とある義人の奇跡使い   作:Natural Wave
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第4話 人造人間


「はぁ……相変わらず面倒だな、この街は…僕の顔くらい覚えているだろうに…何度来ていると思ってるんだ」

学園都市への入構手続きを済ませてゲートから姿を現したのは、待ち行く人々よりもずっと背の高い大男。アレンジが加えられた漆黒の修道服、それに対して燃えるような赤に染まった長髪が毒々しいまでにお互いを引き立たせている。更には右目の下にはバーコードのようなタトゥーと、一度見たら忘れない風貌をしていた。男は旨ポケットからダンヒルを取り出すと一本咥えて火を点けた。

「わざわざ来てもらって悪いぜよステイル。それと面倒な手続きに関しては仕方ないにゃー、学園都市の技術は外の世界からしたら喉から手が出るほど欲しい技術。産業スパイなんて日常茶飯事だから割り切ってもらうぜい」

ステイルと呼ばれた大男、ステイル=マグヌスを出迎えたのは金髪にサングラス、アロハシャツを着た男。あまりの存在感に二人は奇異の視線を街行く人々に送られている。

土御門(つちみかど)、僕を呼んだからには相応の理由があるんだろうね」

ステイルがため息とともに紫煙を吐き出し、全ての指にシルバーリングを付けた手の平で髪の毛をかき上げる。

「勿論だにゃー」

「ならいいが…とりあえず場所を変えよう。ここでは話も出来ない、どうせ()()()も呼ぶんだろう?だったら()()()もついでに呼んでくれるか?」

ステイルが周囲を見回すと視線が合っていった人間全員がそそくさとその場を離れている。注目されている事は明白で、会話の内容も筒抜けになるだろう。

「……巻き込みたくはないんじゃないか?」

アロハシャツの少年、土御門元春(つちみかどもとはる)は短パンのポケットから携帯電話を取り出し、電話帳から一つの電話番号へとコールしようとしていた手を止めた。ステイルの言葉に特徴的な語尾も付けず、真剣な口調になる。

「あの子は性格上置いてけぼりにされるのを一番嫌う、それに……あの男の元で()()()()()()()()()()()()()()()()()からね」

「そうか……さっすが()()()()()だぜい、ファミレスにしようかとも思ってたが…そうなるなら食料を買って()()()()の家に凸するぜよ!」

真面目な雰囲気を消すように土御門はニッカリと笑い、通りに面したスーパを指さした。

「それなら君も買い物袋を持てよ」

「当たり前だにゃー、少なくとも二本の腕で持ち切れる量な訳ないぜよ」

この後、一人の少年に客人からの無断凸という不幸が降りかかるのを本人は知る術が無かった。


*


「とうま、流石に三食全部もやしと卵の炒め物は寂しいかも!タンパク質を要求するんだよ!」

土御門とステイルがスーパーの徳用食材を買い漁っている時、二人の話題に上がった()()()()()()()と呼ばれていた少年は居候から昼食のメニューにケチを付けられていた。

「何を勘違いしてるんですか禁書目録(インデックス)さん、貴方の目の前のお皿の黄色の物体もちゃんとしたタンパク質ですのことよ」

「私が言いたいのは!お肉若しくはお魚が欲しいって意味かも!」

純白の修道服に身を包んだ禁書目録(インデックス)と呼ばれた少女はガジガジとフォークを噛んで空腹を紛らわせている。

「肉なんて買えるか。奨学金が振り込まれる前日という厳しいこの状況で…魚なら特売の奴が買えるだろうけど食えるのは夕食だぞ」

「ううぅぅ…ひもじいよぉ…」

「イギリス清教の修道女(シスター)がひもじいってお前なぁ…」

それに清貧を謳うシスターが肉や魚を要求するのもどうなんだと少年は心の中でツッコんだ。

「むしろ!シスターがお腹を空かせているのに放置しているとうまはひどいんだよ!」

「放置はしてないっての、生活を切り詰めてやっと出せたんだぞその食事は…むしろ俺のやりくりの上手さを褒めてもらいたいくらいですが」

「むきいいぃぃぃ!」

言い返す言葉が見つからないのか、それとも見つける為のエネルギーすらも消化してしまったのかインデックスは炒め物をやけ食いする。

「はぁ…明日は食料を買い溜めしないとな…」

食卓兼勉強机となるガラステーブルの上に家計簿を開き、チラシに書いてある食材の名前と値段をかき込んでいく少年。家計を回す主婦の様な手際は彼の苦労の日々を容易く想像させるだろう。その時、少年のポケットからシンプルな着信音が鳴り響く。

