ダンジョンに天パ侍がいるのは間違っているのだろうか 作:TouA(とーあ)
今回もね、皆さんでジャスタウェイジャスタウェイしていきましょう(錯乱)
ではどうぞ!
『オオオオオオオオオ!!』
僕にとっての因縁の、そして乗り越えるべき壁の存在が雄叫びを上げた。
────ミノタウロス。
咆哮はダンジョンに轟々と響く。鼓膜を劈き、四肢を震わせる。僕が奴に遭遇する前に襲われていた冒険者は恐怖で顔を歪め、全身が震えていた。それも無理はない。普通はそうだ。僕もそうだ。
目の前で僕を見下ろすミノタウロスは僕一人に敵愾心を向けている。体が、心が、感情が高ぶっているからか僕はそれが鋭敏に感じ取れた。
「リリ、逃げるんだ」
「ベ、ベル様っ嫌です!リリは────」
「リリを巻き込みたくはない。これは僕が壊すべき壁だ」
「ですがっ!」
「聞こえなかったか?早く行くんだ。僕は大丈夫だから」
リリは涙を拭いて駆け出した。
この状況、師匠の言葉で言えば“
なのにどうしてだろう、ここまで気分が高揚するのは。
なぜだろう。早く剣を交えたいと思うのは。
────これが僕の初めての冒険だからか。
震えていたのは武者震いだったというだけ。目の前に立つ因縁の敵は乗り越えるべき壁だったというだけ。簡単なこと。
短刀を二刀構え、重心を落とす。自然と頬が緩んでしまうのは許して欲しいところだ。
僕は────
《ダンジョン9階層》
「ッ!」
アイズの道に立ち塞がり、厳然と佇む者が一人。
瞬間、アイズの表情には一切の余裕が消えた。それもその筈で、目の前にはオラリオ最強と名高い男が抜刀し敵意を向けているからだ。
「【猛、者】・・・」
敵意を向ける男、【フレイヤ・ファミリア】の首領・【猛者】オッタル。
急ぐ理由があるアイズにとってこの遭遇は不幸そのものだった。敵意を向けられている時点で刃を交えねばならぬことは必然的だった。
(早く行かないと・・・彼が・・・・・・)
アイズは先程、命からがら逃げ出した冒険者からある話を受けていた。
────ダンジョンの9階層にミノタウロスが!白髪の少年が俺たちを庇って・・・
アイズは悟った。いや何かを感じたというべきか。ミノタウロスに白髪の少年と言われれば、以前から多少なりと関わりのある男の子を想起してしまうのは仕方の無いことだった。
────ベル様を助けて下さいっ!!
その後に出会った
「【剣姫】、手合せ願おう」
「どうしてっ!」
「敵対する積年の
「そこをどいてっ!!」
言葉での説得が無理だと直感したアイズは滑空しオッタルに肉薄する。
オッタルは厳然としたままゆっくりと大剣を構えた。
「シッ!」
「温い」
アイズの渾身の刺突を事もなげに斬り払うオッタル。圧倒的な力の差にアイズは顔を顰めた。
オッタルは最重量級の武器にも関わらず、自身の手足の様に大剣を振るう。アイズは間一髪で避けることが出来ていた。
「お前の剣には俺が認めた男の剣が見え隠れしている。俺にとっては僥倖だ」
「くっ!」
「だが奴程ではない」
速度が上がる。それはアイズの連撃の速度であり、オッタルの守りの速度でもある。風を、空間を斬る音が轟く。
だがアイズはたった一撃さえもオッタルに叩き込めて無かった。巨岩の如く、全ての攻撃を小揺るぎもせず相殺されていた。
「ふんっ!」
「・・・・・・っ!!」
オッタルが放った横薙ぎの一撃がアイズを襲いかかる。
アイズは愛刀を盾替わりにして攻撃を受けつつ、攻撃の方向と同じ方向へ飛びダメージを減らした。しかしあまりの衝撃に体は吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられた。
