恋の瞳がひらくとき   作:こまるん

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ご愛読ありがとうございます。高評価、大きな励みになっております。

名前だけですが新しいキャラがちらほらと。


紅き館よりの招待状

 

 

 

 

 早いもので、アリスに助けられ修行を始めてから、もう三週間が経とうとしていた。

 

 全てはこいしに会うため。

 アリスの指導のもとひたすら回避の特訓に明け暮れた成果か、今では結構な密度の弾幕であっても問題無く回避できるまでになった。

 

 

 この三週間、俺自身はアリスにより外出を禁じられていた。

 しかし、彼女目当てに訪ねてきた人。また、良い機会だからとアリスが呼んでくれた人。様々な人と交流を結ぶことができた。

 

 親友だという、博麗霊夢に霧雨魔理沙。竹林で案内人をしているという藤原妹紅。仙人であり、数多の動物を手懐ける茨木華扇などなど。

 皆それぞれ個性に満ち溢れていて、今までの交友関係がいかに狭く、小さなものであったかを痛感した。

 

 霊夢には渋い顔をされた──恐らく、巫女という立場から俺のする予定の無茶は看過しにくいものだったのだろう──が、他の皆は事情を知ると力強く応援してくれた。色々と力になろうとしてくれた。

 特に、アリスのみだとどうしても慣れきってしまうので、手合わせの相手になってくれたのは本当に助かった。

 

 

 そして、いずれ地底に行く際に必要になってくる飛行能力に関しては、森近霖之助という人と、河童の河城にとりが共同製作で解決してくれた。

 

 ジェットと名付けられたそれを背中に装備して念じれば、予め装填しておいた魔力が背部から噴射され、推進力がうまれる。

 それを利用して身体を浮かび上がらせる という仕組みだ。

 

 はじめは加減が難しく、何度も暴発したり墜落したりで。その度にアリスに心配され、非常に迷惑を掛けてしまった。

 そうして、練習の甲斐あって使いこなせるようになった今、ジェットは弾幕ごっこにも利用している。

 

 上昇下降という三次元の動きが加わることで、正直見える世界が変わった。

 思わず動きを止めて魅入ってしまいそうにもなる、洗練された美しい弾幕。

 それをくぐり抜けていく時の爽快感といえば、筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 

 そんなこんなで、非常に充実した三週間を送らせてもらった俺だが、一つ、懸念点があった。

 実戦経験が致命的なほどに不足していることだ。

 翌週にも、俺は地底へ発つ。

 地底の道のりでは数多の妖怪が立ち塞がる。それを切り抜けてようやく、こいしのもとにたどり着くらしい。

 

 俺はこれまで、一体一の戦闘なら、随分と鍛えさせて貰ってきた。

 しかし、当然だが、敵が襲い来る中それをかいくぐっていくという体験はしたことが無い。

 それに、一対一と言っても、親交のある人に模擬戦として戦ってもらっただけで、相手に敵意や害意があった訳では無い。

 

 そのあたりをどうするか。一度深く考える必要がある……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 出発まであと五日。

 今朝はアリスが不在だったので、一人で修練。

 そして午後、帰ってきた彼女と食後のひとときを過ごしていると、徐に一枚の紙を手渡された。

 

 これは、メッセージカード?

 怪訝な顔をしていると、アリスが口を開く。

 

「ええ。とある人からの招待状よ。あなた宛のね。」

 

 訝しみながらも、中を読んでみることにする。

 

『ごきげんよう。噂は聞いているわ。

 ニンゲンの分際で、地底に乗り込もうとしているのですってね。

 あなたにその資格があるかどうか、この私が直々に見極めてあげる。

 満月の夜、紅魔館で待っているわ

 ps. ウチの従者たちは少々手が早いから、せいぜい心してくる事ね

                  夜の王 レミリア・スカーレット』

 

「これは……」

 

 アリスの顔を見る。

 

「ええ、以前話したことがあるでしょう?湖のほとりに佇む洋館には、吸血鬼が住んでいるって。そこからよ」

 

 紅魔館。

 魔理沙に聞かされた武勇伝の中にもあった。

 確か、吸血鬼の姉妹が取り仕切る館で、凄腕の魔法使いや、時を操るメイド長らが居ると。

 

「前々から、実戦経験について懸念していたでしょう?早々都合よく異変が起こるわけもないし、それなら……ということで知り合いに打診していたの。

 ギリギリになって申し訳ないけれど、ようやく話が纏まったわ。

 そしたら、レミリアが形にも拘りたいって」

 

 そう言ってメッセージカードに目をおくる。

 

 なるほど。地霊殿に乗り込む前哨戦として、紅魔館の人達が協力してくれる、と。

 手が早いってのは、道中館の関係者たちが立ち塞がってくるから、それを打ち破ってみせろってわけか。

 はやとちりかもしれないが、多分そういうことだろう。

 

「つまり、障害を突破して、ゴールまで辿り着けってことですね。五日後の練習として」

 

「ええ。理解が早くて助かるわ。

 もっとも、練習と言っても、向こうは手を抜いてくることはない……今一度問うわよ」

 

 アリスはそこで言葉を切り、真剣な瞳でこちらを見据える。

 普段の柔和な表情から一変、威圧感すら感じさせるその姿に、思わず喉が鳴った。

 

「本気の彼女達を突破して、レミリア……ひいては、こいしの元へ向かう覚悟はあるわね?」

 

 言い逃れは許されない。強い眼差し。

 空気が重くなる。

 

 答え?そんなものは決まっている。

 

 居住まいを正し、彼女の蒼い瞳を見つめ返す。

 

「もちろん。俺は、絶対に逃げません」

 

 ある程度鍛えて貰って、更に色々と支援を貰っているとはいえ、俺は所詮人間。

 妖怪に挑むにあたって、恐れがないとは言えない。

 でも、俺は決めたから。 絶対に逃げない。こいしにもう一度会いにいく。

 

「シャンハーイ!」

 

 いつの間にか近くに来ていた上海が、小さな手を突きあげる。

 応援してくれているのだろうか。

 

 頭を撫でてやると、目を細めて嬉しそうにする。

 見れば、アリスも表情を崩していた。

 

「頑張りなさい。応援しているから。私も、この子も。ね?」

 

「──はいっ!」

 

 満月は、今夜。

 さあ、一つやってやろう──!

 

 





次回からは『re:東方紅魔郷』編になります。
といっても、もう一話だけ、挑戦前にシーンを挟みますが!

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