ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか   作:TouA(とーあ)

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明けましておめでとう御座いまジャスタウェイ(挨拶)
『ダン侍』とTouA共々、これからも宜しくお願い致します。

先日、ゲームセンターにてジャンプ50周年記念の銀さんのフィギュアを取ってきました。英世が3枚飛びました。


私は万事屋()にお年玉をあげたのだとそう思っています(白目)


では新年一発目、どうぞ!!
一万字超え!この作品最長!初笑いと共に楽しんでください!





男の下ネタより女の下ネタの方が数倍エグい

 

 欲望に忠実に。

 或る者は勝利を掴む為に。或る者は仲間を救く為に。或る者は与えられた使命の為に。或る者は期待に応える為に。

 渦中の人物達がそれぞれの行動を起こし、それぞれの決意を秘め、それぞれの思惑が絡み合っていく中。

 迷宮都市(オラリオ)は静かに、確実に熱を帯び始めていた。

 其れは大人達にとっては労働よりも気になる事柄で、商人にとっては市場の物流に敏感になりがちな連日連夜で、荒くれな冒険者にとっては勝利の女神がどちらに微笑むか討論し、どちらかに賭けるかを語り合う、少年少女でさえ何時もとは違う街の雰囲気に興奮を覚えさせるほど、何時もとは異なる非日常だからだ。

 

 

「【アポロン・ファミリア】に一万ヴァリスだッ!」

 

「俺は【ヘスティア・ファミリア】!」

 

 

 今日(こんにち)は『戦争遊戯(ウォーゲーム)』当日である。開戦は正午から。

 オラリオの居酒屋は午前中で戦争遊戯(ウォーゲーム)前にも関わらず、客がごった返し盛況だ。冒険者だけでなく一般人、そして一番熱を持っている神々も酒気を帯びている。そして其の酒気に比例する様に商人の提供のもと賭博の賭け金が加算されている。

 大金を積んだ者達は酒が置かれた卓の上で賭券を握っている。現在オラリオの賭けの比率はおおよそ【アポロン・ファミリア】対【ヘスティア・ファミリア】=【25】対【3】だ。【ヘスティア・ファミリア(大 穴)】の殆どは最も欲に忠実な神が多くを占めている───が。

 

 

「おい、お前は【ヘスティア・ファミリア】に賭けるのかよ?」

 

「当たり前だろ?【18階層】での出来事を目にした奴は【ヘスティア・ファミリア】に賭けてるだろうさ。箝口令が敷かれてるから詳細は喋れないけどな」

 

 

 大穴狙いなどでは無く、確信して【ヘスティア・ファミリア】に賭けている者も少なからずいる。其れは18階層(黒いゴライアス)の一件を目にした者達だ。根拠こそないが其の者達は【ヘスティア・ファミリア】の、と云うより“ベル・クラネル”の存在がそう確信させているのである。

 酒場の他に、ギルドの前にも大勢が詰め寄せていた。酒場に比べると一般人が多く、子連れもポツポツ視認できる。

 

 

『あー、あー、えー皆さんおはようございますこんにちは。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を務めさせて頂くっス【ロキ・ファミリア】所属、生粋のツッコミ担当こと“ラウル・ノールド”っス!以後お見知りおきを』

 

 

 ギルド本部の前庭では仰々しい舞台(ステージ)が勝手に設置され、実況を名乗る褐色の肌の青年が魔石製品の拡声器を片手に声をひびかせていた。

 

 

「解説はこの方!オラリオ甘党総帥で在らせられる“サカタ・銀時”さん!」

 

「宜しくお願いしゃーす。オイこれ金出ん────」

 

「はいっ有難うございましたッス!そして【ロキ・ファミリア】団長、“フィン・ディムナ”さんッス!」

 

「今、御紹介にあずかりました【ロキ・ファミリア】団長、“フィン・ディムナ”です。宜しくお願いします」

 

「以上!三名で戦争遊戯(ウォーゲーム)の実況をするッス!開戦まで暫しお待ちを!!」

 

 

 ラウルが銀時の余計な発言を遮り、フィンが当たり障りのない挨拶をする。が、仮にも【Lv.6】である銀時とフィンが解説に加わる事により、解説の質が上がったと云う事実に観衆は一斉に喝采を送った。その中には色めき立つ声もあるが、それはフィン目当ての女性達だ。

 

 ギルドの前庭、また酒場に居座る神とは別に、白亜の巨塔『バベル』の三十階にも神々は待機している。代理戦争を行う両主神ヘスティアとアポロンもこの場で待機している。

 

