今話も、そして来年も、最大限の原作リスペクトとキャラへの愛でもって筆を取らせていただきます。
霊夢たちと言葉を交わし、漸く夜空に出た裕也。
そんな彼の前には、沢山の悪戯妖精が現れる。
彼の『東方紅魔郷』が、今、幕を開ける──
もはや相棒とまで呼べるようになってきたジェットをふかして、浮かび上がる。
眼下の霊夢達に手を振り、夜空へ飛び出した。
夏とはいえ、この時間ともなると割と涼しい。
魔理沙も言っていたが、風を切って飛翔することには確かな爽快感がある。
アリスの魔力を動力としているこの装置が、熱を排出しない……というのも大きいか。
うっかり方向を間違えてしまうことのないよう、しっかり確認。
うん、大丈夫だ……ん、何か来る?
方向はたしかに問題なかったのだが、前方から何かが飛んできていることに気付いた。
ピンク色の服を着た、小生物。恐らく、これこそが妖精というものだろう。
ちらほらと飛んでくる妖精を適当に避けながら飛ぼうとすると、不意にピンクの弾が飛んでくる。
幸い、単発で速度も大したことが無かったので、難なく回避。
それを皮切りにしてか、あちこちから同様の弾が飛んで来始めた。
「っと。これが、魔理沙の言ってた悪戯妖精ってやつか」
頼りになる快活な少女の言を思い出す。
確か、異変解決の時には決まって好奇心旺盛な悪戯妖精が弾幕を打って邪魔してくる……と。
撃ち落としたり適当に回避したりであしらうのだが、なかなかに面倒臭いと言っていた。
これは異変ではないはずだが……レミリアさんとやらの計らいだろうか。
それにしても……なるほど、実戦とはこういう事か。
ま、この程度なら特に問題もないかな。
特に障害もないまま飛翔していると、先程まで湧いてきていた妖精たちが一斉にどこかにいく。
飽きたのだろうか。辺りがまた静寂に包まれる。
「ただ飽きて去ったってだけならほんとに楽なんだけどなぁ」
思わず苦笑が漏れる。
なんとなく、分かってしまった。
微妙な違いだが、先程までと比べて空気が重い。
「にしても、風が気持ち良いな。妖怪が出るから夜は危ないと言われてきたけど、たまには良いかも」
敢えて明るく呟く。萎縮しているわけにもいかないから。
油断無く進んでいると、行く先を阻むように少女が現れた。
金色の髪を赤いリボンで纏めあげていて、全身白のワンピースの上に黒いベストのようなものを重ねている。
「そうかしら。夜はお化けもでるし、たまんないわ」
「……お化けもそうだが、人間からすれば妖怪が一番たまらないよ」
「それはまぁ、当然」
この子が現れてから、空気が一段と重くなった。
間違いない。妖怪だ。
魔理沙の話にあったか?金髪の少女……
「……ま、なんでもいいわ。そんなことより……」
思い出す暇は与えてくれないらしい。
少女から放たれる圧が増した。
何をされても良いよう、身構える。
「貴方は食べても良い人類?」
「──ッ!?」
言うが早いか、赤いレーザーが飛んでくる。
辛うじて躱すと、少女はニタリと笑った。
こんな所で食われてしまう訳にはいかない。
どうこの場を気に抜けようかと必死に頭を働かせる。
そんなこちらの様子などどうでも良いのか、いたって彼女はマイペースに口を開いた。
「あら、避けちゃった。ねえ貴方、スペルカードルールって知ってるの?」
両手を横に広げる謎のポーズのまま、首を傾げる少女。
……ん、もしかして、なんとかなる?
首肯すると、彼女は懐からカードを取り出した。
「なんだ。じゃあ取ってたべれない人類か……じゃあ、弾幕ごっこね。二枚、避け切れたら見逃してあげるわ!」
少女が掲げたカードが光る。
良し。弾幕ごっこなら、まだ俺にも分が。
二枚か。望むところだ!
