転生してダクネスの姉になりました   作:フル・フロンタル

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第3話

 

「ねーえー、もー帰ろーよー!」

 

「ダメだ!任務を完了するまではな」

 

アキレス腱を切り、右肩を脱臼したあたしは、ララティーナにおんぶしてもらってる状態だ。

あたしが外に出歩けばララティーナの目的は達成されるもんだと思ってたけど、違ったみたいだこれ。じゃあなんで連れ出したんだ?受けたクエストは完了したいということか?

 

「でも危ないじゃん。あたし怪我してるし、持って来たポーションじゃフル回復できないしー」

 

ララティーナがいればなんとかなると思って、あたしはポーション二本しか持って来てない。あ、そうだよ。作れば良いじゃん。

 

「ララティーナ、降ろして。ポーション作る」

 

「…………やだ」

 

「はぁ⁉︎なんで!」

 

「考えてもみろ。私はレイをおぶっていて戦えない、そんな所にモンスターが出て来てみろ!それは、もうっ……!」

 

「気持ち悪い。……っと、ほい」

 

最強クラスのポーションを生み出し、ぐいっと呷った。すると、あたしの脱臼とアキレス腱が修復されて行く。

よし、治った。

 

「もうおんぶしなくていいから、降ろして」

 

「そしたら逃げるだろう」

 

「逃げない逃げない。逃げないから」

 

「ダメだ」

 

「…………」

 

この野郎。逃げないって言ってんじゃん。………そんなに逃げろ逃げろ言われると、

 

…………ホントに逃げたくなるじゃん。

 

あたしは後ろから両足をララティーナの腰から腹に巻きつけて、両手で首を締め上げた。

 

「っ⁉︎ カハッ……!れ、レイ貴様……‼︎」

 

「は、な、せ……‼︎」

 

「だ、誰が離すか……‼︎助けてあげた姉に逆襲され、後ろから首を絞められるなんて……!どんなご褒美だ!」

 

こいつぅー!これだからドMは面倒臭ぇんだよ‼︎

 

「手、を、は、な、せ……‼︎」

 

「離さなければ貴様の大事なものをいただくと!そう言いたいのか!」

 

「大事なもの?何かくれんの?」

 

「私の処」

 

「妹のそんなもんいらんわ」

 

「っはぁ!」

 

「感じるな気持ち悪い」

 

いつからこいつこんなんなったっけ。ていうか男女関係ないのなこの子。ならば……!

あたしは首から手を離して、竹刀を生み出し、ララティーナのケツの穴にぶっ刺した。

 

「ひゃあん⁉︎」

 

「離せ!」

 

「ふああああ!い、一体、どこまで鬼畜なのだ姉上殿‼︎」

 

「変な声を出すな」

 

って、あれ、なんか下半身が痛いな。そう思って下を見ると、肛門に竹刀をぶっ刺されてるララティーナの手に力が入り、あたしの下半身をおんぶしながら締め上げていた。

 

「ああああ‼︎捥げる、足捥げるって‼︎」

 

「ああああ‼︎裂ける、股裂けるうう‼︎」

 

「ちょっ、マジ、足、折れっ……‼︎」

 

竹刀を抜いて、なんとか事なきを得た。

 

 

 

 

問題の森に到着した。エギルの木の伐採である。魔法を使おうとするあたしに、不安そうにララティーナは聞いてきた。

 

「おい、レイ。大丈夫なのか?エギルの木とか分かるのか?」

 

え、この人今更何言ってんの。

 

「いや、全然?」

 

「お、おい!」

 

なおさら不安そうな表情を浮かべるララティーナ。そんな顔されても……。

つーかなんだよ、エギルの木って。あたしの頭の中には黒人の斧使いのオッさんが、演劇でよくある木の役をやってるのが浮かんでる。

…………けど、問題ない。所詮は植物だ。あたしは能力でガソリンを作り出した。それを森の一番近くの木にぶッかけると、銀色のライターを生み出して放った。

 

「………俺が信じてるの火の意志だけだ」

 

直後、ガソリンによって木に引火し、やがて森中に炎は燃え広がった。その様子を唖然としながら眺めるララティーナにあたしはポケットに手を突っ込みながら言った。

 

「帰るぞ」

 

「じゃないだろ‼︎」

 

後ろからブン殴られ、あたしはギリギリ炎の中に飛び込みそうになった。

 

「あっつあっぶねっ。………何すんのさ、ララティーナ」

 

「アホか!こんな豪快な伐採の仕方があるか!伐採っつーか……もう焼却だろうこれは‼︎」

 

「処理したことには変わりないでしょ」

 

「し、知らんぞ。ギルドに文句を言われても……」

 

「いいよ別に……金はあるから、怒られても解決できるし。帰ろう。あ、ギルドへの報告はたのんだ」

 

「お、お前………」

 

ゴミを見る目であたしを見てくるララティーナを無視して、あたしは街に向かって歩き出した。

 

 

 

 

翌朝、バタンッというドアの開く音であたしは目を覚ました。

 

「レイ‼︎」

 

「んうっ⁉︎………なんだ、ララティーナか……」

 

「むっ、ね、寝たいのか?夜に寝ているなんて珍しいこともあるんだな」

 

