恋の瞳がひらくとき   作:こまるん

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超期間が空いてしまった上に短いという……

私事になりますが、秋例申し込んでみました。こめこん同様、萃儀伝 上を頒布するつもりです。 気が向かれましたら是非。

今回は、裕也視点onlyとなります。 それでは、本編をば。


発覚

 

 

 彼女と初めて会ったのは、去年の中ごろ。

 数メートル先の視界も定まらないような猛吹雪の中、彼女は避難場所を求めて、俺の家の扉を叩いた。

 明らかに冷え切っている様子の少女を放っておくこともできず、家に招き入れ、一緒に鍋を囲った。

 

 そんな、ほんの偶然から始まった俺たちの関わりは、夏を越えた今も続いている。

 もともと、特に親しいと言えるような知り合いがいなかった俺にとって、彼女の存在は胸を温かくさせた。

 家族がいればこんなふうになっていたのかとも考えた。

 人に飢えていた……というのもあったかもしれない。俺は、自然と彼女を求めた。

 

 上手く言葉に出来ない事も多かったけれど、彼女は毎度毎度こちらの意図をくみ取ってくれる。

 そして、笑顔でこう言うのだ。

 

『うん──!!』

 

 次第に俺たちが一緒にいる時間は増えていき、気づけば、仕事中でさえ、周りを見渡せば彼女の姿を確認できるほどになっていた。

 

 ──しかし、彼女と一緒にいる時間が増えるにつれ、一つ、二つ、気になる点が浮上する。

 

まず一つ。『何故か、俺以外の殆どが、彼女のことに気付けない』

 

 これは、初めのうちは気のせいだと思っていた。しかし、これだけの時間、彼女と一緒にいるのに、人里の人間は、仕事仲間も含めて、誰一人として彼女の事を覚えていない。

 いや、そもそも、『彼女の存在に気づいてすらいない』のだ。

 誰かのすぐ近くで彼女と話していても、誰も反応を示さない。

 思い切って、普段一緒にいる少女のことをどう思っているのか同僚に聞いてみたこともある。

 しかし、何度、誰に聞いても、答えは一つ。

『そんな少女はみていない』

 これは、明らかに異常だった。

 

 このことは、彼女に言ったことは無い。

 言ってしまえば、彼女が消えてしまうような気がして怖かったから。

 

 もう一つ、胸の前に位置するアクセのようなものと、そこから伸び、彼女を取り巻くコード。

 初の出会いの時こそ気にならなかったものの、回数を重ねるほどに気になってくる。

 あれは、アクセなどではなく、れっきとした体の一部なのではないか。

 そう思ってしまうほどに、それは彼女の身体と連動していた。

 

 ……もちろん、この疑念を理由に、彼女との関わりを断つつもりなんて全くなかった。

 しかし、一つの考えが、彼の中に僅かに芽生えたのも事実であった。

 

 

──彼女は人間ではないのではないか。

       実は、妖怪( あやかし)の類なのではないか──

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

そして、事件は起こる──

 

 

 ある昼下がり、裕也は人里の一角を歩いていた。

 

 仕事は午前中で終わり、今日は珍しくこいしもいない。

 暇を持て余していた彼は、ふと通りかかった店で、一冊の本を見つけた。

 稗田の御令嬢によって記されたそれは、この世界の妖怪について書かれているらしい。

 

 普段なら気にも留めなかったであろうその本を、俺は半ば無意識に手に取っていた。

 ぱらぱらとめくって流し読んでいると、『古明地こいし』と記されたページがあった。

 思わずその項をみると、そこには、その妖怪についての記述、そしてイラストが添えられている。

 目に飛び込んできたイラストは、自らも良く知る彼女の姿であった。

 

「──っ!?」

 

 突如、重い圧のようなものを感じ、本から目を上げる。

 上げた目線の先には、こちらをみて固まっている少女の姿。

 

 彼女はこちらと目が合うや否や、俺に背を向け、走り出す。

 

「待って──!!」

 

 本を元の場所に戻し、咄嗟に駈け出す。

 彼女は速かった。直ぐに姿は見えなくなり、そこからは足跡をたどる。

 しかし、それも森に入ると見られなくなってしまった。

 とっさに周囲を見渡すが、こいしの進路の目印になるような痕跡は見受けられない。

 

 あてもなく踏み込んだならば、帰ってくることはできないのではないか。

 

 そう、思ってしまうような深い闇が目の前に広がり、思わず足が竦む。

 

 だが、ここであきらめてしまったが最後、二度とこいしには会えないだろう。

 そうなれば、自分は一生後悔する。前に進めば、また会えるかもしれない。

 ──いや、絶対に見つけ出す!

 

 

 奮い立たせるように自らの両頬を叩くと、意を決して足を踏み出した──

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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