Fate/Grand Order~農民は人理修復を成し得るのか?~ 作:汰華盧顧
でもここで過去を精算してくれないと後々困るんだよね………
少し時間を巻き戻して、カルデア側へ。
情報収集の為にラ・シャリテの町を目指した一行は、煙が上がる様子を見てそこに急行。
そこで仕事を済ませて退去しようとするバーサーク・サーヴァント達と遭遇。戦闘に入っていた。
「はぁっ!」
「フンッ!」
炎を纏う木杖と槍が激突し、弾きあう。
バーサーク・ランサー、ヴラド三世の相手は森の賢者である、キャスタークー・フーリンだ。
お互い武人気質な為か、クー・フーリンはともかく、無理に従わされているヴラド三世もとても生き生きとしていた。
「貴様、キャスターの癖にやるではないか!」
「おめぇさんもな。───くそっ、ランサークラスならもっと楽しめたかも知れねえのによお!」
軽口を叩きあう二人の口許は、獣のように歪んでいた。
「……ぅあっ!」
「ふふふ──良い……良いわぁ………!聖女の悲鳴はなんとも甘美で良いものねぇ!さあ、もっと啼きなさい‼」
「くっ……!」
「ジャンヌさん!今助けに「よそ見してんじゃないわよ‼」……きゃぁっ!」
バーサーク・アサシン、カーミラになぶられてるジャンヌ・ダルクを助けようとしたマシュが、バーサーク・ライダー、マルタの拳を盾越しに喰らい砲弾のように飛ばされ、壁にめり込む。
はからずも拘束具として働くマルタの杖は、立香の援護を受けたマシュによって弾き飛ばされて、遠くの地面に突き刺さっていた。
それによって余裕が出来たと思ったマシュ。
実戦経験がもう少しあればこのようなことにはならなかっただろう。だが、つい最近まで戦闘においては普通の女の子だったマシュにそのようなことを言うのは酷だ。
そもそも……聖女ともあろうものがステゴロの方が得意だなんて、誰も予想できないのだから───。
「バカ!早く立ちなさい!」
「マシュ!」
止めを刺すために迫るマルタに、マシュはダメージが大きく、動くことができない。
立香の焦る声が響き───
「悪いが彼女を殺させる訳には行かないのでね」
───そこに後方から矢が放たれた。
「よくやったわ赤いの!」
マルタが矢を殴り砕いている隙に立香はマシュに応急手当を掛ける。
「マシュ、サーヴァントには武器が無くても戦えるものは割と多い、油断しないように。マスターは常に冷静に状況を見て、的確に指示を出すんだ」
「す、すみません……」
「悪いエミヤ……」
「なに、次から気を付ければ良い。人は失敗から成長するものだ」
小言をいいながらもフォローを忘れないエミヤ。
───さすがはプレイボーイ。きっとこの手で多くの女性をたらしこんだのだろう。
そう思った立香だった。
所かわってバーサーク・セイバー、シュバリエ・デオンを相手取るのは我らの青王こと、アルトリア・ペンドラゴン。
この二人の戦いは───
「はぁぁぁぁっ!」
「があっ!?」
───あまりにも一方的だった。
竜騎兵連隊長を勤めたとは言え、相手は騎士王。一対一ではアルトリアの方が有利だった。
「ぐ、ぬぅ……」
廃墟の壁を突き破る程の勢いで叩きつけられたデオンはすでに瀕死の状態。だが、仲間のサーヴァント達には既に相手がいて救援は見込めない。
完全に詰んでいた。
「これで、終わりです!」
止めを指すべくエクスカリバーを振り上げるアルトリア。これで終わりかと思ったとき、アルトリアの動きが止まる。
「スンスン………っ!この臭い───まさか!」
「はぁ………?」
突然空を見始める。その先にはワイバーンの小さな影が迫りつつあった。
「アーチャー!あれを!」
「む?……あれはジャンヌ………?にしては黒いが、それと……………はぁ!?」
アルトリアの指差す方を見たエミヤがすっとんきょうな声をあげる。それもそうだろう。黒いジャンヌの後ろにいたのは、セイバーの顔と瓜二つなのだから。
『敵性サーヴァント接近!数は二騎だ!』
「エミヤ!狙撃いける?」
「あ、ああ。勿論だ──
──I am the bone of my sword……」
「ま、待ってくださいアーチャー!彼女は……」
「──偽・螺旋剣!!」
アルトリアの制止は間に合わずに偽・螺旋剣─カラドボルグは放たれる。だが………
