長かったですね。大規模作戦なのに毎日数時間しかプレイ出来ず、E7までクリアしたのは先週の6日でした。
新艦掘りは終了したので、概ね満足できる結果でした(海風出ない...)
立ち上がったのは黒島大佐だった。
彼は周りを見渡すと、こう宣言した。
「今回の事故で我が連合艦隊を陥れようとした事には強い怒りを感じます。さて、本会議で連合艦隊は三つの提案をさせていただきます」
黒島は事前に配られている資料を読み上げる。
「一、連合艦隊を自衛艦隊と同格に昇格する
ニ、艦娘搭載航空隊の空地分離を認める
三、新型装備開発費の増額
以上です」
連合艦隊は思い切った提案をして来た。皆眉間に皺を寄せて書類を見つめている。
確かに自衛艦隊の下に連合艦隊がある事は違和感を感じるが…。同格にするメリットがあるのは連合艦隊だけな気がする。
一方、二番目の空地分離は部隊の柔軟性が上がるし、否定する理由は少なそうである。三番目はアバウトな提案だが詳細を見ると、新型航空機とレーダーの開発に充てるらしい。当たり障りの無い内容ばかりだ。
思った通り、連合艦隊以外のスタッフは第一項の承認を渋った。
結局一時間ほど議論した後、第一項は却下されたものの、第ニ・三項はそのまま認められた。
連合艦隊スタッフは昇格出来ずにがっかりしているかと思えば、まんざらでも無さそうな顔。
もしかして第一項は囮で、第ニ・三項が目的だったのだろうか。被害者の立場を利用した汚い手である。
やはり中央部は怖い。
会議は無事に終わり、艦隊司令部に戻って来た。
「長官、お疲れ様です」
「保科か。なぜか疲れたぞ」
「責任は有耶無耶になりましたね」
「そんなもんだとは思っていたが」
「マスコミは連日大騒ぎです」
「だろうなぁ。それより、異常はないか」
壁のスクリーンを見る。不審な点は無く、全て順調に見える。
「マレー沖で潜水艦が出ましたが、護衛艦と艦娘で対処しました」
「潜水艦?」
「カ級かと思われます。アスロックと爆雷のダメ押しで守り切りました」
「ほう。護衛艦の十八番を発揮したな」
「ええ。しかし今回の敵は一隻でした。今後複数で来ないとは限りません。群狼作戦をしてくる可能性もあります」
「あり得る話だ。そう考えると護衛戦力をもっと増やしたい所だ。もう一度第三艦隊の所に行ってみようか」
「貸してくれるでしょうか」
「分からん…」
とりあえず司令部スタッフにアポを取るように伝えた。
スタッフが各地へ電話をかけ、一週間後に会えるという約束を取り付けて来た。大規模攻勢も始まる中、一週間で約束を取り付けられたのはよしとすべきか。
約束を取り付けた数日後に「第十一号作戦」は始まった。
計画通りに三水戦がインド洋に前進し、ベンガル湾の対潜掃討を開始した。
まだ始まって数日だが、現時点でかなりの数を沈めたらしい。
大規模攻勢は毎回艦娘の力の威力を実感させられる。
この調子で毎日行ってくれば良いのだが…。
艦娘からしても対潜作戦は苦手な分野だ。太平洋戦争中の兵器を元にしているため、ソナーと爆雷しか攻撃方法はない。集中して行えば多くの戦果を上げるが、基本的に艦娘は魚雷やレーダーを積みたがる傾向がある。作戦中盤以降になると潜水艦対策を面倒くさがってろくに対策をせず、逆に返り討ちを食らって帰ってくる事もあるらしい。
その点、現代技術の塊である護衛艦は各種レーダーやアスロックがあり、遠距離攻撃が可能なため、艦娘より有利であるように思える。だが深海棲艦は人間サイズの個体も多く、全ての個体をソナーで感知するのは難しい。
動力や音波でも出していれば別だが、ヤツらは泳いで来る。最新の"あさひ"型護衛艦のソナーでも全てを見つけるのは困難である。
ちなみに艦娘用のソナーは対深海棲艦用なので、イルカレベルくらいなら感知出来るようになっていると聞く。両者ともに一長一短といったところか。
潜水艦についてこんなに語ったのは、船団に被害が出たからだ。
シンガポール・門司のヒ42船団に所属するLNGタンカーが突如魚雷攻撃を受けた。タンカーは南洋の暑い空気と魚雷による火災で天然ガスに引火し、またたく間に大爆発を起こして大破した。
真夜中だったが連絡を受けると飛び起きて司令部に向かった。
司令部には主要メンバーが集まっており、すぐに指示を出す事が出来た。
「重軽傷者が数人いますが死者はいないとのことです」
「良かった…」
「タンカーを見捨て、最大戦力で離脱したのが功を奏したと思います」
「犠牲は最小限にすべきだからな」
俺と保科がホッとしていると、電信が届いた。
