Fate/Grand Order~農民は人理修復を成し得るのか?~ 作:汰華盧顧
レポートがなかなか終わらなくて……
「あーー……、そろそろ良いかな?」
「あ、はい。アルトリア、ほら」
「ん~?んん───………」
先に口を開いたのはカルデアの男性陣、藤丸立香だった。このままでは埒が明かないと判断したのだろう。
先程の会話でエフィーナを比較的良心的なサーヴァントだと判断したから、とりあえず促して二人を離そうとしたのだろう。
これにはエフィーナも賛成だった。自分でやらかした事とは言え、アルトリアが動かなくて困っていたのだ。
立香の意見は渡りに船だった。
「ごねないのアルトリア。ボクらは一応敵同士なんだから、離れないと」
「───エフィーナは私の事が嫌いになったのですか?」
「っ、い、いや。そんなわけないじゃないか!」
少し力を込めて引き離そうとすると、胸元に顔を埋めていたアルトリアが顔を上げる。
目には涙が溜まり、今にも溢れんばかりだ。
正直たまったもんじゃない。
「……エフィーナは私の事が好きですか?」
「ん?好きに決まってるじゃないか(likeの方)」
「そうですか……好きですか……!(loveの方)」
お互いの認識が致命的に違うことに気づかないまま、好きと答えてしまうエフィーナ。
それを見たエミヤは『ダメだこりゃ』と頭を抱えた。
「ちょっとアンタ!いつまでくっついてるのよ!離れなさい‼エフィ……そいつは私のものよ!」
「嫌です。エフィーナは私のもの。それはずっと前から決まってたことなんですから!」
「いやボク物じゃないし。──って!こらアルトリア!何処に手ぇ突っ込んでんの!」
アルトリアを引き剥がす為オルタが肩を掴んで引っ張るも、アルトリアは離れるのを拒絶。エフィーナの作業服の隙間から手を差し入れてさらに絡まる。
「い、い、か、ら、離、れ、な、さ、い!!」
「嫌、で、す!意地でも離れ────スンスン………エフィーナ!何故黒いジャンヌから貴女のかぼちゃクッキーの臭いがするのですか!?浮気ですか?浮気なんですか!?」
「なに言ってん────ひゃい!?こ、こら!背筋を撫でるな!そんなとこ擦るなぁ!」
作業服の下で手が暴れ、思わず変な声が口からこぼれる。しかしそれを聞いてもアルトリアは手を止めない。それどころか、どんどん服を剥ぎ取ろうとしていた。
「あぁもう!エフィーナ!全力で抵抗なさい!」
「え!?まさかの二画目ぇ!?アルトリア!
逃げ──野菜真拳奥義──『蓮根バルカン』!」
「くぅっ!?」
オルタの令呪の大盤振る舞いに面食らい、慌てて逃がそうとするが時すでに遅く、攻撃が開始された。
左手に装着された蓮根から放たれる弾丸。アルトリアはそれを持ち前の直感とエクスカリバーによってかわしていく。
そのまま、カルデア組の方へと押しやられていった。
「ふう……これで静かになったわ。
───こんにちは私。何か言おうと思ったのだけど、忘れちゃったわ。だから取り敢えず、貴女達を殺すことにします」
「………貴女が竜の魔女ですね。
貴女の目的は一体………」
「今から死ぬ貴女達に教えるわけないでしょう。
さあ!やりなさい、サーヴァントども!」
号令を掛けられ、動き始めるバーサーク・サーヴァント達。各自相手を見つけて戦い始め────
「風王鉄槌!」
「うわあぁぁぁ………──」
デオンはアルトリアの一撃をもってぶっ飛ばされた。
相手がいなくなったアルトリアは、直ぐ様オルタを目指して駆け出す。だがそれを護衛であるエフィーナが許すはずがない。弾丸によってアルトリアは立ち往生だ。
「何故邪魔をするのですか、エフィーナ!」
「いやだからボク達敵同士だからね?それにボクはマスターの護衛だし」
「え?そいつがエフィーナのマスターなんですか!?
