翌日、私が姉上の部屋に行くと、レイは一人で部屋で寝転がっていた。気まずげに一応、聞いてみた。
「お、おい。レイ……仕事は」
「働かないよ。だって潰れたもん」
レイの答えに、思わずガッカリと肩を落としてしまった。その私に、ゲームをしながらレイは語り出した。
「なんかね、あたし分かっちゃったんだよね」
「? 何がだ?」
「世の中には、働くべき人間と働かざるべき人間がいる、と」
こいつは何を言ってるんだ。
「前者と後者の割合は99:1、つまりほとんどの人間は働くべき人間であるわけだが、ごく稀に働くべきではない人間が存在する。………それが、私だ」
こいつ本当に何言ってるんだ。
「働くべきではない人間は、働こうとすると必ず何かしら天罰が下る。働こうとしても、労働の心地よさに目覚めても、あまりにも大切な人に心配されたため、改心しようと思っても、神によって物理現象の許す限りの範囲内、全力を持って阻止される。世の中の理として、そうなっているんだよ。例えば、アイテム屋の生命線である能力を封じられたり、冒険に出ても身体を全力で痛めたり、ラーメン屋を始めてもスープを純水に変えられたり、ね。………あれ?これほとんど物理現象じゃないや」
た、確かに見えない何かの力に阻止されているようにも見えるが……いや待て、二つ目は自業自得だろう。
「そして、私は気付いてしまったんだよ……。私は、働いてはならない人間だ、と」
「そ、そんなの分からないだろう。偶然かもしれないし……」
「偶然を装った必然かもしれない」
「で、でもだな……!」
「とにかく、私はもう働かない。ここで餓死するならもうそれでいい。働いたら負ける」
「………ッ」
ダメだ、過去一番に腐ってるこいつ……!これならまだアイテム屋の時の方がマシだった……!
「そ、そうか……」
私はレイの家を出ると、ギルドへ走った。
☆
カズマ、アクア、めぐみんといつも集まるギルドの席。そこに来るなり、私は机を思いっきり叩いて三人に言った。
「と、いうわけで!今からエリス様に祈りを捧げたい、手伝ってくれ‼︎」
「「「……………」」」
3人ともビックリしたのか、押し黙った。顔を見合わせ、「誰が聞く?」みたいなやり取りの後、めぐみんが言った。
「お、落ち着いて下さいダクネス。何が、『と、いうわけ』なんですか?」
「実はな、私の姉の事なんだが……」
「ああ。ラーメン屋潰れたんだってな、気の毒に。でも、アクアから聞いた感じだと自業自得なんじゃないか?なんか、急に客に逆ギレしたんだろ?」
カズマがそう言った直後、私はアクアを睨んだ。目を逸らして口笛を始めた。そのアクアの頭を私は掴み、ギリギリと力を入れた。
「何が自業自得だ!お前はどういう伝え方をしたんだ⁉︎」
「いだだだだ!だ、だって!私の所為だって怒られたくなかったの!もう借金を増やしたくなかったの‼︎」
「お前がラーメンの中に親指を浸したのが悪いんだろうが‼︎液体を綺麗にする代わりに人の姉を汚くしおって‼︎」
「ごめんなさい!謝るから、ちゃんと謝るから離してよ‼︎」
「お、おい。落ち着けって……」
カズマが止めに入り、私は本当の事情を説明した。直後、カズマがアクアを睨んだ。そして、アクアの両頬を抓って引っ張り回し始めた。
「お前はぁ‼︎人様に迷惑かけるなっていつも言ってんだろ‼︎」
「だから謝ったでしょ⁉︎ちゃんと今、謝ったでしょ⁉︎何で私が責められるのよ、レイにだって問題はあったでしょ⁉︎」
涙目になるアクアとカズマのじゃれ合いをスルーして、めぐみんが言った。
「そ、それでダクネスは私達に何をして欲しいんですか?」
「ああ。色々考えたんだが、最初に言った通り、エリス様に祈ろうと思う。レイに私の言葉は届かない。家に引きこもったまま、ゲームをする手を止めず、あのまま朽ち果てて餓死する覚悟だ」
「それで、祈りですか……」
「ふん。引きこもりのニートなんてこのアクア様が1発殴ってやれば1発で更生するわよ!」
「「お前の所為で引きこもりのニートになったんだろうが‼︎」」
「お、怒らないでよー!」
私とカズマにデュエットで怒鳴られ、アクアは泣き出した。
「大体、エリスに祈りですって⁉︎私を誰だと思ってんの⁉︎エリスの先輩の女神、アクアよ⁉︎」
「そういう夢の話はいい‼︎いいから教会に来い!」
「信じてよー!無理なんですけど、流石に後輩に祈りを捧げるのは無理なんですけど!」
「ダダをこねないで下さい。元々、今回の元凶はアクアの所為でしょう」
「そうだけど、そうだけど……!」
めぐみんに言われても納得していないのか、うーっと唸るアクア。
すると、カズマが立ち上がった。そして、アクアに手を向ける。
「『スティール』」
直後、カズマの手が輝き、アクアの羽衣を奪い取った。
「んなっ……⁉︎」
「これ、売り飛ばされたくなかったら行くぞ」
「分かった!分かりましたから返して下さいカズマさん!」
☆
エリス教の教会。そこで、私達は片膝をついて手を組んだ。
「いいな、祈るのはレイの就職祈願とその成功だ。細かい指摘はしないが、頼む」
私の指示に「おう」「はい」「分かったわ」と3人は答えた。
そして、目を閉じて私から祈りを捧げた。
「エリス様、我が姉君であるダスティネス・レイをまともな安定した職に就かせて下さい。………多少厳しくてもいいから」
続いて、カズマの番。
「えーっと、エリス様?レイがー、そうだな。まともな人間になって俺たちのパーティのまともな戦力になりますように」
随分と含みのある言い方だが、冒険者になるというのは悪くないのでスルーしておいた。
続いて、めぐみん。
「エリス様、レイが冒険者になり、私と一緒に爆裂道を極めますように」
う、うん。前半だけでいいよなそれ?まぁ、冒険者というならそれはそれで。
最後にアクアの番、
「空からお金が降ってきますように」
「おい待てお前。終いには怒るぞ」
「なんでよ!別にお金があればレイだって困らないでしょ⁉︎」
「ニートになるのが困るんだ!ちゃんと祈らないと……カズマ、その羽衣」
「分かったわよ!ちゃんとやるから!」