緊急クエストのキャベツの収穫を終え、俺達はギルドで食事していた。
ギルドの中で出されたキャベツ炒めを一口食べた俺は悔しげに呟いた。
「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ。納得いかねえ、ホントに納得いかねえ……!」
や、本当に美味い。日本じゃこんなキャベツ食えないぞホント。………でも納得いかねえ。 そんな俺の気も知らずに、うちの駄女神が陽気に言った。
「しかし、やるわねダクネス!あなた、さすがクルセイダーね!あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ」
「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くは無い。だから、剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守る事しか取り柄がない」
………やっぱこいつも性能も中身もダメな系だった。まぁ、出会った時からなんとなく想像はしてたけどな。
「………その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツの群れを爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたじゃないか」
「ふふ、我が必殺魔法の前において、何者も抗うことなど叶わず。……それよりも、カズマの活躍こそ目覚しかったです。魔力を使い果たした私を素早く回収して背負って帰って来てくれました」
「……ん、私がキャベツやモンスターに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲い来るキャベツ達を収穫していってくれた。助かった、礼を言う」
「確かに、潜伏スキルで気配を消して、敵感知で素早くキャベツの動きを補足し、背後からスティールで強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです」
二人に褒められてもは嬉しそうな顔はできなかった。その俺にアクアが火にガソリンをぶっかけるかの如く、元気よく言った。
「カズマ……。私の名において、あなたに【華麗なるキャベツ泥棒】の称号を授けてあげるわ」
「やかましいわ!そんな称号で俺を呼んだら引っ叩くぞ!……ああもう、どうしてこうなった!」
頭を抱えながら、机に伏せた。本当になんでこうなるんだよ!
「では……。名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用すぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」
アクアが満足そうな笑みを浮かべながら言った。
「……ふふん、ウチのパーティーもなかなか、豪華な顔ぶれになって来たじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして、防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。4人中3人が上級職なんてパーティー、そうそういないわよカズマ?」
どいつもこいつもポンコツばかりだけどな!性能も中身もアホばかりで職業だけ優秀とかマジふざけんな⁉︎もはや我慢の限界に近かったが、なんとか口に出さなかったのには理由がある。
もう一つ、最後の希望があったからだ。この世界の冒険者……いや、少なくともうちのパーティーに限って言えば、職業と性能は反比例している。つまり、最弱職の冒険者がうちのパーティーに入れば、性能はアレでもまともな感性の持ち主が来てもおかしくないのだ。
その冒険者が、俺のパーティーに入るはずのだ。とりあえず、アクアを鮮やかに無視して、その事をダクネスに聞いてみた。
「………つーかダクネス。お前のお姉さんは?」
「…………あっ」
忘れてたようだ。
☆
翌日。俺は装備を整え、ギルドに向かった。今日こそは俺の希望であるダクネスのお姉さんを連れて来てくれるようで、少し楽しみにしている。というか、この人がダメならマジで解散したろかこのパーティー。
そんな事を思いながら、めぐみんとアクアと共にダクネスを待ってると、後ろから声が掛かった。
「すまない、待たせた。……おっ、カズマ。装備を整えたのか?」
「ああ。ダクネ……」
やっと来た!………誰かを引きずって。
「………おい、それは?」
………ああ、神様。あの人がどうかダクネスのお姉さんではありませんように。
「ああ、これか?昨日、本当は来る予定だったのだが、来なかった理由を問い詰めた所、『隠れキャラ攻略ルートに夢中だった』とかほざき出してな」
お姉さんだった。………もうほんとこの世界嫌い。
ダクネスが掴んでいた襟首を離し、引き摺られていた人は頭を床にぶつけて目を覚ました。白髪で綺麗なお姉さん。可愛いと言っても美人と言っても通用する、外見は完璧な人だ。
その人はぶつけた頭を抑えながら声をあげた。
「ってぇ!……何?何処ここ?」
………ダメそうだ。
「これからお前が入るパーティーのカズマだ。挨拶しろ」
「は?パーティー?誕生日?ごめんあたしプレゼント持ってないよ」
「いやそうじゃない」
「じゃ、あれか。エリス様ナンタラパーティー」
「そうじゃない。というかわざとだろうお前」
………頼むから、もう黙っててくれ。もう中身もダメって分かっちゃったじゃん。
「祝う方ではなくチームの方だ。この前言ったろう」
「覚えてないなぁ。あたしはほら、過去は振り返らずに前だけを見て生きる事にしたから。過去の栄光は全部忘れて部屋から一歩も出ないことに……」
「それで何故そうなるんだ⁉︎」
………ああ、あのダクネスがまともに見えるほどダメな人じゃん……。もう期待値ゼロなんだけど。何より、俺と同じタイプの人に見える時点でもうね。
でも一応、自己紹介しておかないとなぁ……。
「あ、もういいか?」
俺が声をかけると、二人はこっちを見た。
「えーっと、冒険者のカズマだ。ダクネスのお姉さん、でいいんだよな?」
「………あー、うん。はい。ダスティネス・レイ、です」
「うちのパーティに入るって聞いてたんだけど……」
「一応、そのつも……」
「こんにちは。店主さん‼︎」
俺の後ろからめぐみんが顔を出して、レイさんに声を掛けた。
「我が名はめぐみん‼︎一年ほど前に、店主さんに餓死寸前のところをご飯を奢ってもらった者‼︎」
うわあ、こんなかっこ悪い自己紹介初めてだわ。それでいいのかめぐみん。
それに対してレイさんは、
「………誰?」
覚えてなかった。
「わ、私です!一年ほど前に……!」
「ごめん。ラインから流れて来る量産品なんて一々覚えてらんないわ」
「」
うわっ、それはちょっと言い過ぎだろ……。てか本当に店員かよ。
「それで、早速だけど今日は行くの?クエスト。行かないなら帰っていい?帰っていいよね?よし帰ろう」
「レイ」
ダクネスがにっこり微笑みながら指をゴキゴキと鳴らした。なんかこいつ、自分の姉には強気だな。どっちが姉だか分かったもんじゃない。
「や、冗談です。で、どのクエストにすんの。とにかく、楽なクエストが良いんだけど、早く帰れる奴」
「ふむ、少し考えてみるか」
ダクネスとめぐみんがクエスト掲示板を見に行った。そのレイさんの意見を聞いたアクアがバカにしたような感じで言った。
「えー、私はもっと高難易度なクエストを受けたいんですけどー。一気にお金も入るのに………」
アクアがブツブツ文句を言った直後、レイさんがアクアを見て言った。
「………あっ、女神」
「「………えっ?」」
今、この人なんて言った………?