第15話
そんなこんなで、あたしは真面目に冒険しなくちゃならなくなった。能力は戻っても金は払わなくちゃならないため、働くしかないのだ。だが、もう商売も何もかも面倒になって来たため、ララティーナ達について行って冒険に出る事にした。
そんなわけで、ララティーナと共にギルドに訪れ、カズマのパーティと顔を合わせた。
「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」
開口一番、アクアがそんな事を言い出した。
「「「えー……」」」
突然の提案に、あたしもめぐみんもカズマも不満げに呟いた。
よく分からないけど、最近は高難易度のクエストしかないんでしょ?嫌だよ、面倒臭い。
「私は構わないが……だが、アクアと私とレイでは火力不足だろう……」
「え、あたしも嫌がったよね?なんで行く事になってるの……?」
お金は欲しいけど………でも、走ったらアキレス腱を切っちゃうあたしなんかが一緒に行っても死ぬだけなんだが………。
「お、お願いよおおおおおお‼︎もうバイトばかりするのは嫌なのよお!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は私、全力で頑張るからあぁっ‼︎」
「……………」
それを聞いて、あたしもカズマもめぐみんも顔を見合わせた。
「しょうがねえなぁ、じゃあちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ」
カズマがそう言うと、アクアは嬉しそうに掲示板に向かっていった。
…………大丈夫かな。あの子、バカだし。不安に思ったカズマがクエストを見に行った。
「しかし、クエストかぁ……。面倒だなぁ」
「レイはクエストとか嫌なのですか?」
めぐみんが声を掛けてきた。
「嫌だよ……。あたし、すごい貧弱だし。唯一の武器のこれ拳銃を一発撃つだけで肩脱臼するんだから」
「えぇ………。というか、ケンジュウってどんな武器なのですか?」
「んー、どういう原理なのかは知らないんだけどさ、火薬を使って、こう……なんかすごい武器だよ」
「いや、全然分からないんですけど……」
「んー、まぁ分かりやすく言えば、これで人の頭撃つと死ぬよ」
「ええっ⁉︎そんな危険な武器なのですか⁉︎」
「うん」
あたしは得意げに拳銃を回して、腰のホルスターにしまった。
「おおおお!なんか分からないけどカッコ良いです!」
「でしょー?」
あ、ヤバイ。嬉しい。練習した甲斐があった。あたしはもう一度、クルクルと銃を回した。
「も、もう一回!もう一回お願いします」
「ふっふーん……」
今度は、銃を抜いて後ろのララティーナに向けて、鎧に向けて撃った。
「痛っ⁉︎」
鎧に弾は弾かれたが、ララティーナは衝撃で後ろにひっくり返りかけた。
あたしは拳銃をクルクルと回すと、銃口をフッと吹いてホルスターにしまった。
「おおおおお!」
「………俺の後ろにィ、立つんじゃねェ………」
「おおおおおおお!」
目を輝かせられ、ニマニマしながら胸を張っていると、後ろから「おい」と肩を掴まれた。
「貴様、何をするいきなり」
「俺の後ろに、立つんじゃ」
「何をするって聞いてるんだ!」
「いだだだだ!ごめんなさい!」
コメカミをグリグリされ、あたしが何とか謝ってるとアクアとカズマが戻って来た。
「おーい、クエストが決まったぞー」
との事で、ギルドを出た。
☆
そんなわけで、カズマの作戦であたし達は湖でアクアを檻に閉じ込めて湖に漬けた。
今回のクエストは湖の浄化。アクアは触れているだけで水を綺麗に出来るらしいので、あたし達はする事がなかった。
「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだ?」
「浄化は順調よ!」
「トイレ、行きたくなったら言えよ?檻、引き上げてやるから!」
「アークプリーストはトイレなんて行かないし!」
うわあ、いつの時代のアイドルだよ………。
めぐみんが隣からボソッと呟いた。
「何だか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんから」
「私もクルセイダーだから……トイレは、トイレは……ううっ……」
「対抗しなくていいぞ、ダクネス。トイレに行かないって言い張るめぐみんとアクアの二人は、今度日帰りじゃ終わらないクエスト請けて、本当にトイレに行かないか確認してやる」
「や、やめてください。紅魔族はトイレなんて行きませんよ?……でも、謝るのでやめて下さい……」
「あたしもあんまトイレとかいかないなー。小さい方で面倒な時はその辺のペットボトルで済ませちゃうし」
「「「…………えっ?」」」
