陽気な日差しが差し込む阿知賀麻雀部室。冬を乗り越えて永い眠りを終えた花々が咲き誇るこの頃。窓を開ければ甘い香りが広がり、外は桃色で満ち溢れていることだろう。
「さて、今日も始めましょうか……同志・京太郎!」
その部屋のなかで腕を広げる少女は松実玄。天真爛漫な笑顔と純粋無垢さ。たわわな果実にきれいな形の臀部。
性格も容姿もそろっているまさに魅力的な少女である。
今年から最上級生になる彼女の呼びかけに俺もまた応えた。
「ああ! 最高の楽園を見つけるまでついていこうとも! 同胞・玄!」
自分で言っておいてなんだがかなり恥ずかしい。中学時代につけていた技名ノートに記されている中二病ワード並みに羞恥心がぞくぞくと湧き上がる。なんとも言い難い感覚に本当なら頭を打ち付けたいところだが、玄さんはノリノリだ。
すごくいい笑顔でもうとても可愛らしい。
だから俺も乗るしかないのだ。この妙な流れに!
「ふっふっふ。決まったね、京太郎君!」
「ええ。それにしてもテンション高かったけど……何かありました?」
「よくぞ聞いてくれました! 実はすごい品が入ったのです!」
ニヤケが抑えきれないのか玄さんは頬を緩ませている。よほどお気に入りが手に入ったのか興奮状態にあるようだ
……本当に可愛いなぁ、もう。
正直に言うと俺は玄さんが大好きだ。一目惚れである。出会いから一年を共に過ごして、その気持ちはさらに深まった。でないと、こんなに恥ずかしいことに付き合えない。
俺が想いを寄せる彼女――松実玄という存在を語るには外せない点がある。
「見てください、このサイズ! この破壊力! おもちにはたまらないものがあるよね!」
それは変態なほどに大変女性のおもち、つまりおっぱいを愛しているということだ。
玄さんの趣味は女の子のおっぱいの観察、研究……etc.
見た目が麗しく同姓の玄さんだからこそ出来ることであって、男性が公言すれば即座に刑務所へと叩き込まれるであろう。
女性でも中には忌避する人もいるレベル。だからこそ、玄さんはこうやって隠れて内に秘められし欲求を発散させているだ。
この『おもちをピュアな心で愛する会』――通称・OPI――が開催されるようになったのは昨年の夏。
両親の都合で長野から数年後共学となる予定の阿知賀学院の
初心者だった俺は清澄では居場所がなく優勝を決めた時も輪に入ることはできなかった。ともに喜ぶことも悲しむことも……それどころか何もやり遂げられなかった俺が自分を変えようと決意して訪ねた阿知賀麻雀部で奇跡の出会いが起きた。
一度目にしただけで感じあうシンパシー。
俺たちはすぐさま意気投合して、OPIを開くこととなったのだ。
何を隠そう俺も大のおもち好き。
……だがしかし、最近は不味いことが起きてしまっている……。
「うひょー! 本当だ! 最高っすね!」
口ではこう言っているが、内心は別のことを考えていた。そう……何を隠そう。今の俺のトレンドはおもちじゃない。
お尻へと移ろうとしていた……!
よっぽど話し相手が見つかって嬉しいのか玄さんとのおもち談義は毎日続いた。放課後は麻雀部でみんなが帰った後に。休日はわざわざ俺の家にまで遊びに来たこともある。
当時は舞い上がったものだが半年間もの間、OPIが繰り返された結果……飽きが生じてしまったのだ。
そして欲を満たされなくなった俺は禁断の果実へと手を伸ばすことになる。
それはお尻。
女性の魅力の一つを作り上げるパーツに……。
しかし、このことが玄さんにバレる訳にはいかない。
もしも俺がおもちを裏切ろうとしていることが明かされたらきっと……。
『おもちよりお尻がいいなんて……エロ童貞』
こうやって失望の視線を向けられてしまうに違いない。
どんなに天使の玄さんでも二度と口を利けなくなるだろう。
そんな未来は絶対に嫌だ。だから、俺は今日もおもちについて語るのだ。
気持ちを抑えて全力で!
「京太郎君ならわかってくれると思ったよ! でね! この子は成長が著しくて……そうだ! 去年の写真もあるからちょっと待ってね!」
そう言うと玄さんは備品を仕舞う棚の一番下の引き出しを開けて、頭を突っ込んで何かを探し始めた。
そして問題は起きる。
「んっ……よいしょ……っと」
お、お尻が……玄さんの丸いお尻がこちらにフリフリと挨拶をしている……!?
頭を低い位置にしてしまったため反対に突き出されるお尻。
とてもよろしい形をしていて大きさもグッド。一目でわかる安産型……。美しく流れるような曲線美。
チラリチラリと見えそうで見えないスカートの下がより視線を釘付けにさせる魅惑の魔法!
「あれれ? 前はここに片付けたはずなのに……?」
玄さんは探すことに集中して俺の視線に気づいていない。
手でなで回したい滑らかな腰にかけてのライン。揉みしだきたくなるような肉つきとほんのりと帯びた丸み。
あっ、あぁ……! お、お尻がどんどん近づいて……あっ……。
「そういえば去年の大掃除で上に隠したんだった――って、どうしたの、京太郎くん? すごい顔してるよ?」
「あ、いえ……なんでもないっす」
「いやいや、世界に絶望したような表情してるけど……はっ! そうだよね! 写真を楽しみにしてたんだよね! もうすぐだから待ってて?」
違うんです、玄さん……。俺はおっぱいじゃなくてあなたのお尻を眺めたいんです……。
しかし、そんな願いは届かない。
玄さんは近くにあった椅子を取ると棚の上に置かれた箱を漁りはじめる。
だけど体の小さい玄さんは背伸びをしてやっとの位置で――って!
「うーん……ギリギリで見にくい……。……あっ! あったぁぁぁああ!?」
「玄さん危ない!!」
覚束ない足どりと宝物を見つけた喜びで椅子から転げ落ちそうになる玄さん。俺は急いで立ち上がると、彼女が怪我をしないように支えに入る。
「セ、セーフ……じゃないぃぃい……!」
これでも元運動部。だが三年のブランクは大きかったようだ。とっさのことで踏ん張りがきかなかったせいでそのまま崩れ落ちてしまう。
全身を襲う衝撃。背中に激痛が走るものの、なんとか玄さんの目の前で格好いい姿を見せようと歯をくいしばって起き上がる。
「だ、大丈夫ですか、玄さ……ん?」
ぼふっ。
突如として視界を閉じる何か。それはとても柔らかくて、なんだかいい匂いがして……。俺の全てを受け入れてくれる母性を感じた。
「あ、あぅ……。きょ、京太郎くん。そ、その……おもちが好きなのはわかるけど急にやっちゃダメだよ……」
上から降ってくるか弱い玄さんの声。目をそちらにやれば赤面した彼女がいた。
……ということは、さっき俺が顔を埋めたのは……玄さんのおもちってわけか。
……なるほどな。
やっぱりおもちって最高だわ。
お尻からおもち派へと手のひら返しを決めた俺は謝罪とか感謝もろもろの気持ちを込めて、とりあえず土下座をすることにした。