艦これ海上護衛戦   作:INtention

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投稿遅れました。申し訳ございません。
忙しさ...ではなく筆が進まなかった形です。
皆様からのご感想にも返信出来てないのに次の話を投稿するのか、という負い目を感じておりますが、生存確認も兼ねて投稿します。

艦これは夏イベが終わりましたが、コラボイベントが充実しており、まだまだコンテンツが長生きしそうで安心しております。
佐世保・呉は行けませんでしたが、観艦式コラボは行けました。本当は全イベントに参加したいのですけどね…。


第二五話 密談

新幹線は無事長崎駅へ到着した。

時間通りの到着だったが、駅では新鳥栖駅でのお客様トラブルの影響で上り列車が遅れているとアナウンスしていた。

自分達が起こした事件のために懸命に乗客へ説明している駅員に罪悪感を感じながら改札を抜ける。

警務官から疑いの目を向けられた時は咄嗟の嘘で切り抜けたが、拳銃を向けられた時は何も出来なかった。事件の後処理くらいはきちんとしなければ上官としての立場がないだろう。

とは言えどこと調整すれば良いのだろうか。今まで経験が無いだけに検討も付かない。軍令部にいる同期か…?

 

自分の考えが何かに通じたのか、携帯電話に着信があった。

 

「もしもし」

「よう。元気にしてるか?」

「えっと…」

「あぁ俺だよ。高橋だよ」

「高橋中将ですか?」

 

高橋中将とは、元第三艦隊の司令長官だ。艦隊が解体されたため、戦力のほとんどは第七艦隊へ移る予定となっているが、本人がどこに配属になったかは聞いていなかった。

 

「軍令部に配属になってな。来て早々、名取()が事件を起こしたと報告があったから連絡した。何があった?」

 

事件の事を知っているとは、何と耳の早い事か。

俺は列車での事件を話す。

 

「ふむ。悪くない対応だ。こちらが発砲した証拠は見つかっているか?」

「今のところは出ていないかと。撃ったのは男の銃だけとしています」

「名取が撃った銃は?」

「鞄から出していません。発射した弾も窓の外です」

「そうか。鑑定すれば一発で分かるが、状況証拠で言えば無罪を通せるかも知れん」

「本当ですか」

「ああ。第三艦隊時代に仲良くなった公安の兄ちゃんを通して見繕う。お前は気にするな」

「あ、ありがとうございます」

 

なぜ公安と仲良くなれるのだろうか。

普通に提督をしていても公安と接する機会は無いのだが、踏み込むと抜け出せそうにないため黙っておく。

とりあえず、名取共々逮捕される事は無さそうだ。

 

携帯を切って隣を歩く名取にこれからの行動を聞いてみる。

 

「はい。駅前に白い車が…。あ、ありました」

 

指を指す方向を見ると、普通の社用車らしき小型車が止まっている。

どうやら車で目的地まで行くらしい。

車に近寄ると、運転手が出てきた。

 

「お待ちしておりました。どうぞ」

 

やけに背筋が伸びた運転手だ。同業者だろうか。

二人が車に乗り込むと、運転手はすぐに車を走らせた。

 

長崎市内を観光する余裕も無く、早めの速度で路面電車が走る大通りを走り抜ける。有名な和菓子屋チェーンの本店を過ぎた頃、住宅地へと入って行った。そこからは不自然に曲がったりを繰り返していたのでどこを走っているかは分からなくなってしまった。

十分程走った所で止まり、運転手は到着を知らせた。

ただの住宅地だと思ったが、喫茶店がそこにあった。周囲は住宅と雑居ビルが混ざった地域にひっそり佇む何の変哲も無い店だ。

 

運転手に礼を言い、中へ入る。至って普通の喫茶店のようだ。出迎えた店員は俺らを上から下まで眺めると、何も言わずとも席を案内した。

先客は二人。中年男性と女の子が座っている。

 

「おう、お疲れ様。大変だったな」

「いえ」

「警務が付いて来る事は読んでいたが、中国が来るとは予想してなかった」

 

高橋中将だけでなく、この男も事件を知っているのか。

 

「では二人の警務官は貴方が?」

「いや、俺じゃない。多分空軍だろう」

「空軍?」

「会議の場で君を誘ったのは空軍も関係ある話だからな。こんな場所で話すくらいだから空軍には口外無用だが」

 

今回の顔合わせは元々新造艦の割振りをヒアリングする会で空母翔鶴から誘われたものだ。もちろん輸送船被害の味方作りも目的の一つである。

 