「9駆朝雲より入電。敵潜水艦を攻撃するも、撃沈に至らずとの事です」
「船団は21ノット…。うむ。朝雲には深追いせず、船団に戻るように言ってくれ」
「はい!」
職員が急いで端末のキーボードを叩く。
「長官、良いのですか。追って来るのでは」
「大戦中の潜水艦で水中を21ノットも出せるヤツはいないはずだ」
当時の潜水艦は可潜艦という感じであり、水上を走る時の方が多い。もちろん潜行中の速度は水上航行より下がる。
「伊200型は出せたと思いますが…」
マジすか。高速潜水艦があの時代にあるとは…後で調べておこう。
「例外はいるだろうが、例外ばかりであれば、それはもはや例外ではない。それに、同じ場所に留まっていれば仲間も寄って来るだろう」
「なるほど。仰る通りです」
背中に冷や汗をかいたが上手くやり過ごしたようだ。
一隻の被害を除けば順調に運行している。大規模攻勢で太平洋の守りが手薄になっているが、この調子なら問題ないだろう。
「船団は新航路を採っているのだな?」
「ええ」
「上からの指示なのだが、理由を聞いていないか」
「いえ…。機雷を多数発見したとしか」
「そうか…」
命令に従うのは当然なので実行しているが、何か裏がありそうである。
機雷は確かに脅威だ。しかし、南支那海の島にあった施設や住居はすでに更地と化している。
深海棲艦の拠点になるのを防ぐという考えもあるが、なぜ今なのかという疑問が出て来る。さらに"日本が発見した"という事は西側海軍が知らなかったという事だ。中国やロシアが無断で行ったとも考えられるが中国船も通る海域であり、自国の補給路を塞ぐ事はないだろう。
ますます分からなくなった。
一週間後、俺は新幹線に乗っていた。
仕事は飽きたので、スマートフォンでニュースを見ている。
今ちょうど内閣の官房長官が壇上に現れ、自衛軍のインド洋派遣の会見を行っている所だ。
敵潜水艦を殲滅し通商路を確保したという発表を淡々と読み上げている。
記者の質問にも淀みなく答えており、特に問題無く会見は終わった。
スタジオに映像が戻り、芸能人と軍事に詳しい大学教授の掛け合いになった所でテレビを切った。
第一作戦は成功したとの連絡も入った。
まずは一安心である。護衛艦隊であろうと連合艦隊であろうと、はたまた人民解放海軍であっても敵に勝利したというニュースは嬉しい。仕事だからという点もあるだろう。
国民の多くがこの会見を見ているのだが、最近は大戦果を収めてもマスコミが軍国主義化を憂いても世論は動かなくなった。
数年間続く戦争に慣れて来たのだろう。開戦前はリムパック以外で弾すら撃った事の無かった俺もヤツらを恐れない歴戦の提督であるのと同じ理屈かもしれない。
時間の進みは早いなと思う。
…などと偉そうな事を考えていると、広島に到着を知らせるアナウンスがあった。降りる用意をしなければならない。
一月振りに降りた呉駅。
特段変わった所はないが、不思議と安心する街だ。
呉は戦後、海軍呉工廠の施設を活かして造船の街として発展している。今も戦争特需で目の前の造船所は忙しそうに見える。
呉の港に巨大な貨物船が数隻浮かんでいる。何も積んでいないので喫水線がかなり低く、転覆してしまいそうだ。
煙突には二本の赤い線が引いてある。日章旗を掲げた新しい貨物船だ。
この戦争で需要が急増しているらしく、海運会社は景気が良い。
特に日本企業は艦娘が直接護衛するので還送率が高く、人気があるようだ。
役立っている実感と共に、逆境でも得をする勢力が必ずいるのだなと感じる。
呉鎮守府へ向かうと、潜水艦桟橋が何やら賑やかだ。
音楽隊が軍艦行進曲を演奏しており、士官が集まっている。
だが艦隊の出撃シーンにしては人数が少ないし、地味だ。
俺に気がついた水兵が提督らしき人に伝えたらしく、振り向いた。
「やあ君は第七艦隊の司令じゃないか」
体格の良い中年の提督は俺に声を掛けて来た。
「初めまして。あなたは高城長官ですか」
「ああ。第六艦隊司令長官をやっている高城武夫だ」
「では第六艦隊の出撃ですか」
「うむ」
桟橋には水着の少女達が並んでいる。
両脇の"そうりゅう"型と比べると子供のようだ。実際子供なのだが。
潜水艦の艦娘は初めて見た。水着姿は新鮮だ。着衣泳をするよりは良いだろうが、じっと観察するのは何か背徳感を感じるような…。
「もっと派手な出撃にして上げても良いと思うのですけどね」
高城長官の隣にいた眼鏡をかけた銀髪の女性が言う。
モデルのようなスタイルにどこかで見た礼服を着ている。
「もしかして鹿島さんと同型ですか」
