前回の続きです。
長さは前回と余り変わらないです。
そして、長さと話の進み具合が比例してない....。
ちなみに、お気に入り70件突破致しました!!
見た時はマジで驚きました....。
登録してくださった方、ありがとうございます!!
では、どうぞ。
体が白い光に包まれた直後、気がつくと俺達は始まりの街の広場に転移させられていた。俺達だけではなく、恐らく他の全プレイヤーもここに転移させられている。
周りの様子を見ていると、近くに転移させられたキリトが訊いてきた。
「ハチ、何だと思う?」
「ログアウト出来ないことへの謝罪と説明、だろうな」
「やっぱり、それが妥当だよな」
キリトが俺の意見に同意した直後、クラインや雪ノ下を含めた全員が集まってきた。
また全員がちゃんと会えたことに安堵していると、急に空に《WARNING》という赤い表示がいくつも出現する。そして、その中から巨大な赤ローブのアバターが現れた。
あの赤ローブのアバターが責任者だろうか...。しかし、謝罪会見にしては....
「随分と、おどろおどろしい演出だな」
「そうね。これじゃあ安心するどころか、むしろ不安になるわよ」
雪ノ下だけでなく、他のみんなも頷く。
他のプレイヤー達も、『やっと帰れる』という気持ちより、この状況に対する不信感を感じているように見える。
すると、おもむろに腕を広げ、上空に浮かぶ赤ローブが喋り始めた。
「ソードアート・オンラインのプレイヤー諸君。私の世界にようこそ。私の名前は茅場晶彦、今やこのゲームをコントロール出来る唯一の人間だ」
この発言に広場にどよめきが広がる。
“茅場晶彦”
ソードアート・オンラインとナーヴギアの開発者だ。
プレイヤー達が騒ぐ中で茅場晶彦は話を続ける。
「諸君の中には、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいている者も居るだろう。だが、これはゲームの不具合などではない。繰り返す、これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」
茅場晶彦がそう言うと、俺も含めた広場のプレイヤー達ほぼ全員が、発言の意味を即座に理解できずに沈黙する。
.....今何て言った。これが本来の仕様だと?つまり出られない事が本来の仕様ってことなのか?それって監禁じゃねぇか。
プレイヤー達が呆然とするなか、茅場は淡々と続ける。
「諸君らは、自発的にログアウトすることができない。また、外部からのナーヴギアの解除、停止などによる強制ログアウトもあり得ない。もし、それが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブによって脳は焼き切られ、諸君らの体の生命活動は停止される」
これを聞いたプレイヤー達が流石に声をあげて抗議を始める。中にはまともに取り合わず、広場から出ようとする者もいた。
だが、クラインが『そんな事あるわけないだろ』と言うと、キリトが『理論的には出来てもおかしくはない』という。俺は機械工学には詳しくないからよく分からないが、キリトの本気で焦る顔からして、それは本当なのだろう。
もし茅場の言葉が本当だったら....洒落にもならねぇぞ。まさか、宿屋が多かったのも....。
「だが残念なことに、警告したにも関わらずプレイヤーの家族や友人などがナーヴギアを強制的に外してしまい、既に213人がアインクラッド及び、現実世界から永久退場している」
「213人も...」
茅場の発言にキリトが思わずうめく。
「信じねぇぞ....俺は信じねぇぞそんなの!!」
クラインが叫び、他のプレイヤー達もそれに呼応するかのように声をあげる。
すると、茅場晶彦は空中に幾つかのウィンドウを表示させた。そこには、既に死亡してしまった被害者の顔写真や、被害者の家族が泣く映像などが流れていた。
これを見たプレイヤー達は茅場晶彦の言っていることが決して虚言では無いことを悟る。
「ご覧の通り、死者を出したことを含め、数多くのメディアがこの事を報道している。よって、これ以上のナーヴギアの解除等による死者は出ないだろう。だから、安心してゲーム攻略に勤しんでもらいたい。
しかし、十分に留意してほしい。今後、このゲームにおいて一切の蘇生手段は機能しない。諸君らのアバターのHPがゼロになったとき、この世界でのアバターは消滅し......同時に諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」
茅場が改めて言ったその言葉に、この広場にいる全てのプレイヤー達が沈黙し、茅場に目を向ける。
「諸君の生き残る方法はただひとつ。このゲームをクリアすれば良い。現在君たちが位置しているのはアインクラッドの最下層、第1層だ。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば次の階層に進める。そして、第百層の最終ボスをたおせばゲームクリアだ」
これを聞いたクラインがたまらずに叫ぶ。