「お、誰だ?」

少年がポケットから携帯電話を取り出し、画面を確認しようとしたその時


「俺だぜい」


と携帯を耳に当てた土御門が少年の背後で返事をした。

「うおおお!?!?何でいるんだお前!?」

少年が玄関を確認するが、玄関のカギはしっかりと掛けられている。少年が振り返り土御門の背後のベランダを確認すると、案の定ベランダが開けられていた。

「邪魔するぜいカミやん」

「邪魔するぜいじゃねーよ!!玄関から来い!それとインターホンもな!ってかここ何階だと思ってんだ!」

「まぁまぁ落ち着けカミやん、ステイルから伝言だ」

「……何?ステイルから?」

突然真面目な顔になった土御門を見た少年はつられて表情を引き締める。



「『後五秒以内に玄関を開けなければドアを融かす』だそうだ」



「インターホン押せよおおおおおおお!!!!」

ビーチフラッグの一流選手並の俊敏さで立ち上がり玄関へとダッシュする少年は、ステイルが呪文の詠唱を唱え終わる寸前で玄関の扉を開ける事に成功した。

「む、惜しい」

残念そうに煙草をもみ消し携帯灰皿へと落とすステイル。

「惜しいじゃねぇよ!!何お前ら!?何なのお前ら!?何なんですか貴方たち!?」

「ふん、僕もそれが知りたいね。受け取れ…お邪魔するよ」

「?」

ドサリと両手に抱えていた買い物袋をステイルが上条に押し付けるように渡した後、ブーツを脱いで上がりこんでいく。少年が袋の中を確認すると徳用の肉等、インデックスの消費量に鑑みても数日分の食料があるのが分かる。

「こ、これは…」

「土御門も持ってきている筈だ、今すぐに調理して彼女に振舞ってやれ」

「あいつこれと同じ袋持ちながらうちのベランダまで登攀してきたの!?」

ベランダをもう一度見ると、四つの買い物袋が鎮座している。成程、どうりで喧嘩で勝てない筈だと少年は理解した。

*

「それで、何だよお前ら…いきなり来やがって…食材は助かったけどよ…」

買い物袋の中の食材を用いて調理を終えた少年が無断で部屋へと飛び込んできた来訪者に対して問いかける。

「食い終わってからじゃ駄目かにゃー?昼飯まだ食ってなくて腹がペコペコですたい」

「そうかも!私も早く食べたいんだよ!」

問い詰めようとした少年をよそに食事を始めようとインデックスと土御門。

「あーもうわかったわかった…ちゃんとよく噛んで食えよー」

取り敢えず食事を始めない限りは話も出来ないと気づいた上条は折れるしかなかった。

「いただきますなんだよ!!」


「ストップ」


少年が言い終わるや否やとてつもないスピードで食事を始めようとする少女。その少女を黒い布に覆われた長い腕が制する。

「インデックス、食前の祈りを」

「うっ…忘れてたんだよ…」

「………上条当麻(かみじょうとうま)、貴様…インデックスにどれだけ余裕のない生活をさせているんだ」

ステイルが上条当麻と呼ばれた少年を睨みつける。

「仕方ねぇだろ!俺の奨学金でインデックスが満足できるだけの食費全部を賄える訳あるか!!」

若干涙目になりながら上条がステイルに反論をする。元々彼一人で暮らす分には何不自由しないだけの金額なのだが、インデックスと共に暮らしていくにはいかんせん食費が膨大過ぎた。

