転生してダクネスの姉になりました   作:フル・フロンタル

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第10話

 

 

次の日、飯屋というよりラーメン屋と化したあたしの店は馬鹿みたいに繁盛し、お昼を回った今も人の列が絶えることはなかった。

このままでは、午前中で売り切れる可能性も出てきたし、冒険者どもが全く冒険しなくなる恐れ……というかあたしのパーティが何も出来なくなるので、ギルドと話し合って、しばらくの間は11:30〜13:00と17:30〜21:00と2回に分けて営業することになった。

 

「………お陰で、10:00には起きなきゃいけなくなるという、超早起きの義務が出来てしまった……」

 

「え、それ超早起きなんですか……?」

 

あたしはめぐみんの爆裂魔法に付き合うため、カズマと二人で見つけたという古城に向かっていた。

ラーメン屋になってから早2日、あたしも店の経営に慣れてきたところだ。

 

「あーあ……なーんで、ニートたるあたしがこんな忙しい目に遭わなきゃいけないのか……。あの頃に戻りたい……ゲームが楽しかったあの頃に……」

 

「良い感じにクズいこと言わないでください。……と、いうか、」

 

めぐみんは一度、言葉を切ってあたしをジロリと見た。

 

「レイは、もうニートじゃありませんよね」

 

「……………はっ?」

 

「ちゃんと冒険者やってて、その、あれ……なんだっけ。ざーめん?でしたっけ?そのお店も兼業してて……」

 

「ラーメンな、その間違い方だけは絶対ダメな」

 

「正直、そこらの冒険者や飲食店なんかより余程、忙しいですよ」

 

「…………」

 

確かに、午前中は早起きしてパーティメンバーとその日の事を決め、時間になったら店の仕込みを始め、11:30に開店、ゴキブリホイホイみたいに客を香りと餌で釣って、大量のラーメンを作り、場合によっては餃子やチャーハンも作り、終わったらキャッシュカウント、売り上げ計算し、その後に爆裂馬鹿を連れて古城に「汚ねえ花火だ」。その後にまた仕込み開始、再度開店し、

 

「………どの辺がニート?」

 

「ほらぁ」

 

自信満々に鼻を鳴らすめぐみんだが、あたしはそれどころではない。あたしが……ニートじゃない……?それはつまり……、

 

「世界の、崩壊……?」

 

「いやなんですかいきなり⁉︎」

 

「マズイわね……!近いうちに魔王がこの街に降ってくるわ!」

 

「そんな魔王なんてこんな駆け出ししかいない街には……降ってくる⁉︎魔王が⁉︎」

 

「早く逃げましょう!そして安心安全の王都に居候して一歩も外に出ずに暮らしましょう!」

 

「落ち着いてくださいレイ!色々と落ち着きを持って下さい!」

 

横からめぐみんに肩をゆすられ頬をペチペチと叩かれ、杖で後頭部を殴られてようやく正気に返ってきた。

 

「……ごめん、テンパってた」

 

「はい。しかし、何故そこまで取り乱す必要が?ニート脱却は良いことだと思いますが……」

 

「ダメ!ダメなの!あたしはニートじゃなきゃ!」

 

「なんでですか。………何か、事情があるのですか?」

 

少し心配そうな表情でめぐみんはあたしの顔を覗き込んだ。こっちにとっては死活問題だ。

 

「そりゃそうよ……だって、だって……!」

 

あたしは目尻に涙を浮かべながら、何かを決意したように言った。

 

「あたしは二年ほど前……いや一年ほど前かな。三年前だった気もする。とにかく!あたしは働かずに飲むお酒の美味しさに祈ったのよ!『二度と働きませんから、この味を忘れさせないでください』って‼︎」

 

「真面目に聞いて損しましたよ‼︎」

 

怒鳴ると、ものすごい勢いで怒鳴り返して来るめぐみん。

 

「何ですか、何してるんですか!何に何を祈ってるんですか!祈った年も曖昧じゃないですか!」

 