「第100層?.....ふざけるなよ!ベータテストじゃろくに上がれなかったって聞いたぞ!」
クラインの言っていることは間違っていない。俺達はあの2ヶ月で8層までしか行けなかった。
他のプレイヤー達が茅場に抗議の声をあげる中、平塚先生が俺に話しかけてきた。
「比企谷、仮に本当に攻略しないといけないとしたら、どれだけかかる?」
平塚先生の質問に雪ノ下達も耳を傾けて俺の返事を待つ。
「ベータテストの時と同じペースで考えても2年と1ヶ月、でも今からの状況だと.....悪くすれば3年、下手したら4年はかかる...とは思います」
俺の答えに平塚先生達だけでなく、俺の声が聞こえた周りの見ず知らずのプレイヤーも目を見開く。
正直、俺だってこんなこと信じたくない。だが、ベータテストの時とは違い、今回は死がすぐそこにある。その差はあまりにも大きい。
「やっぱりハチもそう思うか....」
俺の答えにキリトも同意したことで、さっきまでわめき散らしていたクラインまでもが静かになる。
俺達が戦慄する中、茅場は話し続ける。
「では最後に、ささやかながらアイテムを進呈しよう。諸君らのアイテムストレージを確認してほしい」
茅場がそう言うと、プレイヤー達はメニューを操作してアイテムを取り出す。雪ノ下達もアイテムを取り出した。
何でこいつら、そんな従順に言うこと聞いてるんだよ。少しは警戒しろよ。
俺はアイテムを取り出さずに、名前だけを確認する。
「...手鏡?...何で」
俺が疑問に思っていると、アイテムを使ったプレイヤー達が光に包まれた。そして、その数秒後には俺も光に包まれる。何でだ?俺、使ってないのに。
すると、茅場が言った。
「中には使わなかったプレイヤーもいたが、私がアイテムの効果を付与しておいた」
初めからそうしろよ...。無駄なことさせやがって...。
だが、茅場がこのゲームのコントロールが可能な事を改めて確認できたな。分かりきってたけど。
視界が晴れると、先程まで雪ノ下が居たところに現実の姿そっくりの雪ノ下が居た。どうやら、現実の姿に変えるためのアイテムだったようだ。俺は強制的に変えられたが....。
すると、雪ノ下が俺の顔を見て、詰まりながら言った。
「え.....ひき...がや...君?」
「どうした雪ノ下。....にしても本当に現実そっくりの姿だな」
俺がそう言うと、雪ノ下は口をあんぐりと開けた。
雪ノ下のこんな顔は初めて見たかもしれない。確かに、この再現度は凄いな。驚くのも無理はない。
「え?でも先輩、どうやって現実の顔....を....」
一色が俺に質問してきたが、途中で雪ノ下と同じ表情になって固まってしまった。
どうしたんだ、一体。まさか、あの手鏡のせいで何か異常をきたしてるんじゃ....。
俺が茅場に対して文句を叫ぼうとすると、平塚先生が一色の質問に答えた。
「ナーヴギアは顔全体を高密度の信号素子で覆っている。それによって、限りなく現実に近い顔を再現しているのだろう」
平塚先生は一色にそう言うと、俺に哀れみの目を向けてきたが、次の瞬間には雪ノ下と一色と同じように口をあんぐりと開けて固まってしまった。
まさか....平塚先生まで。でも、微かに体が動いているから問題は無さそうだな。多分。知らんけど。
「でも何で体型まで再現できてるんだ?」
「あっ!!そうだよお兄ちゃん!!だからプレイする前に...ぜ...ん...」
「小町、せめて全部言ってくれ」
俺は小町にそう言ったが、小町は三人と同じ表情で固まってしまって返事をしてくれない。
まさか、材木座もなってないだろうな。
そう思って目を向けると、案の定だった。
こいつら、一体どうしたんだよ。そんな間抜けな面をするような状況でもねぇぞ。
そう言えば、キリトとクラインの姿を見てないな。先程までキリトとクラインが居た場所に目を向けると、少し幼い顔をした少年と髭面の男が目に入った。
「お前、もしかしてキリトか?」
「え?その声....ハチ?」
「おめぇハチマンか?」
俺が頷くと、二人とも驚いた顔をした。特にクラインが。
よかった。こいつらは普通の反応をしてくれた。
すると、クラインが呟く。
「にしても何でこんなことを....」
「どうせ、すぐに説明してくれる」
キリトが茅場晶彦の方を指さすと、ちょうど話し始めた。
「諸君らは今、『何故?』と思っているのだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギアの開発者である茅場晶彦はこんなことをしたのか、と」
他のプレイヤー達と同じ様に、キリトやクライン達も茅場の言葉に耳を傾けた。
正直今は、こんな犯罪の理由よりも雪ノ下達の現状の理由の方が気になるんだが....。
それは、後で聞くことにして、俺も茅場に意識を向けた。
「私に、既に目的はない。私は、この世界を作って、観賞するためだけに、このゲームを作った。故に、私の目的は既に達成せしめられている」
「こいつ.....そんな事本気で言ってるのか?」
ただ観賞するために....本当にただそれだけのために、これ程のゲームを作り上げたっていうのか?