彼女の事を知っているとは思わなかったようで、高城は驚きの声を上げた。
「よく分かったな。そうだ、香取と言う」
「初めまして」
「第七艦隊の提督ですか。武勇伝は伺っております」
「いえいえ。今は後方で輸送船を守る地味な仕事です」
「輸送船…」
香取は俯いてしまった。
俺が訝しんでいると、高城がフォローした。
「俺らの仕事は輸送船を沈める事だからな」
「えぇ…すみません」
鹿島が頭を下げる。こちらも釣られて頭を下げてしまった。
「そうでしたね、こちらこそすみません。あなた方の哨戒活動には助けられておりますし、気にしておりません」
「…」
「香取は優しい艦娘だからな。気にせんでくれ」
高城は笑いながら香取の肩を叩く。
「提督。もう出撃しますよ」
参謀が声を掛けると高城は笑顔を引っ込め、艦娘達に向き直って敬礼をした。
司令部スタッフや俺もそれに倣う。
艦娘達は男達が一糸乱れぬ敬礼をしているのを見届けると、艦娘達は「いってきまーす」「大戦果期待するのね!」
と賑やかに出撃していった。
こちらが真面目にやっているのが馬鹿みたいだ。
俺は横にいた左官の参謀にこっそり聞いた。
「いつもこんな感じですか」
「こんな感じです」
「もっときちんとするように言っているのですが…」
その左官は慣れた様子で答えた。
どうやらこれが日常風景のようだ。
それならば仕方が無い。
潜水艦隊は特殊な任務が多い。行き先を聞く訳にも行かず、出撃だけ見届けて俺は潜水艦桟橋を後にした。
大規模作戦で周りが慌ただしく動く中、俺はこんなに暇でいいのかと疑ってしまうが、第三艦隊から援軍を取り付けるのも仕事であると思い直した。
第三艦隊司令長官の高橋は所要で呉にいると聞いている。
その合間を見計らってアポを取り付けた。今回も待たされたが、佐世保まで行かなくて良くなったため運が良いと思うべきか。
高橋は呉鎮守府の会議室にいるらしい。
俺が向かうと、キャスター付きの長机とパイプ椅子という至って普通な会議室だった。
部屋の隅には2台のパソコンが何かの機械と繋がっており、二人のスタッフが端末を睨んでいる。
高橋は部屋の中央の席に着き、書類を片付けていた。俺が入ると顔を上げ、表情を変える事なく話しかけて来た。
「君か。わざわざ呉にまで来るとはね」
「佐世保だったとしても行きますよ」
「そうだったな」
高橋はおもむろに隅の端末を指した。
「今は特殊作戦中でね。今は静かだから良いが事態が動いたら会談は中止とさせてくれ」
「大規模作戦に参加されてるのですか」
俺の何気ない質問を高橋はなぜか目を伏せて切り捨てた。
「君には関係ない」
「…すみません」
「無くはないんじゃない?商船団をまとめてるのは彼よ」
踏み込んではいけない話題だと察して思わず謝ると、高橋の斜め後ろでノートパソコンを見ていた緑髪の女性が掩護してくれた。
この某ボーカロイドアイドルのような女性は第三艦隊の艦娘だろう。佐世保で見た覚えがある。
「まあそうかも知れないな」
商船団を編成し、運行するのは護衛艦隊であり俺ではないのだが、高橋が納得してくれたようなので、黙っておいた。
「詳しくは言えないが、主力部隊がインド洋に前進する間、内洋を守る作戦だ」
「あまり乗り気じゃないのよね」
「上が決めた方針だ」
全貌は見えないが、要はパトロールだろうか。内洋がどこまでの範囲を示しているか分からないが、手薄になる部分を守るのは当然だろう。
「少なくとも、日本船団に被害は出ないような作戦よ」
「五十鈴、それくらいにしておけ」
「情報ありがとうございます」
「で、今回の要件は前回と同じか?」
「はい。是非、水雷戦隊をお借りしたいです」
高橋は少し考えた後、後ろを振り返り、五十鈴と目配せした。
五十鈴は頷いた。
「分かった。作戦が終わり次第君に貸そう」
素直に借りられると思っていなかったため、咄嗟に返事できなかった。
「まあ、あいつらにもバカンスは必要だろう」
「あ、ありがとうございます!」
「いつになるかは正確に分からないけど、大規模作戦中には終わると思うわ」
船団護衛がバカンスと思われているのは心外だが、強力な敵がいる場所へ攻めに行くよりは、敵が来ない前提で運航されている船団護衛の方が楽なのは確かだ。
その思い込みも、護衛戦力を増やせるという事と比べれば些細な事だ。
俺は気分良く横須賀へ帰還した。
だがその機嫌は一週間後に衝撃的なニュースによってかき消されることになった。
前回、今回は今後への布石となる話(の予定)です。
次回は久しぶりの戦闘回ですが…書いててあまり気分が良くないのでどうしようかと。