盾となり刃となる。その覚悟はとうに出来ています。

 

 

「シル」

 

「ん?な、なななぁに?」

 

「どうしてそんなにソワソワしているのですか?さっきからずっと私とベッドへと視線が行き来して… 」

 

「そ、そんな事ないよ!ベッドの一部分が水じゃなくてヌルヌルした粘り気のある液体だったなんて誰も気にしてないから!……いや!ホントは何にもないから!いや…うん違うから!攻めてる訳じゃないからね!女の子として普通だから!ねっ!?うん!!」

 

「は、はぁ…有り難う、ございます?」

 

 

 目を見開きながら手をブンブン振るシルは何時ものシルらしくありません。肯定したり否定したり気にするなと言ったり…情緒不安定です。

 この話を掘っても仕方ないので、話を変えます。

 

 

「シル、このコーヒー美味しいですね。どこから仕入れたのです?」

 

「え?あ、あぁそのコーヒーは、というより豆はね?最近オラリオに出来た『スターボックス・コーヒー』から仕入れたの。聞いたことあるでしょ?」

 

「あぁ聞いた事はあります。それがあるかないかで田舎か都会か判断されるというお店ですよね?行ったことはありませんが」

 

「間違ってないから否定しにくいなぁ…」

 

 

 シルが言うにそのお店は『スタボ』という略称があるそうです。

 それにコーヒーだけでなく、キャラメルやストロベリー、東洋の『まっちゃ?』という苦味の強い物の飲料を出しており、加えてケーキなどのスイーツも置いてあるので、四六時中人気なんだとか。昼頃の豊穣の女主人のライバル出現みたく感じます。

 

 

「じゃあ今日のお昼にでも二人で行こう!私はもう何度も行ったから」

 

「そうですね、宜しくお願いしますシル。ちなみにシルのオススメは何です?」

 

「えっとね…『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』とか『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』かな」

 

「………何て?」()

 

「リュー、語調が変だよ?えっと『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』と『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』だよ」

 

 

 私の単語単語の聞き間違えでなければ、かなりの仔細をお客側で決めれる事になります。

 ベースになる飲料にサイズ、ミルク、シロップ、ソース、チョコチップの有無、ホイップやパウダー、恐らく氷の分量も決める事が出来るでしょう。聞くだけで人気が出るのも頷ける内容です。

 とは言え…自由過ぎるのも考えものだと思いますが。

 

 

「その『何たらフラペチーノ』ですが、それは態々覚えたのですか?メニューやトッピングの仔細を指定する為に。しかも二つも」

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「そうだよ?それに『トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ』と『トールバニラソイアドショットチョコレートソースノンホイップダークモカチップクリームフラペチーノ』だよ。『何たらフラペチーノ』じゃありません!魔法の詠唱を覚えるより簡単でしょ?」

 

 

 それとこれとは話が違うでしょう…?

 と言いたいところですが、確かに魔法の詠唱よりは語彙は少ないです。覚えられないの?と問われれば『覚えられる』と自信を持って答える事ができます。いやぁでも、そういう事じゃないでしょう…?

 

 

「その『トールバニラ…』、あぁもう『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』で良いですね、それらの容器ってどのような物なのですか?」

 

「少しも掠ってないんだけどッ!?というか何なのその『ネオアームストロング………』何だっけ?」

 

「『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』です」

 

「それは覚えられるのに『スタボ』のは怪訝な顔するんだね!?……えっと、容器はね、ドーム型って言うのかな…蓋はまぁるくなっていて、透明だから外から中身を確認しやすい作りになってる。最近は『スタボ』で買った二種類のドリンクを隣に並べて写真を撮ることが、カップルの中で流行だって聞いたよ!」

 

 

 興奮気味に説明するシルはクラネルさんに想い馳せているのか、幸せそうで、思わずこちらも頬を緩めてしまいます。

 ふむ────蓋が丸、というよりドーム型で円形。最近の流行りはカップルで()()()()()こと。そして喉に流し込む際には長き棒(ストロー)を使う………うん。

 

