第2話
あれから、七年。
あたしはアクセルの街のとある建物の中の布団の中で目を覚ました。外を見ると、太陽はすでに沈みかけていて夕方である。
………そろそろ起きるか。
そう判断して布団から出て軽く伸びをする。窓から外を覗くと、冒険者達数名が今日もボロボロの様子で帰宅し、自分達の寝床である馬小屋に向かっていた。朝早くから冒険に出て、夕方までモンスターと死闘を繰り広げて来たのである。
それに比べて、あたしは自室で夕方まで寝て、これから能力で作り出したPSPでゲームをする所である。
ほっ………あ、
「…………ああ、最低だ。あたし……」
ごめんなさい、冒険者の皆さん……。私、私……今、
心の底から、「自分でなくてよかった」、とホッとしてしまいました………。
☆
何故、あたしがこんなことになったのか。それはあたしにも分からない。転生したあと、ダスティネス家のご令嬢に拾われ、あたしは冒険者になると共に、しばらくの間、ダスティネス家に厄介になることになった。
そこでララティーナと仲良くなり、しばらく一緒に遊んでいたわけだが、いつまでもダスティネス家に迷惑はかけられないので、商売を始めた。あたしは女神に実際に見たものを作り出せる能力、コピー魔法をもらったので、それを利用してアクセルの街でアイテム屋を営んでいた。
が、他のアイテム屋と違って、あたしは無の場所からアイテムを作り出せるので、材料費も何もない。だから、1エリスで売ってもあたしに利益が来る。
また、実家の精肉店で培った商売スキルで、セットで安くしたり、一つおまけなどのサービス、初回一本無料などの商法によって売り上げはバカみたいに上がった。
結果、一年で一億エリス儲けることに成功した。その中から、あたしは半分ほどダスティネス家に支払い、「ダスティネス家の養子」の地位を手に入れた結果、ニートになった。
あたしの店はほとんど田舎の八百屋と化していて、無人で募金箱を設置して商品置いて放置である。別に盗られても問題ないし、そもそもバカみたいに安く売ってるので盗っていく奴がいない。
そんなわけで、テキトーに商品を夜に作って設置して、後は家で寝るだけで生活している。
さて、ではゲームやってるうちに朝になったし……、
「…………寝るか」
「寝るな‼︎」
布団に篭ろうとした所で、横から蹴りを入れられた。
「いってて……誰だよ畜生……」
脇腹を抑えながら見上げると、ララティーナがダメ息子を持つおかんみたいな顔で立っていた。
「畜生ではない!何をしているのだお前は‼︎」
「姉に向かってその口の聞き方はないっしょララティーナ」
一応、あたしの方が年上なのであたしが姉ということになっている。養子が長女とか名乗ってええのかな……。
「ら、ララティーナと呼ぶな!」
「なんで。可愛いじゃんララティーナ。マジギザかわゆすよララティーナ」
「怒るぞ!」
「もう怒ってんじゃん。てか、あたしは深夜の営業で疲れてんの。寝る」
「深夜の営業だと⁉︎貴様は、深夜に品産みと品出し、最後に売上金を回収してあとはゲームしているだけだろう!そんなもの営業というか‼︎」
「チッ、っせーな巨乳が……」
「おい、今のマジの舌打だっただろう」
「大体、あたしの何が気に入らないってのよ。ちゃんと自分で生活費稼いで、実家にだって仕送りしてる。それの何が気に食わないのさ」
「仮にも私の姉ともあり、冒険者の肩書きを持つあなたが引き篭もりニートなんて許せるか‼︎そもそも、なんですか!商売したての頃はあんなにキラキラして、ダスティネス家に恩返しするために一生懸命、売り方とか工夫していたというのに!なんで今は、二十歳の若さで髪の毛真っ白にして、昼に寝て夜に起きて、引きこもり生活なんてしてるんだ‼︎」
「っせーな、若白髪はそういう運命だったんだよ。遺伝だよ、継承だよ、DNAだよ」