「くっ・・・はぁ・・・」
ヨロヨロと立ち上がるアイズ。なぜアイズは少年の為にここまでしているのか理解してなかった。だが何か特別なモノが突き動かしているという事実だけは理解していた。
「私は、まだ・・・彼に、謝って・・・ない」
「・・・」
「【
「はい、ストップ」
「あうっ」
アイズが必殺の魔法を唱えようとしたその時、首根っこを掴まれた。引き戻されたアイズは何とも間抜けな声を上げた。
「その剣は置いとけ、アイズ」
「銀ちゃん・・・」
アイズを引き戻したのは銀時だった。片手でアイズの首根っこを掴み、片手で先程の
「来たか【白夜叉】」
「ハッ、上層にミノタウロスが出たっつうからよ。遠征がてら見に来たって訳よ」
「そうか・・・」
「襲われた奴の話を聞きゃぁ
「答える必要は無い」
「はぁ、だからテメェは
「なぁに、ただのうのうと生きているだけの貴様よりはマシだ。知能という点では貴様も猿公だろう?」
「男は皆
「フッフッフッ」
「ハッハッハッ」
「ガッハッハッハッ!」
「ギャッハッハッハッ!」
「「ダッハッハッハッハッハッハッ!!」」
二人のいい大人の笑い声が響く。銀時に引き戻された金髪の少女も抱えられている
「餞別にスルメを貰ったんだよ。どうだ?」
「頂こう」
「えっと・・・銀時、この状況を説明してくれるかな?」
「あん?一人の男の冒険をスルメ食いながら見ているだけだ」
「オッタルと一緒に?」
「おうよ」
「久しいなフィン」
「君も毒されているのか・・・」
フィンに続き、【ロキ・ファミリア】の幹部級の人物達が銀時らと合流した。フィン、リヴェリア、ベート、ティオナである。
フィンは項垂れた。目の前には胡座をかきながら仲良くスルメを食べている銀時とオッタル。離れたところにはミノタウロスと死闘を繰り広げている白髪の少年。話によればその白髪の少年はLv.1であり、到底ミノタウロスには敵わない筈だ────だが。
「ベート・・・僕の記憶が正しければ一ヶ月前、あの少年は如何にも駆け出しに見えたんじゃないのかい?」
「何が起きやがった・・・」
ベートが驚くのも無理はない。目の前で死闘を繰り広げているのは確かだ。だがLv.2の冒険者さえ一人では御免被る敵であるミノタウロスをLv.1である白髪の少年が対等に渡り合っているのはにわかに信じ難い光景であったからだ。
「手出しすんなよ。する奴ァ俺を倒してからにすんだな」
「誰も出さねぇよ・・・それが冒険者のルールだからな。横取りはしねぇ」
「ワンコのくせに分かってんじゃねぇか」
「ハッ!」
鼻で笑うベート。だがそれが理屈では理解出来ても感情では理解出来ていない者が三人。アイズとリリとティオナだった。
ティオナは恐る恐る銀時に話しかけた。
「ねぇ銀さん。Lv.1なら死んじゃうよ?」
「死なねぇよ。何せ俺の“弟子”だからな」
「「「ハァ!?」」」
リヴェリア、ベート、ティオナは素っ頓狂な声を上げた。フィンは何となく察しが付いていたのか目を丸くするだけだった。
「他のファミリアに干渉することは御法度であることは貴様でも知っている筈だ!!何を考えているのだ銀時!!」
「あまりカッカすんじゃねぇよ・・・老けるぞ」
「んな・・・」
リヴェリア撃沈。
「おい腐れ天パ、テメェは何を────」
「ふんっ!!」
「マヨネェェェェズゥゥゥゥゥゥゥ!!」
ベートはいつの間にか盗み取られていたマヨネーズを追い掛け、どこかに消えて行った。
「・・・銀さん、何あれ?」
「ただのマヨラーだ。気にするな」
「あぁ・・・うん。そうする」
大人の反応をするティオナ。