 

 

「矢張り『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』ですね」

 

「どこが!?というか本当に何なの其れっ!?」

 

「長き棒と二つの玉で出来るものです。最上級の褒め言葉は『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねェか、完成度高ーなオイ』……です」

 

「ド下ネタ!?知らないけども!聞いてもないけども!最近銀時さんに似てきたね!リュー!」

 

 

 私がサカタさんに似てきたァ?ショックで目眩がするレベルです。

 夢の中で、私を襲おうとしてきた人ですよ?

 確かに先程の文言はサカタさんから教えてもらったものです。

 ですがそれが私が彼に似たという結果に成り得るのでしょうか?いや、成り得ません。寧ろ、名誉毀損でシルを訴えるまであります。まぁそんな事はしませんが。

 

 

 

「シル…酷いです。撤回の上、謝罪を要求します」

 

「あはは、御免ねリューそんな顔しないで。流石にギャンブル狂いのダメダメ男と一緒にしてはいけないよね…」

 

「サカタさんはダメダメじゃありません。撤回の上、謝罪を要求します」

 

「面倒くさ!この()面倒くさ!どうしろと!?褒めても貶しても謝らなくちゃいけないんだけど!?」

 

 

 そんな他愛のない話をして一息ついた時。

 コーヒーを淹れ直したシルは私に真剣な眼差しを向けて、口を開きました。

 

 

「昨日…ベルさんと銀時さんが一緒に来たじゃない?」

 

「来ましたね。それが?」

 

「ホワイトデーと言って私達にお返しくれたじゃない?だから、今度それを口実にデートでも誘ったら?私もベルさんと約束を取り付けるから」

 

「……無理です」

 

「どうして?」

 

「私とその…男の人と特定の行動をするのは、地獄に行くようなものです。地獄に堕ちろ(ゴートゥーヘル)です」

 

「それは違う様な気がするけど…」

 

 

 まず、私にはそんな度胸は有りません。

 シルは『でぇと』と言うものを私にさせたいのでしょう。付け加えるに、シルもクラネルさんを誘うというのならば、前に教えて貰った『だぶるでぇと』というものになる。

 いやァ無理でしょう。サカタさんも嫌でしょう。私ですよ?無愛想で触れただけで拳を飛ばす私ですよ?全自動反撃装置(ただし男に限る)ですよ?

 

 

「リュー、私はね?サカタさんはそんな事であーだこーだ言う人じゃないと思うよ?それに、そういう人だってこと、私なんかよりよっぽど知ってるでしょ?」

 

「さらっと心を読まないで下さい。まぁ……はい」

 

「なら、早速行動しよ!自分の正直な、素直な気持ちを相手に伝えたら、きっと応えてくれるよ!」

 

「素直…ですか」

 

 

 私とは無縁の言葉です。

 少しだけ、気持ちの吐露をした事はあります。遠征に行く、あの人に対してほんの少しだけ、気持ちが溢れて…今思い出してもあれが私だとは思いたくありません。

 とは言え、私の友人の提案を無碍にするわけにもいきません。彼女はあくまでも私の事を考えて提案してくれたのですから。そのくらいは感情に疎い私でも判ります。

 正直、素直、正直、素直、正直、素直、正直、素直────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムラムラします」

 

 

 

 

「ど直球過ぎる!!そんな事言われた日には、銀時さんGo to hell(ゴートゥーヘル)どころかデートの後にGo to health(ゴートゥーヘルス)だよ!罪深いよ!」

 

 

 取り留めの無い話をシルと交わし、気付くと雨も止み、仕事の支度の時間が近付いてきました。

 味わい深いコーヒーを一気に飲み干し、よっこいしょういち、と言い立ち上がります。シルは淑女然とした華麗な所作で立ち上がります。何かこちらに言いたげな顔をしていましたが、何も言いません。