「たまにわけわからない事を言い出すし……!って、布団に戻るなー!」
布団に潜ると、引っぺがされてしまった。そして、シャッとカーテンを開かれ、太陽光があたしに降り注ぐ。
「うわあ、目が、目がああああ‼︎」
「ゴロゴロ転がるな‼︎というか、なんだこの布団は!寝汗で黄ばんでるじゃないか‼︎たまには干したらどうだ⁉︎」
「はぁ?布団干すのは昼間じゃないと意味ないんですけど?昼間は寝てるから干せるわけないじゃん。バカなの?」
ビキッ、とララティーナからイラついたような音が聞こえた。というか、青筋立ってる。
「…………とにかく、私の姉ともあろうお方が、引きこもりなんて許さんからな。今日という今日は外に連れ出させてもらう」
そう言って、ララティーナはあたしの腕を掴んで持ち上げようとした。あ、ヤバイ。実力行使に出た。あたしと違って、ちょくちょく冒険してるからステータスはあたしなんかより全然上だから勝てないんですけど。
「待った、ララティーナ」
「だからララティーナと呼ぶなぁ!」
「あたしはほら、店番してないといけないから行けないかな」
「いつも店番してないようなものだろう‼︎いいから行くぞ!」
「失礼な。ちゃんと防犯は完璧だよ。あそこの監視カメラで店にいなくても万引き犯は特定できる」
「なら店番むしろいらないんじゃないか!」
「やーだー、行きたくなーいー!」
「ダダをこねるな!行くぞ‼︎」
外に強制連行されました。
☆
街を出て、あたしとララティーナは適当なクエストを受けにギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入ると、中の冒険者どもは喧しく昼間っからシュワシュワ入りのグラスをぶつけ合って、宴会している。
けっ、昼間っから飲んでるんなら、むしろあたしみたいに寝てた方がマシだっつーの。………いや、イーブンかな。
中を見回すあたしに構わず、ララティーナはクエスト募集の方は歩いた。
あたしはあたしで、空いてる席に座りに行った。
「ふむ、レイでも一緒に受けられるくらいのクエストじゃないとな。レイ、レベルはいくつ……あれ?」
なんか一人でぶつぶつ言ってるけどどうしたあいつ。まぁいいや、私もシュワシュワ飲みたくなっちゃった。
「おねーさん!あたしにもシュワシュワひとつー!」
「じゃないだろ‼︎」
後ろからゲンコツされた。
「ったぁ⁉︎ち、ちょっと何すんの⁉︎」
「何、シュワシュワ頼んでるんだ‼︎こっちについてきてると思って一人で質問しながら向こうに歩いてしまったじゃないか‼︎」
顔真っ赤にして……そんなに恥ずかしったのかな。いや、恥ずかしいよね実際。
「でも、あんだドMだし、辱しめを受けたんならむしろ良かったじゃん」
「そういう辱めは望んでいない‼︎というかドMでもない!」
「いやそれは無理あるかな。そういう辱しめ『は』望んでないって言っちゃってるし」
「良いからレイも来い!レイの方がレベルが低いんだから、そっちに合わせたクエストを選ばないといけないんだ」
「そんな気にしなくて良いわよ。ただ、強いて言うなら報酬とかいらないから、あたしが小高い丘でおにぎり食べてる間にララティーナが一人でこなせるようなクエストがいいかな」
「……………」
「はい、ごめんなさい。真面目に考えます」
と、いうわけでクエスト募集の紙を見た。ふむ、ララティーナの目的は、あたしを運動させること。つまり、クエストに行く時点でララティーナの目的は達成されてると言ってもいいだろう。と、なると楽なクエストを選ぶべきだ。
この時点で、ジャイアントトード5匹討伐はアウト。
迷子になったペットのホワイトウルフを探す、これは逆に見つかるまで帰れないって事だ。ダメ。