 

「…頃合いかな」

 

 

 取り出した懐中時計は正午が目前に控えることを告げていた。

 取り出した呟いたのは男神“ヘルメス”である。ヘルメスは顎を上げ、宙に向かって話し掛ける。

 

 

「それじゃあ、ウラノス。俺達に『力』の行使の許可を」

 

 

 空間を震わせた彼の言葉に、数秒置いて応える声があった。

 

 

【────許可する 】

 

 

 ギルド本部の方角より、重々しく響き渡る神威のこもった宣言を聞き届けたかのように。

 オラリオ中にいる神々が一斉に指を弾き鳴らした。

 瞬間、酒場や街角に虚空に浮かぶ『窓』が出現する。都市のいたる所に無数に現れた円形の窓に、人々の興奮は最大まで引き上げられた。

 下界で行使が許されている『神の力(アルカナム)』────『神の鏡』。千里眼の能力を有し、離れた土地においても一部始終を見通す事ができる。企画される下界の催しを神々が楽しむ為に認められた唯一の特例だった。

 

 

「さて、『(えいぞう)』も届いた事ですしルールをおさらいするッス!今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】で、形式は【攻城戦】!!両陣営の戦士達は既に戦場に身を置いてるッス!」

 

「補足として【ヘスティア・ファミリア】が“攻め”で【アポロン・ファミリア】が“守り”だね。共通しているのは勝利条件で“両ファミリアの大将の撃破”だ」

 

「有難うございますッス団ち…フィンさん!さて銀さん、どちらが有利ッスかね?」

 

「あ、そこのお姉さんパフェ貰える?あー3つね、それぞれ違う味で。お代は【ロキ・ファミリア】にツケといて」

 

 

「…………それでは間もなく正午ッス!!」

 

 

 ラウルの跳ね上がった声が響き、ギルド本部の前庭にざわめきが波のように広がった。ギルド前だけではない、冒険者が、酒場の店員達が、神々が、全ての者の視線がこの時『鏡』に収斂された。

 

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)────開幕ッス!!!」

 

 

 

 ラウルの号令のもと、大鐘の音と歓声と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 時は昨夜まで遡る。

 古城───シュリーム古城は嘗て『古代』に築きあげられた防衛拠点の一つだ。【アポロン・ファミリア】は大将の“ヒュアキントス”の指示のもと前準備を行っていた。

 それらを見据える様に丘の上に三つの影が月明かりに照らされ、地面に並行しつつ歪に伸びていた。オラリオとは違い月が大きく見える、それが原因の一つだろう。

 

 

「……」

 

「リリ殿は上手くやっているでしょうか……」

 

「彼女は敏いから問題ないでしょう」

 

 

 無言を貫く少年は岩に腰掛けている。東洋物の紅の着物、その上に金花が刺繍されている黒を基調とした羽織を肩に掛けている。月光に照らされている金の刺繍は闇夜を切り裂く様に煌々とし、肩にあずけてある黒刀を反光に晒している。腰には血液より鮮やかな紅緋色の短刀が携えられている。

 その隣には黒髪のヒューマンとエルフが控える様に立っている。両者共、鼻まで隠す様に覆面を付けている。

 黒髪のヒューマンの少女は服装を“紺”に統一している。上衣(うわぎ)に手甲、袴に脚絆(きゃくはん)、足袋に草履。東洋に伝わる“忍者”の装束、其のものである。腰には暗器のクナイなどの類が装備され、ニ振りの小太刀が携えられている。

 エルフの女性は何時もの戦闘衣(バトルスーツ)に、嘗ての友の形見である木刀を二本、そして紅と紫の二振りの魔剣を腰に携えている。彼女が【ヘスティア・ファミリア】に協力出来る()()()()()()()である。身バレを防ぐ為に緑色のフードを被り、覆面こそつけてはいるが、熟練の冒険者や当時のファンだった神々には瞬時に判るだろう。

 

 

「クラネルさん、その……サカタさんの提案は何だったのですか?」

 

「あァ師匠の提案は────」

 

 

 ++++++

 

 

『襲撃されただァ?』

 

『はい…ヴェルフは回復薬(ポーション)のお蔭で大事には至ってませんが、やる気満々なんです』

 

『アイツが復帰したら次に誰が狙われるか判らねェってのに』

 

『そう伝えましたけど…言い張って聞かなくて』

 

『気持ちは痛ェほど判るが……はァ俺が説得してきてやらァ。だからベルは昨日通りに鍛錬をこなしとけ』

 

『…わ、判りました。お願いします』

 