「ん?こうして話すのは初めてだったか」

「いえ、大澤少将とは護衛艦"はたかぜ"に乗艦していた時に一緒でした」

「そうか、懐かしいな」

 

大澤少将…第二機動艦隊の長官だ。

東雲少将率いる第一機動艦隊と双璧を成す日本国防海軍の顔の一つである。

第二機動艦隊は空母大鳳や翔鶴型、雲龍型など、最新の艦娘を揃えた部隊で、東雲艦隊と戦果を争っている。味方同士ではあるが、東雲少将とは仲が悪いとの評判である。

 

「隣にいるのは駆逐艦夕雲だ」

「夕雲型一番艦、夕雲です」

「空母は前線に返したから今は彼女に付いてもらっている」

「そうですか」

「三日月さんに会えると思って来たのですが…」

「すまない。三日月は遠征中なんだ。旗艦だし」

 

三日月も大人びているが、夕雲は大人の女性と言った感じだ。

 

「隣は、第三艦隊の…いや君の艦隊か」

 

大澤提督は名取を見破ったようだ。というか、事件を知っていれば当然か。

 

「そうです。まだ艦隊付という形で、今日も非番という扱いです」

「そうか。着任したら艦隊旗艦は交代か?」

 

旗艦交代。普通に考えれば旗艦は主力艦か、巡洋艦がするものだ。名取に代わると考えるのが当たり前だろう。

 

「そこは検討中です。五水戦旗艦として前線に出したい気持ちもあるのですが、活動範囲が広く、管理のために秘書艦を置いておきたいという気持ちもあります」

「スタッフに任せれば良いではないか」

「弱小艦隊ですから、余裕はありません」

「そうか。艦娘の演算能力は馬鹿に出来ないからなぁ。分からなくはない」

 

艦娘が人間と異なる点として、高性能な演算能力がある。目視で観測した情報を計算し、砲撃を行うため計算能力は高いのだ。

ただ、同型艦であっても気分や性格にも依存するため個体差があるのが面白いところだ。

 

「艦隊旗艦としての設備がある練習巡洋艦がいれば良いのですが、第四、第六に取られていますからね」

「そうだな。しかし、軽巡だって司令部設備はあるぞ。旧軍は戦前潜水戦隊旗艦に軽巡を充てていた事もある」

「そうなのですか」

「由良とか鬼怒とかな。同じ長良型だし、十分やっていけるのではないか」

「では艦隊旗艦として横須賀勤務に充てますかね」

「ほ、本当ですか!?」

 

名取が若干大きな声で聞く。

 

「三日月や他の軽巡とも相談しないといけないが」

「他の方ですか…」

 

他と言ったが、現状軽巡は五十鈴と名取だけである。五十鈴は大規模改装中で、まだ会えていない。

 

「陣容が充実するのは良い事だが、この前の事件で君のクビが飛ぶかもしれんぞ」

「はい。私のクビが飛ぶのはともかく、途中で諦めるのは嫌ですから、各方面と調整中です」

「そうか。なら良い」

 

大澤提督はそこでコーヒーを飲む。

そういえば俺達にもコーヒーが出されていたのを思い出し、口を付けた。話し込んでいて忘れていたため、苦味が強くなっている。

 

「そうだな。君の方に味方をしても良いぞ」

 

思わずカップを落としそうになった。

 

「本当ですか!?」

 

夕雲はクスリと笑った。

 

「?」

「君たちは主従揃って同じ反応をするな」

「いやっ、これは」

 

あたふたしていると、大澤は真顔になって話し始めた。

 

「冗談はともかく、本当に味方をしてもいい。ただし、条件として連合艦隊の計画に乗って欲しい」

「連合艦隊の計画ですか」

「そうだ」

「軍令部では無く?」

「そうだ」

 

何やらきつい条件を言われそうだが、駄目元で頼みに来ている、まずは内容を聞いてみるか。

 

「近い内に大規模な攻勢を受ける」

「攻勢!」

「ソロモンかミッドウェーか。場所は特定出来ないが、太平洋からだ」

「範囲が広すぎます」

「そう。まさにそれが問題だ」

 

大澤提督はさも当然の様に言う。

 

「シンガポールから第一機動艦隊も出撃し、俺の艦隊と合わせて南北で守りにつく予定だ。しかし到底カバー出来る範囲ではない」

「ええ」

「機動部隊で全てをカバーするには兵力が足りない。ではどうすれば良いか。まず、航空戦隊ごとに分割し、全域を哨戒する案が考えられる。だが、兵力を分散させるのは愚策だ」

