…天津風3隻と阿賀野型3隻を牧場してる場合じゃなかった…
今回の話は結構前に完成していましたが、ストーリーが何も進展していないので話を切るか続けるか迷っておりました。
明日からローソンフェアですね。
ソロモン一航戦は好きな艦娘なので出動不可避。
早朝にリポD3本をレジに置く私の姿が見られると思います。
三日月のスカウト成功から一週間後、俺は呉にいた。
今度は呉鎮守府ではなく、古巣の呉地方総監部だ。
小さな応接室に三人が詰めている。
俺の前には呉地方総監と警備隊長が座っていた。
地方総監は地方隊のトップであり、警備隊長は地方隊所属の護衛艦、各種舟艇や港湾設備等を管理する部門のトップだ。
実務と管理のトップという訳である。
「久しぶりに帰って来たと思ったら、舟艇の工面か」
「はい。護衛艦艇充実のためです」
「舟艇の工面がなぜ戦力の増加に繋がるのですか」
地方総監は呆れた顔で、警備隊長は疑問を浮かべた顔で聞いてくる。
「実は航空戦隊附属の駆逐艦を預かることになりまして、その条件がとんぼ釣りを肩代わりできる船の工面なのです」
「なぜ|うち≪呉地方隊≫なんだ」
「立地が近いという点と、面識があるからです…」
「まあ、君には第12護衛隊が世話になったが…」
連合艦隊に移る前までは、呉地方隊所属の第12護衛隊の司令として船団護衛を行っていた。
護衛艦"うみぎり"に座乗し、南支那海で戦ったのが昨日のようだ。
「"うみぎり"と"あぶくま"は修理が終わり、任務に就いていますよ」
「そうですか。守った甲斐がありました」
「…まあ世話になったし、出来る範囲なら考えよう」
地方総監は中将、警備隊長は大佐が務める。
俺は少将だからその中間。俺も偉くなったものだ。
「それで、どの船を借りようと言うのですか?」
「起重機船を考えています」
起重機船とはクレーン船のこと。
海上自衛軍と言えば護衛艦が目立つが、クレーン船や給油船、船員を運ぶ交通船など、雑役を担う船も多く保有している。
それらは地方隊所属であり、俺がここに来たのは呉鎮守府の活動範囲が呉地方隊だからだ。
しかし、警備隊長は職務用のタブレットを操作しながら非情な現実を告げた。
「起重船は十年程前に退役してますが…」
「え?」
なん、だと…
当てにしていた船はもう無いというのか。
しかし、半年前もクレーン付きの小型船を見た。あれは何だったのだろう。
「クレーン…、もしかして、運貨9号ですかね」
「運貨9号?」
「こんな船です」
警備隊長はタブレットの画面を操作して見せて来た。
揚陸艇のように前が開く船首と、後方にクレーンが2機ついた船だった。
「それのことかも知れません」
「呉には運貨17号が所属していますね。後期型なのでクレーンは1機ですが、力は強くなっています」
「どれくらいですか」
「2~3トンですかね」
俺は手元の資料を見る。
零式艦上戦闘機は2.4トン。載せられなくは無さそうだ。
「問題なさそうです」
「しかしこの船は9ノットしか出ませんが…」
9ノットは遅すぎる。低速と言われる鳳翔でさえ20ノットは軽く出す。
「う~む。他にクレーン付きの船はありませんか」
「後は"げんかい"…ですかね」
「"げんかい"…?」
「多用途訓練支援艦です」
訓練のために使用する軍艦で、ひうち型支援艦の1隻だ。
外洋にも出られる大きさと速さがあり、無人標的を降ろすためのクレーンもあるだろう。
「それです!」
「"げんかい"はいかんな」
俺は乗り気だったが地方総監が懸念を示した。
「"げんかい"は15ノット出るが、運用するのに40名の乗員が必要だ。意外とカネがかかるぞ」
「そうかも知れませんが」
「艦娘はよく分からないが、建造費は高いものの人件費は安いと聞く」
「外見は一人の人間ですから。艤装を動かすのに費用がかかりますが、人件費はそれほどには」
「そうだろう?駆逐艦1隻の代わりが高額な軍艦となれば、連合艦隊も黙ってはいないだろう」
面倒臭そうにしていると思っていたが、意外と考えてくれていた。
理由も筋が通っている。
「こちらの訓練メニューもあるし、1隻でこなすのは無理があるな」
標的訓練にトンボ釣り。この両方をこなすのはハードスケジュールとなる。無駄な仕事を増やされた"げんかい"乗組員が喜ぶとは到底思えない。