 

 椅子を離れ、近くにある机へ。

 置かれてある『アポロ』と大きく書かれたチョコレートを二粒ほど手に取り、一つは口に入れ、一つはシルに渡します。今日の諸々の礼です。

 

 彼らしいバレンタインデーのお返しです。

 イチゴのチョコレートと甘めのチョコレートが積み重なっているものです。よく市場で見掛けます。

 これを仕事前に食べる事を習慣にする事を貰った時に決めました。なぜかやる気というか…心が温かくなって、身が引き締まるのです。よしっ、と心の中で呟き、振り向くと、シルが笑顔でこちらを見ていました。

 

 

「リューってやっぱり可愛い!」

 

「きゅっ、急にどうしたんでちゅかっ!」

 

「ふふっ、チョコを食べてる時のリューの顔、今まで見た事がないくらい笑顔だったよ?チョコはチョコでも銀時さんから貰ったチョコだか……いひゃいいひゃい!ふぉふぉひっふぁらないへっ!」

 

「む〜〜〜っ!」

 

 

 モチモチですべすべな肌を引っ張ります。

 涙目になっていますが知りません。私をからかうからです……いや別に勘違いしないで下さい。私がシルが言うように笑顔だったのはサカタさんからのチョコレートを含んだからではなく、元々甘い物が好きなだけなんです。決してサカタからのお返しだからという理由ではないんです。信じて下さい、何でもしますから。

 

 

「今何でもするって……」

 

「言ってません。それより、早く仕事に行きますよ」

 

 

 頬を(さす)るシルを一瞥し、着替えをします。

 夢では襲われ、現実では友人に彼の事で(からか)われ、悪い事象が折り重なっている筈なのに、なぜか心はポカポカ温かい。

 おっと危ない。私は仕事に私情は持ち込まない主義です。頬が緩まない様に、口に力を入れ、気を引き締めます。その表情でシルの方へ振り向くと────吹き出されました。

 

 

「リュー、顔が“男梅”みたいになって…いひゃいひゃい!ごふぇんって!ゆるひて!」

 

「〜〜〜〜〜ッ!」

 

 

 そんなこんなで仕事には遅刻し、ミア母さんにこってり絞られることになりましたとさ…全部、サカタさんの所為(せい)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへへ…うへへ……」

 

 

 時同じく早朝。

 一人のいい年した女性がベッドに寝転び、全長1(メートル)ぐらいある、とあるクマの“縫いぐるみ”に抱き着いていた。抱き枕代わりである。

 

 

「うへへ…うへへ……」

 

 

 女性は種族で言えばエルフだ。

 エルフは見目麗しい体を持ち、それを誇るよう誰よりも高潔である。

 だが、寝転がる女性には見る影もない。加えると…だ、その女性は誰よりも高潔である種族の“王”である。

 

 

「うへへ…うへへ……へへ」

 

 

 さて、誰が見ても残念なこの女性。大の“縫いぐるみ”好きである。

 それまでは良い。微笑ましい、それに尽きる。しかしこの女性、縫いぐるみが無いと眠れないという、まるで幼稚園児の様な事を平然と言ってのけるのである。まぁ公言している訳ではなく、ごく一部のこの趣味を知っている人間には言っている…というのが正しい。

 

 

「可愛いなぁ可愛いなぁ……うへへ」

 

 

 寝惚けているからか?────NOである。

 至って正常、至って通常運転である。

 エルフの王、都市最強の魔法使い、そしてオラリオの一角を担うファミリアの副団長の立ち位置である彼女がこうである。世も末だ。

 

 

「お前の名前は何にしよう…?ん〜悩ましい」

 

 

 この女性、いい年して縫いぐるみに名前を付けている。

 何度でも言おう。いい年して、いい年して、いい年して……そろそろ止めておこう。

 

 

────コンコン

 

 