 

 ─────二時間後─────

 

 

『ハァハァ……あ、師匠』

 

『おうベル、話付けてきた。って事で頼むわ─────ヴェルティン』

 

『あっヴェル……いや誰だァああああああああ!!!』

 

 

 銀時が肩に手を置いた男は隣には炎を連想させる赤髪に黒の着流しを纏っている“ヴェルフ・クロッゾ”の姿………などではなく、赤髪のウィッグを頭上に乗せ、上半身は半裸。ベルの目からしてヴェルフより二周りほど体が大きい。端的に言えばそれは“ヴェルフ・クロッゾ”に似せてきた別人であった。

 

 

『師匠ッ!ヴェルフでさえ無いじゃないですか!全くの別人じゃないですかッ!!』

 

『Huh?ワッツドゥーユーセイ?ヴェルティンだろ?どっからどう見てもヴェルティン以外の何者でも無いだろ?ザッツトゥルー』

 

『どっからどう見ても別人以外の何者でもありませんよ!?360度あらゆる角度から見ても一箇所たりとも被ってないですけど!?っていうか師匠はヴェルフの参戦を止める為の説得に行ったんでしょう!?どうしてそれがこんな偉丈夫を連れてくる結果になるんですか!!』

 

『いいかベル、人ってのは艱難辛苦を乗り越えて強くなるもんだ。怪我っつう人生の高き壁を乗り越えたヴェルティンはまるで別人の様に』

 

『別人でしょうが!まごう事無き別人でしょうがッ!!せめてヴェルフの替玉にするのならウィッグはきちんと被せるとか徹底して下さいよ!獣人特有の耳がひょっこり出てるじゃないですか!!ていうかこの人、この前の『神の宴』でフレイヤ様の側仕えしてた人じゃないですか!!』

 

 

 ベルは目の前にいる“ヴェルフ・クロッゾ”に扮した何かを何処かで見た気がしていた。記憶が結びついた時、それは数日前にアポロンが開いていた『神の宴』で腕いっぱいに“スルメ”を抱えていたフレイヤの従僕であったことを思い出した。

 

 

『ハァン?何言ってんだベル。オッ───ヴェルティンはヴェルティンだろうが。だよな?』

 

『1時間1万ヴァリス分スルメ。2時間2万ヴァリス分スルメ。オーケー?』

 

『オーケーオーケー。3時間3袋スルメ。4時間4袋スルメ。オーケー?』

 

『オーケーYEAHHHHH!!』

 

『結局2万ヴァリス分しかスルメ貰えてないでしょうがッ!!いいの!?迷宮都市(オラリオ)最強がスルメで動いていいの!?』

 

 

 ベルの疑問の投げ掛けは二人のハイタッチの高音で掻き消された。ベルは鍛錬より二人にツッコミする方が疲れている事に気付き頭を抱えた。

 

 

『ていうかヴェルフは納得したの!?替玉に納得したの!?』

 

 

 当のヴェルフは“オラリオ最強”に自身が打った武器を使って貰えるなら、と快く了承していた。それを聞かされたベルは地面に身をあずけ、五体投地の体勢である。

 

 

『これは俺の独断だ。【フレイヤ・ファミリア】は関係無い。俺はあくまで“ヴェルフ・クロッゾ”だからな』

 

『ど、どうしてそこまで……』

 

『し、【白夜叉】に頼まれたら断る事など出来るものか……///』

 

 

 まぁギルドの確認でベルと銀時がこっ酷く叱られ、替玉も不可能であった事は言うまでもない。

 

 

 ++++++

 

 

「師匠の提案はヴェルフを武器の作成だけに集中させると云うものでした。それ以外には何も無いです……本当に何もありませんから!」

 

「そ、そうですか」

 

 

 それ以外の提案は無かったと言わんばかりの鬼気迫るベルに、リューはこれ以上踏み込むことをやめた。

 そう無かった。無かったのだ。替玉やら頬を染めて銀時に熱い視線を送る“オラリオ最強”などは見ていない。見ていないったら見ていないのだ。

 三人は明日の戦争遊戯(ウォーゲーム)の最終確認を行う。武器の調達は既にヴェルフが済ませてあり、直接参戦するのは大将のベル、リリ、(ミコト)、そして都市外からの助っ人として認められたリューだ。

 

 

「じゃあリューさんは手筈通りに。(ミコト)さん、背中は任せます」

 

「判りました」

 

「はい、この命に代えても御守り致します」

 

 

 ベルは包帯を右目に巻きながら、城壁を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 時は開戦直後に戻る。