「ったく……あんたが昨日、あたしを連れ回したからでしょ……人の安眠を妨害しないでよ……」

 

「そ、それはすまなかっ……じゃない!良いから来い‼︎ギルドがお前を呼び出してるぞ‼︎」

 

「………後で行くから。………今は寝かせて」

 

「ダメ!起きろ‼︎」

 

「違うんだよ。あたしが起きれないんじゃなくて、布団があたしを離そうとしないんだよ……」

 

「いいから早くしろ!私まで怒られるだろう!」

 

「知るか」

 

直後、イラァッという音が聞こえた気がした。相当頭にきてるのか、ララティーナの頬はヒクヒクとつり上がっている。

 

「おい、いくら姉上でも怒るぞ」

 

「っさいなー。そもそも、動きたくても動けないんだよ」

 

「まだ布団が離してくれたいとか下らない事を言うなら本気で……‼︎」

 

「筋肉痛だ立ち上がることすらできません」

 

「……………」

 

「ごめん、ポーションじゃ筋肉痛は治せないんだ」

 

「……………」

 

「そんな虫を見る目しないでよ。………とりあえず、着替えさせて欲しいんだけど」

 

「…………はぁ」

 

最後にため息をついた時のララティーナは、呆れた目を通り越して涙目にも見えた。

 

 

 

 

一通り、介護をしてもらったあと、ララティーナにおんぶして運んでもらった。ギルドに到着し、一通りギルドの巨乳のお姉さんに説教され、お金を払った。

で、あたしはララティーナに言った。

 

「じゃ、帰ろうか。ララティーナ」

 

「…………」

 

ララティーナは無言で出口には向かわずに、食事席に行ってあたしを椅子の上に降ろした。

 

「痛っ!……ちょっとー、筋肉痛で身体中痛いんだからもっと優しく扱ってよー」

 

「…………レイ」

 

「何?」

 

「………私は、このままではお前はダメだと思う」

 

「ララティーナ、分かってないよ。ダメであることが必ずしもダメというわけじゃないんだよ」

 

「うるさい」

 

思ったより冷たい声で遮られてしまった。

 

「いいか?私はこれからしばらく、レイのダメさ加減を修正するために、レイを冒険に連れ出す」

 

「…………は?」

 

今なんて言った?あたしに滅んで欲しいの?

 

「だが、あたし一人では自分の武器を使って脱臼するような奴、ましては筋肉痛で微動だにできない奴を守って戦闘をすることはできん。よって、一人パーティメンバーを加えた」

 

「えっ………?」

 

う、嘘でしょ……?最近、ララティーナ以外の人と話してないからコミュ障になって来てるんですけど……。

そんなあたしの気も知らずに、ララティーナは手招きを始めた。やって来たのは銀髪の少年だった。

 

「私はクリスだよ。盗賊やってます。よろしくね」

 

「えっ、あ、は、はいっ……『法隆寺』というアイテム店を営んでいます、ダスティネス・レイです……よ、よろっ、よろしくお願いしま、す……」

 

ちなみに店名の由来は、『城奈』からとった。奈良の城ってことで。え?法隆寺は寺だって?寺も城も似たようなもんでしょ。

 

「すまない、クリス。色々迷惑を掛けることになるだろうが」

 

「いいって。………あんな風に泣きながら祈られたら断れないですよ……」

 

最後の方はなんて言ったか聞こえなかったが、とりあえずパーティメンバーが増えてしまった。これはまずい。なるべく身内以外には迷惑かけたくないという、あたしの中の数少ない生き残りの良心が働いてしまう。

そうなると、どうしても何か働かなければならなくなる。

 

「よし、ではパーティメンバーも揃ったし、行くか」

 

「は?ど、どこに?」

 

「クエストだ。無論、レイ。貴様も連れて行くからな」

 

「ち、ちょっと、レイさんは今日は動けないみたいだし……」

 

「知らん、そのくらいのことをした方が、レイには良い薬だ」

 

穏やかにしようとするクリスさんだったが、強気のララティーナに押されて何も言えなくなってしまう。

 

「おい、ララティーナ。あまり、知り合ったばかりの人に無理強いするなよ」

 

「誰のせいで無理強いさせてると思っている!お前ほんとぶっ飛ばすぞ!」

 

「そない怒らんでもええやないかい」

 

「たまに使うその辺な口調はなんだ‼︎バカにしてるのか⁉︎」

 

「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて!とりあえず、レイさんの筋肉痛が治るまで私とダクネスの二人で冒険に行こうよ。ね?」

 

間に入ったクリスさんの提案で、ムッと考える姿勢を取ったあと、ララティーナはため息をついた。

 

「…………そうだな」

 

っしゃ!よかった、あたしがどんないい奴だったとしても今日の体調でクエストなんかには行きたくなかったしね。

ホッと安心してると、クリスさんがララティーナの耳元で何かボソボソ言っていた。

 

「大丈夫、私がちゃんとあなたの祈り通り、クソニートから脱却させてあげるから」

 

「すまない。助か……あれ?私、クリスに姉の更生を祈ったなんて言ったっけ?」

 

「さ、さぁ!冒険に旅立とう!」

 

 


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