なんて羨まけしからん!」
エクスカリバーを振り回して納得いかないと駄々をこねるアルトリア。それを見かねた保護者エミヤが干将・莫耶を投影しながらこちらに来る。
「セイバー、彼女は私が相手をする。君は黒いジャンヌを」
「──わかりました。ここは任せます」
いつもの凛々しい顔に戻ったアルトリアは、名残惜しそうにしながらもオルタの方に向かっていった。
「……まったく、今日は驚いてばかりだな」
「それはボクも同感です。………まさかアルトリアがあそこまで拗らせているとは思わなかった………。
もともと物事を引きずるとこはあったんだけど」
「あれはそれとは違う気がするが………。
まあ、あえて助言するなら、垂らし込むのもほどほどにしたまえと言うことだな……」
どこか青い顔のプレイボーイエミヤ。十中八九過去に何かあったのだろう、プレイボーイも楽じゃないらしい。死ねばいいのに。
「では──行くぞ!」
「うわっと!──野菜真拳奥義──
──『ダブル蓮根バルカン』!」
エミヤの攻撃を横に跳んで避け、右腕にもう一門の蓮根バルカンを出現させる。
「食材をそのように扱うのは、あまり感心しないな!」
「これがボクの戦い方なんだよ!」
銃弾をばら蒔くも、それを平然と避けられ距離を詰められる。蓮根バルカンを振り回して攻撃を弾くが、速さは干将・莫耶の方が上回る。エフィーナは劣勢に立たされていた。
「このぉ!」
「貰ったぞ!」
「あ、やべっ!?」
エフィーナの野菜真拳で出す物は一部の例外を除いて基本的に脆い。蓮根バルカンは攻撃に耐えかね、砕けてしまった。
首目掛けてつき出される干将・莫耶。このままでは首を断たれてしまうだろう。
だが、彼女とてサーヴァントの端くれ。この程度で殺られるほど弱くはなかった。
「首領パッチソォォォォドッ!」
「なんだと!?」
エフィーナの手に現れた一本のネギ。それは干将・莫耶を弾くどころか粉砕し、剣圧でエミヤを退かせる。
直ぐ様投影しようとするも、その前に、エフィーナの手には新たな物が現れていた。
「──野菜真拳奥義──
──『刺し穿つ死棘の竹(タケ・ボルク)』!」
「それは野菜じゃないぞ!?」
「こまけぇことは、いいんだよ!」
エミヤに向けて投げられたタケ・ボルク。
この武器はゲイ・ボルクを模した物だが、因果逆転は流石に出来ない。
その代わりに───ジェットエンジンを搭載していた。
「ぐぅ!?ぬおおおぉォォォォ─…………」
投影した干将・莫耶を交差させ、タケ・ボルクを受け止める。だが、ジェットエンジンの馬力には勝てず、タケ・ボルクに押されて戦場からフェードアウトしていった。
「───さてと」
辺りを見渡しオルタを探すと、少し離れたところに黒炎が上がる。アルトリアとかなり激しくやりあっているのだろう。
廃墟同然の町が瓦礫の山と化していた。
「はぁぁぁーー!!」
「グッ!?」
アルトリアの上段からの攻撃を、オルタは旗で受け止める。筋力値はオルタの方が上だが、今のアルトリアは魔力放出によって同等かそれ以上のはず。
現に今の二人はお互いにギリギリの状態だった。
「こっ──のぉ!いいから倒れなさいよ‼」
「嫌です!私は!エフィーナと添い遂げるまでは!絶対に死ねません!」
「はぁ!?アンタ女でしょ!なに言ってんのよ!」
「愛を前にしたら、性別なんて関係ありません!」
「本人が了承してないでしょうが!」
─────なんか凄い会話してんな。
「くっ!」
「そこです!風王──鉄槌!!」
「──野菜真拳奥義──『なめこ壁』!」
アルトリアの放つ不可視の一撃を、突如生えてきたなめこが見当違いの方向に受け流す。
『なめこ壁』は野菜真拳の中では防御系の技に入り、打撃系と炎系にはめっぽう強い技だ。
「マスター、ここは引きましょう。些か分が悪いです」
「チッ……仕方ありません、ここはそうしましょう」
呼び出しに応じ集結したワイバーン達の幾らかを足止めに回し、ボク達は残った方に乗る。
「ま、待ちなさい!」
「ふん!次こそは貴女を焼き殺して上げるわ、覚悟することね!」
「マスター、それじゃこっちが負け犬です」
「うっさい!」
ワイバーンがボク達を乗せて飛び立ち、一気に高度をあげていく。
…………去り際に「せめてエフィーナだけでもぉぉぉ……」とか聞こえたような気がしたが、気のせいということにしておこう。