 この女性、縫いぐるみに夢中だからか、自室のドアを叩く音が聞こえていない。

 この女性を敬慕する同種族の者は沢山いる。ノックしている少女もその一人だ。同時に彼女の性へ…ゴホン、趣味も知り得ている。

 

 

────コンコン

 

 

『リヴェリア様?』

 

「んー何が良いかなぁ…フリーザ、セル、ブウ…しっくり来ない……うへへ」

 

 

 ノックの上、声もドア外から掛けたのに返事が無い。

 不安になるのも仕方が無い。幾ら、エルフの王で最強の魔法使いであろうが、睡眠時の闇討ちは防げない。嫌な想像だけが膨らんでいく。

 

 

『リヴェリア様?』

 

「くぅ〜!悩ましい!……君の名前はなぁにっかなっ♪?」

 

 

 この女性、いい年して縫いぐるみに話し掛けている。

 変な音節と共に語り掛けるが、返事は無い。屍の様だ?違う。答える訳がない。何せ縫いぐるみだからである。

 

 

「それっ♪」

 

 

 この女性、遂には全長1(メートル)程あるクマの縫いぐるみにダイブした。言うのならば、クマの縫いぐるみを()()()()()()()()()()になっている。

 可哀想なのは外の少女だ。不安ばかりが煽られて、挙動不審になっている。返事も無いのに入って良いのかと、礼儀と危機管理に板挟みで自問自答を繰り返している。

 そして────意を決する、少女の名を“レフィーヤ”という。

 

 

「貴方の名前はなぁに?……“シルバータイム”…あなた“シルバータイム”って言うのね────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しますリヴェリア様ッ!!」

 

 

 

「曲者ぉぉぉぉおおおおおおおッ!!」

 

 

 

「ヘぐァッ!?!?」

 

 

 縫いぐるみより数万倍価値のある、愛用の“杖”を入室した人物に投げる────リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 レフィーヤだと気付いた際にはもう遅い。杖はレフィーヤの眉間に吸い込まれ、打突した。レフィーヤからは女性にあるまじき変声が漏れ出た。

 

 

「レフィーヤなぜノックをしない!そんな礼儀知らずに育てた覚えはないぞ!」

 

「理不尽ッ!何度もしましたよ!!」

 

「む………こ、声を掛けるなどあっただろう!?」

 

「お言葉ですが!声も掛けました!返事が無かったので無理矢理入りました!」

 

 

 さすがの理不尽さにレフィーヤも少し気が立っている。言葉遣いが少々荒っぽい。

 リヴェリアもその剣幕に言葉が詰まり、ひと呼吸おいて口を開いた。

 

 

「お、おおおお前は私が“縫いぐるみ”に夢中で音が聞こえなかったとでも言うのか!」

 

「語るに落ちてる!?一言もそんなこと言ってないですよ!!」

 

「や、喧しい!」

 

「恥ずかしいなら恥ずかしいと言えば良いじゃないですか!私に当たらないで下さいよ!別に()()()()()()()()()()()のマネをしていたとか言いませんから!」

 

「〜〜〜〜〜ッ!忘れろッ忘れろぉぉ!三分間だけ待ってやる!」

 

「────バルス」

 

「目がッ目がァァァァァアアアア!!……じゃないッ!!早く忘れろレフィーヤ!」

 

 

 ワーギャー言っている内に約束した時間を迎え、二人仲良くフィンに怒られるのはまた別の話だ。

 そんなこんなで今日もオラリオは平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?師匠、昨日ぶりですね」

 

「おう」

 

 

 数刻が経ち、昼と夜の(あわい)の時間。

 ベルが在籍する【ヘスティア・ファミリア】の新しいホームに銀時は訪れていた。

 銀時が訪れたことを二階から視認したベルは、ダッシュで玄関をあけて銀時の前にまで馳せ参じたのである。従者か何かと間違うぐらいの速度だ。

 そんな時、(ミコト)は丁度散歩から帰って来たところで彼等と鉢会った。

 

 

