転生してダクネスの姉になりました   作:フル・フロンタル

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第8話

 

 

 

 

あたしが女神と呼ぶと、カズマも女神も固まった。それに構わずあたしはタンッと心地良い音と共にジャンプして、両足を揃えて女神の顔面に蹴りをぶちまけた。

女神は後ろにひっくり返り、あたしも腰から床に落ちた。

 

「キャアア⁉︎ち、ちょっと何すんのよ⁉︎」

 

「うがあああ!こ、腰がッ……コシがああああ‼︎」

 

「何やってんだお前……」

 

腰を抑えながら悶絶するあたしにカズマが呆れたように呟いたが、あたしは無視して女神に言った。

 

「女神!あんたの寄越した能力使えなくなったんだけど‼︎ふざけんなよマジで!返せよ、あたしの平穏な引きこもり生活を返せよ‼︎」

 

「は、はぁ⁉︎ちょっと何言ってんの⁉︎てか、誰よあんた‼︎」

 

「あたしよ!城奈伶衣‼︎」

 

「しろな………?誰?」

 

グッ……覚えてないのか?そりゃそうか、あたしにとっては唯一の女神でも、向こうにとっては何人も送った中の一人だから。

………と、思ったが、予想外の答えが出た。

 

「………城奈伶衣って……まさか、あの城奈伶衣?」

 

「なんだアクア、知ってるのか?」

 

「え、ええ……七年くらい前に来た人なんだけど……でも私の知ってる城奈伶衣は成績優秀スポーツ万能容姿端麗、クラスでも商店街でも人気者で、実家の精肉店を支えて来た女の子よ。かなりできる子だったから覚えてるわ」

 

「その城奈伶衣よ、あたしは‼︎」

 

「嘘よ!あの子は黒髪ショートで、自分の将来を目を輝かせながら語っていたのよ!あなたみたいなボサボサ若白髪で濁った目をしたダメそうな女の子じゃないわ!」

 

「あの頃のあたしは若かったんだよ……。………これが若さか」

 

パパとママ元気かなぁ……。まぁ、大丈夫でしょ。妹いるし、あの子もあたしと同じレベルで有能だったから。

って、そんなことじゃない。

 

「それよりあんたにもらった能力よ!あれ期限とかあるわけ⁉︎全然、役に立たないんだけど!」

 

「はぁ⁉︎過去に経験があれば戦車だって召喚できる能力の何が気に入らないのよ!」

 

「ついこの前からまったく機能しなくなったんですけど!今なんてポーションと銃弾しか出せないんですけど⁉︎」

 

「は?能力?何言ってんの?」

 

「あの過去に見たものならなんでも作れる能力のこと!」

 

「はぁ?そんなはずは……!」

 

「お、おい二人とも落ち着けって。周りの人がメチャクチャこっち見てるぞ」

 

カズマが間に入って来たため、話は中断したものの、あたしとアクアの睨み合いは続いた。このアマ……マジぶっ殺してくれようか。

 

「おい、さっきから騒がしいにも程があるぞ。何をしているんだ」

 

ララティーナとめぐみんが戻って来た。うーむ、流石にララティーナやめぐみんには話せないか……。どうせ信じてもらえないし。

 

「とにかく、後で聞かせてもらうからね」

 

「上等よ。あんたが泣いても許さないほど論破してやるから覚悟なさい」

 

へぇ?学校の先生に「将来、総理大臣になれる」とまで言われたあたしに勝てると思ってるのかしらこのアホは?まぁいいわ、とりあえずフルボッコにして差し上げましょうか。泣いて謝っても許さないからねまじで。

 

 

 

 

街から外れた丘の上。そこの共同墓地に湧くアンデッドモンスターの討伐に来た。まるでバイ○ハザードだ。特にあたしは拳銃だし。

が、まだ夕方なので、あたし達は夜まで墓場の付近でキャンプをすることにした。

 

「あーあ……能力さえあれば、こんなとこでバーベキューなんてしなくても好きな食べ物作れるのに……」

 

「そうぼやくな。ほら、焼けたぞレイ」

 

「………よくやった。褒めてやる」

 