「───な!?避けただと!」
エフィーナの咄嗟の行動でカラドボルグをギリギリ回避される。そして反撃が始まった。
「全員伏せろ!攻撃が───なんでさぁ!?」
迎撃のために矢をつがえるも、あまりの光景に思わず素が出てチャンスを逃すエミヤ。
目の前には、無数のニンジンがミサイルのように飛んできていた。
『『『な、何でニンジンがぁ!?』』』
驚愕の声はすべて爆音にかき消された。
もうもうと煙が上がるなか、カルデア組は全員が集まり小声で話していた。
「おいアーチャー!てめぇちゃんと撃ち落とせよ!」
「すまん……、料理人としてあり得ない光景に思わず……」
「いや、あれは誰でも固まるよ……。ところでアルトリア、なにしてんの?」
クー・フーリンが怒るなか、アルトリアは鼻を利かせ、臭いを嗅ぎとっていた。
「スンスン……!いる。彼女が───エフィーナが!」
「っほんとですか!アルトリアさん!」
「ええ!間違いありません!」
「───いや何で臭いでわかるんだよ」
はしゃぐマシュとアルトリアを尻目に、あきれた顔で言うクーフーリン。その言葉に、男性陣とジャンヌはうなずいた。
『ん?いや待てよ。その臭いが今したってことは──彼女、敵じゃないか!』
『あ』
今気づいたと声をあげたとき、衝撃によって煙が吹き飛ぶ。そして見えたのは二人の女性。
一人は禍々しい雰囲気のジャンヌ・ダルク。
そしてもう一人──
長靴に作業服を着こんだ、現代チックな格好をした女性。
厚い作業服の上からでも解るスタイルのいい肢体。長い金髪をうなじの辺りで1つに纏めている。頭の上には一本のアホ毛。そして………
「「あ、アルトリア(さん)!?」」
アルトリアにそっくりな顔。
違う点と言えば目元だろうか。アルトリアの凛々しい目とくらべると、柔らかくて優しい目をしていた。
「───嘘でしょ」
「──っ!!あな……たは………」
彼女はこちらを見ると目を見開き、アルトリアは感極まった状態で声を絞り出す。
「久し振りだね─────アルトリア」
気まずそうに挨拶する彼女、エフィーナ。その隣の黒いジャンヌはアルトリアと彼女を何度も見直しているが、こちらの視線に気づき、咳払いをする。
そしてジャンヌに蔑んだ目を向けて言葉を紡ごうとしたとき……アルトリアが真っ直ぐに飛び出す。
────────エフィーナ目掛けて。
今のアルトリアは魔力放出によってブーストされている。その状態で突っ込めばどうなるか────
「エフィィィナァァぁああ!」
「え、ゴフゥッ!?」
当然こうなる。
「エフィーナ!エフィーナ!エフィーナぁ!」
「ぐふぇ!?ちょっ、まっ!」
地面に押し倒され、マウント状態のエフィーナ。なんとか抜け出そうとするも、直感を働かせたアルトリアが無意識の体重移動で完全に拘束する。
「ちょ、どいて…く、くるし「────ごめんなさい………」─!」
もがくエフィーナの頬に水滴が落ちる。それは、アルトリアから落ちた涙の滴だった。
「ごめんなさい………ごめんなさい…………!」
「アルトリア………」
「わ、私が………ちゃんとしてれば………貴女は…………貴女は死なずにすんだかもしれないのに…………!私がぁ!」
「アルトリア!!」
自分自身に怒りを向けようとするアルトリアを、抱き締めることでやめさせる。そのまま優しく、背中を叩いた。
「アルトリア、君は良くやってくれたよ。見ず知らずの農民の話を聞いて、周りの反対を押しきってでも協力してくれたじゃないか。それに身分が下のボクとも対等に話してくれた。友達にもなってくれたじゃないか。だから感謝はしても、恨んだりなんかしないよ」
「で、でも!」
「でももないよ。人はいずれ死ぬものだ。ボクの場合があのときだっただけだよ。
それでもまだ謝るなら───ボクは君を許そう。
それとアルトリア、ボクは君にまた会えて、とても嬉しいよ」
「えふぃ……えふぃぃなぁー……!」
泣きじゃくるアルトリアを強く抱きしめ、髪をすくように頭を撫でる。
───こうして、アルトリアの抱えていた問題が解決した。
その友愛溢れる光景に、白いジャンヌとマシュは涙ぐむ。
───そして蚊帳の外なサーヴァント達と立香は、居心地悪そうに突っ立っていた。
しまった!全然進んでないじゃん!?