転生してダクネスの姉になりました   作:フル・フロンタル

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第4話

 

 

 

翌朝。あたしの部屋にララティーナが入って来た。

 

「レイ!筋肉痛は治ったか⁉︎」

 

朝から大声出すなよ……。頭に響く。

 

「ごめん……まだ治ってない」

 

「ふ、ふむ、そうか?分かった」

 

言うと、素直に引き下がった。しかし、2日続けて筋肉痛とかもう歳かなー。あ、いや歳なのは1日遅れの筋肉痛だっけ?なんだ、まだまだ若いやんあたし。

 

「治ったら言えよ。ビシバシ鍛えてやるからな」

 

「いいよそんな張り切らなくて」

 

「お前はもっと張り切れ!」

 

「それより、クリスさん待たせてるんでしょ?早く行きなよ」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

ララティーナは出て行った。さて、寝よ。

 

 

 

 

さらに翌日。

 

「どうだ!筋肉痛は治ったか?」

 

「うーん、立たないほどじゃないんだけど、肝心の両腕と両足がまだ……」

 

「そ、そうか?本当に筋肉痛かそれ?大丈夫か?」

 

「心配ご無用!それより、クリスさん待たせてるんでしょ?」

 

「あ、ああ、じゃあ今日も……」

 

 

 

 

さらに翌日。

 

「レイ!筋肉」

 

「まだ痛い」

 

「お、おお……もしあれなら、湿布とか取ってくるが……」

 

「大丈夫」

 

「いやでももう4日目……」

 

「それより、クリスさん待たせてるんでしょ?」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

 

5日目。

 

「………おい、筋肉痛は」

 

「まだ痛い」

 

「……………」

 

「それよりクリスさん待たせてるんでしょ?」

 

「…………まだ何も言ってないんだが」

 

 

 

 

6日目。

 

「おい、筋肉痛」

 

「あたしは筋肉痛じゃありませんよーwww」

 

「…………………」

 

「それよりクリスさ……ングッ⁉︎」

 

口を塞ぐように両頬を掴まれ、あたしの口はタコみたいになった。

 

「おい、いい加減にしろよ。そんな長い筋肉痛があるか」

 

「んぐー!んーんー!」

 

パッと手を離され、あたしは布団の上に落ちた。あーあー、苦しかったーと座り込んで咳き込んでると、あたしを跨いで仁王立したララティーナが、指を鳴らしながら口を開いた。

 

「もう一度聞くぞ。正直に答えてやれば一発で済ませてやる」

 

「か、顔が怖いよーララティーナちゃん……何を一発なのかな………?」

 

「………筋肉痛は?」

 

「な、治りました……」

 

「いつから?」

 

「4日前です………」

 

「なら、四発だな」

 

「なんで!一発って言った‼︎」

 

「一日一発という意味だ」

 

「待って待って待ってごめんなさいごめんなさいごめんなさ……‼︎」

 

ゴンッゴンッゴンッゴッチンッ‼︎と、クレヨ○しんちゃんのようにゲンコツを喰らった。頭が割れるかと思った。

 

 

 

 

外でクリスさんと待ち合わせし、あたしは未だにジンジンと痛みの残ってる頭を抑えながら二人の後に続いた。

 

「ううっ……何もそんな本気で殴らなくても……」

 

「うるさい。四発で済んだだけでもありがたく思え。まったく……四日も無駄にさせおって……‼︎」

 

うちの妹、加減を知らないんだよなぁ……。チッ、脳筋が。

あたしの心の中の舌打ちが聞こえたのか、いや聞こえてないだろうけど、険悪な空気を読んだクリスがこのままでは喧嘩になると踏んだのか、話題を変えた。

 

「それで、なんのクエスト受けるの?」

 

「クエストなど受けなくても良い。そこらのダンジョンにでも行って、一周して一通りレベル上げて帰ってこようと思っている」

 

「だ、ダンジョン……?やだよ、おっかない。あたし外で待ってるから二人で……」

 

「…………は?」

 

「ごめん、続けて」

 

しかし、レベル上げかぁ……G○ェネみたいにチャンスステップがあるわけでもないってのに、なんでそんな危なっかしい所に行きたがるのか……。マゾなの?あ、マゾか。

そんな事を思ってるうちに、ダンジョンの入り口に着いた。

今日もあたしは武器を持って来ていない。今から作り出すのだ。準備体操しながら(特にアキレス腱を伸ばしながら)、なんの武器を作ろうか考えた。中学の時の運動神経が残ってれば、脚は早いので近距離職を選べる。だが、前衛は危ないし、パーティメンバーは近距離職ばかりだし、何より前衛は危ないので却下。