以前三日月がトンボ釣りの話をした時に、釣り上げた数だけ鳳翔からアイスクリームを貰えると嬉しそうに話していたが、それくらいの褒美が無いと誰も引き受けないのではなかろうか。
そんな事を考えていると、地方総監がふと疑問を呈した。
「そういやトンボ釣りってあれだろう?着艦に失敗したパイロットを救う」
「ええ」
「それって飛行機は捨ててパイロットだけ救うんじゃ無かったか?」
「あっ」
確かにその話は聞いた事がある。重量があり、破損した航空機を回収した後修理するのは手間なので、現在は行われていないと。
艦娘は古い技術を継承しているので飛行機も釣り上げていると思い込んでいたが、既にパイロットだけに切り替えている可能性もある。そもそも三日月に飛行機を釣り上げるクレーンは積んでいないので、どうやって飛行機も運ぶのか。
トンボ釣りはパイロットである妖精さんだけを助けられば良いのかも知れない。
「ありがとうございます。確認します」
早速俺は呉鎮守府へ連絡を取るために立ち上がった。
「まあ待ちなさい」
総監は急ぐ俺を止めた。
「パイロットだけを救うという場合の手はずも考えろ。またすぐにここへ来るのが目に見えている」
「あ、すみません」
「会議の時間はまだありますので、ついでに決めておきましょう」
常に先のことを考えるという原則を忘れていた。一人慌てていて恥ずかしい。艦娘を迎えられる事に舞い上がっているのだろう。冷静にならなければ。
「現在のトンボ釣りと言えばヘリですか」
「うむ。母艦に搭載しているヘリが対潜哨戒を兼ねて飛ぶ事が多い」
俺は鳳翔がSH60Kを飛ばす場面を想像した。全く似合わない。
「艦娘が使用する航空機にヘリはないか?」
あの時代にヘリコプターが飛んでいたとは聞いた事がない。ドイツなら飛ばしていそうだが、日本海軍がヘリを飛ばす所は想像出来なかった。
「あるのかも知れませんが、見た事はありません」
「そうか。護衛艦隊ならヘリを多く運用しているが、あそこも多忙だから貸してくれるとは限らないな」
護衛艦搭載の各種ヘリは海軍の航空集団が持っている。旧軍で言うなら海軍航空隊か。
護衛艦隊に搭載されるヘリは2つの航空隊に分かれている。そこに行ってみるのも良いかも知れない。
「もし航空集団がノーと言えば…」
「連合艦隊の航空隊で何とかするしかなかろう。確か水上機を多く運用していたようだが」
水上機なら多くの艦娘が積んでいる。巡洋艦以上なら空母を除けばほとんどの艦娘が積んでいるのではないだろうか。
「航空戦隊が所属しているのは空母機動部隊ですから、各種航空機はあると思います」
「航空集団に機動部隊。ここを頼ればどうにかなるんじゃないか?」
「ありがとうございます。参考にします」
短時間で交渉すべき相手が決まった。俺一人では移動含めて数日を要していただろう。
地方総監になるだけあって、威厳と頭の良さが伺える。
「君には期待している」
「は!」
「護衛艦隊では戦力に限界がある。艦娘がもっと護衛に付いてくれれば日本のシーレーンは安泰だ」
どうやら図々しさも持ち合わせているようだ。
航空集団で、艦載ヘリを運用している部隊は二つある。その内、西日本の部隊が第22航空隊で、長崎の大村飛行場を拠点としている。
早速連絡を取ろうと、参謀長の保科に調べてもらうと、参謀長に当たる主席幕僚は市丸大佐だった。彼は防衛大の同期だ。最近連絡を取っていなかったから、こんなに出世しているとは思わなかった。
電話を掛けると、市丸は驚きの声を上げた。
お互いの近況を話し合って昔を懐かしんでいると、市丸が明日呉に行く用事がある事を話した。
丁度良い。このまま呉に留まり、彼に会おうか。
保科へ連絡を入れ、駅とは反対方面の宿舎へ向かった。
翌朝、俺は桟橋の端まで来ていた。
持参した双眼鏡で沖を眺める。
レンズ一杯に能美島が広がっている。その手前で二人の女性が海上を滑るように進んでいた。
先頭の女性が手に持った甲板を水平にすると、上空から航空機が降りてくる。
飛行機は着地すると同時に制動索に引っ張られ、甲板上に止まった。着艦成功だ。
甲板上の航空機は手早く片付けられ、矢として矢筒へ格納される。
流れるような動作だ。
「まるで艦橋にいるかのように真剣だな」
後ろから唐突に男の声が聞こえた。