「……………」

 

「嘘嘘!悪かったからお肉返してよ!」

 

あたしとララティーナのやり取りを見ながら、めぐみんが聞いた。

 

「レイは、ダクネスと姉妹なんですよね」

 

「うん。そだよ」

 

「…………どちらが姉なんですか?」

 

「あたしに決まってんじゃん。あたし、こう見えて二十歳だからね」

 

すると、カズマがあたしの胸とララティーナの胸を見比べた後、顔を背けて呟いた。

 

「………成長って、時に残酷なものだよなぁ」

 

「…………おい、今どこを見て言った」

 

「……いや、なんでもない。気にするな」

 

「ブッ殺す」

 

椅子から飛び上がって、カズマに殴りかかった。その拍子に、ふくらはぎからプチっという音が聞こえた。

 

「ああああ‼︎す、筋が……!筋が逝ったああああ‼︎」

 

「何やってんだお前……おい、アクア。治してやれ」

 

「ええ……なんか嫌なんですけど……」

 

「治してやれって。まだクエストも始まってないのに、お荷物はごめんだろ」

 

「誰がお荷物よ!お前マジ眉間ブチ抜いてやろうか!」

 

「………やっぱ治さなくていいぞ」

 

「わー!嘘嘘ごめんなさいカズマ様!」

 

アクアに足を治してもらってるあたしを見ながら、めぐみんがボソリと呟いた。

 

「………私、あんな大人にはなりたくないです」

 

「……そうだな。今のうちに頑張れ、めぐみん」

 

ちょっとララティーナまで賛同しないでよ。

晩御飯を終えて、あたしたちは食休みに入った。あたしのお向かいのカズマが、マグカップにコーヒーの粉を入れ、手から水をだして、マグカップの下を火で炙ってコーヒーを作った。

そんなカズマを見て、めぐみんが言った。

 

「……すいません。私にもお水ください。って言うか、カズマは何気に私より魔法を使いこなしてますね。初級魔法なんてほとんど誰も使わないものなのですが、カズマを見てるとなんか便利そうです」

 

カズマはめぐみんのコップに水を注いであげた。

 

「いや、初級魔法なんて元々そういった使い方するもんじゃないのか?」

 

………そういえば、あたしって物を作るのは封じられたけど、魔法は封じられたのかな。目で見たものは基本的になんでも作れる能力だし、不可能じゃないかも……。

ちょっと試してみよ。

 

「ほっ」

 

水を何も考えずに飛ばしてみると、偶々カズマの飛ばした土と水が融合して泥水となり、それがアクアに直撃した。顔面が泥だらけになったアクアはジッとあたしを睨んだ。

 

「………何か言うことは?」

 

「似合ってるよ」

 

再び乱闘になるあたしとアクアを、ララティーナが止めた。

 

 

 

 

夜中。ようやくクエスト開始。夜になり、あたしのテンションが少し高くなる中、アクアのボソッとした呟きが聞こえた。

 

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

 

「ちょっと、フラグ立てようとするのやめてくれる?『やったか?』『これ以上、何も出なければいいけど……』『殺人犯と同じ部屋になんかいられるか!』。これ全部フラグなんだからね」

 

「最後のはサスペンス限定だろ……まぁ、とにかく、今日はゾンビメーカーを一体討伐、取り巻きのゾンビもちゃんと土に還し、さっさと帰って寝る。計画以外のイレギュラーな事が起こったら即刻帰る。いいな?」

 

その言葉にあたし含めた全員が頷いた。

敵感知を持つカズマを先頭に、全員で墓地へと歩いて行った。すると、カズマは足を止めた。

 

「敵感知に引っかかった。いるぞ、一体、二体……三、四………?おかしいな、取り巻きはせいぜい二、三体って聞いてたんだが」

 

「ちょっと、多くない?あたしが別の場所から狙撃して数減らす?」

 

「…………」

 

あたしの提案に、カズマが信じられないものを見る目であたしを見た。

 

「何、じっと見て」

 

「いや、やる時はやる人なんだなと思っただけだ」

 

「ち、違うからね!ただ、早く帰りたいだけなんだからね!勘違いしないでよね!」

 