「はい」

「では空母の代わりに全域にレーダーの目を張り巡らせるか」

 

それが出来れば苦労はしない。出来ないから俺達第七艦隊が苦労しているのだ。

 

「全域をカバーするレーダー網を築く予算も人員も無いかと思いますが」

「その通り」

「……」

「後はどんな策がある?」

 

大澤は試す様に俺を見る。

俺は記憶の中の教科書を探る。完璧に記憶している訳では無いが、船団護衛を前線でやって来た以上、基本は頭に入っている。

 

「後は、潜水艦による哨戒や機雷網の敷設など…」

「やれるか?」

「いえ、潜水艦は数が足りず、中途半端な哨戒線しか築けません。また、機雷網はコストがかかり過ぎです。島嶼部や海峡など、限られた範囲にのみ効果を発揮します」

「ふむ。では?」

「他には…機動部隊とは別の部隊で哨戒し、適宜駆けつける…いやそれも兵力やら何やらが不足…」

「いやまさにそれだよ」

「え…」

 

中部太平洋を全域でカバー出来る哨戒部隊を出すという事か。第四艦隊だけでは足りないだろう。だが主力の第一、第二艦隊が哨戒に兵力を割く訳が無い。となると、残りの部隊は…

 

「まさかウチ(7F)が出るんですか!?」

 

俺が机に乗り出して叫ぶと、大澤提督はニヤリとして頷いた。

 

「よく分かったな」

「待って下さい!ただでさえ護衛が足りていないのに、これ以上艦娘を減らすのは」

「大丈夫だ。大規模攻勢に伴い、民間船舶には特別支援制度が適応され、護衛対象も中部太平洋に来る」

 

要は、民間船舶を徴用して作戦に投入させるという訳だ。確かに西太平洋の船舶は本土から南洋諸島への航路へ来る事になるが、航海の危険が増えるだけだ。全く大丈夫ではない。

 

「民間船を危険だと分かっている航路へ向かわせる事は出来ません」

「そうだな。では哨戒をしながら、船団も護衛出来る戦力が手に入ったら、引き受けてくれるかね?」

 

話が読めない。

大澤提督は何を企んでいるのだろうか。あれだけ中部太平洋をカバー出来る戦力が無い事を示しておきながら、有りもしない力をくれると言う。

今は無き偵察衛星網でも復活させたのだろうか。

隣を見ると、名取はじっと自分を見つめていた。自分がどう返答するかを待っている。

前を見ると、夕雲が微笑しながら紅茶を飲んでいる。夕雲は内容を知っていて、俺がどんな反応をするか楽しんでいるのだろうか。

名取(連れ)が助けてくれない以上、自分で判断するしかない。俺は手元のコーヒーを見詰め、提案を検討した。

ここで大澤に了承すれば、大澤に運命を握られる気がする。大澤は若くから才覚を示し、第二機動艦隊の長官にまで出世した。将来は連合艦隊司令長官かとも噂される器の人間だ。

防大での成績は普通だったが、前線に繰り出し戦果を上げて艦隊司令になった俺とは違い、真っ当なエリートである。正直俺と性格は合わない。

だが、彼には勢いがある。彼の勢いを利用すれば護衛戦力が手に入り、クビも防げる可能性がある。

しかも、でまかせであってもデメリットは少ない。いざとなれば護衛艦隊派に寝返れるという手もある。俺は大澤提督に乗ってみる事にした。

 

「まあ。そのような部隊が指揮下に加わるのであれば、喜んで引き受けます」

「そうか!良かった」

「それで、計画とは何でしょう」

「うん。君の所に航空隊があるだろう」

「ええ」

 

第七艦隊では水上偵察機の搭乗員を育成するための航空隊を持っている。外向きには妖精はいない事になっているから、無人飛行システムの調整やら新造機の初期テストのためとなっているが、実状は妖精の慣熟訓練のためにある。艦娘に搭載する前に一人前にしておこうという物だ。水偵は海面に降りるため、日没後や荒天でも運用される事もある。空母艦載機よりタフだと言われるが、そんな事はない。着水が簡単な訳ではないし、前線へ飛ぶから消耗率が高い。ゲタ履き機は敵戦闘機に追いかけられたら逃げられないし、弾着観測だって航空優勢や、時には劣勢でもさせられる時もある。ゲタ履き機で敵戦闘機を返り討ちにした猛者もなくはないが、それは練度があってこそ。だから錬成用の航空隊が作られたのである。