「おや、ベル殿と…」

 

「あ、(ミコト)さん。こちらは僕の師匠のサカタ銀時、初めましてですよね?」

 

「あ、貴方がそうでしたか!私はヤマト・(ミコト)と言います!【タケミカヅチ・ファミリア】から改宗(コンバート)し、多士済々の【ヘスティア・ファミリア】にて様々な事を学び日々研鑽に励む所存です。宜しくお願いします」

 

「固ェ固ェ。お前さんの頭は、好きな人を前にした童貞のお粗末品ですかコノヤロー」

 

「……ちょっ、ちょっと師匠!!」

 

 

 (ミコト)は理解出来ず、首を傾げている。

 言葉の意に気付き赤面したベルが銀時をぐわんぐわん揺らすが、死んだ目のまま鼻をほじる銀時は止まらない。

 

 

「あー思い出した、お前さん『くノ一』だろう?」

 

「『くノ一』って何ですか?」

 

「ベル殿、『くノ一』とは女性の『忍』の事です。私の母国語になりますが、平仮名、片仮名、漢字と三つの種類が有りまして、平仮名の『く』と片仮名の『ノ』と漢字の『一』を組み合わせると『女』という漢字になる…つまり、男性と女性の『忍』の区別化の為に出来た名称です」

 

「女性の忍の名称…って事ですか?」

 

「その通りですベル殿。然し銀時様、何故其れを知って…確かに名前からして私の故郷のものと似ていますが……」

 

「一緒だろうな、お前さんと」

 

「“サカタ・銀時”……ってこう書きますよね?」

 

 

 (ミコト)は銀時に向かって空中で指を踊らせ、故郷の字で銀時の名を書く。

 銀時は肯定も否定もしなかった。まるで()()()()()()()()ところであるかの様に。

 銀時は(ミコト)の手を握ると『サカタ』の綴りを手直した。

 

 

「“サカタ”ではなく“坂田”……?」

 

「はいお終い。これ以上は言わねェよ」

 

「ま、待って下さい!!()()()()()()()()()()()は将軍から────むぐっ!!」

 

(ミコト)つったか、覚えときな。女は男の過去に踏み込んじゃいけねェんだ。男ってのァ女に過去を穿(ほじく)られると変な傷が疼いて体と思考を蝕んだよ。自分(テメェ)は女の過去まで自分のものにしたいくせにな。だからよ、未来だけ見据えて胸張っとけ。そういう格好いい女に男は弱いもんさ」

 

 

 銀時はそれだけ言うと『スタボ』で買った飲み物などを(ミコト)に渡し、ベルを連れて夜の街へと歩き出す。

 渡されたものは【ヘスティア・ファミリア】の人数分入っていた。ベルを除く人数分、であるが。

 (ミコト)は銀時に言われた言葉と思い付いた仮説との狭間に思考が揺れ動き、少々動きが止まる。そして跳ね上げる様に顔を上げた。

 

 

「………はっ!有り難うございます!それと何処に行かれるのですか?」

 

「南東のメインストリート、朝までにはベルを返すって紐神様に言伝(ことづて)頼まァ」

 

「合点承知!行ってらっしゃいませ!」

 

 

 ビシッと敬礼した(ミコト)は二人の背中が見えなくなるまでその体勢を続けた。律儀なところは(ミコト)の美点だが少々真面目過ぎる節があるのは誰もが周知の事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、(ミコト)君おかえり!!おや?それは」

 

「ただいま戻りました、ヘスティア様。これは銀時様が私達に、と差し入れを下さいました」

 

「ん??あっ『スタボ』じゃないか!!行ってみたかったんだよね〜〜〜。サポーターくぅーん、ヴェルフくぅーん、お茶にしよー」

 

 