 盛り上がるオラリオとは裏腹に、戦場である古城の士気は低めであった。

 攻城戦とあって戦闘期間は三日間も用意されている。【アポロン・ファミリア】の面々は集中力が低下する最終日まで本格的な城攻めは引っ張ってくるだろうと大方の予想を立てていた。散発的な攻撃はあるだろうが、それも見張りの目と堅牢な城壁が力を合わせれば何の問題もない、と。

 

 だがその予想は────大きく外れる事になる。

 

 

「なっ何だ!?」

 

 

 凄まじい砲撃が城壁を襲う。

 城壁の正面から押し寄せてきた衝撃に、城内は一瞬で混乱に見舞われた。今も続くて恐ろしい震動と爆音に騒然となる。その光景に言葉を失うのは無理も無い。

 

 

「数はッ!?」

 

「ひ、一人だ!」

 

 

 見張りをしていた一人が城壁の階段から転げ落ちる様に戻ってくる。

 慌てて其の者に問い詰めるが、耳を疑う答えしか返ってこない。怯えるように口に出された或る単語は団員達をごくりと喉を鳴らせた。

 

 

「ま、間違いねェ!『クロッゾの魔剣』だっ!あいつら、伝説の魔剣を持ち出してこの城を落とそうとしてやがる!」

 

 

 世界広しと言えど、あれほどの城壁を一撃で粉砕する『魔剣』は『クロッゾの魔剣』他ならないだろう。魔法でないとするのならば、妄言であると切り捨てたい言葉も急速に現実味を帯びてくる。

 一際強い爆発に城壁の上部が弾け、瓦礫と共に長弓(ロングボウ)を持った弓使い(アーチャー )が地に叩きつけられる。

 

 

 ++++++

 

 

「おっとこれはぁ!【ヘスティア・ファミリア】は短期決戦狙いッスか!」

 

「そうだろうね。“攻め”にはいい参謀がいるようだ、僕もそうするだろう。砲撃は『クロッゾの魔剣』かな?紅の剣を下ろせば巨大な炎塊が吐き出され、紫の剣を薙げば紫電が走っている。最強の攻城武器だ」

 

 

『クロッゾの魔剣』という単語にギルドの前庭はざわめき出す。オラリオでは『鏡』を通じて早くも驚愕と興奮が人々に伝播していた。大衆は一人、獅子奮迅する強く美しい彼女に応援の声が送っている。

 

 

「いやぁそれにしても最初から盛り上がっているッスね!銀さんはどう思われますか!?」

 

「んーイチゴパフェだな。チョコレートパフェも抹茶パフェも捨てがたいが……やっぱ原点こそ頂点だわ」

 

「いい加減仕事しろッス!三つ頼んでたから俺達全員分のパフェを頼んでくれたのかと思ったら一人で全部食べやがったッス!」

 

 

 ++++++

 

 

『裏切りだぁ────!!』

 

 

 誰の声だったか。いやそれはどうでも良い。

 オラリオのいたる所で、その一言は爆発的に拡散した。オラリオの殆どの市民が頭を両手で抱えて総立ちし、悲鳴ともつかない叫び声が連鎖した。

 

 

『【アポロン・ファミリア】の団員が味方を裏切ったぞ!?』

 

『敵をお城の中に入れてんのか!?』

 

 

 複数存在する円形の窓の内、ヒューマン二人と小人族(パルゥム)の男が映る『鏡』に指が差され、多くの視線が集まった。

 まさかの裏切り────ルアンの手引きによって、易々と城内へベルと(ミコト)は入る。リューが敵の大半を『クロッゾの魔剣』と共に城外へ引きつけている事で手薄な場所から潜入する。不意に彼等と遭遇した敵団員が驚愕し声を張り上げようとするが、小鬼が一瞬で斬り伏せる。

 

 

 

 

 

「上手く化けましたね、リリ殿」

 

「リリはこれくらいしか取り柄がありませんから」

 

 

 走りながら(ミコト)はルアン────リリに囁いた。

 声は男のまま、口調が女性のものに変わるルアン、もといリリ。顔は違えどその微笑みはリリが浮かべるものとそっくりだ。裏切ったルアンの正体は『魔法』で変身したリリだ。

 リリは四日前からルアンに扮し、諜報活動を行った。その情報をもとに作戦を練り、計画に移したのだ。そして今現在の城内の情報を二人に伝える。

 

 

「じゃあ後は頼んだぜ」

 

「はい!」

 

 