うーん、後ろで支援でもしてるしかないか……。でも拳銃は脱臼するし……あ、そういえば前にお巡りさんが違法輸入された拳銃を押収したって自慢げに見せてくれた女性でも扱える拳銃があったな。………あのおっさん、当時小学生のあたしに何を見せたんだ。ま、いいや。あれにしよう。

 

「よし、行こう」

 

あたしは銃なんかに興味はないので、あの時に見た銃がなんて名前なのか知らないけど、とりあえず銃だ。

 

「おっ、変わった武器持ってるね」

 

クリスさんが興味を持ったのか、聞いて来た。あれ?この人、なんでこれが武器だってわかったんだ?あたしが銃使ったのってこれが2回目のはずなんだけど……。

 

「どうやって使うの?」

 

続けて質問されてしまい、思考を中断して説明に入った。

 

「あ、え、えと……ここの引き金を引くと弾が出る、んですよ……」

 

「へぇー、やってみてよ」

 

「オイ、行くぞ」

 

ララティーナに声を掛けられたので、それは後ほど。

続いて懐中電灯を出して、先頭のララティーナに渡してダンジョンに足を踏み入れた。

 

 

 

 

結果的に言うと、あたしのパーティは良く機能していた。身体も頭も硬いイワークみたいなララティーナが敵の注意を惹きつけ、その隙に身軽なクリスさんがトドメを刺す、

その様子を後ろから眺めながら、あたしは後ろでピー○姫を助ける冒険に出ている、完璧なフォーメーションだ。

 

「っしゃ!6面クリアー!」

 

直後、シキンッと心地よい音とともに、DSの画面に一筋の光が入った。それと共に、ズッと画面がブレ、ズラリと落ちた。

 

「あー!ちょっ、ララティーナ何すんだよ!」

 

「おい、マジで張り倒すぞ貴様」

 

「………だからってぶった斬る事ないでしょ……」

 

「ちゃんと戦え」

 

「はい。すいませんでした」

 

そういうわけで、ゲームを封じて3人でダンジョンを進んだ。途中のモンスターの足を後ろから撃ち抜いたりして、援護をし続けた。

ララティーナとクリスさんの後ろからついていった。

 

「はいララティーナ。ポーション」

 

「いらん。この程度の傷でポーションなど必要ない」

 

「立派なこと言うフリして自分の趣味に没頭するな。いいから飲め」

 

「うぐっ……の、飲みたくないものをっ、姉上に無理矢理飲まされ……!ああー‼︎」

 

「キモい声上げんな」

 

無理矢理口の中にポーションをねじ込まれて、体を火照らせてるバカを見ながら、クリスが引き気味につぶやいた。

 

「だ、ダクネスも、大概変だね……」

 

「私はまともだ!」

 

「黙れ変態」

 

クリスさんには本当に申し訳なく思ってます。変態と自宅警備員の介護をさせてる気分になる。だったらいっそ、冒険なんてしなければ良いのに、それをなぜか許さないララティーナなんだよなぁ。どんだけあたしを働かせたいんだっつの。

 

「よし、では先を進むか」

 

「ねぇ、今どの辺なん?」

 

「どの辺って……ダンジョンだが?」

 

「や、そういうんじゃなくて。スタート地点からどの辺?」

 

「ああ。えーっと……」

 

「大体、四分の一くらいかな」

 

「ええー……もう無理。死ぬ。帰ろう」

 

「バカ言うな。もっとシャキッとしろシャキッと」

 

「クーリースーさーん」

 

「え、な、なんで私に言うの……?」

 

困惑するクリスさんを他所に、あたしは涙目でクリスさんを上目遣いで覗き込んだ。ウッ……と、怯んだクリスさんは、苦笑いを浮かべてララティーナに言った。

 

「ま、まぁまぁ。この辺で一度休憩にしよっか?ダクネスもそれで良い?」

 

よし、堕ちたな。昔からあたしは成績、性格、運動神経だけでなく顔も可愛いと言われて来た。そんなあたしの涙目上目遣いに勝てる奴なんているはずがないだろう。

 

「ふむっ……クリスがそう言うなら……」

 

ッシャオラ!