俺が振り向くと、制服を来た将校が立っていた。
「久しぶりだな」
「市丸か。何年だ?」
「2年くらいかな。元気か?」
「あぁ。そっちは」
「この通りさ」
市丸は笑顔を見せる。
「しかしお前が艦隊司令とはな」
「まだ見習いみたいなもんさ」
「いやいや。その金星と勲章の数。どう見ても歴戦提督だぜ?」
「そういうお前は金の飾りをつけてエリート将校と言った所か?」
市丸は参謀飾緒を一瞥すると笑った。
「俺だってP3-Cを乗りこなす現場指揮官のはずだったんだが、どうしてこうなったのやら…」
市丸は空、俺は海と分野は違うが、現場に留まる事を望んだ点では似ている。彼は候補生時代に空自を希望するくらい空が好きな男だ。
「それで、あれがお前が執着している艦娘か」
「何か語弊がある言い方だが、まあそうだ」
市丸も双眼鏡を構え、訓練を眺める。
「無人機を運用するのはまだ分かるが、あんな小さな板切れに降ろすとは変態じみた事してるな」
垂直着陸が出来るヘリや航空機ではなく、普通の艦載機でする芸当では無いと言う。
言われてみればその通りだ。妖精の技量は悪くないのではないだろうか。
「あ、落ちた」
「え?」
双眼鏡で鳳翔を見ると、後ろへ何か合図をしている。
すると、待機していた三日月が現場へ急行し、海面を探し始めた。
数分もしない内に、妖精をひょいと拾い上げて鳳翔へ渡す。
航空機は水没したのだろうか。
「総監の言う通り、航空機を拾い上げる訳じゃなさそうだ」
「そうだな」
「しかし無人機の何を拾ったのだろう」
市丸のつぶやきに俺は市丸の顔見た。
もしかして、市丸には妖精が見えていないのではないか。さっきから無人機と言っていたのはそのせいか。
それとも、妖精の存在を知らないか。俺は護衛艦出身なので艦娘を見ていたが、航空集団畑の市丸は見た事がないかも知れない。
本人に聞いてみようかと思ったが、妖精の存在は軍機であるということを思い出して言い留まった。
「何を拾うのか知らないが、これをSH60やUH60でやるには無理があるな」
「無理か」
「うん。救助と簡単に言うが、あれもかなりの技量がいる。海に落ちた物を拾うならボートとかの方がいいんじゃないか」
「そうかも知れないが…」
「それに…ここだけの話、大村に艦載ヘリ部隊は3つあるが、稼働してるのは2つだけだ。機材が消耗して補充が間に合ってない。だからそっちに回すのは難しいと思う」
艦載ヘリの消耗か…
パイロットを含め、航空機に掛かる費用は馬鹿にならない。
昔と違って機体より命の方が重いのだ。
「その点、艦娘達の航空機は供給が定期的にあるから良いよな」
「そうなのか?」
「輸出が滞ってる自動車メーカーが製造を受け持っているらしい」
「へぇ」
「値段は分からないが、そっちを当たった方が案外簡単に取得出来るかも知れない」
「そうか。でも一航艦は頼れないんだ」
「なぜ?」
「実は貰い受ける事を正式に話してなくて」
「おいおい。駆け落ちか?」
「そんなんじゃない。以前に一応それとなく聞いてみたら、業務に支障が出なければ考えるという話だった。だから準備万端な状態で言いに行こうかと思って」
「そうか。じゃあ機動部隊からは無理だな」
二人は再び双眼鏡越しの訓練を見る。
話が途切れ、黙ってしまった。
飛行機が数機着艦に成功した後、市丸は口を開いた。
「お前が航空隊を持てばいいんじゃないか」
「俺が?」
「うん。第七艦隊付属の航空隊だ」
艦隊なのだから所有していても問題ない。しかし申請するには理由がいる。予算も付ける必要があるためだ。鳳翔の手伝いのための航空隊なら一航艦が持つべきであり、こちらが負担するのは反対されるだろう。
「あいつに偵察機でも載せればいいんじゃないか」
「駆逐艦だぞ?」
「航空駆逐艦…いい響きじゃないか」
「護衛艦じゃないんだから」
市丸は試してみろと言う。
彼の提案は一見ふざけているように思えたが、本気で言ったらしい。
二人が話している間に沖では訓練が終了したようだった。
三日月の戦果はパイロット一人。後の時間は鳳翔の後をついて行くだけだった。
護衛艦隊と航空集団って人事で行き来する事はあるんですかね?
いわゆるジョブローテーションがあるのか、それとも○○畑と呼ばれるような専門的な仕事なのか…。