「おい【白夜叉】。スルメはもうないのか?」
「ハマったんかい!!まだあっから!」
壊れ始めるオッタル。
「僕はもう何が正解なのか分からないよ・・・」
「ベルの勇姿を見届けるのが正解。これが
団員を見て頭を抱えるフィン。だが見届けようと顔を上げ瞳をベルに向けた。
「冒険を楽しめよベル。ここで殺られる様なタマじゃねぇだろ?」
頭が冴えていた。
心は落ち着いていた。感情は昂っていた。体は火照っていた。
彼女の隣に立ちたいと、師匠を超えたいと、英雄になりたいと。強く強く願う。この時ほど強く思った時はないと思う。
「ウォォォォォォオオ!!」
『ォォオオオオオオォォオオッ!!』
僕は叫んだ。ミノタウロスも雄叫びを上げた。
「遅いな・・・君の攻撃は蜂より遅い」
「ッ!!」
hit&awayで攻撃こそ当たるが威力が無いため致命傷には至らない。肌の表面に切り傷が入るだけだ。
「オオオッ!」
「くっ!」
学習能力が有るのか、ミノタウロスは僕の移動先を先読みして大剣を振り下ろした。
僕は二刀をクロスさせ、大剣を正面から受け止める。ギシッと骨が軋む音がした────だけど。
「師匠の攻撃よりは遥かに軽いッ!!」
「ブモッ!?」
足のバネを使い、大剣を打ち上げる。
僕は間髪入れずに神様のナイフを逆手に持ち、ミノタウロスに向かって滑らせた。
「────アバンストラッシュ」
師匠から授けられた
瞬間、視覚も聴覚も嗅覚も味覚も痛覚も消えた。
ただ一刀。
自分自身の気力、体力、魔力を捨てて、その一斬に全ての力が集束された様な刹那の感覚を覚えた。
『オオオオオオオオッッ!?!?』
僕の意識が
それはミノタウロスの肘から先の右腕が血を撒き散らしながら宙を舞っている光景だった。
それらを視認すると同時に凄まじい倦怠感が僕を襲った。危うく膝を地面に着きそうになる。勝負はまだ付いていないのだから歯を食いしばり何とか堪える。
『オォォオオッ!!』
「クソッ!」
大剣を振れなくなったミノタウロスは左手の拳を何度も僕に振り下ろした。
体があまり言う事を効かなくなった僕は体ごと投げ出して転がりながら回避するしかない。しかしそれも長くは回避出来ないことは感覚でわかっていた。
「ガッ!!」
そしてミノタウロスの拳が僕の腹に突き刺さった。殴り飛ばされ壁に叩き付けられる。肺から空気が叩き出された。
何かが折れる音、何かが破裂する音が体内から聞こえる。幻聴だと思いたいけど燃える様な痛みが真実なのだと頭に警鐘を鳴らしてくる。
血が口から大量に吐き出され、意識が暗転しかける。ミノタウロスの死の足音が近付いてくる────その時、走馬灯の様に一つの記憶が蘇った。
────冒険者にとって大事なことぉ?
────エイナさんに言われたんです。『冒険者は冒険してはいけない』って。生きて帰ってくる事が大事なんだって。師匠はどう思いますか?
師匠との記憶。僕が改めて師匠に憧れを抱いた記憶。
────あ〜確かに大事だな。だが俺ァ冒険者にとって大事な事は三つあると思ってんだ。
────三つ・・・ですか?
師匠はいつも通りの天パの頭をガシガシ掻きながら言った。
────一つ目は仲間と共に育くむ【友情】。仲間にゃあ世話になる分、俺が護ってやらァっていう持ちつ持たれつの関係を築き上げる事が大事だ。
────なっなるほど・・・
僕も神様やリリ、関わってきた全ての人達に沢山助けられてきた。それ以上に師匠はその経験があるのだと思った。だからその言葉はとても重く感じた。
────二つ目は【友情】を護る為に必要なこと【努力】だ。仲間を護る為にゃぁ
────はい!わ、わかります!