「チッ……仕方ない、これからは最大主教(アークビショップ)にも金を出させるようにするからこの子が清教徒らしく振舞えるくらいには余裕を持たせろ」

「あーもう、わかってるって…」

「まったく…僕ならばこのようには…」

「はいはい、わかったからちゃちゃっと祈っちまおうぜい、腹減って仕方ないぜよ…インデックス、一丁頼むぜい」

ブツブツと言い始めたステイルを見かねた土御門が場を仕切る。土御門がインデックスに祈るように促すと、ステイルと共に手を合わせて指を組んだ。

「じゃぁ…コホン…天にましますわれらの父よ、この食事を祝福してください。私達の体、心の糧としてください。主イエスキリストによって祈ります…アーメン」

「「アーメン」」

「ア、アーメン」

普段とはかけ離れたインデックスの修道女らしい姿に上条は少しドキリとしたが

「日本語だと簡単な祈りになっちゃうけどこれでいいよね!いただきますなんだよ!!」

即座に食卓の上の目標に跳びかかっていった姿を見てやはりいつものインデックスだ、と悲しいような安心したような不思議な気持ちになった。

「いただくぜよ!!」

「いただきます」

「いただきまーす…はぁ…」

上条は自分で作ったとはいえ、自分一人ならば二日は持つであろう食事の量を見てため息をついてしまう。

「とうま!ため息をつくと幸せが逃げるってこの前テレビでやってたんだよ!!」

「お前なぁ……」

誰のせいだ誰の、と上条は言おうとしたがステイルが睨みを利かせていたので寸でのところで言葉を飲み込み、ついでに味噌汁を啜る。

「不幸だ……」

まるでカップ酒片手に公園で項垂れるリストラされたサラリーマンのような哀愁を漂わせながらつぶやいた言葉は、パスタをソフトボール大の大きさになるまで巻き、一口で口の中に収めたインデックスの耳に入る事は無い。上条の味噌汁は少しだけしょっぱい気がした。

*

「ご馳走様だぜい…さてと…それじゃぁ聞いてくれ」

空になったお皿を台所に積み終えた土御門がテーブルに戻り真剣な眼差しを三人に向ける。彼の遊びのない真剣な口調はその場の人間の関心を一瞬で集めた。

「今回ステイルとカミやんを呼んだのはちょいと問題のある人物がこの学園都市にいるからだ。もしかしたらインデックスにも知識面で助けを求めるかもしれないから一応聞いてくれ」

土御門の言葉にインデックスが頷く。それを見届けた土御門はポケットから三枚の写真を取り出した、三人がのぞき込むように写真を見るとそれぞれ同じ顔の男が写っている。

「…ふむ、この男がどうしたんだ?」

ステイルがその内の一枚を手に取り眺める、金髪碧眼の男。写真の中の通りすがりの学生と比較しても身長が高い事とルックスが整っている事が分かる。

「ローマ正教が目を付ける前にどうにかしたい」

「ローマ正教?…一体何をやらかしたんだいこの男は」

突然出された単語(ワード)にステイルが顔を顰めた。自分の記憶と照らし合わせて見ても写真の中の男に見覚えはない。ローマ正教から離反した裏切者という線は薄いだろう。


「……()()()じゃない…()()だ」


「……何だと?」

土御門の言葉を聞いてステイルはもう一度三枚の写真を比較する。同じ顔、同じ金髪、同じ碧眼、服装も同じと誰が見ても同一人物だと思うだろう。

「三つ子…という訳ではないようだね」

「その写真は同じ時間に別々の場所で撮られた物だ」

「そうか……この()()()()()()()()()()()()()と聞いて僕は嫌な予感しかしないね」

苦々しい顔で懐からタバコを取り出したステイルは上条から注意され、一度舌打ちをするとまた煙草を懐へとしまい込んだ。

「俺も一卵性の三つ子であることを信じたいが…そうでもないらしい」

「つまりこの男達は…『人造人間(ホムンクルス)』…そう言いたいんだな?」

「あぁ、その通りだ」

「全く、と言う事は錬金術師か…ローマ正教が知ったら本気で攻めて来るね…アウレオルス=イザードの件で錬金術師には過敏になってるだろうし…」

「それにイギリス清教としてもホムンクルスは見過ごせないだろう?」

「勿論だ、人を造り出すなんて禁忌を見過ごすわけにはいかないな…とはいえ…ホムンクルスを造り出すなんて()()()()()()以来の天才と言う事になるぞ、格でいえばアウレオルス=イザードと同格だ」

ステイルと上条当麻の脳裏に緑髪の男の顔が思い浮かぶ。世界の法則すら歪め世界を己の意思で操る錬金術の到達点であり魔術の最高峰、『黄金錬成(アルス=マグナ)』に辿り着いた天才。方向性こそ違えど人造人間(ホムンクルス)もまた錬金術の目指す最高峰であり、この頂に至れるという事もまた写真の男もアウレオルスの様な天才であるという証明なのだろう。

「この男達も黄金錬成を使える訳ではない筈だ、あれは裏技を使って入手したみたいなものだからな」

本来なら黄金錬成を行使可能にするには世界の全てを呪文とし、それを詠唱し終えなければいけない。そしてその詠唱にかかる時間は数百年と言われている。その為、実現は不可能とされていた。しかしアウレオルス=イザードは魔術で操った2000人の人間に並行詠唱させることで半日という短時間で発動させている。