息子に剣術を教える、ルーンナイトでもソードマスターでもないのでダメ。
魔法実験の練習台………隣のにやらせればいい気もするけど、多分ララティーナが許さないだろうなぁ。
…………と、なると、
「森に悪影響を及ぼすエギルの木の伐採、かな」
「ふむ、良いのか?」
「植物でしょ?へーきへーき」
あたしとダクネスは森に向かった。
☆
森の行くまでの道中には、様々なモンスターが出てくる。が、あたしとしては別に平気かなーなんて思ってた。何故なら、ララティーナがいるからだ。なんやかんやで上級職のクルセイダーがいるなら、あたしに道中での出番はないだろう。
と、いうわけで、思いっきり歩きながらPSPをやっている。あたしは実際に見たものしか作り出せないので、PSPのソフトとかは商店街のプラモ屋のオッさんが持ってる奴しか出せないけど、暇潰しには十分だった。
「ミラボレアスはなんとか行けるようになったなぁ」
「おい、これからモンスターが出て来るんだぞ。気を抜くな」
「そんなん言われてもあたし戦えないし。武器とかこれしかないから」
うちのお店の常連の警察の人に一度だけ見せてもらった拳銃を出した。まぁ、生き物ならこいつさえあれば余裕っしょ。
「なぁ、その武器は一体なんなんだ?」
「まぁ、遠距離武器っていえば良いのかな。威力高いし遠くから攻撃できるし、楽できるしで良いことばっかだよ」
使ったことないから当たるかは知らんけど。まぁ、ララティーナに足止めしてもらえれば当てられるでしょ。
「〜♪」
「………なぁ」
「んー?」
「面白いのか?」
「うん」
「……………」
「やりたい?やりたいなら、妹のよしみで5000エリスでいいよ」
「いや、私はいい。レイを見てると、その機械は人をダメにするようにしか見えないからな」
「褒めないでよ」
「頭大丈夫?」
「え?そ、そこは『褒めてねーよ』って言うところじゃ……」
なんてやってると、モンスターが現れた。コボルトが1匹、襲いかかって来た。
「! 出た……!レイ、私から離れ」
「キョアアアアアアア⁉︎」
こ、コボルト⁉︎ゲームだとキモいのにリアルだと怖っ‼︎や、やばい、殺される⁉︎
「お、落ち着けレイ!相手はコボルトだ!そんな厄介な相手では……‼︎」
「無理無理無理無理‼︎死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ‼︎画面の中のティガより百倍怖い‼︎」
『グルァ‼︎』
「あああああああああ‼︎」
パニクってあたしは走って逃げようとした。その直後、足からブチンッと音がして、盛大にすっ転んだ。
「………………」
「ど、どうしたレイ⁉︎大丈夫か⁉︎」
「…………アキレス腱切った」
「何してんのホントに⁉︎」
コボルドの攻撃を受けて足を止めるララティーナ。その後ろに倒れてるあたし。か、カッコ悪い………姉としての威厳なのゼロだった。
すると、あたしの目の前に下手のコボルドが現れる。
「嘘おおおおおおおお⁉︎」
死ぬううううううううう‼︎
「落ち着けレイ‼︎」
あたしは慌てて仰向けになって、拳銃を握り、コボルドに向けた。コボルド自身は、拳銃がなんなのかわかっていないのか、すぐに襲いかかってくる。
あたしは拳銃を発砲。偶然にも、一発目で眉間をぶち抜き、コボルドを倒した。
「お、おお!」
半ば感心しながら、ララティーナはなんとか目の前のコボルドを倒した。途中、何度も空振りしてたのは見逃しておこう。
「た、確かに凄い威力だな……大丈夫か?レイ」
言いながら、あたしに手を差し伸べてくるララティーナ。だが、あたしはその手を取ることができなかった。何故なら、
「………反動で、肩脱臼した。おんぶして」
おんぶしてもらった。その後、ララティーナは、あたしと目を合わせてくれなかった。