「『夜符 ナイトバード』」
放たれるは青と水色。
少女の両手から放たれた孤状の弾幕が折り重なるようにして襲い来る。
確かに美しいが……
アリスに教わった。弾幕ごっこは、如何に相手の弾を見極め、必要最小限の動きをするかが肝心であると。
しっかり観察すると、迫る度に少しずつ横にズレるだけで回避できることがわかる。
落ち着いて、回避。
大丈夫。もっと厳しい練習をこなしてきた筈だ。
「ありゃ。慌てすらしないか。結構自信あったんだけどどな」
撃ち切ったのだろう。弾が止まる。
見ると、既に二枚目のカードが掲げられていた。
「闇に呑まれなさい!『闇符 ディマケーション』」
少女を中心として真っ暗な闇が広がっていく。
球状に膨張したそれは、回避する間もなく俺を呑み込んだ。
「っ……」
視界は完全に闇に包まれ、自身の身体を捉えるので精一杯。
少女に関してはもはや何処にいるのか検討もつかなくなってしまった。
「博麗の巫女に敗けてからずっと磨いてきたの。鳥目になった気分はどうかしら!」
鳥目?……ああ、夜盲症のことか。
鳥目云々って言うより、暗視能力有無の問題だろうこれは。
釣られてどうでも良いことを考えながらも、目を凝らして少女の姿を探ろうとする。
すると、突然前方から米粒のような弾が放たれ始めた。
とある一点を中心として円を描くように広がっていく弾幕。
ただ円を描くだけではなく、その中で小さな弾が網目のように交差して飛び交っている。
じっくり見て、回避。
大丈夫。視界こそ悪いが、目を凝らせば見える。
集中。よく観察して隙間をくぐり抜け…………
「──ッ!?」
悪寒を感じ、慌てて身体を傾ける。
先程まで頭があった位置を、矢のように青い弾が突き抜けてゆく。
危ない。小粒の弾は囮という訳か。
劣悪な視界の中、環状の弾幕を避けねばならず、さらに気を取られすぎては不意を付くように高速弾が飛んでくる…… 厄介な。
そうだ、アリスにも散々言われていたんだった。
弾幕ごっこは、如何に全体を
落ち着いて、一歩退いた目線でみることを心がける。
すると、青い弾は輪の中心部分に生み出され、3秒ほどしてから、その時点で俺がいた場所に寸分狂わず飛んでくる……ということが見て取れた。
種が割れれば、そこまで大変というわけでもない。
闇にも徐々になれてきて、回避にも余裕が生まれてくる。
そうして暫く続けていると、十度目くらいの青弾を躱したところで、はたと弾幕が止んだ。
「あらら~ほんとに避けきっちゃった。私の負けね。やるじゃない、ニンゲン」
「……裕也だよ。柊 裕也」
負けたにもか関わらず、どこか間延びした声を出す少女。
実際、ほんの遊びのつもりでしかなかったんだろう。思わず苦笑が漏れた。
「裕也ね。私はルーミア。貴方のこと、覚えておくわ。また遊びましょう」
言うが早いか、何処かへ飛び去ってしまう。
結局、最後まで、イエスが十字架に括られているかのような謎のポーズを辞めることは無かった。
ルーミア、か。なんとも自由な娘だったな。
……だが、なにはともあれ、実戦初勝利だ。
相手が明らかに手を抜いていたとはいえ、これが知り合い以外との弾幕ごっこでの初勝利。
もちろん浮かれるわけには行かないが……嬉しくないはずも無かった。
小さく拳を握って、高揚感に少しだけ酔う。
季節の割には冷たい風が、頬を撫でる。今はそれがとても気持ちよかった。
少しだけ経って、またジェットをふかし夜空を進み始める。
感覚的に、道中はこれで三分の一くらいだろうか。
もうしばらくすれば、館の姿も見えてくるはず。
さあ、まだまだ夜は始まったばかり──
レミリア様の趣向により過去の紅霧異変をなぞっている訳ですが……はてさて、どこまでレミリアの思惑通りにことが進むのでしょうか。
来年もどうぞよろしくお願い致します。