もし、そうだとしたら本当に頭のイカれた人間としか思えない。こいつ、どこか頭のネジがぶっ飛んでんじゃねぇのか?
キリトも歯軋りをして、茅場晶彦を睨んでいる。
「それでは、長くなってしまったが、これでソードアート・オンライン、正式サービスのチュートリアルの終了とする。諸君らの健闘を祈る」
そして、茅場晶彦の巨大な赤ローブのアバターは消滅し、《WARNING》という表示も消滅して、元の夕日と僅かに紫がかった空が映る。
総勢9787人のプレイヤー達は、ただ、広場の上で立ち尽くすしかなかった。
こうして、後にSAO事件と呼ばれる未曾有の大事件、デスゲームの幕が上がった。
◇
茅場が消え去った直後、広場ではプレイヤー達が大パニックに陥っていた。正に阿鼻叫喚とは、この事だろう。このままではパニックに巻き込まれると思った俺とキリトは、クラインと雪ノ下達を連れて脱出しようとしたが、復活した雪ノ下と一色に両腕を組まれて、俺は連行された。キリトも驚いたが、慌てて後ろをついてきた。
「おい、お前らいい加減離せ。いつまで腕を組んでるんだ」
マジでこいつら、何処まで連れていく気だよ。もう広場からは、とっくに離れてるのに。
「良いから、少しあなたは黙りなさい」
「そうです。少し黙ってください」
「今は大人しく言うこと聞いた方がいいと思うよ」
「うむ、妹殿の言うとおりだ」
「んな理不尽な....」
その後も数分間、連行されていたが、唐突に雪ノ下達の足が止まった。そして、建物についている窓を拳で小突きながら言った。
「さて。この建物の窓で自分の顔を確認しなさい」
「....はぁ?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。わざわざ現実世界と同じ様に腐った目を確認しろっていうのか。雪ノ下って、そこまで鬼畜だったのかよ。
困った俺を見かねて、キリトが助け船を出す。
「ユキノ、俺には何でそんな切羽詰まった言い方してるのかは知らないけどさ。ハチが困ってるから少しは説明してやっても....」
キリトがそう言うと、クラインも頷いて俺を助けてくれる。あぁ、こいつらは俺の救世主だ。後でマッ缶をおごってやろう。あれ?でもこの世界には....。
俺がマッ缶が飲めなくなることに気づいて絶望しかけていると、雪ノ下と一色が冷たい声で言った。
「キリト君は黙ってて、クラインさんも」
「そうです。キリトとクラインさんは黙っててください」
雪ノ下と一色の高圧的な態度に、キリトとクラインは黙り込んでしまう。
はぁ、何か雪ノ下と一色以外の奴も『早くしろ』と言わんばかりに目で、訴えてくるし。とりあえず言う通りにするか。俺の目が腐ってるの何て、もはや俺のチャームポイントですら有るからな。今さら傷つきはしないさ。
そう思って、俺は窓に映る自分の顔を見た。そして、そこには、やはり現実と同じく腐った目が.....