 リリはルアンの口調で(ミコト)にそう伝える。ベルを頼む、という言葉に(ミコト)は力強く頷いた。

 ベルは目でリリに感謝を告げる。ルアンに扮したリリは破顔し、その目に応えた。

 笑みを残し、その場で彼等と別れるルアン。観戦者(オラリオ)以外の者にはまだ正体がバレていない彼女は、ベル達に追手が向かわないよう、城内を再び撹乱させる為に踵を返した。

 

 

 ++++++

 

 

「こっこれはぁぁぁあああああ!【アポロン・ファミリア】の裏切りによって敵大将らが城内へ入ったッス!!まだまだ勝負は判らないぃぃ!!」

 

「これは大きなアドバンテージだ。情報の質では【ヘスティア・ファミリア】が勝っている。情報の多さでは【アポロン・ファミリア】が勝っているけれど虚偽の情報をわざと掴まされているね。情報戦は【ヘスティア・ファミリア】に軍配が上がってるよ……あ、僕は抹茶パフェの方が好きかな」

 

「判ってねェなフィン。パフェってのは“イチゴ”っつう果物があってはじめて完成する代物なんだよ。ほれ、一口やるから食ってみろ」

 

「いいの?じゃあ頂きます」

 

「アンタら仕事しろやぁぁぁぁぁ!!そこのお姉さんっ、俺にもチョコレートパフェ!!」

 

 

 ++++++

 

 

「ダフネっ敵が来た!ヒューマン二人…敵大将(オルガ)だ!」

 

「ここで止めるわよ!!」

 

 

 ダフネはベルに『神の宴』の招待状を渡した冒険者だ。【アポロン・ファミリア】の中でも上位陣である。

 ダフネはベル達の進撃を食い止める為に空中(わたり)廊下に陣を敷く。大の男が十人以上並んでも塞がらない横幅は広く、そしてとにかく長大だ。壁と窓、天井に包まれた長い一本道にはぼろぼろになった赤絨毯が端から端まで伸びている。ダフネは後続の団員に詠唱を開始させる。

 

 

「────(ミコト)さん」

 

「合点承知」

 

 

 詠唱する魔導士に(ミコト)はクナイを打つ。投げるのではなく、打つのだ。それと同じ様に棒状の諸刃の刃物を手首のスナップを利かせて投擲────棒手裏剣と呼ばれるものだ。

 詠唱を高速で投擲された棒手裏剣によって遮断させられる。揺らいだ精神は『魔力』の制御をなくし、体の中心から魔力暴発(イグニス・ファトゥス)という愚かな自滅を巻き起こした。

 

 

「なっ!」

 

 

 咲き乱れる爆破の華。【アポロン・ファミリア】の魔導士の殆どが魔力暴発(イグニス・ファトゥス)に追いやられ、弓使い(アーチャー)らを巻き込み左右へ吹き飛ばした。魔導士らの殆どは再起不能に陥ったのは言うまでもない。

 

 

「ベル殿!御武運を!」

 

 

 ベルは(ミコト)の言葉を背に受け、爆煙へと突っ込む。そのまま敵大将が待つ場へと駆け抜けた。

 不味い、とダフネが慌てて後を追おうとするも、打ち上がった悲鳴が彼女の足を止めた。ばっと振り返ると、止めを刺された弓使い(アーチャー)が視界に入り、同時に鳩尾に強烈な肘鉄が突き刺さった。

 

 

「ぐぁッ……!」

 

 

 抜き足。

 気配を極限下まで殺した(ミコト)は、視界が悪い爆煙の中では最強である。それはまさしく────暗殺に特化した“忍者”であった。

 

 

 ++++++

 

 

 

「“サムライ”と“シノビ”……ッスか。あ、やっぱりチョコ美味しいッス」

 

「いやはや吃驚(ビックリ)したよ。暗器術と体術。東洋に伝わる“シノビ”だね、いや“忍者”の方がいいのかな?主君を護る為に孤軍奮闘するその姿は正しく、だ。………それでも僕は抹茶派だなぁ」

 

「いや待て結論を出すにはまだ早ェ!俺のお気に入りの店があんだがそこのイチゴパフェを食べて貰えりゃ考えも変わる筈だ!よし今から取り寄せようそうしよう!」

 

 

 

 ++++++

 

 

 ヘスティアも、リリも、ヴェルフも、(ミコト)も、観衆も、恐らく神々さえも────そして何よりもベルが。

 自分の手で決着をつけることを自他共に望んでいる。

 ベルは左手の煙管(キセル)を器用に指でくるくる回しながら、己の足音だけを空間中に響かせた。残る敵は敵大将のヒュアキントスとその近衛兵だけだ。

 