 喜びがツインテールに表れ、跳ねて跳ねまくる神ヘスティア。

 そのヘスティアの呼び掛けでサポーターのリリと鍛冶師のヴェルフも集まり、食後のおやつとなっていた。夜だから太るぞ、なんて無粋な事を言うものはいない。

 甘味の暴力に舌鼓を打ち、満足気な顔でゆっくりとした時間を過ごしていると、(ミコト)は思い出したかの様に口を開いた。

 

 

「ヘスティア様、そう言えば銀時殿から言伝を預かってまして」

 

「銀時君から?何だい?ベル君のこと?」

 

「えぇまぁ。朝まで借りるとの事で、行き場所は南東のメインストリートだと仰っていました」

 

「南東のメインストリートですって!?」

 

 

 (ミコト)の言葉に反応したのはヘスティアではなくリリだった。

 リリはガタンッと椅子を飛ばして立ち上がると、ヘスティアに視線を送った。ヘスティアはその意図、銀時がベルをどこに連れて行ったのか察しがつくとリリ同様、凄まじい勢いで立ち上がった。

 

 

「ど、どうしたのですかお二方…?」

 

(ミコト)様、南東のメインストリートに有るのは…」

 

(ミコト)君、朝には帰る、つまり朝帰りってことからも行き先は…」

 

 

「「『歓楽街』!」」

 

 

「あんの白髪頭!ベル様に何を仕込むつもりですか!許せません!阻止しなければ!」

 

「純粋無垢なベル君に女遊び教えてみてみろ…僕のツインテールが火を吹くぜ!今から向かおうサポーター君!まだ間に合う筈だ!」

 

「勿論ですとも!ヴェルフ様、(ミコト)様も行きますよ!」

 

 

 顔が紅潮し目が血走っている二人の相は鬼のようだった。

 頭を抱えながら渋々腰を上げるヴェルフと未だに状況を把握出来ていない(ミコト)は戸惑いながらも、二人の後を追い掛ける事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠、南東のメインストリートには何が有るんです?修行ですか?」

 

 

「そうだなぁ、修行って言やァ修行だな。ベル、今日やんのは『女の喜ばせ方』だ」

 

 

「へ?ど、どういうことですか…」

 

 

「俺の故郷ではな、“女”を“喜”ばせるって書いて『嬉』しいって読むんだ。『女を喜ばせる』それこそ男の在るべき姿なんだよ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

「ベル、今日は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の祝勝祝い、俺の奢りだ」

 

 

「それは有り難いですけど…まだ話が見えて来ないです」

 

 

「ベル、大人になる時だ」

 

 

「へ?」

 

 

「一皮剥けてこい。色んな意味で」

 

 

「え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 





どうもお久し振りですTouAです。
久方振りの一話、如何でしたでしょうか?楽しめて頂けたのなら幸いです。

久し振り過ぎてね、どんな感じで書いていたのか忘れてましてね…その結果が今話のリヴェリアです。お察し下さい。

雑談なんですが、『僕のヒーローアカデミア』という作品をずっと追い掛けていて、この前神回があったんです。オールマイトとオールフォーワンの。泣きじゃくって見てたんですが。
一貫したNo.1ヒーローの行いに胸を打たれて友達と語り合ってたんです。

「いやぁオールマイト最高。一貫したヒーロー像、在り方、ホントにもう…ね、いつか僕も一次小説に挑戦する時は性格が一貫したキャラクターを作りたいわ」

「いや無理だろ」

「え、なんでだよ」

「お前……自分の作品を省みてみろよ、ベル君、リュー、リヴェリア、オッタル……原作者に謝らなきゃならんレベルだぞお前のは」



ぐうの音も出ませんでした。まる
まぁ良いじゃない、人間だもの(遠い目)。


さて次の話題。
実写版『銀魂2』キャストも発表されましたね、それぞれのキャストも納得出来てます。特にマダオ。多分これは満場一致で納得してんじゃない?原作ファンもアニメファンも福田雄一ファンも。

今から楽しみです!

ではまた次回!
更新頻度は上がると思いますので、そのときに!皆、会いしてるぜ!

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