「えっ?」
え、何その目………。
「ねぇ、なんでみんなあたしから一歩退がるの?ねぇ?」
「………一応聞くけど、お前そのペットボトルの中身はどうしたんだ?」
「まとめて捨てたよ」
「………ダクネス、お前の姉………」
「何も言うな。私も想定外だ」
そ、そっか……みんな、ペットボトルでおしっこしないんだ……。あたしもこれからはやめよう………。
そんな事を思ってると、アクアの方が騒がしくなった。ふとそっちを見ると、紫色のワニがアクアの檻に近付いていた。
「か、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」
すごい勢いで、助けを求めて来たが、あたし達には何も出来ない。
ボンヤリ檻の様子を眺めてると、ワニ達は檻に向かって思いっきり噛み付き始めた。
「………あーあ」
何あれ、エゲツない。メッチャ揺れてるし噛み付かれてるし………。
あたしもカズマもめぐみんもララティーナも……あ、いやララティーナは顔を赤らめていたけど、引き気味に檻の様子を眺めた。
〜7時間経過〜
湖はすっかり綺麗になり、紫色のワニは何処かへ消えた。その湖にあたしは足を入れた。
「ひゃっ、冷たっ」
「本当に綺麗になりましたね」
「それっ」
「ひゃっ⁉︎や、やりましたね!」
水を掛けると、めぐみんも負けじと水をかけ返してきたので、さらにあたしも水に手をつけて掛け返した。
ああ、引きこもってゲームも良いけど、こうやって身体を使って遊ぶのも悪くないなぁ。
そんな事を思って見ずに手をつけて掛けようとすると、ゴキッと腰が悲鳴を上げた。
「うっ⁉︎」
「っ?ど、どうしました?レイ」
「こ、腰が………」
「いや貧弱にも程があるでしょう⁉︎」
あ、ダメだ。立てない。
その場で水の中に倒れ込み、ララティーナが仕方なさそうにあたしをおぶってくれた。
そんなあたし達の横で、カズマが檻の中で膝を抱えてるアクアに声を掛けた。
「おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」
その直後、中からアクアの嗚咽が聞こえてきた。
「………ぐす……ひっく、えっく………」
うん、そりゃ泣くわ。あたしが檻の中にいたら泣くどころか全身複雑骨折で気絶してる。
「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。四人で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。三十万、お前が全部持ってけ」
うん、そうした方が良いと思う。流石のあたしもそう思うわ。途中から、あたしとカズマは暇だったからモンハンやってたし。
「………おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないから」
「………まま連れてって……」
…………?
「なんだって?」
「………檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」
…………筋肉痛の時の私みたいになっちゃったな。
☆
「ドナドナドーナードーナー………」
アクアが膝を抱えて変な歌を歌っていた。あたしの隣で。
「………ねぇ、なんであたしまでオリに入れてんの?」
「重いから」
ララティーナにしれっと言われた。まぁ、お陰で外で檻に入った女を運ぶヤバイ連中にならずに済んでいるが。
「………お、おいアクア。もう街中なんだからその歌はやめてくれ。いい加減出て来いよ」
「嫌。この中こそが私の聖域よ」
あの、聖域の中にあたしも入っちゃってるんだけど………。
しかし、街の人の注目集めてるなぁ………。周りの人達は完全にあたし達、特にカズマの事を見ている。何あの男?みたいな。
少しカズマには同情してしまうなぁ。前にはクリスのパンツも取ったらしいし。
「め、女神様⁉︎女神様じゃないですか!何しているのですか⁉︎そんなところで!」
突然、そんな声が聞こえた。ふと後ろを見ると、なんか知らない男が檻をメキメキっといとも簡単に壊した。
「ええっ⁉︎」
「マジですか⁉︎」
カズマとめぐみんからそんな声が漏れたが、男は気にせずに檻の中を覗き込んだ。で、アクアの隣のあたしにも声を掛けた。
「君は『法隆寺』の店主さん?あなたもこんな所で何を………」
「…………誰?」
「なんだよ、レイ。知り合いか?」
「いや、知らない」
「お店のお客さんとかじゃないですか?」
「一々、客の顔なんて覚えてられないっての」
「お前、そんな感覚で接客をしてたのか………」
そんなやり取りを無視して男は檻の下の荷車の上に乗ろうとしたので、何となく身の危険を感じたのであたしは寝転がったままホルスターから拳銃を抜いた。