「誰だ。この男は」
「は?何言ってるんだ。それハチの素顔じゃないのか?」
キリトとクラインが不思議そうな顔をして訊いてくる。
だが、俺は返事をせずに、顔をペタペタと触りながら頭の中で考える。
いや、マジでこの男誰だ。俺の目が腐ってないなんて事が有っていいのか?自分でいうのも何だが、俺から腐った目を取ったら、最早ただのイケメンではないか。性根が捻くれてるけどな。
なるほど....だから、雪ノ下達は、あんな反応をしたのか。これで、キリトとクラインだけが普通の反応をしたのにも納得がいく。この二人は俺の現実世界での顔を知らないからな。目の変化なんて気づくわけがない。
にしても目だけでここまで変わるのか...。俺のピョンと立ったアホ毛が無かったら自分の顔だと気づかなかったぞ。
てか、アホ毛まで再現するって.....逆に何で俺の腐った目を再現出来ないのかが不思議だな。ナーヴギア被ってるから、髪の毛はペチャンコになってるはずなのに....。
え?俺の腐り目すごくない?そんな技術力をもってしても再現出来ないとか...。
俺が変なところに感心していると、雪ノ下が言ってきた。
「その反応....やっぱり比企谷君なのね。俄には信じ難いけど...」
「マジで先輩本人なんですか....。見た目だけじゃ判別出来ませんでしたよ」
「お兄ちゃんがイケメンに....。喜ぶべきなのか、このゲームに巻き込まれた事を嘆くべきなのか....」
おい、小町。それは間違いなく後者一択だろう。てか、何でこいつらこんなに落ち着いてるんだ?俺だって、少なからず怖い気持ちはあるのに....。
俺が訊くと、小町は当たり前の様に答える。
「だって、あのお兄ちゃんの腐り目が無くなったんだよ!!これは天地を揺るがす大事件だよ!!」
「んな、大袈裟な....」
俺が呆れると、キリトとクライン以外の全員が頷く。
あれ?俺の感覚がおかしいのかな?それか、こいつらも恐怖で頭のネジが飛んだんじゃねぇか?それともただ強がっているだけか?
だとしたらわざわざ指摘してやる必要もないな。せっかく恐怖心を何処かに吹き飛ばそうとしてるんだ。それを邪魔する必要はない。
キリトとクラインがようやく事情を呑み込めたのか『あぁ...そういうことか』と呟くと、平塚先生が言った。
「比企谷本人の確認も取れたことだし、この先の方針を決めないか?」
「その事なんだけど、俺から提案があるんだ。聞いてもらってもいいかな?」
キリトの発言に全員が頷く。俺とキリト以外にこの場にはベータテスターがいないから、必然的に俺とキリトが指揮を取ることになるだろう。
「まず、俺はこの街を出た方がいいと思う。というか、そうするべきだ。今は広場だけに収まってるけど、しばらくしてプレーヤーが動き出したら、混乱が始まりの街全体に広がる。それには巻き込まれない方がいい。ハチもそう思うだろ?」
俺も全く同じ事を考えていたので、頷く。
「第2に、生き残るためには強くならないといけない。ここから先はリソースの奪い合いになる。俺とハチは、この先の安全なルートもクエストも知ってる。この人数で行けばベータテストからの変更があったとしても対処できるし、みんなの実力はこの目で見たけど、ニュービーにしては上手すぎるって言っても過言じゃない。だから、今すぐにでも外に行かないか?」
皆がそれに従って動こうとすると、クラインが口を開いた。
「悪い、キリト、みんな。俺は....一緒には行けない。さっきも言ったけど、俺の会社の連中もこのゲームをやってるんだ。俺は....あいつらを置いては行けない」
クラインはそう言って、申し訳なさそうに頭を下げる。
こいつ.....滅茶苦茶良いやつじゃねぇか。
わざわざ頭を下げる必要なんかないのに、俺達と一緒に行けないことに負い目を感じてやがる。
すると、平塚先生が優しい笑顔で言った。
「そうか、だったら私もここに残ろう。キリト君、ひ....いや、もうハチマンと言った方がいいな。悪いが君たちは先に進んどいてくれ」
「わかりました。小町、お前は平塚先生と一緒にここに残れ」
俺がそう言うと、小町は大きな声で叫ぶ。
「え...どうして!?小町も一緒に行くよ!!」
「駄目だ。正直に言うが、お前には危険なことはしてほしくない。頼む」
俺は頭を下げて懇願した。もし、モンスターに小町が殺されるような事があったら....俺は、まともじゃなくなるかもしれない。