 

「来たか、【小鬼(オルガ)】」

 

「……」

 

 

 ザッザッと。

 草履を擦るようにベルはヒュアキントスが待ち構える戦場へ辿り着いた。近衛兵はおよそ十数名、ルアンに扮したリリが伝えた情報と合致している。

 近衛兵はヒュアキントスが自ら見繕っただけあって練度は高い。【Lv.2】であるベルには過剰戦力であることは誰の目にも明らかだった。

 

 

「行けッ!!」

 

 

 ヒュアキントスの号令で近衛兵の二人が飛び出す。片方は槍を、片方は両刃剣(バセラード)を構えている。

 ベルは腰に携える黒刀も、紅の短刀も抜き放たない。ただ静かに向かってくる二人、そして後続する数人の冒険者を見据えた。

 

 

「─────ッッ!!」

 

 

 繰り出される槍の刺突を相手の懐に()り込む事で躱し、槍の柄の部位を握る拳を人間の構造上、向き得ない方向へ捻り上げる。小さく呻き冒険者は槍を手放した。

 ベルは相手が離した槍を片手で握ると小器用に槍を振り回し、両刃剣(バセラード)の男へ刃とは真逆の石突(いしづき)で鳩尾を穿つ。その勢いで宙に浮いた両刃剣(バセラード)の男を左足を軸に旋回し、鼻頭に踵を叩き込んだ。

 

 

「ガッ!」

 

 

 槍を地面に突き刺し、手放された両刃剣(バセラード)の腹で槍を携えていた男の頭上から振り下ろす。ゴンッという鈍い音と共に意識を刈り取った。

 再び左足を軸に旋回し、両刃剣(バセラード)を後続の冒険者に投擲する。

 投擲された両刃剣(バセラード)に驚愕しつつも左右のステップで避ける。体勢を崩し、意識を一瞬奪われた冒険者は既にベルの策に陥っている。

 ベルはすかさず冒険者の一人の小太刀を先程と同じ要領で叩き落とし、掴み取り、自身の体の延長線として携えた紅の短刀と共に二刀流で斬り伏せる。

 

 

「うぉぉおおおおお!!」

 

 

 ベルの背後から裂帛の気合を放つ巨漢の男が、ベルの背丈ほどある大剣をベル目掛けて振り下ろした。

 ベルは小太刀と紅の短刀をクロスさせる事で正面から受け止める。骨が軋み、泣き喚く筋肉を心で奮い立たせ、大剣を跳ね上げる。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 声が漏れ出すほど踏み込まれた一歩に全体重を乗せ、体勢を崩し後方へ倒れる巨漢の男の鼻頭に渾身をもって振り抜かれた。顔にめり込み、吹き飛ばし、撃砕する。

 

 

「なっ……!」

 

 

 驚愕と怒りの声を漏らすヒュアキントス。近衛兵は残り半分と少しだ。

 ベルは羽織を整え、左手を前に突き出す。掌を天に向け、人刺し指を三度曲げる────単純な挑発。しかしそれはヒュアキントスにとって今迄前例に無いレベルの最大の侮辱だった。

 

 

「貴様ァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 ++++++

 

 

「ハハ…マジッスか。槍、両刃剣(バセラード)、小太刀二刀、大剣……次は棍棒、戦闘斧(バトルアックス)、極めつけは二槍流ッスか」

 

「彼には固まった型が無い。即ち“我流”だ。剣技を極めたのではなく、それぞれの武器の特徴を踏まえた上で戦況に応じて戦い方を変えている。これは……凄いな」

 

 

 思わず漏れた第一級冒険者(フィン・ディムナ)の感嘆の声に、ギルドの前庭で観戦していたオラリオの市民はここ一番の歓声を上げる。しかしまだ大将同士の戦闘が行われていない事から興奮が絶頂まではいってないのだろう。

 

 

 

 一方、オラリオのバベル三十階。

 神々の視線は『鏡』に収斂されている。それはヘスティアもアポロンも同等である。娯楽に飢えている神々にとって戦争遊戯(ウォーゲーム)は至高の馳走であるからだ。

 

(そういう事か!ベル君がステイタスで初めて【敏捷】ではなく【器用】が上回った理由がようやく判った……!!)