あたしが作り出した折り畳みの椅子に3人で座り、続いて机、その上にコーヒー、ハンバーガー、ポテトを作り出した。

その様子を見て、クリスさんは目をキラキラと輝かせた。

 

「うわー……すごいね。なんて魔法なの?」

 

「コピー魔法」

 

「どうやって習得したの?教えてくれない?」

 

「いや、それが、その……特典でもらったというか、なんやかんやでもらったって感じで……多分、あげられないと思いますよ」

 

異世界から転生してきて、その特典でもらいました、とは言えないよね。どーせ、信じてもらえないし。

だが、クリスは「特典……?……ああ、」と、何か納得したような呟きを漏らした。この人、もしかして……、

 

「特典?どういうことだ?」

 

あたしの思考はララティーナによって遮られた。

 

「前に生まれつきの能力って言ってたじゃないか」

 

「え?あ、そ、そーだっけ?」

 

あ、そういえば子供の時にそんなこと言ってた気もするかも……。

 

「だからアレだよ、生まれた時の初回封入特典」

 

「………なにをいってるんだ?」

 

「生まれつきって事」

 

と、テキトーに誤魔化すと、ララティーナは納得したように「う、うむ……?」と返事をした。こいつ、ホントバカだな。

食事を終えると、ララティーナは立ち上がった。

 

「よし、では行こうか」

 

「家に?」

 

「は?」

 

「や、ごめん。冗談」

 

冗談だからそのガチトーンの声やめろ。怖いんだよ。

あたしは人差し指をフリフリして椅子と机を消し、ダンジョン攻略を再開した。

 

 

 

 

ようやく一周だよ……。もう戦ったり逃げたりで疲れた……。項垂れながら歩いてると、クリスさんが微笑みながら声をかけて来た。

 

「お疲れ様。頑張ったね」

 

「…………ほんとに。もう明日から絶対動かない」

 

「それは多分、ダクネスがさせないと思うけど……まぁ、ギルドに戻ったらご飯奢るよ」

 

「それはどうも」

 

ご飯くらい、能力で作れるんだけど……まぁ、別に良いか。

 

「ところでさ、なんで冒険に出たくないの?」

 

突然、そんな質問が飛んで来た。

 

「え?なんでって……だって行く必要ないじゃん」

 

「?」

 

「あたしの能力ってさ、一度見たものならなんでも作れるから、金だって作れるのよ。だから、わざわざ命かけて戦う必要なんてないんだよ。だから家でゴロゴロしてたほうがいいでしょ」

 

「…………なるほど」

 

あれ?納得しちゃうんだ。ま、いっか……そんな風に思ってると、前のララティーナが止まった。

 

「どしたの?」

 

「最後の難関だ」

 

目の前には、アンデットの群れが待機していた。こっちを見て、如何にも襲い掛かりそうな感じだ。

 

「ヒッ……!」

 

「この数は流石にキツイな。クリス、行くぞ。レイもサボるなよ」

 

「うん」

 

「分かってるよ。あたしのことなんだと思ってるのさ!」

 

「ヒキニート」

 

「そう思うなら外に出さないでよ」

 

「行くぞ!」

 

「今の会話、何一つ解決してませんけど⁉︎」

 

ララティーナとクリスが突撃し、あたしは拳銃を構えた。

 

 

 

 

なんとか切り抜け、今は翌日。またまた喧しくもドアをぶち壊す勢いで扉が開かれた。

 

「レイー!」

 

「………何」

 

露骨に嫌そうな声が出た。なんなんだよこいつ、毎朝毎朝毎朝毎朝同じ時間に。テレビのニュース番組レベルの正確さだよ。

 

「今日もクエストに行くぞ!」

 

「やだ」

 

「行くぞ!」

 

「ちょっ、布団を引っぺがすな!」

 

布団を取られ、カーテンを開けられ、ズボンに手を入れられた。

 

「って、やめて!自分で着替えられるから!」

 

「じゃあ早くしろ」

 

「朝飯食ってからでもいいか?」

 

「早くしろ」

 

「ララティーナも食べる?」

 

「………食べる」

 

と、いうわけであたしは焼き魚と納豆とご飯とサラダを出した。和食である。が、

 

「あれ?」

 

「おい、どうした」

 

「…………出ない」

 

「飯?」

 

「うん」

 

「もう一回やってみろ」

 

「……………」

 

「……………」

 

「………出ない」

 

「……………」

 

能力が、使えなくなった。

 

 


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