だが、小町は俺の懇願をあっさりとはねのける。
「絶対に嫌だよ。お兄ちゃんが何と言おうと小町は絶対に一緒に行く」
「何で....何で言うことを聞いてくれないんだよ!!俺は!」
語気を荒げて、何とか小町に言うことをきかせようとするが、続きの言葉が出てこなかった。小町が今まで見たこともないような強い意思を持った目で俺を見ていたからだ。
この様子を見た平塚先生が俺に優しく語りかけてくる。
「比企谷、君の気持ちは分かる。大切な妹に危険なことをさせたくないという思いも理解できる。だがな、それはお前の妹だって同じなんだ。大切な兄が危険な場所に自ら進んでいこうとしている。本当だったら止めたいだろうさ。でも、お前は止まらない。そんな事は今まで君を見てきた私でも分かることだ。だから、止めずに一緒に行こうとしている。妹の気持ちも理解してやれ。この世界に来ても、一緒にいる唯一の家族なんだから」
「そうだよお兄ちゃん!!小町、自分の知らない場所でお兄ちゃんが戦って死んじゃったら物凄く辛いよ!!だから絶対に一緒に行く!!それでお兄ちゃんは私が守る!!」
.....驚いた。
小町がこんなにも自分の思いをさらけ出してきたことに。そして、自分の妹がいつの間にか、とても強くなっていたことにも。
「そうか...悪かったな。じゃあお兄ちゃんは小町を絶対に守り抜かなきゃな」
「うん!」
にしても、平塚先生は何で結婚出来ないんだろう。こんなにも良い人なのに。いや、もう彼氏は居るのか。
クラインの方を見ると、平塚先生の方を見て呆然としていた。
あ、あれ惚れたな。
俺達のやり取りをキリト達は暖かい目で見守っていたが、やがて声をかけてきた。
「ハチ。絶対に、このゲームをクリアしよう。そして生きて帰るんだ」
「あぁ、そうだな。.....と、そうだ。小町、あのビーストマスターとかいうスキルだが、遠慮無く使っちゃっていいぞ。お兄ちゃんが許可する」
「え?いいの?お兄ちゃんとキリトさんが使っちゃ駄目だって....」
小町が心配そうに俺とキリトを見る。
「問題ない。小町に群がるプレイヤー共はお兄ちゃんが処理する。それにその方が生存率が何倍にもなるからな。ちなみにキリト、異論は認めんぞ。これは決定事項だ」
俺がそう言うと、キリトは苦笑いしながら言った。
「そうだな。もし、プレイヤー達が小町に質問攻めに来たら追い払うのを手伝ってやるよ。にしても....やっぱりハチってシスコンだな」
「シスコンで何が悪い。俺はシスコンであることを誇るぞ!」
「いや、誇るなよ」
「お兄ちゃん.....小町的にポイント高いよ!」
「そうなのか!?」
キリトが突っ込むと他のみんなが笑って、さっきまでのシリアスな雰囲気が一気に和んだ。
そして、全員がフレンド登録をした後、クラインと平塚先生は、広場にクラインの会社の仲間を探しに行った。
ちなみに、その時にクラインが俺に向かって、『イケメンはくたばりやがれ!!』と言ってきたから、思わず否定すると、『今のお主が言うと、ただの嫌みだぞ』と、材木座に言われてしまった。
この顔の生活にはしばらく慣れそうもない。
◇
今俺達は、クライン達がいなくなった後、この先のルートの説明を雪ノ下達にしている。そして、小町のフレンジーボアに二人のりで行くことにした。俺達の体格ならギリギリ乗れるらしい。
「じゃあ、出発するか」
「そうだな。小町、早速フレンジーボアを出してくれ」
小町はフレンジーボアを3体呼び出す。そして、俺達はそれぞれに二人ずつ乗った。俺と小町、雪ノ下と一色、キリトと材木座という組み合わせだ。
「なぁ、キリトの乗ってるフレンジーボア、何かでかくないか?」
「あれ?本当だ。もしかしたら乗るひとに合わせて、大きさが変わるのかもな」
キリトは自分で言って首をかしげる。恐らく、『俺ってそんなに体大きくないんだけどな』とか、思ってるだろうが、それは違うぞ。原因は後ろでふんぞり返っている材木座だ。
いい加減俺も材木座じゃなくて、ちゃんと名前で呼ばないとな。
いざ出発しようとすると、後ろから声が聞こえてきた。
「お、やっと見つけたぞ。おーーい、ハッ.....って何でここにフレンジーボアが!?」
後ろを振り向くと、髭を頬に描いたアバターが俺達の方を見て、目を見開きながら短剣を構えていた。あの髭はアルゴだな。すごい分かりやすい。
...ってこの状況はまずい!