岩国基地を拠点としており、航空戦隊にいた経験のある三日月や呉の鳳翔さんに見てもらっている。

 

「岩国で訓練している隊なんだが、あれの規模を増やしたい」

「増強ですか」

「次の補正予算で航空隊を増強する。第七艦隊付属の航空隊は401と403があると思うが、3個増やす予定だ」

「かなりの改編になりますね」

 

現在は以下の編成となっている。2つの航空隊は共同で訓練に励んでいるが、第403航空隊は連合艦隊が指揮するため所属は名前だけである。

 

第七艦隊

 第31航空群(岩国基地)

  401航空隊(水偵x16)

  403航空隊(水偵x16)

 

大澤が言うには、大幅な拡張を行い、以下の編成とする計画の様だ。

 

第七艦隊

 第31航空群(岩国基地)

  401航空隊

  403航空隊(新設)

  405航空隊(新設)

  431航空隊(旧403航空隊)

  432航空隊(新設)

 

「十の位が異なるのは…。なるほど。431、432は連合艦隊指揮下にするのですね」

「そうだ。第七艦隊は横須賀だから0、連合艦隊は呉の3とする予定だ」

「あの…432が偶数なのはなぜですか?433ではなく」

 

名取が恐る恐る質問すると、大澤は大きく頷いた。

 

「よく気が付いたな。432は常設ではなく特設だからだ」

「特設」

「まあ予算が審議に掛けられたら説明するさ。ともかく5個航空隊を運用してもらう事になる」

「多いですね。群を分ける事はしないのですか」

「今のところは考えていない。あまり拡張し過ぎて目立っては困るからだ」

「目立つとは?」

「空軍や航空集団の連中に突っ込まれないようにという事だ」

 

海自が規模を増やす話をすれば、空軍もと騒ぐ事は容易に想像できる。しかし航空集団は海上自衛軍の身内ではないか。

 

「航空集団にも黙っていなければならない理由は何ですか」

「それはまあ勢力争いだな。海軍の航空隊は基本的に航空集団で集中運用されているが、艦娘は妖精を使うからな。連合艦隊の各艦隊の傘下に航空群を入れて誤魔化している状態だ。F35を"いずも"に載せた時も空自の隊だったから、艦娘の母艦航空隊は空軍と航空集団の両方から隠してる訳だな」

「前から思っていたのですが、なぜ妖精を隠すのでしょうか」

 

大澤の説明に名取が質問をする。俺も頷いていると、大澤は何でもないように答えた。

 

「それは…軍機ってのもあるけど、妖精を見えないヤツからしたら、幻覚を見てるとでも思われるだろ」

 

余りにも簡単な答えに反応が出来なかった。

確かに大澤の言う通りである。俺も連合艦隊に入るまでは言わない様にしていたものだ。そんなうわ言で"問題あり"と判断されては堪ったものではない。

 

「分かりました。口外しない様、気を付けます」

「また命を狙われたら嫌だろう。気を付けてくれ」

 

列車の中で尾行して来た相手を、大澤は空軍だろうと言っていたが、この計画を嗅ぎ付けたのだろう。詳細を探ろうと後を付けて来たに違いない。やましい事も無いのに見張りが付くとは、嫌な身分になったものである。だが今やましい話を聞いてしまったので、これからは無関係ではなくなる。

大澤曰く、艦娘を連れているのは護身のためだそうだ。秘書艦にお供をさせる提督が多いのは、オジサンの趣味では無かったのだと思い知る。

納得したところで、4Fの井上提督が"鹿島"を重宝しているのは、明らかに護身以外の目的がありそうなので、やっぱり趣味もあるのかも知れない。

 

 

 

喫茶店からの帰りも経路を偽装した車を利用し、長崎駅へと到着した。新横浜までの新幹線では見張りがいない事を名取に確認し、大澤から聞いた話を反芻していた。

 

第七艦隊は連合艦隊の大きな戦略に利用されつつあるが、順調に戦力を拡大している。海上護衛の任務を全うするためには力を利用してゆかなくてはならない。これまで気概で進んで来たが、もっと賢く生きる必要があるだろう。




今期からアズールレーンのアニメも始まる様ですね。
私は各学校のアイドルが集結した物語より、地味なメンツ含めてクラス数十名が揃う艦これが気に入っているので(という建前ですが、たくさんのソシャゲを維持出来ない+課金ゲーだからという本音が強い)でアズールレーンやってないので、新鮮な気持ちでアニメを見られると思います。(アニメ艦これみたいに後味悪くないといいですけど)

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