「っ⁉︎な、何を………⁉︎」
「………ちょっとアクア。あれあんたの知り合いなんでしょ?女神とか言ってたし。何とかしてよ。撃っちゃうよ?」
銃口を男に向けながら耳元でそう呟くと、アクアは一瞬だけ「こいつ何言ってんの?」みたいな視線をあたしに向けてきた。
が、やがてハッとした表情になって立ち上がった。
「………ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私に何の御用かしら?」
こいつ、まさか自分が女神だってこと忘れてたんじゃないだろうな………。
アクアは男の壊した場所から出て来て胸を張りながら男を見た。その男に対して首を傾げる。
「………あんた誰?」
「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!あなたに魔剣グラムを頂いた!」
アクアは未だにピンと来ていないのか、再び首を傾げた。
でも、あたしは分かったわ。この人、多分アレだ。あたしやカズマと同じ転生者。で、あたし達と違ってまともな装備を選んだんだろう。………しかし、御剣響夜か……。すごい名前だな。腹立つほど主人公みたいで。
そいつは、カズマとアクアから色々と経緯を教えてもらっていた。
「………バカな。ありえないそんな事!君は一体何を考えているんですか⁉︎女神様をこの世界に引き込んで⁉︎しかも、今回のクエストでは檻に閉じ込めて湖に浸けた⁉︎」
いきり立ったミツルギがカズマの胸ぐらを掴んだ。
それをアクアが慌てて止めた。
「ちょちょ、ちょっと⁉︎私としては結構楽しい毎日を送ってるし、ここに連れてこられたことはもう気にしてかないんだけどね⁉︎」
「アクア様、こんな男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ!ちなみに、今はどこに寝泊まりしているのです?」
「………え、えっと、馬小屋で寝泊まりしてるけど」
「はぁ⁉︎」
さらにミツルギはカズマを掴む手に力を入れた。
そのミツルギの腕をララティーナが掴んだ。
「おい、いい加減その手を離せ。礼儀知らずにもほどがあるだろう」
あ、ララティーナが怒ってる。珍しい。
ミツルギは手を放し、ララティーナとめぐみんを見た。
「………クルセイダーにアークウィザード?君はパーティーメンバーには恵まれているんだね。君はこんな優秀そうな人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?」
「いやいや、あたしとララティーナはちゃんと家あるから」
ていうか、あたしは最弱職の冒険者だし。もしかして、あたしはいらないって事?
「君達、これからは僕と一緒に来ると良い。もちろん、馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう」
「ちょっと!何勝手な事言ってんの⁉︎ララティーナまで取られたら、誰があたしを養ってくれるの⁉︎」
「人前でララティーナと呼ぶと言ってるだろ‼︎」
「もちろん、法隆寺の店主さんも僕のパーティーに……」
「何もしないでただ家にいて、お金だけくれるなら考えてあげても良いよ」
「………………」
「お前、うちのパーティメンバーがドン引きしてるこいつをドン引きさせるとか………」
あれ?全員の冷たい視線がミツルギからいつの間にかあたしに……。
「………で、とか言ってるけど、みんなどうする?」
あたしの台詞などまるで無視して、カズマが全員に聞くと、全員は嫌そうな表情を浮かべた。
「………えーと、俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きたくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで……」
馬を引いてカズマは立ち去ろうとしたが、ミツルギはその前に立ちふさがった。
「悪いが、アクア様をこんな境遇のまま放ってはおけない」
あ、この後のパターンは分かるわ。
「僕と勝負しないか?」
ほら見ろ。
「僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったらなんでも一つ言うことを聞こうじゃないから」
「カズマ」
「サンキュー、よし乗った。じゃあいくぞ!」
あたしはカズマに手の中の拳銃を放り、カズマはそれを受け取ってミツルギに発砲した。
「は、はぁ⁉︎」
ミツルギの頭の装備に銃弾は直撃し、怯んだ隙を突いてカズマは「スティール」を発動し、魔剣を奪うと頭を叩いた。
ミツルギはなす術もなくその場で倒れた。