 

 ヘスティアはベルの最後のステイタスの更新時、どうして【敏捷】を【器用】が上回ったのかずっと疑問に思っていたのだ。ベルに聞いたところ当の本人は納得している様子で、

 

 

『あっやっぱり。神様、戦争遊戯(ウォーゲーム)見ていて下さい。必ず、魅せますから』

 

 

 ベルの宣言通り、ヘスティアは魅せられてメロメロである。それは出会った当初からではあるのだが。

 隣にいるヘファイストスが涎を何度拭いてあげたか判らない。目がハートになるという古風な芸は神友としてはやめて欲しいところだと辟易している。

 

 

「何を…何をやっている!?」

 

 

 そんなヘスティアと相反する様にアポロンは顔を青くしている。凝視する『鏡』の先には多種多様な剣閃で斬り伏せられ、意識を刈り取られる眷属(子供)達だ。

 

 

「お前達…気張れ、気張れ…気張れぇぇえええええええええええ!!」

 

「いっけぇぇぇぇぇええええベルくぅぅぅぅぅんッ!!」

 

 

 両神の張り裂けんばかりの声援のもと、戦争遊戯(ウォーゲーム)は最終局面を迎える。

 

 

 ++++++

 

 

 

 真っ直ぐ、自分に向かって歩いてくる人影に両者は歩み寄る。

 少年は黒刀に手を掛ける。青年は波状剣(フランベルジュ)を抜き放つ。黒刀は濃密なまでの漆黒な闇夜を想起させ、弧を描く長刀はその闇夜を陽光で切り裂く様に日光に照られ反光する。互いが持つ得物でさえ、相対していた。

 両者が自身を穿つ戦意を捉え、確信する────勝敗は一撃で決まると。

 

 

 

 

「僕はただ壊すだけだ。この腐った戦争遊戯(せかい)を……!」

 

 

 

 

「私はただあの方の寵愛に応えるだけだ……!」

 

 

 

 

「は、ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

「る、ゥアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 黒閃と白閃が煌めき、両者はまるで示し合わせたかの様に同時に飛び出した。

 研ぎ澄まされた魂と、極上の鋼と、際限なく高まる激情がその場の空間を巻き込み、捻じ曲げ、その結集がたったの一撃に込められる。駆け抜ける極限の一瞬が大気を吹き飛ばし、落雷の如き轟音と閃光を生み出し、そして────。

 

 

 パリィン……、と。

 

 

 たった一刀の交錯に、僅か一撃の錯綜の果てに、極限下の一瞬に。

 ヒュアキントスの波状剣(フランベルジュ)は刀身から破砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだぁぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 ヒュアキントスが最後の賭けに出る。

 彼我の距離が大きく離れる中、全魔力を紡ぐ詠唱を開始する。起死回生の───最後の切札。形成を逆転させる、最後の悪足掻き。衆目など気にしない、矜持など知った事ではない。必殺の行使に踏み切り、目前で佇む少年に勝ちたい────それだけの想いで。

 

 

 

 

「【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ!我が名は罪、風の悋気(りんき)。一陣の突風をこの身に呼ぶ!放つ火輪の一投───来れ、西方の風】ッ!!」

 

 

 

 

 上半身を捻り、重心は低く、左腕を下に、そして右腕が高々と上げられたその体勢は───円盤投げ。高出力の『魔力』を右手に凝縮させながら、ヒュアキントスの碧眼は厳然と佇むベルを射抜き、一挙、魔法を発動させる。

 

 

 

 

「【西風の火輪(アロ・ゼフュロス)】!!」

 

 

 

 

 太陽光のごとく輝く、大円盤。振り抜かれた右手から放たれた日輪が、高速回転しながら驀進(ばくしん)する。人の上半身ほどもある巨大な光円、それは自動追尾の属性を持っており、照準した対象に命中するまで消滅しない、出せば勝ち(チート)魔法。

 

 

 

 

「───────」

 

 

 

 

 ベルは目を閉じる。想い描くはたった一度の御技。

 直立不動から、左足を半歩引く。腰を柔らかく落とし、身体は脱力。黒刀の鞘は左手の小指と薬指で軽く握り、他はただ添える。

  ()にかける右手は赤子の肌を触るが如く優しく、左足の踏み込みに備え、右足の発条(ばね)を正確無比に作る。体の重心は右足七の左足三。

 

 

 

 

「───────」

 

 

 

 

 銀時がたった一度だけ見せ、そして魅せられた技伎(わざ)

 静かなる水面に、一滴、水が落ち、波紋が広がる瞬刻の感覚。極限下の世界の隅々まで行き渡る、研ぎ澄まされた決死の感覚。

 胸一杯に、深く息を吸う。これは矢を(つが)えた弓の弦を引くに等しい行為と等しい。即ち、吐くと同時に全てを解き放つのだ。

 