師匠と初めて出会った時、僕は師匠の剣に魅せられた。何千、何万と振ればあれだけ美しい剣になるかわからない。だから僕は師匠に教えを請うたんだ。より強くなる為に。彼女に近付く為に。英雄になる為に。今は師匠を超える為に。
────仲間との【友情】を護る為に積み重ねる【努力】。そして最後の三つ目は仲間の想いに応え、強大な敵であろうが
「【勝利】だァァァァァアア!!」
関わった神様やリリや皆から【友情】を学んだ!いつも助けられてばかりだ!
だから皆を護る為に【努力】した!そしてあの人に追いつく為に!師匠を超える為に!【努力】を積み重ねた!
僕はこのままじゃ終われない! 死んでも死にきれない!僕を支えてくれた全ての人達に応えなきゃならない!僕に期待してくれた全ての人達に返さなきゃならない!たった一つの【勝利】を!その為に!!
「僕はただ壊すだけだ!!目の前にそびえ立つ限界という名の己の壁を!!」
余った力の全てを集束させろ!視覚も聴覚も嗅覚も味覚も痛覚も要らない!!たった一つの“技”を繰り出すだけでいい!!
夜空を翔ける“星”より速く!!
己の全ての技を“爆発”させろ!!
“嵐”の如き怒涛の連撃を!!
「────スタァバァストッストリィィムッ!」
「流石、お前の弟子と言うべきか」
「ハッ、言ってろ」
銀時らの視線の先には血みどろの白髪の少年が立ったまま気絶していた。そして地面に転がるのはミノタウロスであった
「俺は戻る。武運を祈っている」
オッタルはそう言って片手にスルメを持ってこの場を後にした。その言葉は銀時たちに掛けたモノなのか、英雄になる資格を手に入れた少年に掛けたモノなのか分からなかった。
「凄かった・・・本当に。最後の連撃は綺麗だった」
「16連撃。他の技術は僕達からしてみれば稚拙そのものだったが、その連撃とミノタウロスの右腕を斬り落とした斬撃は見事だった。最後の連撃の時に
ティオナが皆の気持ちを代弁し、フィンが興奮が混ざった声で解説した。
リリはリヴェリアから譲り受けたポーションを持ってベルの元へ駆けて行った。
「ねぇ銀ちゃん・・・」
「何だ?」
アイズは声を震わせながら銀時に声を掛けた。その瞳は未だに少年に向いたままだ。
「あの子も、銀ちゃんも戦いの時、何を見ているの?どこを見ているの?」
その問いはその場にいた全員の問いだった。
「
そう言って銀時は微笑んだ。だが周りの連中は銀時の言葉を反芻しながら、白髪の少年を見ていた。
「何はともあれお疲れさん、ベル」
この話は私がこの二次小説を書き始めて書きたかった1話の一つです。楽しんでいただけたでしょうか?
銀時の教えとして【友情】【努力】【勝利】は外せませんでした。ジャンプを知ってる皆さんはわかりますよね?
【重要】ベルの発現スキルを変えました!!
はい、この話でベルの銀魂のポジションがわかったと思います。パクヤサ以外で・・・。
○中二病混じり。ちょいポエマー。
○攻撃に必要な情報以外を削ぐ為に“左目”を瞑る。
○僕はただ壊すだけだ!己の中にある限界という名の壁を!
はいわかりましたね。
答えがわかった方は感想欄にてジャスタウェイと一緒に。
では毎度恒例謝辞。
『晩鐘』さん、『ただの通りすがり』さん、『ユウ11』さん、『回る空うさぎ』さん、『金子カツノリ』さん、『早川龍馬』さん、『魔剣士スパーダ』さん、『ニャルるん』さん、『耶義』さん、『速報』さん、『エアーマン』さん、最高評価ありがとうございます!!
『主任大好き』さん、『SCI石』さん、『漆黒の覇王黒龍』さん、『gatamon』さん、『かっちゃん0430』さん、『C3PO』さん、『正宗の胃袋』さん、『茶飲み話』さん、高評価ありがとうございます!!
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ではまた次回!!感想、評価お待ちしてます!!
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