「とはいえホムンクルス自体人工的に作り上げられた存在で強化の魔術も掛けられてるのは間違い無いだろう、油断はできない」

「ただでさえ僕は錬金術師に一度殺されかけている、全力で当たるよ」

ステイルは懐からラミネート加工されたカードの束を取り出し感触を確かめる様にパラパラと指先でめくる。

「ならいいがな、今回はカミやんも頼むぞ」

「あぁ、任せてくれ……ところで一ついいか」

「?」


人造人間(ホムンクルス)って何だ?」


真面目な顔をして素朴な疑問をぶつける上条に土御門とステイルがため息をついた。とはいえ魔術に関しての知識など皆無に等しいので仕方ないとも言える。

「ホムンクルスは性交を経ずに生み出された人間の事かも」

インデックスが聞いていられないとばかりに助け舟を出した。10万3000冊の魔導書を一言一句違わずに記憶している彼女は魔術に関しての知識ならばこの世の誰よりも詳しい。禁書目録という名前通り、生き字引を体現している。

複製人間(クローン)みたいなものか?」

「クローンとも違うぜい、クローンも細胞から作り出されるとはいえ卵子に遺伝子を注入すると言うプロセスを経るからな。ホムンクルスは正真正銘、一人の人間の遺伝子から作られる人間の事だにゃー」

「ホムンクルスを造り出せたのはパラケルススのみ、それ故に様々な説がある。フラスコの中でしか生きられないとか、生まれながらにして全ての知識を有している等だ。この写真を見る限りフラスコの中でしか生きられないと言うのは間違いだろうけどね」

「とにかく、コイツをどうにかするってのが今回の目標だ。敵対するなら排除するし、話し合いで解決できれば学園都市から出て行ってもらう」

土御門が写真を回収して立ち上がる。

「それはあくまで学園都市側の君の意見だろう、イギリス清教の一信徒として言わせてもらえば本体もホムンクルスも排除するしかない」

「どうだろうな、ホムンクルスの製造方法を確立させていた場合はイタチごっこになりかねないぞ。何処かで線引きをする必要はある。下手したら残機無限の相手に対して戦争ふっかけるなんて俺はパスだ、排除する場合もこの三機を潰したら交渉に持ち込んで手打ちにする。」

「だが…」

「いいか、よく考えろステイル。お前にも一神父としての立場があるのは理解している、だが今回の件で一番最悪なのはこの錬金術師がホムンクルスの製造方法を確立させていて必要悪の教会(ネセサリウス)とこの男との間で戦争が起こり、且つお互いに疲弊したところをローマ正教が叩きに来るパターンだ…学園都市を戦場にしてな。後に残るのは俺達の死体に学園都市の瓦礫とローマ正教が世界の覇権を握った事実…それだけだ」

サングラスの奥の瞳がステイルを穿つ。ステイルは一度インデックスへと視線を向けた後ため息をついた。

「……わかった、今回は君の意見に沿おう。だが敵対した場合は容赦しないぞ」

「この三体に限っては許容範囲だ。問題ない…むしろ気張ってもらわないと舐められて交渉がまとまらない可能性もあるしな。ってことでとりあえず探索に行くぜい、ある程度こいつ等の行動範囲は絞りこめてるからにゃー…おっと、その前に」

土御門がポケットから携帯電話をとり出してインデックスに渡す。ホワイトのシンプルな折り畳み式携帯電話だ。

「プリペイドだが残高は十分にある、今回はインデックスにも知識の面からバックアップが欲しいからな。番号は俺とカミやんのが登録されているから何かあったら連絡を入れる。この作戦が終わっても使ってていいぞ、あって困るものでもないからな」

「うん、わかったんだよ!」

「悪いなわざわざ、それで?行動範囲ってどこになるんだ?人気のない所だと思うけどよ」

インデックス、僕の番号も控えておいてくれ…と、ちゃっかりステイルがインデックスと携帯番号を交換している間上条が土御門に質問をする。



「第七学区及びその周辺区域だ」



しかし、返ってきた答えは上条の予想を大きく裏切るものだった。



メモ

旧3話、魔術側の会話を再編成して投稿した物です。魔術側は口調が特徴的なので分かりやすいかと思います。







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