「ちょっと落ち着けアルゴ!!ちゃんと説明するから!!」
俺は慌ててフレンジーボアから降りて、アルゴの元に駆け寄った。
「え?お前がハッチなのか?嘘だろ....イケメンじゃないか....ってそんな事よりこれはどういうことなんだ!?」
俺が説明しようとすると、キリトも話に入ってきた。
「少しは落ち着けよアルゴ」
「誰だよお前は!?」
「だから、落ち着けって。俺はキリトだよ」
「え、キー坊なのか?しかも、またイケメン...」
アルゴがキリトの出現に呆気にとられているうちに、小町にフレンジーボアを消してもらった。流石に、街中から行くのは判断ミスだったな。他のプレイヤー達はまだ広場に居るものだと思って油断していた。
次は外に出てからにしよう。
アルゴが落ち着いたので、今までの流れと小町のスキルについて説明する。くそ、時期が来たらこの情報を売り付けるつもりだったのに。
そして、今俺とキリトはアルゴに説教を食らっている。
「お前たち、一体何を考えてるんだ!?いくら路地裏だからってそんなスキルを堂々と使うんじゃない!!他のプレイヤーはまだ広場に居るからよかったけど、俺っち以外にもプレイヤーがいたらどうするつもりだったんだよ!?余計なパニックを起こすつもりか!?」
返す言葉もなく、俺とキリトは大人しく説教をくらう。雪ノ下達はアルゴに話しかけるか迷っていたが、タイミングを失いオロオロしている。
アルゴの説教が終わると、キリトがアルゴに質問した。
はぁ、アルゴの説教は二度と食らいたくないな。軽くグロッキー状態だ。
「ところでアルゴ。どうして正確に俺達の場所が分かったんだ?」
「フレンドリストからハッチの位置情報を検索したんだよ。それで、こっちに来たらフレンジーボアが居た」
そう言って、アルゴは俺達に向かって責めるような目を向ける。
「だからそれは悪かったって。ていうかハチ、いつの間にアルゴとフレンド登録したんだよ」
「ログインしてすぐだ。偶然会ったんだよ」
俺がそう答えると、雪ノ下達が話に入ってきた。
「ということは、彼女が私達に会う前に会ったっていう人かしら」
「あぁ」
「え?この綺麗な人が、待ち合わせしてた知り合いなのか?何か聞いてた話からは想像出来ないんだが...」
「比企谷君、あなた一体どんな風に私の紹介をしたのかしら?」
アルゴの言葉を聞いた雪ノ下が笑顔で言ってくる。
ヤバイよ今の雪ノ下の顔、めっちゃ怖い。あとめっちゃ怖い。ちょっとー、目が笑ってませんよー。
何か背景にゴゴゴゴッ、って効果音が付いてても違和感ねぇぞ。
「いや、変な紹介はしてないぞ...うん」
俺は顔をひきつらせながら言うと、一色が話しかけてきた。
「先輩、私の事はどんな風に紹介したんですか?」
「あー...ただの後輩だ」
「え?そんな風に言ってた人いたっけ?おかしいなぁー、オレっちの記憶にはないんだけど?」
アルゴはニヤニヤしながら、俺の方を見て言う。
こいつ.....絶対に楽しんでやがる....。
俺がアルゴを睨む。そして、一色と雪ノ下が俺を見ながら、それはそれは綺麗な笑顔で一言。
「先輩?」
「比企谷君?」
「.....すみませんでした」
俺は素直に謝るしかなかった。
◇
あの後、アルゴは俺が処刑(罵倒、そして罵倒、からの罵倒)されるのを見て爆笑すると、俺が復活する前にキリトと何か話してから、街の何処かに消えてしまった。
しかし、雪ノ下の罵倒は相変わらず容赦がない。俺じゃなかったら自殺にまで追い込まれてるぞ。
ただ、途中で腐り谷君とか言った時に『もう目は腐ってないのね....』と言って俺の顔を見ると、『くっ.....』と言って目を反らした後、更に罵倒してきたのは何故だ。流石にそれは理不尽だろ。
一色も雪ノ下と同じ様な反応をするし.....。
まだ、前の方が良待遇だった気がする。
腐った目に戻りたい..。
てか、前のは良待遇だったのかよ...。
一人で突っ込んでいると、キリトが話しかけてきた。