「うるさいうるさいうるさい!あたしは美味しくお酒を飲むんだから!」

 

「なんですか神様!私が今まで尊敬してた人はこんな人だったんですか‼︎」

 

 

 

 

そんなこんなで、めぐみんが爆裂魔法を放っているという古城に到着した。

丘の上にそびえ立つ、中ボス辺りが根城にしていそうな古城があった。なんというか、あそこの古城に乗り込んで、魔王の幹部を倒すことで物語が進行しそうな古城。

 

「………ねぇ、あれホントに大丈夫なの?」

 

「既に何発か撃ってますよ。けど、崩れる様子も苦情も来てませんし、大丈夫でしょう」

 

「…………」

 

そう言うならいいけど……。

 

「じゃあ、さっさと撃ちなよ」

 

「分かってますよ」

 

めぐみんは自分の杖を古城に向けた。そういえば、爆裂魔法って見るの初めてだな。まぁ、そういうのに限って大したことなかったり……、

 

「『エクスプロージョン』!」

 

直後、オレンジと紫と黒と……とにかく様々な色の閃光が渦巻き、派手でな爆発が古城で起こった。

 

「……………」

 

思わず本気でビビってると、隣のめぐみんがパタリとぶっ倒れた。

 

「………はっ?」

 

「私は爆裂魔法を使うと魔力を使い果たしてしまうのです……。ですから、背負って帰る同伴者が必要なのです……」

 

………なるほどね。というか爆裂魔法ってどんだけ強えんだよ」

 

「…………と、いうわけで、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

 

「はいはい……」

 

あたしはめぐみんの上半身を起こし、背中に乗せた。そのまま担ごうと思ったのだが、あたしの身体も前のめりに倒れた。

 

「ありっ?」

 

「…………ちょっと、何してるんですか」

 

あれ、持てない……。この子、重い……!

 

「あ、あのさ、めぐみん体重何kg……?」

 

「…………どういう意味ですか」

 

「………重くて立てないんだけど」

 

「なんですか、喧嘩の叩き売りですか。今すぐ買いますよ」

 

「違う違う!本気で重いんだって!冗談抜きで立てな……!」

 

「そもそも!私は重くなんてありませんよ!カズマは文句ひとつ言わず持ち上げてくれましたから!」

 

「………マジ?」

 

あいつ、確かあたしと同属だったよね。男女差があるにしても、身体を鍛えてなければそんな大差は出ないはず。………つまり、

 

「………あたしが非力過ぎるって事かよ……」

 

「どうでもいいですけど、早く動いてくれませんか。ここ、街の外ですよ。モンスターが出てきたらどうするんですか」

 

「じゃあ退いて」

 

「私は動けません」

 

「…………」

 

「…………」

 

ヤバイ、詰んだ。

モンスターが出て来たら……いや、フラグ回収はやめよう。ここは生き残るべきだ。一度、街へ戻ってカズマでも呼びに行こう。あたしはめぐみんを背中から落とそうとした。が、めぐみんはあたしの背中をグッと掴む。

 

「………何」

 

「何故、私を落とそうとするんですか」

 

「一度、あたしが街に帰るんだよ。それでカズマとか呼んでくるの」

 

「その間にモンスターが出たらどうするんですか!」

 

「だからってこのまま二人で共倒れする気⁉︎」

 

「だったら私の魔力が回復するまでここにいてください!」

 

「無理無理無理!野宿とかありえないから!武器も持って来てないし!」

 

「はぁ⁉︎武器持って来ないとか何しに来たんですかあなた‼︎」

 

「1日1発の爆裂娘のテイクアウトだよ‼︎」

 

「テイクアウトも出来てないでしょう‼︎」

 

「…………何をやっているんだお前達は」

 

聞き覚えのある声がして後ろを見ると、ララティーナが呆れ顔で立っていた。

 

「万が一、万が一にも、レイがめぐみんを持ち上げられない可能性を考慮して様子を見にきたのだが……」

 

「………面倒かけてホントすみません」

 

なんとか無事に帰れた。

 

 


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