新キャラがちらほら出ます。それぞれの魅力を最大限引き出せるよう努力したつもりです。
実戦経験の不足という懸念点。
アリスは、既にその克服へ向けて動いていた。
吸血鬼の少女、レミリア・スカーレット。
彼女からの招待状が届き、物語は動き始める──
あたりに夜のとばりが降りた頃。
俺はアリスに連れられて博麗神社にいた。
博麗の巫女が住まうこの社は、幻想郷の中枢を担うに相応しく、非常に立派な造りとなっている。
まぁ。その割にはどこか閑散としているのだが……人里から遠く離れている以上、仕方が無いのだろう。
何故人里の守護者の住まいがこんな辺境にあるのかというと、昔の名残らしい。
かつて、この世界が今よりずっと物騒だったころ、頻繁に受けていた襲撃に人間たちが巻き込まれにくいようにするため、このような離れた場所に拠点を置いたそうだ。
尤も、ここまで離しては、人里が狙われた際に駆け付けにくいような気がする。 そのあたりは、昔のことだからよく分からない。
だがまぁ、こうした形で落ち着いているということは、実際それでなんとかなっていたのだろう。
閑話休題。
この三週間、殆ど外出を許されていなかったはずの俺がどうしてここにいるのか……ということに関しては、言うまでもないだろう。
あの後、招待を受けることで意思確定した俺たちは、今夜へ向けて仮眠を取り、ばっちり体調を整えてきた。
その間、アリスは親友二人に話を通していたらしく、この話を受けての霊夢の一言が、『それなら、今夜神社で待っているわ』だったそうだ。
正直、俺からすれば何故わざわざ神社に出向くのか皆目見当もつかないが、そこは親友同士、以心伝心の仲というものなのだろう。二つ返事で了承し、こうして俺をここに連れてきたらしい。
境内では既に霊夢と魔理沙が待っていた。
「おう、裕也、きたか」
快活な笑みと共に手を振られたので、こちらも振りかえしておく。
”ごめんなさい、待たせてしまったかしら?” ”別に。待ってないわよ”
そんなやりとりを終えた霊夢がこちらを向いたので、目礼。
今夜、紅魔館へ向かうのは、俺のみにしなければならないと聞いている。
だから、ここにいる霊夢たちは勿論、アリスも一緒に行くことはない。
だったら猶更、俺たちは何故?
ただ見送るだけなら、わざわざ呼び出さず、こちらに出向いて来れば良さそうなものだけど……
「はは。なんで呼ばれたのかわからないって顔をしてるぜ」
見抜かれていたか。思わず苦笑してしまう。そんなにわかりやすかっただろうか。
霊夢がこちらを見据える。
「別に、そんな構えるような理由じゃないわ。”妖怪の拠点に乗り込むのなら、博麗神社から”それだけよ」
興味が薄そうに言い捨ててみせる彼女だったが、どことなく、その言葉は熱を帯びているような気がする。
そうか。そういえば、魔理沙から聞かせて貰った武勇伝は、全て博麗神社を起点としていた。
二人も否定しないところを見るに、この場所は、それぞれにとってそう言う意味で思い入れの強い場所なのだろう。
「なあ、知ってるか?博麗神社から出撃した異変解決組は、失敗したことがないんだぜ」
「つまり、ゲン担ぎみたいなものね。これは霊夢なりの激励なのよ」
魔理沙がニカっと笑い、アリスが微笑む。
そっぽを向いていた霊夢は、突然こちらへ顔を向けると、鋭い目を向けてきた。
「わかっているわね? この場所からでていく以上、失敗は絶対に許されないわ」
「全く、霊夢にも困ったもんだぜ。素直に頑張れって言えばいいのに」
フン、と鼻を鳴らすと、またそっぽを向いてしまう。
ああ、俺は、本当に良い知り合いに恵まれたんだな。
「……三人とも、ありがとう。安心してくれ。絶対に辿りついて見せる」
”当然よ” ”頑張れよ” ”貴方ならできるわ”
胸が温かくなるのを感じた。
これは、負ける訳にはいかないな──
彼女らに背を向け、雲一つない空を見上げる。
まだ見ぬ紅き館の王。そして、その先に待つ、愛しい緑髪の少女に想いを馳せて。
満天の星。空では欠けた部分の無い見事な月が昇り始めようとしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ここは、湖の畔に佇む紅き館。
その二階で、幼き王は、ワイングラスを片手に夜空を眺めていた。
「……つい先ほど、博麗神社を発ったようです。
彼は”奇しくも”以前と全く同じ経路を辿っています」
突然の背後からの声。 王は揺るぎもしない。
「そう、わかったわ。 そうね……折角のお客様なのだから、お出迎えが必要かしら」
「はい。そう仰られるかと思いまして、既に彼女を向かわせています」
「流石ね。では、貴女も配置につきなさい。 いいわね? 潰すつもりで戦るのよ」
立て板に水のようなやり取りが、ここで僅かに止まる。
「…………はい、承知しております」
しかし、それもほんの一瞬のこと。瀟洒なメイドである彼女はすぐに了承の旨を返す。
それに伴い、背後の気配が消えた。
甘いわね、あの子も。
我々が手を抜いても、彼にはなんの得もない。そうしたところで、地底で野垂れ死ぬだけ。
話に聞く限り、地底も随分愉快なことにはなっているようだが……それとこれとは別。
もうとっくに、あちらは動いている。腑抜けた精神で向かったとして、入口すら抜けられないだろう。
ここで潰れてしまうなら、所詮その程度の男だったということ……
「見せてみなさい。貴方の運命を」
グラスの残りを飲み干し、羽をはためかせる。
紅き主が、青年を迎えるべく配置に────「お姉さま!!」
大きな音と共に扉が開け放たれ、重苦しい雰囲気が四散する。
思わぬ妹の乱入。ここに来て、初めて少女の顔が引き攣った。
スーパーカリスマお姉様は最後の一歩が締まらない。
次話より、いよいよ弾幕ごっこが入ります。
精一杯描写するつもりでございますので、どうぞよろしくお願い致します。