「ハチ、大丈夫か。そろそろ出発したいんだけど」
「あぁ、もう大丈夫だ。ところでキリト、アルゴと何を話してたんだ?」
「この先にベータテストからの変更点が有ったら教えてくれってさ。あと、やっぱり小町のあのスキルは、しばらく使うなって言われたよ。あいつもしばらくは、この街に居るらしいぞ」
「そうか....。それじゃあ行くか」
始まりの街の門に向かいながら俺は考える。
小町のスキルは正直言って使って欲しいんだが、アルゴの言う通り、今のパニックに余計な混乱を与えるのは非常にまずい。流石に、アルゴの指示にしたがった方がいいか。
それにしても、アルゴもやはり外に出るのは怖いのだろうか?いや、あいつは情報収集でもするんだろう。少なくとも、さっきのあいつは怯えているようには見えなかった。
だが、雪ノ下と一色は口には出さないが、いつもよりも表情が堅い。小町も、さっきはあんなことを言っていたが、少し手が震えてしまっている。やっぱり、恐いものは恐いのだろう。材木座は何故かやる気になっているが、多分無理矢理にでも自分を鼓舞しているのだろう。もしかしたら本当にやる気になっているのかもしれんが....小説の酷評には極端にメンタルが弱いが、それ以外は思いの外強いからな。材木座に限っては心配ないのかもしれない。
ただ....材木座には謝らないとな。俺がナーヴギアをあげよう、何て言わなければ、こんなデスゲームに巻き込まれることは無かったんだ。それは小町も一緒だが、小町に謝ったら、またさっきみたいに俺が怒られそうだ。
.....そう考えると、材木座にも怒られそうだな。こいつのためにも、絶対に、このデスゲームをクリアしてやらないと....。
そういえば、陽乃さんは大丈夫だろうか。罪悪感に苛まされてなければいいんだが....。
みんなの様子を見たキリトが、歩きながら俺にしか聞こえないように質問してきた。
「ハチ....心配じゃないのか」
恐らく雪ノ下達のことをいっているのだろう。端から見ても、決して大丈夫とは断言できない様子だしな。
「...まぁ、正直心配だな」
「そうだよな....やっぱり外に行くのは....」
そう言いながら、キリトは目を伏せる。自分でも、外に行くことの危険性は理解してるのだろう。だが自分がそれを提案して、みんなが無理をして付き合ってくれている、と思って自分を責めている。
その考えは今のうちに正しておいた方がいいな。一番最初からこんな様子じゃ先が思いやられる。
まったく、世話の焼けるやつだ。人の事は言えないけど...。
俺はため息をついてキリトに語りかけた。
「はぁ、馬鹿かお前は。そんな事は全員がわかってる。それを承知でお前の提案に乗ったんだ。俺だってそうだ。俺は自分の意思でお前の提案に乗ったんだ」
「でも、他のみんなは....」
すると、雪ノ下が俺達の会話に入ってきた。どうやら、思ったより大きな声で話してしまっていたらしい。
「キリト君、貴方もそこの男と同じ様に罵倒されたいのかしら?」
「ユキノ....聞こえてたのか...」
「横で歩いてるんだから、そりゃ聞こえるに決まってるじゃないですか。少し前に、私をいじっていた人とは思えないですよ。しっかりしてください。先輩とキリトが今一番頼りなんですから」
どうやら一色も俺達の話が聞こえていたようだ。俺も一色に続ける。
「そういうことだ。俺とお前がぶれてちゃ、ニュービーのこいつらはもっと不安になる。だから、そんな事は気にするな」
「ハチ....分かった。そうだな。俺達がしっかりしないとな」
そう言ってキリトは、頷いて前を向いた。
はぁ、こういうことは俺の柄じゃ無いんだけどな。でもま、キリトの顔から迷いが消えたように見えるし良しとするか。
しかし、雪ノ下と一色は思っていたよりも平気そうだな。
そう思って雪ノ下の方を見ると、俺の考えを察知したのか口を開いた。
そんなに分かりやすく表情に出てただろうか?
