オウガテイルになったんだが 作:腹ペコ
物陰から様子を窺う。今自分たちは1匹のコンゴウの近くにいる。どういう訳か群れから離れているようだ。周囲を慎重に索敵した結果コンゴウ以外には他の小型種が数体いるだけだった。襲うなら今がチャンスだ。
すっかり忘れていたが元々巣を作ったのは安定した生活を確立するためだ。安定した生活が出来れば余裕が生まれる。余裕が生まれれば今まで出来なかったことにも挑戦できる。自分たちの場合それは中型種を狩ることだった。
1人で生きるだけなら正直冒す必要の無い危険だ。しかし自分は1人ではなく数10匹の群れを率いる立場だ。(群れの全体数を確認出来ていない辺りあまり良いリーダーとは思えないがね!)
これからストーリーが進むにつれディアウス・ピターや、だいぶ先になるだろうが感応種などオウガテイルより強いアラガミがゴロゴロ出現する。群れを率いる自分には仲間を守る責任がある。
最初は自分の身を守るために。危険なアラガミに襲われれば躊躇なく1人で逃げる、そのつもりだった。
彼らが一方的に慕っていただけだった。ただ攻撃がくるだとか、避けろ、といったそんなとても指示とは言えないものに彼らは感謝していた。
なし崩し的に自分が彼らを率いて小型種を狩った。自分の拙い指示を必死に聞いて戦い、倒した獲物を皆美味そうに食べていた。
皆で家を探した。各々がない頭を捻り意見を出し合い、その条件に合うところを探した。
遭難していたエミールを、人間を助けた。餌でしかなく、ともすれば恨みすら持っていたかもしれないはずなのに、自分の我が儘を聞き一緒に彼を送り出してくれた。
アラガミになって自分は得難い仲間に出会えた。それぞれ名前で呼び合うことはないがそれでも大切な仲間だ。
失いたくない
とはいえ無理だろうとは思う。誰1人失わず生きるなど、ましてやオウガテイルという弱い種では。
原型にして完成体などと言えば聞こえはいいが要はこれ以上の進化は見込めないということだ。
せいぜい環境に適応した堕天種、それらより少し強いヴァジュラテイル程度である。どちらも単独では中型種に蹴散らされるだけだ。ましてやそれ以下の自分が仲間を守るなど言えるはずもない。
お互いがお互いをカバーする。連携して戦い、無理なら逃げる。
自分たちに必要なものは連携だ。圧倒的な個の前では連携など無意味とも聞くが何も戦わなくても逃げることが出来れば十分だ。その為に必要なものは指示と意思の疎通だ。
アラガミの動きから次の攻撃を予測、それを迅速に伝えること。自分の役割はそれだ。
そしてそれこそが弱小種族である自分たちが生きるために必要なこと。力のない自分が出来る"守る"だ。
まぁ小型種での狩りである程度養われているし知識もある。アテにし過ぎるのは危険だがそれでも最大限活用しよう。
意思の疎通。これは自分の指示が届かないとき自分を介さない連携を取るためだ。自分が倒れるようなことがあっても彼らが死なないようにするためだ。
最近は自分の意見を持つようになった。ただ唯々諾々と従っていたのが自分の意見を、意思を持つようになっている。もう少し経験を積ませれば自分が死んでも問題なさそうだ。
全く....いつの間に成長したのやら....
・・・さてそろそろ行くか
「大丈夫スか?」
「あまり気負わないでください」
「アンタの為なら死んでも構わん」
そういうことを言うな。そうならない為の戦いなんだから。
「誰も死なないなんてある訳ないッスよ」
「犠牲は覚悟しないと」
「別に死んだって恨みはしないさ」
それはそうだ、その通り....
今からでも引き返した方がいいんじゃないか。そんな思いが頭をよぎる。
ダメだ....それはダメだ。
自分は何の為に生きている。
前は言えなかったこと、分からなかったこと。
自分は・・・コイツらと笑って過ごすために生きているんだ。
小声で話していたとはいえコンゴウの聴覚は並ではない。ゆっくりとこちらに近づく足音が聞こえる。
息を、吐く。
いくぞ!
咆哮を上げ自分はコンゴウの前に躍り出た。