 

 

 

 

「───────ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 刹那、声にならない気合と共に、ベルの四肢が爆ぜる様に動いた。

 左足で一歩踏み込む神速の推進力、腰骨の超速旋回、それらのベクトルの違う力を纏め上げ、右腕へと伝える背骨のしなり。

 頭上に掲げる黒刀の鯉口を切る。刃を鞘に滑らせる。抜きざまに、右腕に伝えた力を使い、重力に従って、黒刀を唐竹割りに、撃ち下ろす────圧巻の絶技。

 全身を余すことなく利用してひねり出した、常軌を逸した『力』と『速度』。それらを物理的に全く減衰させることなく刀に乗せ、今迄に培った恩恵(ステイタス)を相乗させ────その常軌を逸した鋭利なる斬撃は大気を引き裂き、真空を生み出し、刀の間合いの外────遠間をも斬り裂く刃と為る。

 

 

 

───────。

 

 

 

 刃は、ベルを呑み込まんとしていた魔法(太陽)を左右に斬り裂き、遥か遠い間合いのあるヒュアキントスの半身を斬り裂いた。

 袈裟に血風が巻き起こる。ヒュアキントスは何が起きたのかさえ理解する事なくそのまま伏した。しかしその顔にあるのは驚愕などでなく、ただ全てを出し切った上に敗北したのだという清々しい表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕

 

 

 

『──────────────ッッッ!!』

 

 

 オラリオの上空に大歓声が打ち上がった。

 古城跡地で打ち鳴らされる激しい銅鑼の音と共に、決着を告げる大鐘の音が都市全体に響き渡る。観衆である多くの亜人(デミ・ヒューマン)が、『鏡』の中に立ち、黒刀を掲げる少年へ興奮の叫びを飛ばした。

 人々は【ヘスティア・ファミリア】に賭けた者は主神のヘスティアを筆頭に勢い良く立ち上がり、勝利の歓声を上げた。【アポロン・ファミリア】に賭けた者は無数の賭券を破り捨てて頭上に放り投げた。

 

 

「戦闘終了〜〜〜〜〜ッ!?まさに大番狂わせ(ジャイアント・キリング)ッ!!戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は【ヘスティア・ファミリア】ッスぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 舞台(ステージ)上、実況者のラウルが身を乗り出し真っ赤になって拡声器へ叫び散らす。

 フィンは結果はどうであれ、一つの決着と健闘した戦士に拍手を送り、銀時はというと─────。

 

 

「やっぱイチゴパフェだわ」

 

 

 己のパフェ論争に一人決着をつけていた。まるで最初から結果が判っていたかの様に、ただただ…食していた。

 

 

 ++++++

 

 

「勝ったんだね…おめでとう」

 

 

 柔和な笑顔を浮かべるアイズにディオナが満面の笑みを浮かべながら抱き着く。ホっとしたのと同時に温かい気持ちが広がっていく。この気持ちを何というのか、気付くのはもっと先の事であるが。

 

 

(最後の一撃は……銀ちゃんの)

 

 

 気付く人は気付いただろう。最後の抜刀術は銀時の御技だ。

 それをベルが未完成ながら放った。これが意味することは一つ────彼も“英雄”の器足り得る人物である、ということ。

 

 

「頑張ってね…待ってるから」

 

 

 アイズの一言は誰にも届く事は無かった。ただ伝えずともいずれ辿り着くのだと何かが予感させていた。

 

 

 

 

 

 

 次回────ベル、銀時に連れられ遊郭へ。

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、最長。長いわ。疲れたわ、楽しかったけども。
新年一発目、いかがでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?それならば幸いです。
ベルの武器奪取の上にその武器で敵を切り裂く、というのは【紅桜篇】の最後の銀時と桂のシーンのオマージュです。そう思って頂けたら嬉しい事この上ないですが。


ベルの最後の技は次次回解説。戦争遊戯の背景やらその他諸々も次の次に解説。


そして次回は『チキン革命@(以下略)』さんの【ロキ・ファミリアの団長は胃潰瘍になりそうなようです】とコラボします!!いやーここまで来るのに長かった。やっと出せる。

https://syosetu.org/novel/114793/

リンクは↑に。この作品とのコラボは既に『チキン革命@(以下略)』さんは書き上げてくれています。この作品より銀魂銀魂してる一話を先に楽しんで頂けたらな、と。


ではまた次回!今年も宜しくお願いします!!
感想、評価、お待ちしてます!!

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