第1話
私は城奈伶衣。今年から中学生になります!私の家は、商店街の精肉店なのですが、ここ最近は売れ行きが伸びずに、生活も徐々に貧しくなるばかり……なので、私は今のうちに勉強して、大学まで進学して、お店を継ごうかと思っています。
そのため、今日も頑張って学校で勉強します!
「伶衣ちゃん、おはよう」
「あ、八百屋のおじさん!おはようございます!」
八百屋の前で掃き掃除をしていたおじさんが、登校中の私に挨拶してくれました。
「制服の夏服かい?似合ってるねぇ」
「ありがとうございます」
「おっ、伶衣ちゃん。おはよう」
「あ、プラモ屋のおじさん。おはよう」
今度は、プラモ屋のおじさんです。
「お、それ夏服か?」
「そうです。今日からなんですよー」
「へぇ、可愛いじゃん。でも、夏服は気を付けろよ。ブラウスから下着が透けるから」
「きゃっ……もう、やめて下さいよ!」
「ははっ、ごめんごめん」
そんな話をしながら、私は学校に向かいます。商店街を抜けて左折すると、公園の前を通ります。
「あ、城奈さん!」
後ろから声がしたので振り返ると、同じクラスの黄田さんでした。
「あ、黄田さん。おはよう」
「おはよう。これから学校、だよね?一緒に行こう?」
「うん」
2人で並んで歩きました。
「中間テストどうだった?」
「あー、私はまぁまぁかな。大体、70〜80点くらいだった」
「そっかー。急に難しくなったもんね、中学生になってから」
「そんなこと言いながら、城奈さんは学年で一位だったじゃん」
「たまたまだよー。歴史とかギリギリ90点だったもんー」
「ギリギリ90点って嫌味かー!」
「ち、違うよー!」
友達とじゃれ合いながら、登校していました。
その時、キキーッという甲高いブレーキ音が私達の耳に届きました。
「きゃっ⁉︎」
「な、何⁉︎」
耳を抑えながらそっちに目をやると、車道に犬が立ち止まっていて、そこに車が迫っていました。
「! 危ない!」
黄田さんが反射的に声を出した頃には、私は既に飛び出していました。ガードレールを飛び越え、犬にタックルする勢いで車道に飛び出し………、
☆
気がつくと、私は真っ白な部屋の中にいた。えっと……私はどうしたんだっけ……。
確か、車に跳ねられそうだったワンワンを……、
「城奈伶衣さん。ようこそ、死後の世界へ」
声が聞こえた。そっちを見ると、青い髪の綺麗な女性が微笑みながらこっちを見ていた。
死後の世界……?もしかして、私……、
「私、死んじゃったんだ……」
「そうです。あなたは、不幸にも亡くなりました」
「………」
なんだろう、この気持ち。胸が痛い……心臓が苦しい……嗚咽する声が漏れそうになる。頬を涙が伝った。
………そっか、私、死んじゃったんだ。お父さんやお母さん、商店街の皆さんやクラスメートの皆とは、もう会えないんだ……。
「成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗で人当たりも良くて、クラスの人気者、実家である精肉店のお手伝いもしていて、商店街でもマスコット的存在……そんなあなたが亡くなったのは、あなたの周りの方々も悲しんでいるでしょう」
「………うう、ヒック……」
泣き声を漏らしながらも、なんとか私は涙を引っ込めようとした。人前で泣くのはみっともない。
そんな私の気を知ってか知らずか、目の前の女性は話を進めた。
「………さて、城奈伶衣さん。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神です。……さて、勇敢にも犬を助けるために亡くなったあなたには、二つの選択肢があります」
淡々と話を進める女神さん。話を聞き逃さないように、なんとか気持ちを押さえつけて、耳を傾けた。
「一つは、人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、天国的なところでお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」
「どういうこと、ですか?」
「あなたのこれからの進路です。一つ目はそのままの意味で、二つ目は天国に行くということよ。実はね、天国っていうのはあなた達人間が想像してる様な良い所じゃないのよ。食べ物もゲームも漫画も、何もかもないのよ。何せ、必要ないんだから。天国に行っても、日向ぼっこや世間話くらいしかすることは無いわ」
「……………」
そなんだ……。それなら生まれ変わった方が……いやでもそれをしたら、多分私のこれまでの記憶は消えてしまうはずだ。どうしよう……。
「そこで、相談なんだけど」
「?」
「あなた、とある世界に転生してみる気はない?」
「転生………?」
「転生っていうのは、あなたの記憶と体をそのまま引き継いで、他の世界に生まれ変わるって事。実は、ある世界でね、魔王軍に人が殺されすぎちゃって、死んだ人たちが生き返るのを拒否しちゃったのよ」
「は、はあ」
「そこで、生まれ変わる人にすごい強力な能力を与えて、魔王を倒してもらうって事になったの」
………なるほど。そう言うこと。困っている人が、世界が滅ぼされそうになっているなら、私はそれに手を差し伸べたい。
「………分かりました。私が、その魔王を討って世界を救います」
「畏まりました」
と、いうわけで、一つ能力をもらい、私は異世界へと旅立った。
☆
気がつくと、私はどこかの街にいた。ここがどこだかわからないけど、とても現代の街とは思えない世界が広がっていたので、おそらく異世界なんだろう。
さて、まずは冒険者にならないと何も始まらない。………どこに行けば良いんだろう。ど、どうしよう……どうすれば良いんだろう……ここどこ?どうすればいいの?
早くもピンチになり、オロオロしてると、「あの……」と、声をかけられた。金髪のお嬢様風の女の子が立っていた。