「そんなツンデレいらねーから!それと、別で動かなくていい。この程度なら誤差の範囲内だから」

 

そのまま墓地に進んでると、墓地の中央で青白い光が出ていた。

見えるのは、大きな円形の魔法陣。その魔法陣の隣には、黒いローブの人影が見えた。

 

「………あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……」

 

めぐみんがポツリポツリと呟いた。その黒いローブの周りには、ゆらゆらと蠢く人影が数体見える。

あたしは腰のホルスターから拳銃を抜き、セーフティバーを降ろした。

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃないにしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデッドに違いないだろう。なら、アークプリーストのアクアがあれば問題ない」

 

大剣を構えたララティーナがそわそわし始めた。落ち着けよ変態。

その時、アクアがとんでもない行動に出た。

 

「あーーーーーーッ‼︎」

 

突如、何を急に叫び出したのかと思ったら、そのままローブの人影に向かって走り出した。

 

「リッチーがノコノコこんなとこに現れるとは不届きなっ!成敗してやる!」

 

………は?リッチーって……あのリッチーか?ノーライフキングとか呼ばれてるアンデッドの王、だっけ?

 

「や、やめやめ、やめてええええ!誰なの⁉︎いきなり現れて、何故私の魔法陣を壊そうとするの⁉︎やめて!やめてください!」

 

「うっさい、黙りなさいアンデッド!」

 

超大物モンスター相手でも、アクアは恐れることなく魔法陣を踏みにじり、リッチーはアクアの腰に泣きながらしがみついた。

その周りにいるアンデッド達は、ぼーっとそのやりとりを眺めている。あたしもめぐみんもララティーナもどうしたらいいか分からず、静観していた。

魔法陣を踏みつぶそうとするアクアの腰にしがみついたリッチーが泣きながら叫んだ。

 

「やめてー!この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂達を、天に返してあげるためのものです!」

 

「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行はこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してやるわ!」

 

「ええっ⁉︎ちょ、やめっ⁉︎」

 

「『ターンアンデッド』ー!」

 

リッチーを無視してアクアは手を広げて叫び、墓地全体を浄化しようとした。それはもちろん、リッチーにもこうかはばつぐんだ!

見ていられなくなったのか、カズマが出て行って、アクアの後頭部を殴った。

 

「おい、やめてやれ」

 

「っ⁉︎い、痛いじゃないの!あんた何してくれてんのよいきなり!」

 

「はいはい落ち着いて」

 

食ってかかるアクアをあたしが(拳銃を突きつけて)抑え、その間にカズマがリッチーに声をかけた。

 

「お、おい大丈夫か?えっと、リッチーでいいのか?」

 

「は、はい……危ないところを助けていただき、ありがとうございました……っ!えっと、仰る通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 

ウィズの話によると、毎晩毎晩ここの共同墓地に眠る、天に還される事を後回しにされた魂達を送ってあげているそうだ。

あたしもカズマもめぐみんも思わず泣きそうになったが、それを堪えて話を進めた結果、リッチーを見逃し、定期的にアクアがあの墓場に浄化しに行くことに決まった。

尚、あたしを「法隆寺」の店主だと知ったウィズは、どうやらかなり尊敬していたようで、あたしに名刺を渡してきた。売り方を教えてだのなんだの言ってきた。………ああ、余計な仕事が増えた……。

で、今は帰り道。めぐみんが安堵したように言った。

 

「でも、穏便に済んで良かったです。いくらアクアがいると言っても、相手はリッチー。もし戦闘になっていたら、私やカズマ、レイは間違いなく死んでいましたよ」

 

「げ、リッチーってそんなにヤバいモンスターなのか?」

 

「ヤバいなんてものじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスターですから」

 

「うわあ……やっぱり引きこもるに限るわー」

 

「うわっ、流石引きニートね」

 

「OK、アクア。戦争だ」

 

「お前らやめろって!」

 

カズマがあたしとアクアの戦争を仲介した時、ララティーナがぽつりと呟いた。

 

「……そういえば、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

 

「「「「あっ」」」」

 

クエスト失敗。

 

 


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