「私だって不安よ。でも一人じゃないもの。それに、街に残って、ひたすら攻略されるのを待つだけだなんて絶対に嫌よ」
「そうですよ。それで誰かが死んで現実世界に戻っても私は素直に喜べないです。もちろん私は死ぬつもりは有りませんよ?絶対に生きて現実世界に戻ってやる」
俺は雪ノ下と一色の発言を聞いて目を見開く。俺と全く同じ事を考えていたからだ。驚いていると、材木座も言った。
「我も死ぬつもりはない。現実世界に戻り、この出来事をラノベにするまではな!!」
「は?ラノベ?」
思わず俺は聞き返す。俺だけでなく他のみんなも材木座の方に注目する。材木座は全員に見られて、一瞬キョドりかけたが、俺の質問に答える。
「うむ。....この際だから言ってしまうか....」
そう言うと、材木座は俺達を一瞥して宣言した。
「我が書くのはライトノベル、タイトルは未定だが、主人公は八幡とキリト、お主ら二人だ」
『は?』
何を言ってるんだこいつは。俺が主人公だと?しかもキリトもかよ。
「そして、我も含めたここにいる者全員が主要人物だ。だから、今ここで全員に言おう。絶対に死ぬな。我が物語の中で死者が出るなど言語道断だ」
「...........」
俺はこの時、材木座の方を見て、先ほどの雪ノ下達と同じ様な表情をしていただろう。
俺以外の全員も、この時は間抜けな面をしていたと思う。
全く.....無駄にカッコいいこと言いやがって。こいつのこういうところは素直に尊敬できる。
「あれ?今のかっこよくなかったか?少しぐらいリアクションして欲しいのだが....」
「今ので台無しよ....」
「まったくです」
「小町も同感ですねー」
「なっ!?」
「気にすんなよヨシテル。さっきのはかっこよかったぞ」
「キリト殿....」
材木座がキリトを救世主でもみるかのような、眼差しを向けるなか、俺は一言つぶやいた。
「最後で台無しだったけどな」
「はぐぁ!!」
あ、やべ。とどめを刺しちまった。
にしても、この展開どこかで.....。
地面を何か呪文を唱えながら転がる材木座を見て俺はそう思った。
◇
その後、自分の発言を悔いる材木座を励ましながら、俺達は始まりの街の出口までやって来た。
「それじゃあ行こうか」
「そうだな。とっとと、このデスゲームを終わらせてやる」
それにしても、こいつらとデスゲーム攻略か。何か笑えてくるな。何故かは分からないが、こいつらと一緒なら大丈夫な気がする。
「八幡くん、何笑っているのかしら?」
「何でもねぇよ。って今、名前で...」
「貴方が言ったんじゃない。このゲームでは名前で呼び合えって」
「そりゃそうだが....。ってこんな状況だしな。いつまでも名字で呼ぶわけにもいかねぇか」
「じゃあ私も先輩のこと名前で呼びますね。ってことで私の事も名前で呼んでください。さぁ、今すぐに!」
「うっ.....まぁ、追い追いな。キリト、先に外に出てるぞ」
「ちょっ、俺も行くって」
キリトが慌てて俺の横に来ると、後ろから声が聞こえた。
「.....このヘタレが」
え?今の声一色か?コワッ!どこからそんな低い声が出るんだよ。
「いろはさん。相手はお兄ちゃんですよ」
「そうだった....」
おい、それで納得しちゃうのかよ。俺の評価ってそんな低いの?
俺とキリトが歩き出すと、一色達もついてくる。だが、時折笑い声が聞こえてくる。
全く、緊張感のないやつらだ。今からデスゲームに挑もうとしてるってのに....。
ま、変に気負うよりはマシか。ガチガチに固まってたら、いざ戦い、ってなった時に即死亡も有りうるからな。
後ろを振り向くと、とてもデスゲームに巻き込まれた人とは思えない表情が並ぶ。全員、もう恐怖なんて感じていないような顔だ。
「ハチ...お前の仲間は強いな」
「....そうだな」
まったく、俺の周りはどいつもこいつも、こんなやつらばっかりだ。でも、本当にこいつらが一緒で良かった。俺一人じゃ、こんな精神的に余裕が出来ることなんて有り得なかっただろうしな。
そして、俺達は始まりの街を後にした。
今回はやりたかった展開を『これでもかっ!』って感じで詰め込んだ回です。
この話の進むスピードだと、いつSAO編が終わるんだろう....。先が長すぎて....。(白い目)
ユウキなんですが、もしかしたらストーリーに入ります。入る場合の展開は考えたんですが、その後が..(泣)。何か思いついたら加えると思います。
とりあえず、読んでくださってありがとうございました!!
では、また次の話で。